「拒食」が転じて「過食」になった。摂食障害の私の遍歴(前編)
『発達障害グレーゾーン』をはじめ、メンタルヘルス関連に著書の多いライターの姫野桂さん。学生時代、就活が始まると「食べたい」気持ちがなくなったという初めての「拒食」体験とは、いったいどんなものだったのか。
公開日:2024/09/13 02:00
『心理的虐待〜子どもの心を殺す親たち〜』(扶桑社新書)を上梓したばかりのライターの姫野桂さん。メンタルヘルス関連の取材記事に定評がある姫野さんは、ご自身も摂食障害の当事者です。
生育環境に大きな問題はなく、トラウマ体験などがあったわけでもないけれど、33歳までに二度の「拒食」、コロナ渦で「過食」に転じたという摂食障害。
当時はわからなかった発達障害の特性をはじめ、リーマン・ショック下の就職活動や、コロナ禍という社会的な背景が強く影響したのではないかと振り返ります。全2回の前編。
(ライター・青山ゆみこ)
就活の苦しさから始まった、初めての「拒食」体験
私はどちらかといえば子どもの頃からぽっちゃり体型でした。思春期の頃に今と同じ身長156センチになって、当時は体重が50キロぐらいでした。
この「50キロある」というのが、少しコンプレックスではあったけど、陸上部で走り込みをしていたので、筋肉の重さだったのだと思います。太っている訳じゃなかったんですよね。
でも当時は食べることが大好きだったのと、今はだいぶ丸くなりましたが父親が少しモラハラ気質なところがあり、私が間食をしていると『また食ってるのか』と言われることが多く、隠れて間食していました。
大学進学を機に地元の宮崎を離れて、東京で一人暮らしを始めました。特に運動はしてなかったけど、体型は変わらないまま。でも、就活が始まったら急に痩せ始めたんです。
私が21歳の頃って、2008年に起きたリーマンショックの余波で市場が混乱してたんです。有効求人倍率が落ち込んで、何社受けても全く内定が出ない。
自分はもう社会に必要とされてないんだ。
そんな思いが強くなって、毎日が不安しかない。そうしたら食欲がどんどんなくなって、気がつけば食べものを受けつけなくなっていました。食べたくなくなった。
1か月ほどで10キロ痩せちゃって、体重は44キロに。びっくりというか驚きもあったけど、同時に「あ、痩せた。嬉しい」とも思ったんですよね。
ぽっちゃり気味だと気にしていた見た目がすっきり変わったことも嬉しかったし、女子大だったので周り女の子からは「痩せて可愛くなったね」と言われたり、男性に言い寄られることも増えたから。自分にとっては良いことの方が多かったんですよ。
私は学生時代からヴィジュアル系バンドの追っかけをしていて、追っかけって結構ルッキズム(外見重視主義)なところがあるんです。バンド関連の掲示板に「あの子可愛いよね」「あの子はブスだよね」なんて書き込みされる。
当時から「ケイ」というバンギャルネームを使っているのですが、「ケイさんは美人だよね」という書かれてるのを見つけて、嬉しかったり。
就活で結果が出せず「自分はダメだ」って落ち込むことが多い中で、痩せて可愛くなったことは、自分を肯定できる嬉しい出来事だったんです。
だから、減った体重をキープするか、あるいは「もっと痩せなきゃ」とも思うようになっちゃった。
就活は相変わらず散々でした。連日のように面接や説明会に申し込むものの、当日に微熱が出たり、気持ち悪くなったりして、ドタキャンを繰り返すようになって。そのことにすごく落ち込んで、さらに体調を崩してまたドタキャンという日々でした。
熱があるまま面接を受けて頑張ったこともあったけど、「ご活躍をお祈りします」という「お祈りメール」の不合格通知が来るのが苦しくて苦しくて、本当に辛かったです。
摂食障害の診断は出なかった心療内科
食欲が全くなくてお菓子しか食べられなかったけど、お酒は毎日飲んでて。ロング缶の発泡酒を箱買いして、毎晩6本飲んで泥酔して寝る。そうじゃないと眠れない。
私の中で、「発泡酒はビールと違うから太らない」っていう謎の自信があって、実際に太らなかったんですよ。そういう生活をしていても、一人暮らしだから、誰にも何も言われないし、良くないとも思ってなかった気がします。
イライラしたときもすぐに飲む。缶を開けるプシュッという音を聞くだけで、ストレスが発散されるような快感がありました。
唯一食べられたのが、食べっ子動物というビスケットと、長いひも状のグミ。それだけはおいしいと感じたので、ビスケットを一日1箱、グミも一日1袋。それだと太らなかったから、ちょうどいいやって感じ。
でも、ある日突然、太ももに水泡のブツブツがブワーって広がって。なんかこれはヤバい、栄養失調じゃないかと考えて、無理に野菜も摂るようにしたら、ブツブツも消えたんです。
自分が「摂食障害」とは考えてもみなかったけど、お菓子とお酒だけで過ごしている自分は「精神的に病んでる?」とは思うようになってきて、眠れないのもなんとかしたかった。それで、初めて心療内科に行ってみたんです。
