大麻を使って受診する患者さん、大麻取締法改正でどんな影響があったのか?
依存症を専門に診ているクリニックの院長から見た大麻使用者の特徴は?大麻取締法が改正されて、どんな影響が出ているのでしょうか?

公開日:2025/07/15 02:00
昨年12月に改正大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法が施行され、大麻の成分を使った医薬品が使えるようになり、大麻使用罪が運用開始された。
影響はどのように現れているのだろうか?そしてどんな課題があるのだろうか?
日本精神神経学会学術総会で6月20日に、「改正大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法の意義と課題、ならびに薬物依存症臨床への影響」と題するシンポジウムが開かれた。
演者一人ひとりの報告と議論を連載で詳報する。
4回目は依存症専門の「東布施野田クリニック」院長の野田哲朗さん。
依存症の中ではギャンブル依存症が増加
私のクリニックは依存症を専門に診療しています。最近は、初診患者のアルコールが減ってきています。でも、ギャンブルがめちゃくちゃ増えています。予約を少し抑制していても、アルコール依存症の数を抜いてしまうぐらいギャンブルが多くなっています。

また、依存症は治療する医療機関が少ないです。ですから、ひたすら私のクリニックに患者が来られます。薬物に関しては、大体、年間50例ぐらい初診患者が来ています。
できるだけ外来プログラムに来ていただき、集団認知療法などいろいろな講座に出ていただいて、アルコールや薬物の患者さんに断酒・断薬に努めていただいています。 ギャンブル依存症も一応診ていますけれども、借金に追われている患者さんが多く、なかなか診察に来てくれないのが現状です。
依存症の診療は、本当に採算が合いません。非常に多くの職員を抱え、デイケアもやっているので、作業療法士もいますし、去年からPTSDに関しては公認心理師にみてもらうと月2回、1回250点の診療報酬が取れます。PTSDに苦しむ依存症患者さんはとても多いので、公認心理師が大活躍しています。
大麻中心に使っている患者は多くない
当院における薬物使用者(アルコール除く)の初診患者は、この3年間で152人いました。

その多くが覚醒剤や大麻を使っています。 実は、アルコール依存症の人も結構使っていて、 薬物や大麻は捕まらない入手法があって、かなり使っています。 中でも大麻は、医療大麻としての効果がすごくあるようです。
痛みや鬱などで使っている人は、市販薬依存についてもそうですが、SNSなどで情報を得て使い始めています。違法だろうが何だろうが、しんどい、もう耐えられない程の痛みがあると、手に入れて使ってしまうことが起きてしまいます。
当院を受診する人たちは、逮捕されたり、実刑が何回でも積み重なったりして来るので、どうしても犯歴が多くなってしまいます。でも話を聞くと、覚醒剤にしても大麻にしても薬効がありますから、うまく使っている方がいます。おそらく、違法薬物の使用経験者は医療機関に受診する人以外にもたくさんいるのだろうと推定されます。

薬物の中では覚醒剤が多いのですが、いろいろな薬物を使っていてメインの薬物がどれかわからないような人もいます。大麻を中心に使っている人は19人です。大麻ばかりという人は実はあまり多くありません。
あとは、市販薬とか処方薬とか、ブタンガス、シンナー使用者が続きます。
どんな人が使っているのか?
そういう方々のプロフィールを見てみると、大麻使用に関しては男性が100パーセントです。 女性は、市販薬が多い。いわゆる咳止めや風邪薬などです。LSDや大麻などの違法薬物を色々と使っている人はいるのですが、どうも男性は違法薬物に向かう傾向があり、女性は合法的な薬物、市販薬に向かう傾向にあります。

覚醒剤を使う人は年齢も高いのですが、最近、覚せい剤は徐々に減っています。 また、大麻を使用している人は、高学歴の方が多い。また、ちゃんと仕事もされている方が多いです。

大麻使用者は19人いるのですが、来院動機は、「逮捕」が68%です。 また、受刑歴がありません。
この19名人を詳しく見ると、20代で逮捕されている人が目立ちます。こんな若い子たちが逮捕をきっかけに外来に来る。だいたい裁判で有利になるために来るのですが、その傾向は30代、40代でもいえます。
今20代、30代のこれから頑張らなくちゃいけない人たちが、逮捕されてうちに来ていることになります。

