Addiction Report (アディクションレポート)

「拒食」が転じて「過食」になった。摂食障害の私の遍歴(後編)

二度目の「拒食」では40キロを切るほど体重が激減したというライター・姫野桂さん。コロナ禍が始まると、今度は「過食」に転じたという摂食障害。
その遍歴を振り返る中で改めて気づかされたのは、アルコール依存の傾向でした。

「拒食」が転じて「過食」になった。摂食障害の私の遍歴(後編)
コロナ禍の「過食」期に出会ったパートナーさん。よく食べ、よく笑い、よく飲む仲。高尾山の山頂にて(写真提供:姫野桂)

公開日:2024/09/14 02:00

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リーマン・ショック下の就活がきっかけで始まった「拒食」を経て、コロナ渦で「過食」に転じた姫野さんの摂食障害。そして、いわば併走するように「常にあった」というアルコールの問題とは……。その背景を聞きました。
(ライター・青山ゆみこ)

⇒「拒食」が転じて「過食」になった。摂食障害の私の遍歴(前編)

コロナ禍で一転、「拒食」が「過食」に転じた

 どちらかといえば「食べたくない」気持ちが強かった私なのに、「過食」になってしまったのは、新型コロナウイルスの感染が拡大した1年目のことでした。

 緊急事態宣言が発令されて「家から一歩も出るな」という圧が強くなると、なぜかライターの仕事も一気に減って、とにかく暇になっちゃった。

そうしたらお酒を飲むくらいしか楽しみがなくなって、4リットルの業務用焼酎を買ってきて、ジャスミン茶で割ったものを、夕方5時、6時から12時頃まで毎日飲むようになったんです。

美味しいものを食べたい気持ちも消えてしまい、料理を作るのもめんどくさい。でも、お酒をたくさん飲んで、その後にインスタントラーメンを食べて寝るのがすごく気持ちよかったんですよね。

ひたすら飲んで、ラーメンを食べて、酔い潰れて寝る。そんな生活を毎日繰り返していたら、一気に体重が50キロまで増えたんです。

一時は40キロまで減ってた体重が10キロも増えてる。

これはマズいと焦って、一生懸命走り始めたんです。でも体重はなかなか落ちなくて、1年ほどかけてなんとか47キロまで戻しました。適正体重から外れている訳じゃないけど、自分の中で「50キロを超えるとダメだ」という気持ちが強いんです。

私は二次性徴が早めに始まって、小学4年生の頃に身長が1年で11センチ伸びて、体重も48キロありました。周りの女の子はまだ二次性徴前の子ども特有の直線的な体型だから、私は男子から目をつけられて「おいデブ」ってからかわれていたんです。あれがずっと引っかかって、体型を気にしちゃうんだと思います。

パートナーとの出会い。同棲生活が「過食」を止めた

過食してアルコールを飲んで、気持ちは焦って必死に走り込みをしたりして。そんなコロナ渦で出会ったのが今の夫でした。

彼は食べること大好き。体もでかくて、ものすごい量を食べる。デートでいろんなお店に食べに連れて行かれて、一緒に食べ歩きをするようになったら、過食とは違う「普通に美味しいものを食べたい」という気持ちが戻ってきましたね。

同棲し始めて、「ラーメンとお酒だけ」という病的な過食は改善されたけど、彼の食生活に合わせるので、「よく食べる」という感じになって、どんどん太り始めちゃったんです。

夫の帰宅が夜9時頃なので、夕飯を食べるのが10時くらい。夜遅く食べると太るじゃないですか。それが嫌で、最初は先に一人で食べてたけど、やっぱり、2人で食べたいなと思って。そうなるとどうしても食べる時間が遅くなる。自分一人ではどうしようもないので、難しいですね。

彼と暮らし始めて3年経った今、体重は58キロ。一番痩せていた頃から較べると、18キロも増えちゃったんですよ。服もSからLに買い替えたり、今はちょうどオーバーサイズが流行なのでわたしもぶかっとしたTシャツとか着てます。

拒食で痩せていた頃(左)と、過食で体重が増えた現在(右)

実は私、コロナ禍で「過食」になった時、食べた後に指を喉に突っ込んで吐いてたんです。その時に吐き癖がついちゃって、指を入れなくても腹筋の力で吐けるようになってて。

夕飯の後に夫と晩酌をしながらドラマとか見てると、トイレに行く暇もなく、いきなりバーって吐いちゃうことがあるんです。

夫からは「こんなに吐く人初めてだ」って驚かれてます。でも、意図的に吐こうとしているわけではなくて、腹が反応して吐くみたいな感じ。週に1回ぐらいなので、私自身はあまり心配してないんですが。

だから今、摂食障害が治っているのか、治っていないのか、自分でもよく分かっていない状況です。 

自分の摂食障害傾向に感じること

食べたくないっていう気持ちもあるけど、今は空腹になるとぐーぐーお腹が鳴って食べたくなっちゃう。拒食だった時は空腹感を感じなかったから、これは正常な身体になったということなんだと思う。

