「ODはしなくても、他の手段を探してしまう」自傷行為を繰り返す、性的虐待を受けた女性の心情
市販薬の乱用によって入院を勧められているミナミ。OD以外にも、さまざまな自傷行為を繰り返す。そのときの心情については、スマートフォンのメモ機能を使って記録している。そうした自傷行為を繰り返すようになったきっかけは、幼少期の出来事だ。それは、兄からの性的虐待だった。
公開日:2024/07/03 08:00
ミナミ(仮名、24)は主治医から「市販薬の乱用」を指摘された。そのためもあるが、入院を勧められている。
「医療費的にかさむので、入院するとしても2週間以内にしたいです。親の扶養から外れたので、保険を含めて、医療費は自分持ちです。最近は(市販薬の)過量服薬(オーバードーズ、OD)はしていないです。去年の7月にしたODが最後です、自分でもそれ以来していないのはすごいと思いました。ODをすると、彼氏に『できればしないでほしい。しても虚しいだけだよ』って言われます。でも、気持ちとしては最近も『できれば(ODを)したいな』と思うんです」
ミナミはスマートフォンのメモ機能に、自身の症状や自傷行為について記録している。
(2023)年7/12(水) 6:55 OD🔳🔳🔳🔳🔳12cp(朝お兄ちゃんの夢見て気分が悪かった。夢の中では私は嫌がっていて抵抗していたのに、お兄ちゃんは何も聞いてくれなかった。無力だった。それで起きて嫌な気分になったのと、死にたくて衝動的になって🔳🔳🔳🔳🔳を飲んでしまった。飲んですぐ吐き気と闘って勝った。)
兄からの性的虐待の影響で自傷行為を繰り返す
ここで言う「お兄ちゃんの夢」とは何を指すのか。
ミナミは、小学生から中学生にかけて、兄から性的虐待を受けていた。そのため、中学生の頃から自傷行為を繰り返した。兄に対しては怒りや殺意が湧くこともあった。拒否しても、兄は「大丈夫だよ」などと言い、やめることはなかった。
「小学4年生のとき、担任の先生に『死にたい』って手紙を出していました。5年生の後期には拒食っぽくなって。給食も食べられなくなっちゃって、すごく痩せたんです。食欲がなくて、給食の時間になると、学校のトイレにこもったり、図書室に行ったり、学校の敷地内をうろうろしていたこともありました。すぐ泣いたりとかもした。
市販楽の乱用をミナミは高校生の頃からしている。大学生の頃も「死にたい」ときにはODを繰り返した。乱用するのは、2種類の、せき止め薬だ。しかし、最近はODをしなくなっている。というのも、大学を卒業して、会社に出勤する必要があり、シフトの関係でなかなか時間が取れない。
「ODをするなら仕事が休みの日しかできないんで。ただ、休みの日も、朝ごはんを食べて、家事して…。それから飲むと、効果が切れる前に家族が帰ってきちゃう。だから様子がおかしいことに気づかれちゃう。そうなると、なかなかできない。それに、薬を買うお金もない。市販薬はコストが悪い。コスパ悪いですよね」
「死にたい」感情の芽生え
最近、ミナミはODをしなくなったものの、精神的に不安定な状態が続いている。梅雨になり、湿度が高いため、というのもあるかもしれない。その調子の悪さによって、「死にたい」感情が芽生えている。X(旧Twitter)には「いつまで経っても死にたい」とポストしている。死にたい感情が芽生えたのはきっかけがあった。
「知り合いと食事の約束をしていたんです。それが終わったら死のうと思って。知人は、私の状況を知っているのですが、近況報告をしたんです。私のことを心配もしてくれていました。その集まりが楽しみだったんです。それだけは行きたいと思ったんですけど、前から調子が悪いので、ここ1ヶ月くらいは『死にたい』としか考えられなかった。その楽しみなことが終わったら、『別に、もういいや』って思ったんです」
また、死にたくなった理由はもう一つある。兄との関係を振り返ることがあったのだ。
「精神状態が悪いので、障害年金を申請したんです。申立書を書かなければならないんです。今までの病歴を書くことになったんですが、発病当時は小学生という見立てですので、小学生の頃からのことを思い出したことも、フラバ(フラッシュバック)につながっているのか、自分でも分からなくて。
