Addiction Report (アディクションレポート)

「依存は回復の始まり」「アディクションによって生き延びることも」精神科医・松本俊彦さんがギャンブル依存症自死遺族会のセミナーで講演

7月20日に開催された「ギャンブル依存症自死遺族会立ち上げセミナー」で、精神科医の松本俊彦さんが依存症と自殺に関する講演を行った。松本さんは「大切な誰かの死に接することは、自分の自殺リスクも高める」とし、家族へのサポートの重要性を強調している。

「依存は回復の始まり」「アディクションによって生き延びることも」精神科医・松本俊彦さんがギャンブル依存症自死遺族会のセミナーで講演
精神科医の松本俊彦さん

公開日:2024/07/22 02:00

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公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会は7月20日、都内で「ギャンブル依存症自死遺族会立ち上げセミナー」を開催した。

セミナーには精神科医の松本俊彦さんも登壇し、様々な研究データや臨床現場での経験をもとに「大切な誰かの死に接することは、自分の自殺リスクも高める」と強調。

「依存症支援では家族への支援が大事だと言われているが、残された家族のサポートも重要だ」とした。

依存症と自殺に「密接な関係」

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部部長で薬物依存症センター・センター長を務める松本さんは「依存症と自殺はすごく密接な関係がある」と説明。

「依存症的な行動が続いている時に亡くなる人も確かにいるが、それは全体の半分くらい。残り半分は酒や薬、あるいはギャンブルが止まってよかったねと思っている頃に、突然自ら命を絶っている」と語った。

松本さんは2007年から11年間、自殺予防総合対策センターの仕事も兼務し、自殺対策のための心理学的剖検に取り組んでいた。自殺をした方の遺族や親しくしていた方のもとを訪ね、どのような経緯で亡くなったのかを短い場合は3時間、長い場合には数日かけて調査した。

このような研究の結果、働き盛りの中高年の人の自殺とアルコールの問題の関係が明らかとなったほか、その半数には返済困難な借金があり、多くは離婚を経験していたことも明らかになったという。

このような研究結果をもとに、松本さんは

(1)うつ

(2)返済困難な借金や事業の失敗、失職、ギャンブル

(3)アルコール(1ヶ月10日以上)

という3要素が男性の自殺に関連していると説明。

松本さんの講演資料から抜粋

国税庁のデータをもとにお酒の消費量と男女別の自殺死亡率の推移を照らし合わせると、「見事に関連性が見られる」とした。

また、今回のイベントに絡めてパチンコ営業事業者数の推移を見ても、自殺者が急増している1998年頃に店舗が急増していることが見て取れる。

このようなデータをもとに、「決してパチンコをやると自殺をするというわけではないが、社会の景気が悪化し、生きづらさが募ってくると、ある人は死を選び、またある人はギャンブルやお酒を選んでいるのかもしれない。その関係性はブラックボックスだが、無視することはできない」とした。

「直接死に追いやることもあるが、一時的に救う効果も」

松本さんの講演資料から抜粋

久里浜医療センターが実施したギャンブル依存症と自殺リスクに関する調査では、ギャンブル依存症の人の場合は抑うつや不安症状を呈している割合が高く、希死念慮については7割が抱いたことがあると回答している。

また、実際に死のうと考えて自傷行為などに及んだ自殺企図の割合もギャンブル依存症者の場合は一般人口の7倍だった。なお、これらの割合はアルコールとギャンブルなど複数の対象に同時に依存するクロスアディクションの場合はさらに高い傾向にある。

さらに子ども時代に逆境的な体験をした人の場合は、希死念慮を抱く割合が高く、自殺企図の割合も高くなっている。

松本さんは過去の自身の診療体験などをもとに、多くの人は次のような2つのパターンに分かれるとした。

(1)借金が嵩み、離婚、多重債務、売上金横領、失職→失踪→自殺企図

(2)子ども時代の暴力被害のフラッシュバックに対して「死にたい気持ちを紛らわすために」パチンコに溺れる→経済的困窮→自殺企図

「ギャンブルがもたらす経済的な影響によって直接的に人を死に追いやることもありますが、別の観点では一時的に嫌な気持ちから自分を救ってくれるという効果もある。ただし、それは一時的なものなので根本的な解決ではなく、結果的にはまた首が締まってしまう。こうした複雑な経路があるということを理解しておく必要があります」

こうした傾向はオーバードーズ(OD)を繰り返す若者たちの間にも見られるとした上で、「アディクション的な行動には、一時的に辛さを紛らわす効果があるかもしれない。ギャンブルがやめられないという状態の人についても、その人はそのアディクションによって生き延びているということがあり得る」とした。

松本さんは、これまでの研究データや臨床現場での体験をもとに依存症と自殺の複雑な関係について次のようにまとめた。

①アディクションが衝動性を高め、心理的視野狭窄を引き起こし、直接的に自殺行動を促進する

②アディクションによって関係性破綻、失職、逮捕などで社会的に孤立し、間接的に自殺を促進する

③アディクションによって元々自殺リスクの高い人が短期的に自殺を抑止されるが、長期的には自殺を促進する

“大切な誰かの死”、遺された家族の死のリスクも高める

最後に松本さんは依存症と自殺の関係について、「自殺リスクが高いのは依存症本人だけでなく、ご家族の自殺リスクも高くなる」と訴え、「大切な誰かの死に接することは、自分の自殺リスクも高める。依存症支援では家族への支援が大事だと言われているが、残された家族のサポートも重要だ」とした。

「様々な依存症治療の経験を踏まえて最近思うのは、AddictionとRecoveryは反対語ではないかもしれないということです。これらは同じ連続的な直線上でつながっているものなのではないか。もっと言えば、Addiciton(依存)はRecovery(回復)の始まりなのではないか。死にたいぐらい辛い今を生き延びるためにAddictionになり、それによって生き延びることができる人もいる」

「ただし、ずっとAddicitonのまま生き続けると、長期的には死が近づいてくる。どこかでRecoveryに転換していくためには、とにかく支援者や仲間とのつながりが必要ですし、社会におけるスティグマが低減されていくことも必要です。安心してギャンブル依存症の自死遺族が集まり、話すことができる場をつくっていくのは、本当に喜ばしいことですし、とても肯定的な効果があると思います」

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