だけどこの先生は、いわゆる「精神科ガチャ」の外れだったのか、聞かれもしなかったので、急に痩せたこと、お菓子しか食べてないこと、飲酒のことも私からは話さなくて。そうしたらよくわからない診断をされて、ちょっとした精神安定剤と抗鬱薬と睡眠薬を出された程度だったんです。
摂食障害の「拒食」もあったかもしれないけど、あの頃の自分は適応障害だったんじゃないかと、当時を振り返って感じてます。
私は、33歳まで「拒食」を2回経験しています。最初がこの21歳の時。でもこの拒食はそこまでひどくなかったんですよね。30キロ台まで落ちることもなかったし、食べられないことを苦痛にも感じてなかったし。
生活のために食費を削るようになった会社員時代
卒業式の2週間前にようやく内定が出たんです。心からほっとして、安心感からか次第に食欲も出て、いつの間にか食生活は戻っていきました。
ただ、今度は経済的な理由から食費を削るようになったんです。
事務職として働き始めた会社の給料は、手取り17万円ほど。これでは東京で一人で暮らせない。親が家賃補助として4万円出してくれてなんとか生活できたけど、作り置きにお弁当という節約生活です。必然的に食べる量が減りました。
痩せて可愛くなった自分が嬉しかったから、もう太っちゃうのは嫌だと思って、節約ついでに夜は炭水化物を抜いたりして。
当時はまだわからなかったのですが、私は発達障害の特性があるんです。そのため事務系の仕事がとにかく苦手で。簡単なことなのに言われた仕事ができない。もちろん会社での人間関係も悪くなる。あまりにしんどくて、毎日、辞めたい、辞めたいと思っていました。
でも「一つの会社で3年働かないと次の職がない」という「3年神話」を信じ込んでいて、次のボーナスまでは頑張ろうと気持ちをなんとか繋いだ。
食費を切り詰めてるから普段は外食できないけど、給料日になるとご褒美でラーメンを食べに行ったり。この頃は美味しいものを食べることが、特別な楽しみにもなってたんですよね。
日々の会社や仕事のストレスは毎晩飲むアルコールで発散して、あとはバンドの追っかけだけが楽しみで生きてました。
フリーランスとして忙しく充実した日々がきっかけで始まった、2度目の「拒食」
なんとか3年勤めて会社を辞めた後、フリーランスのライターになったら、書く仕事が自分に合っていてストレスから一気に解放されました。少しずつ収入も安定して、食事は普通に食べるようになってたけど、体重は47キロから変動せずで落ち着いていました。
29歳になった頃かなあ。仕事がどんどん楽しくなって、めちゃくちゃ頑張って働いてたら、あまりの忙しさからなのか、ダイエットもしてないのに体重が減ってきたんです。痩せたかなと測ってみると45キロ。その時ははっきりと「すごい嬉しい!」と喜んだことを今でも覚えています。
この当時、色恋のことがあって、私はもっときれいになりたかったんです。以前、痩せたら褒められたこともあったし、「きれいになるにはもっと痩せなきゃ」と思うようになった。そしたら、また「食べたい」という感覚がなくなってきちゃったんです。これが2度目の拒食につながりました。
とにかく量を食べない。野菜炒めを少量とか、炭水化物なんてほぼ取らない。そうしたら2か月ほどで体重が30キロ台になるくらいまで落ちて、服のサイズはXSとかになって、リュックを背負うと、重みで後ろに倒れちゃったり。
それが「拒食」という意識はまだなくて、深刻には考えてなかったんです。それよりも酔い潰れるまで飲まないと寝られないという不眠をどうにかしたくて、久しぶりに心療内科に行くことにしました。
これは私の思い込みなんですが、精神科に行ってることが会社にバレたら解雇されるんじゃないかと怖くて、働き始めたら就活期に行ってたクリニックには行かなくなってたんです。お薬も勝手にやめちゃってました。
それで、別の心療内科に行ったところ、そこの先生がじっくり話を聞いてくださる方で、いろんな話をしたら、初めて摂食障害と告げられました。ほかにも発達障害のADHD(注意欠如・多動性障害)とLD(読む・書く・計算などの学習障害)、あと双極性障害という診断も受けました。双極性障害はⅡ型なので、どちらかというと緩やかな方です。
「拒食」の症状から摂食障害の診断を受けたものの、この後、今度は「過食」を体験するようになるんです。ちょうどコロナが始まった頃、2020年のことでした。
(つづく)
後編はこちら↓
コメント
私も双極症、ASDです。事務の仕事ができなかった、も同じ!
摂食障害のお話、とても共感しました。後半も楽しみにしていますね。
女性のアディクトの仲間には摂食障害もあることが多い。
ハグするたびに折れちゃうんじゃないかと心配になったその感触を両腕が今も覚えている。
辛いと食べれなくなる、ストレスがたまるとドカ食いする。私自身も感情が食べることに直結している。
やせると嬉しい、って思うし。好きなお洋服がなんでも着れちゃうし。
共感する女性がたくさんいるんじゃないだろうか。
コロナはほんとにいろんなところで悪さをしましたよね。次回が待ち遠しい。