精神科の初診は16歳のときだったんですけど、今の病院に通っているのは17歳から。ただ、発症当時が小学生のころだから、だいぶ遡って書かなきゃいけない。どういう症状があったのかを遡ります。自覚症状があったとか…。書かなきゃ伝わらない。書くときが一番辛い。ちゃんと伝わるように書かないといけないから。文章を組み立てないといけないし、実際、文章を目にするのも辛いです」
お兄ちゃんだけが悪いとは思えない
申立書を書いていて、性的虐待を受けていたころのことを思い出して、X(旧・Twitter)に次のようにポストした。
<お兄ちゃんはストレスが溜まってたんだろうから、私に手を出したのだって仕方ないことだったんだよ。>
<中2でまた性行為が始まったとき、たしか私が触ってもいいよって言ったからお兄ちゃんも触ってきたと思うんだけど。>
「思い出したから書いたんですが、ずっと以前からそうした思いはありました。お兄ちゃんだけが悪いとは思えない。自分も誘ったときもあるし、待っていたときもあったし。これはちゃんと記憶していること。でも、支援者に話すと、『違うよ』『お兄ちゃんの勝手な行為』と言ってくれるんですが、それも信じられなくて。お兄ちゃんも悪いけど、自分も悪いと思ってる。そういうことを思い出しちゃう」
そんなことを考えていると、死にたくなるという。そんなときは何をすることで、今を耐えているのだろうか。
「ODをしたいけど、収入が多くなく、市販薬を買う余裕もないんです。ただ、今はODよりも、腕を切りたい。高校生のときは毎日のように切っていました。でも、半袖になる時期だから、家族にバレやすくて。それが難点です。
それに彼氏に『切らないで。きれいな腕でいてほしい』と言われていますので。だから、1年半弱は切っていないです。そのため、処方された頓服薬を飲むようにしています。それでも衝動が抑えられないときは眠剤を飲んで、寝逃げします。ただ、薬のせいか、記憶が安定しません。仕事のときも逐一、確認するようにしています。上司は。私が精神疾患を持っていることや『死にたい』と思っていることは伝えています」
ODの代わりにしているのが首絞め
しかし、ODの代わりにしていることもある。それは首絞めだ。そのこともメモに記録している。最近は5月のことが書かれていた。
・5/31(金) 17:45泣く、死にたい、疲れた(1人で部屋にいるとき。年金の書類の申立書のメモを書いてたからか、精神的に疲れた。死にたくなった。楽になりたい。もう生きていたくない。限界。)
18:10 首を絞める(1人で部屋にいる時。タオルで締めた。ただ首にタオル巻いて絞めてたけど、スッキリしなかった。久しぶりにフラフラして良かった。でもスッキりしない。)
「高校の友達から教わったこともありますが、自分でも首絞めに興味があったんです。この日はずっとしんどかったんです。フラフラするだけで目が回るんです、でも、ふわふわするので、いろんなことを一瞬で忘れられるんです。それでもスッキリはしなくて、頓服薬を飲んで。跡が少し残りますが、1、2時間でぜんぜん消えます。だからバレないです」
最後に、ODを含めて自傷行為に依存していると感じているかを聞いてみた。
「ODやリスカ、首絞めを含めて、自傷行為をやめるっていうのが想像できないですね。だからODをしなくても、他の自傷行為を探しちゃう。そう考えると、依存しています。ただ、調子が悪いだけかもしれない。前に入院していたのも5月末から8月末にかけてなので。この時期がダメなんだろうなあ」
(相談先の一例)
こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(都道府県や政令指定都市の公的な相談機関につながります)
いのちの電話(フリーダイヤル、毎日午後4時から午後9時、毎月10日は午前8時から翌日午前8時まで、無料) 0120-783-556
チャイルドライン(フリーダイヤル、毎日午後4時から午後9時まで、無料)0120-99-7777
コメント
つらい気持ち、わかるような気がします。