でも、正直に言うと、お腹が空かなかった頃に戻りたいという気持ちが実はあるんですよ。その方が痩せるから。

37歳になって実感したことは、若い頃は炭水化物を控えただけですぐに体重が落ちてたけど、この年齢ではもう難しいということです。痩せたい気持ちは今もずっとありますね。

夫のタイプは、丸顔でグラビアアイドルみたいな、グラマーなぽっちゃり肉々しい感じ。私ってそれとは真逆なんです。彼は、全くタイプじゃないのに、私と初めて会った時に「この人となら一緒にやっていける」と思ったそうです。

外見的なことが夫との関係に大きく影響することがなくて、全て受け入れてくれてる。承認を求める気持ちがなくて、素でいられる。

太っちゃったらこの人に嫌われるのかもしれないとか、それがきっかけでまた食べるのが嫌になっちゃったりとかは、きっとないですね、全然。

でも、私自身の体調や気分的には45キロぐらいがいい。本当はそれぐらいまで戻したい、痩せたいという気持ちもありつつ、病的なところに戻りたくないという気持ちが半分半分ですね。

病的に振り切れないように自分を押し留めているものは、夫のような安心できるパートナーがいることが大きいと思います。

私、28歳の時にお付き合いしていた人と別れてから、7年ほど彼氏がいなかったんですよ。その間、ずっと男の人と相思相愛になりたいという思いが強くて。それも「過食」とか「拒食」につながっていたように思います。

あと、夫が結構適当なところがある人なんです。私は発達障害の特性からか、完璧主義で、0-100志向、白黒志向が強かったんですけど、彼の適当さに影響されてグレーがあってもいいんじゃないかと思えるようになってきました。

一緒に生活をする人の影響で、今は保留になってることが多いのかもしれません。

むしろ痩せてた時の方が、もっと綺麗にならなきゃ、痩せなきゃって極端な思いがいつもありましたね。

摂食障害と並行して、いつもアルコールの問題があった

こうやって摂食障害について話しながら、改めて気づいたんですが、「拒食」「過食」はその時々で変わってきたし、普通に食べられるときもあった。でも、アルコールの問題は学生時代からずっと変わらずありますね。

夫とはドラマや映画のお供で一緒に楽しく飲んだり、週1回は二人で外食して美味しくお酒を飲む。それとは別で1人でも飲んじゃう。夫が仕事で遅くなった時とか、隠れてこっそり飲む。罪悪感もあります。

飲んで怪我したり、夫や友人に迷惑かけたりとかはないですね。ただ、夫が不在の時に飲む量がかなり多いし、翌日は二日酔い気味で、でもその日の夜にお酒が抜けると飲んじゃう。量も増えてる気がするし。

私は経済的な不安が出ると、直接的に飲酒に結びつくんだと思います。コロナ禍でも、暇になると不安になると飲んじゃってたし。

「自分にはライターという仕事しかない」という不安があるんです。会社員時代にうまく事務職ができなかった。それは発達障害のADHDだからなんですけど。

ライターになったら、自分で稼げるようになって、嬉しい驚きでした。私はこんなにライターに向いてるのか、と。同時に、じゃあもうこれしか仕事にはできないじゃん。自分はライターしかできないのに、なんでこんなに仕事が少ないんだろう……って不安で飲んじゃう。

最近、摂食障害の方にお話を聞く機会があったんですが、やっぱりアルコールの問題も抱えているんですよ。私は今は「拒食」も「過食」もないけど、不安がアルコールに結びついていることを実感しています。

そんなこともあって、今後は、自分事としても「摂食障害とアルコール依存」の関係を考えていきたいと切実に考えています。

(おわり)

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コメント

23日前
QOO

理想体重じゃなくて、自分で自分の良いと思う体重を決めるとか、食事を楽しめないとか、二日酔いが治ったらまた飲むみたいなの、まるで自分の事かと思いました。

偏った考え方がやめられないし、白黒、0-100思考だ。そんな自分を受け入れてもらえる人や場所があるって大切ですよね。

25日前
キャサリン

ものすごく目立った逆境体験がなくても人は摂食障害、アルコールの問題を抱えることがある、ということにとても共感した記事だった。

誰かのひとこと(例えば、おいデブ)がずっとひっかかってしまう。私も長らくひっかかり、傷となっているひとことが幾つかある。

他人からみたら、そんなことで?と思えることが引き金になってしまうことがあるから、気安く人の心を判断しちゃいけない、と改めて思った。

とてもいい記事だったなあ。

25日前
匿名

夫さんとめぐりあえてよかったですね!本当によかった…

そしてアルコールの問題とおつきあいしながら「考えていきます」という姿勢に共感しました。

お話ありがとうございます!

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