これは昨年までのデータですが、昨年末に使用罪ができて、今年になってからもやはり大麻使用者の患者さんは多いです。 ただ、使用罪だけで逮捕されている人はいなくて、使用罪と所持罪の両方で逮捕されています。
こういう方たちはだいたいヒップホップ系の方が多いです。 ヒップホップ系の服装をしている。だから私は叱っているんです。「そんな格好をして大麻持ってたら、職質遭うやろう?捕まっちゃうから絶対ダメだ」と、説教しているんですね。
ラッパーも多いです。ラッパーの呂布カルマさんは、大麻をどんどんやれ、解禁に持っていくんだと煽っていますが、ミュージシャンたちは大麻を悪いものだと思っていません。だから、彼らに「やめろ」と説得する材料もあまりないのですね。
子供の頃に逆境体験を持つ人が多い
PTSDを併存している人は、大麻使用者では意外と少ないです。 覚醒剤やその他の違法薬物、市販薬を使っていらっしゃる方はPTSDがやはり多い。

また、児童期の逆境体験(ACEs)があるかどうかを調べてみたのですが、まんべんなく皆さん持っています。

で、一般の方々で逆境体験があるか調べると、30パーセントぐらい人が該当するのですが、薬物使用者は非常に多いですね。 特に市販薬依存の方々は、逆境体験が一つ以上ある人が非常に多いことが確認できます。
両親から虐待を受けて育った10代男性は、大麻で希死念慮を解消
こちらは本人からも了承を得ていてかつアレンジしている表の19例に入ってない症例です。 10代の方です。

幼少の頃から中学1年になるまで、両親の性行為を見せられて育っています。父親からDV(家庭内暴力)があって、母と激しい暴力を受けて育ちました。 お母さんからも暴力を受けています。
こういう子は、学校でも家でも疎外されてしまいますので、13歳の時にスケボーをしていた時の先輩に誘われて薬を使い始めます。依存症の診療をしていると、よく先輩が出てきます。「誰に誘われたの?」と聞くと、だいたい先輩が薬を使っている。
要するに、疎外されている子たちにはいわゆる自助グループができている。いろいろな事情を持つ子供たちのコミュニティになっているのです。そこで、大麻やLSDや覚醒剤、MDMAを使用している。この患者さんは、覚醒剤は吐いてしまったそうです。 覚醒剤は合わない人は合わない。大麻も合わない人は合わないのですが、 彼は大麻は体に合ったのですね。
幼い頃から希死念慮に取り憑かれ続けていますが、それが大麻で解消できてしまう。まさに医療大麻としての使用です。
楽しくなって、やめられなくなって、14歳の時に無免許運転、美人局、住居侵入などで捕まり、父親を殺そうと、ナイフを所持して逮捕されました。15歳から、1年間少年院に送致されるのですが、賢い子なので少年院で高卒認定を取りました。
しかし、少年院を出てから、また友人と大麻を吸って、警察に事情聴取されました。大麻を吸う器具を所持していて少年鑑別所に入ったのですが、5週間完全黙秘したんです。少年審判で、20歳まで保護観察処分を受けました。
そこで、私のクリニックに来て、いろいろなフラッシュバックもあり、IES-R(PTSDの程度を評価する自己記入式の質問票)を取ると40で、重いPTSDなんですね。
こういう方の治療は難しい。集団精神療法になかなか出てくれないからです。人が多いと恐怖感を感じるんですね。ですから集団精神療法に出てくれと言ってもなかなか出てくれない。

そこで公認心理師によるカウンセリングをお願いしています。薬も処方していますが、やはりいまだに大麻はやめられません。 飲酒(ビール)も多いです。希死念慮は消えましたが、大麻リキッドやジョイントで大麻を使用しています。
依存症になる要因は?
依存症になる要因は、やっぱり個人差があると思います。

誰でもなる、とよく言いますが、アルコールと同じく個人差はあります。
成育歴が影響し、それによって大麻を使ってしまう。
よく「自由意志でやっているじゃないか」と言われますが、哲学者の國分功一郎先生が「中動態」について書いていて、依存症もそうだと思いました。依存症を診療している治療者として助かる概念です。中動態というのは要するに、受動でも能動でもなくて、本人の意思を超えて内部から出てくる状態だというわけです。人を好きになる、愛する——。それもいわゆる中動態、確かに本人の意思ではないですよね。
依存症もそうです。つまり、自己責任論を否定することができる。 ただし、アルコールなどで暴言や暴力などの問題を起こしている人は、病気ゆえにそんなことをやって責任はないのですが、ちゃんと責任を取る人間になることが大事だと國分先生は言います。
非合法と合法の違いは?

