エンタメを通じて知る依存症ーー落語家と語る「やめられない心」
「(依存症の啓発を)いわゆるエンタメの世界の人から寄り添ってもらうんじゃなくて、エンタメの世界にいかに歩み寄るかっていう新しいチャレンジに面白さを感じた。今後が楽しみ」
そう語るのは、依存症問題の啓発に取り組む俳優の高知東生さんだ。
高知さんはかつて薬物での逮捕をきっかけにメディアで叩かれ続けたことで「外に出てくのがすごく怖くなった」という経験を持つ。
2025年3月6日に東京都渋谷区で開催された「やめられない、こころの噺。」依存症を考える落語会&トークショー(共催:ラルテ、(公)ギャンブル依存症問題を考える会)の終演後、高知さんは「外に出ていくこと」の楽しさを実感していた。

公開日:2025/04/18 00:24
イベント第一部の落語会では、ギャンブル(サイコロ賭博)をコミカルに描いた「看板のピン」を春風亭昇也さんが、古典の名作「芝浜」を現代風にアレンジして薬物依存症を題材とした人情噺「シャブ浜」を立川談笑さんが熱演。
第二部では、立川談笑さん、春風亭昇也さん、高知東生さん、田中紀子さんによるトークショーが行われた。当事者や専門家だけでなく、エンタメとしてギャンブルや依存症を扱っている落語家たちの対話はどのようなものだったのだろうか。
聞き手も語り手も、一歩踏み出すことでわかる「本当の話」
口火を切ったのは春風亭昇也さんだ。
「落語の演目っていっぱいあるんですけど、覚醒剤をうつ所作がある落語って立川談笑さんの『シャブ浜』だけですよね」
それに対して談笑さんは「覚醒剤の注射をうつシーン、一般の人たちがやりたがる仕草と、本当の人たちは違うんだよね」と当事者への取材秘話を明かしながら、高知さんに目線を送り共感を求めた。
すると「すみません……たしかに僕は薬物で捕まったんですけど、注射が怖くて。だから注射のやり方が全くわからないんですよ。僕、病院で麻酔注射をうたれる前に『痛いッ!』っていうタイプ」と告白。
さらに「炙りなら正解がわかる」とアピールし、会場の笑いを誘った。

あのとき歯科医だけがわかってくれた真相に会場の反応は…
注射といえば、高知さんにはこんなエピソードもある。
高知さんが逮捕された当時、マスコミから「高知東生は覚醒剤の注射、何百回分の容量を持っていた」と報じられたとき、歯医者の先生が「あれは嘘だ(笑)」とまっさきに否定してくれたという。
また、高知さんは「仁義なき戦い」での役柄イメージとは裏腹に、ギャンブルのようにハラハラドキドキするものは苦手だと言い、落語家たちから「じつは弱々しい?」「超いい人じゃないですか」とツッコミの嵐を受けた。
ハマらなかった話も、理解されなくて苦しかった話もしていい

トークショーでは、田中紀子さんがギャンブル依存症当事者としてのエピソードを語った。すると春風亭昇也さんが「僕自身はハマれないと思いました」と返す。
その理由はこうだ。
「一度だけ競艇場に行ったとき、予想するのに過去のレース結果や選手ランクなど詳しいデータの見方を教えてもらって。でも、さらに話を聞くと『(この選手は)最近子供ができたから賞金狙っている』とか、そんな情報まで予想の材料にできないよ!もう無理だ!ってなりました」
しかし同時に「依存症の方はやっていないと酸素がないくらい苦しい気持ちになると聞いたことがある」とも。
田中紀子さんも「そう。だから『なんでやめられないの?』って聞かれるのが一番つらかった。やめたいけどやめられないんですよ」と当時を振り返った。
知ることで「怖い話」から「もっと聞きたい話」になる
笑いの絶えないトークショーだったが、薬物は体質的に一度で依存してしまう人が一定割合いることや、アルコールは日々の生活で受容されているからこそ啓発の難しさがあること、オンラインカジノの危険性などについても真剣に語られた。
「依存症」は人に言いづらい話、間合いの取り方が難しい話題の一つかもしれない。しかし、エンタメ側から知れる世界があり、素朴な疑問や個人のさまざまなエピソードから対話と理解の扉が開いていく。そうなると今度は話が弾み、対話が止まらなくなるのだ。
今回のイベントを、田中紀子さんはこう振り返る。
「新しい世界の人たちと一緒にやるということは、いわゆる『啓発』に当てはまらないこともあると思う。けれど、私たちも啓発の域を抜けて、こういうことにチャレンジしていかないと、一般には広まっていかない」
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「やめられない、こころの噺。」公演は、名古屋(5月5日)、大阪(5月11日)、久留米(6月28日)と全国各地で開催予定だ。
問い合わせ先は、ラルテ(03-6441-3072 / [email protected] )まで。
やめられない、こころの噺。
— ラルテ information(公式) (@lartekouen) March 12, 2025
5/5 名古屋公演
5/11 大阪公演
6/28 久留米公演
よろしくお願い致します pic.twitter.com/Jdppsn5cJR
コメント
依存症について、もっと気軽に話せるようになったらいいな〜
落語を聞くのは初めてなんです。
50才すぎて初めて見ることや聞くことって楽しみです
しばらく笑えてなかったな
心からお腹を抱えて 笑いたい
写真を見ているだけでも、愉快で幸せな気持ちになります。
なんて素敵な笑顔なんだろ。
当日の様子がありありと浮かんでくる記事で、まるで自分がそこにいるかのよう。
5月には地元大阪で開催されるので、前のめりでその日を待っています。
田中さんがおっしゃるとおり、啓発の域を抜け出して、新しい世界の人たちとどんどん繋がっていこう、と背中を押してもらいました!