Addiction Report (アディクションレポート)

「やめなくてもいいからつながって」ダルク関係者らが語る依存症現場の変化

「依存症シンポジウム IN東京」では、各地のダルク代表、医師らが一堂に会し、若年層の市販薬・処方薬依存が急増している現状や、薬物と特殊詐欺の関係性などについて意見を交わした。

「やめなくてもいいからつながって」ダルク関係者らが語る依存症現場の変化
第一部のシンポジウムで、薬物の現状と求められる支援について意見を交わす登壇者(撮影:白石果林)

公開日:2025/11/07 02:00

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11月3日、一般社団法人ARTSが「依存症シンポジウム IN東京」を開催。ARTS理事の佐々木広さん(山梨ダルク)、栗坪千明さん(栃木ダルク)、加藤隆さん(八王子ダルク)、岡﨑重人さん(川崎ダルク)、山本大さん(藤岡ダルク)、昭和医科大学烏山病院の精神科医・常岡俊昭さん、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんが登壇し、「薬物問題の現状と求められる支援」をテーマに意見を交わした。

本記事では当日の様子を一部抜粋してお届けする。

ダルクで見られる依存症の傾向や課題

フリーアナウンサーの塚本堅一さん(撮影:白石果林)

まず、司会を務めたフリーアナウンサーの塚本堅一さんより、薬物を取り巻く状況について説明があった。

2023年、薬物事犯の検挙人数は前年より増加。特徴的な変化として覚醒剤の検挙人数が減少する一方、大麻の検挙人数が増加していると報告。覚醒剤の再犯者率は前年よりわずかに減少したものの、依然として66パーセントと高い数値だった。

さらに若者の市販薬乱用の深刻化が指摘された。精神科医療施設に市販薬を主とする依存症患者が急増しており、2012年から2020年にかけて約6倍に。2020年には、全国の精神科医療施設で薬物依存症の治療を受けた10代患者のうち、市販薬を主たる薬物とするのは56.4パーセントにのぼるとした。

撮影:白石果林

続いて、登壇者それぞれの視点から、昨今の依存症の傾向や課題について説明があった。

栗坪さんは、栃木ダルクの状況について「女性はアルコールと市販薬・処方薬の依存が増加傾向にある」と報告。薬物依存症者を受け入れるイメージが強いダルクだが、近年アルコールの問題を抱える人からの相談も増加しているという。

「コロナ禍を経てリモートワークが増えてから、アルコール依存は男女ともに増えている気がします」

さらに栗坪さんは、「昨年、男性の相談者では初めてギャンブル依存が最多となった。それまでは覚醒剤が一番多かった」と続けた。

常岡医師も「依存症専門病棟ではないが依存症者が70名ほど入院しており、うち半数以上がギャンブル依存。外来では、若い女性の市販薬・処方薬依存が非常に増加している」と語った。

山梨ダルクの佐々木さんは、「入所者50名のうち6割が刑務所から来ており、覚醒剤の問題を抱える人が圧倒的に多い」と説明。一方で、この2年の変化として、「大麻が急増し、今までほとんどいなかったコカイン使用者も増えている。日本の薬物事情はまた変化していくだろう」と予測した。

これに対し岡﨑さんは「覚醒剤は注射器を使うから怖いイメージがあるけれど、コカインはどんな場所でもすっと使えてしまう。大麻もそうだが、カルチャーという側面からも憧れを抱く人がいるのかもしれない」と話す。

覚醒剤と比べて依存性が低いとされている大麻でも、ダルクのような回復施設は必要なのか? 田中さんの問いに、岡﨑さんは「大麻でも多剤乱用すれば覚醒剤のように幻覚や幻聴が出ることもあり、自分ではコントロールできなくなる可能性はある」と回復施設の必要性を述べた。

「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さん(撮影:白石果林)

薬物と特殊詐欺の関係性

栗坪さんは「栃木は覚醒剤の累犯が多く、隣の群馬県と比べても覚醒剤の検挙率が非常に高い。覚醒剤が安価になったのが要因の一つかもしれない」と説明。最近では16歳の女の子がダルクにつながったという。

「親が早期に相談に来てくれたので、16歳でも施設入寮につなげることができた。未成年のうちは親の説得があれば支援につながりやすい」と語る一方、「薬物に手を出す若年層は親子関係が悪いケースも多く、大半は放置されてしまう」と指摘。「親の協力があれば、未成年でも早期にダルクにつなげられる」と強調した。

川崎ダルクの岡﨑さんは、ダルク内の変化として2点を挙げる。

川崎ダルクの岡﨑さん(中央)

第一に、「薬物と特殊詐欺の両方で逮捕される人が増えた」と指摘。これに対し田中さんは、「特殊詐欺はギャンブル依存特有のことかと思ってた」と驚きの声を上げた。

薬物の販売と詐欺の斡旋が同じ組織で行われているケースや、特殊詐欺の仕事をやらせるために計画的に薬物を使用させることもあるという。「お金も薬も手に入るため、若者が抜け出せなくなる」と警鐘を鳴らす。

第二に、「重複障害を持つ人の増加」。統合失調症、発達障害、双極性障害など、薬物依存に加えて精神疾患を抱える人が増えており、「20年前に自分がダルクに入った時と比べて明らかに多くなった」と語った。

ピアサポーターを専門職に

撮影:白石果林

こうした現状を踏まえ、どういった支援が求められるか、さらに議論を交わした。

八王子ダルクの加藤さんは、「中学生などの若い年代がOD(オーバードーズ)で病院を受診した際、薬物やODをやめさせることばかりに集中してしまうのは危険だ」と話す。

八王子ダルクでは通所する18名のうち、半数以上が市販薬・処方薬依存。「やめなくてもいいから安全に(回復施設に)つながろう」をモットーに支援を続けているという。

「ODは自傷行為の一つですが、その背景にはメンタルヘルスの問題、家庭の問題、発達障害、精神疾患など、さまざまなことがあります。ODは、それらの問題に対する表現の一つに過ぎない。『ODしているからやめさせなきゃ』という関わり方ではなく、その人の背景をしっかり理解することが大切です」

2023年から家族支援にも力を入れているとし、「相談の7割が若年の依存症者がいる家族から」と明かした。

「立場によって抱える問題が異なる。うちでは、父親、兄弟姉妹、併存障害の子をもつ親、などと細かくグループ分けして支援しています」

常岡医師も「本人だけを支援するのではなく、親と子どもを一体として、ダルクだけでなく、医療、保健所、児童相談所など、さまざまな機関が連携して支援していくことが必要です」と述べた。

また、国への提言として「ピアサポーター(依存症経験のある支援者)を専門職として、安定して雇用できる仕組みを作ってほしい」と訴えた。

依存症治療は、アルコールや薬物依存から回復した経験のあるピアサポーターの協力で成り立っている部分が大きいが、現状はピアの厚意に甘えている状態だと指摘。

「医師や看護師と同じようにピアサポーターの配置基準も設けてほしい。経験に価値があるというなら、国がきちんとお金を出すべきだ」と述べると、会場から大きな拍手が起こった。

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