非合法と合法の違いは、全然わからないですよね。 治療していて最も難しいのはアルコール依存症なんです。アルコール依存症の患者さんは、やはりいろいろな問題を起こして来られます。逆に、 大麻の方は全然問題を起こしていない。 捕まっちゃっただけなんです。
でも大麻の場合は犯罪者、アルコール依存症は病人と見るわけです。でも精神作用の依存度を見ても、差がないです。

松本俊彦先生も監訳している『薬物戦争の終焉——自律した大人のための薬物論』(カール・L・ハート、みすず書房)という本を読むと、薬物規制の立法は人種差別から行われていることがわかります。この本の著者は黒人の研究者です。
黒人の世界から見ると、いかにひどいことが行われているか。ヘロインだろうが大麻だろうが、黒人も白人も同じように使うわけです。ところが結局、捕まるのは黒人ばかりで、刑務所に入れられて、中には射殺されてしまうこともある。人種差別で作られた薬物規制によって刑罰を受けている人がたくさんいます。

作家の中島らもさんはアルコール依存症で、2004年に転落して亡くなりました。大麻取締法で捕まって拘置所に入った後に、『牢屋でダイエット』という本を書いています。そこで、法律がいつか大麻は無害であると証明するだろうと書いています。酒に酔って人を殺したり怪我させたりすることはあるが、大麻でそんなことをした人はいないと。
亡くなってから20年経った昨年、大麻取締法が改正され、麻薬扱いされてしまいました。らもさんが予言したのとは逆の方向に行ってしまいました。

国際的に見ると嗜好用の大麻が認められていますし、医療大麻も認められています。

先日、ハワイに行ったら、ハワイでもマリファナが日本人向けに売られているんです。店の人は「結構日本人が買いにきている」と言っていました。

だから、逮捕をきっかけとした断薬の動機付けは非常に難しいです。 患者にやめる方向に説得しようとしても全然うまくいきません。 「法律が悪いんだ」と言っている若者もいます。
支援か罰か

結局最後は、支援か罰かの議論となります。
中島らもさんが拘置所で読んだ『異常者たち』という本で、フーコーはこんなことを言っています。
近代精神医学は、異常者を危ない人間だと煽って社会から排除して矯正する権力装置になったと。
今回の改正で創設された大麻使用罪は、結局、薬物使用者を罪人と見てしまうことですから、ここからハームリダクション(※)の発想は生まれません。
※薬物で言えば、完全にやめることを目指すのではなく、心身に対する害を減らすことを目指して支援するアプローチ。
海外では彼らを病人として見ていますから、ハームリダクションの発想が出てくるわけです。 先ほどの『薬物戦争の終焉——自律した大人のための薬物論』では、本来、違法薬物も薬なので、「ハームリダクション」と言うこと自体、かえって偏見を生んでいるのではないかと言っています。 薬物は、悪い効果ばかりではない。覚醒剤も元々ちゃんとした薬でしたから。
そう考えると、日本にいる我々にとってハームリダクションというのは、司直の手に薬物消費者を渡らせないように支援すること——。それが、我々が今やれることではないかなと思っています。
【質疑応答】
(質問)外来で覚醒剤や大麻を体温を使った方がいらして、尿検査をされているかどうかわかりませんが、大麻を使ったばかりの人、あるいは覚せい剤を使ったばかりの人が来ても警察には通報しないですか?あるいは通報しますか?
(回答)しません。
【野田哲朗(のだ・てつろう)】東布施野田クリニック院長
1984年、大阪医科薬科大学医学部卒業。1988年4月大阪府庁入職(精神保健福祉課長等を歴任)。大阪府立精神医療センター医務局長、兵庫教育大学大学院学校教育研究科教授などを経て、2015年9月、大阪人間科学大学教授。2022年6月より、東布施野田クリニック院長に就任。精神保健指定医。精神科専門医。専門は依存症。