Addiction Report (アディクションレポート)

【衝撃作】落語「シャブ浜」はなぜ生まれたのか? 〜立川談笑が描く依存症のリアル〜

2025年3月6日、「やめられない、こころの噺。」依存症を考える落語会&トークショー(共催:ラルテ、(公)ギャンブル依存症問題を考える会)渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール(東京都)で開催された。

このイベントで披露された立川談笑さんの創作落語「シャブ浜」について、終演後のトークショーでは、談笑さんがこの作品を創るに至った背景や、取材の過程、さらには師匠・立川談志さんからこの演目を禁じられたエピソードなどを語った。

【衝撃作】落語「シャブ浜」はなぜ生まれたのか? 〜立川談笑が描く依存症のリアル〜
写真:武藤奈緒美

公開日:2025/04/19 02:10

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江戸落語「芝浜」から現代落語「シャブ浜」へ

「芝浜」といえば、酒に溺れた魚屋の亭主が、妻の機転によって人生を立て直すという江戸落語の人情噺。これを大胆にアレンジし、覚醒剤依存をテーマにしたのが立川談笑さんの「シャブ浜」だ。

「芝浜は有名な話ですが、ある時ふと、これは単なる酒好きの話なのか、それとも依存症の話なのか? という疑問が湧いたんです」と談笑さんは語る。

もしも芝浜の亭主が本物の依存症だったら、治療を要する深刻な問題だ。気持ちの弱さだとかとはレベルが違う。

もしそうなら、自分が拾った大金を女房が隠して「夢でも見ていたのでは」と否定したくらいでは簡単に立ち直れないはず。そこに違和感を抱いたことが、この作品の出発点となった。

依存症当事者たちへの徹底した取材から生まれた作品

談笑さんは、実際に覚醒剤を使用していた当事者や、依存症から回復した人々の話を聞き、彼らがどのような経緯で薬物に手を出し、どうやって回復の道を歩んでいるのかを深く掘り下げた。

「ある取材で、元覚醒剤使用者が『俺が一番後悔しているのは、愛する人に薬を教えてしまったこと』と泣いていたのが忘れられません。そのとき感じた自分の想いと彼の後悔を、どうにか落語にできないかと思ったんです」

「シャブ浜」の主人公は薬物依存症の亭主。古典「芝浜」と同じようにある日大金を拾うが、女房に「拾っていない。夢でも見てたんだ。薬物による幻覚だ」と否定される。

「芝浜」では亭主が心を入れ替えて地道に働き始めるが、依存症はそんなに簡単に抜け出せるものではない。そこにリアリティを持たせるため、談笑さんは依存症に関する情報を積極的に収集した。

師匠・立川談志からの禁止令

「シャブ浜」を作った当時、談笑の師匠である立川談志さんはこの演目に対して強く反対したという。

「『芝浜』という名作は、俺を含め、多くの名人たちが大切にしてきた話だ。そんなタイトルに『シャブ』をつけるとはけしからん! 禁演とする!」

師匠の命令は絶対である。

談笑さんは、「シャブ浜」を封印したが、同時に「師匠が『シャブ浜はけしからん!』と怒ってて、もうできないんですよ」とネタにして吹聴した。

そのうち談志師匠の周囲の人たちも「あれはもったいない」「いい話だよ」とフォローしてくれるようになり、さすがの談志師匠も心を動かされたという。

一度は「シャブ浜」を禁止した談志師匠が、ついに「芸人ってのはさ、やりたきゃ隠れてでもやるもんだよな」「やっちゃいけねえって言われたってやるもんだよ」とたびたび禁演の解除をほのめかしてきたのだ。

談笑さんがしらばっくれていると、最後には痺れを切らした談志師匠が「やりたかったらな!シャブでも何でもやりやがれ!」と認めてくれた。

立川談笑さんが落語「シャブ浜」を通じて伝えたいこと

立川談笑さんは、「依存症」という題材をあえて落語というエンターテインメントに落とし込むことで、より多くの人に届くのではないかと考えている。

「笑ってもらいながらも、気づいてほしいんです。自分とは無関係だと思うかもしれないけれど、依存症は誰にでも起こりうる問題で、まだまだ誤解が多いのも現実です。落語を通じて、その怖さと回復の可能性を知ってもらえたら。

『芝浜』は“酒”だが、現代の『シャブ浜』があってもいい。今この時代に伝えるべきテーマだと思う」

立川談笑さんは、これからも「シャブ浜」を演じ続ける。

コメント

7時間前
キャサリン

『芝浜』は“酒”だが、現代の『シャブ浜』があってもいい。今この時代に伝えるべきテーマだと思う」

記事を読んで感涙。

談志師匠との件もクスッと笑えます。

現代社会には薬物(処方薬・市販薬含む)ギャンブル、アルコール、ゲーム等、依存症の問題で苦しんでいる当事者やその家族がいて、その数だけ偏見や誤解によって医療や支援に繋がることができず、回復のチャンスを妨げられている人たちがいる、ということ。

前回記事にもありましたが、依存症界隈に留まらず、落語という新しい世界と繋がることで、より多くの人に興味を持ってもらい、知ってもらうことができます。Addiction Report もその扉の一つを開いてくれたと感謝しています。

談笑師匠のお話は、「誰でも、なる。誰でも、なおる。」を思い起こさせてくれます。

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