Addiction Report (アディクションレポート)

祝!人気連載「『失われた私』を探して」が40回に! 中村うさぎさんにインタビューしました

人気連載、「『失われた私』を探して」、が40回を数えた作家の中村うさぎさん。Addiction Reportのこの連載をどんな思いで書き続けてくださっているのか、インタビューしました。

祝!人気連載「『失われた私』を探して」が40回に! 中村うさぎさんにインタビューしました
中村うさぎさん(撮影・岩永直子)

公開日:2025/12/26 02:05

関連するタグ

作家の中村うさぎさんの連載、「『失われた私』を探して」が40回を数えました。

回を追うごとにファンが増え、新作を公開すると過去の連載も軒並み読まれる人気連載になっています。

イメージカットの撮影のタイミングで、中村さんにこの連載にかける思いをインタビューしました。

読者のリアクションが読めるのが嬉しい

——「『失われた私』を探して」長期連載になっていますが、どう思われていますか?

読者のみなさんのコメントを読んでいると、ありがたいなと本気で思いますね。

「そんなふうに考えると、私も少し楽になります」とか、自分も同じようなことをずっと悩み続けてきたけれど読めてよかったとコメントをいただくと、何か繋がったような気がします。

ネットでの連載なので、こんな風に読者のリアクションが読める。今までは紙の本を出してきて、たまにはお手紙を下さる方はいらっしゃいましたが、それも少ないじゃないですか。それがこちらの連載では、「読んでこう思いました」とか「私もそうだったんです」と書いてきてくれる。それを読むと、読者さんの顔が見えて、それがやっぱり嬉しいなと思いました。

まあきっと、ネガティブなリアクションもあるんだろうけれど。消してくださっているのかもしれないけれど。

——コメントは編集部で確認して公開していますが、中村さんの連載で、ネガティブなコメントがついたことは一度もないです。全然荒れていないですね。

そうなんですね。拍子抜けというか、ネガティブコメントが来なくてびっくりしている感じです。結構みんな、そういうネガティブな書き込みにやられちゃうみたいですからね。

20年以上経って振り返って変わったところとそうでないところ

——買い物やホストや整形への依存はこれまでも書かれたことはあると思うのですが、20年ぐらい経って振り返ると捉え方は変わってくるものですか?

変わっている部分も変わっていない部分もありますよね。買い物やホストについては、あの頃はあの頃で本当に思ったことを書いていたのですが、今ではスタンスが違っているところもあります。もう終わったことですからね。真っ最中と終わった後ではまた違う。当事者だった私が書いたものと、今、20年以上経って振り返って書いているものと、両方かけるのはちょっと嬉しいです。自分自身の変化もわかるし、だいぶ丸くなったと思うんですね。

——なんだか相手にも自分にも優しい視線になっていますよね。

昔は、結構とんがっていたので。今は、人にはそれぞれの事情があるのだから一概には言えないなと思うけれど、昔はそんなことを考えないで書いていましたよね。

わからない他の依存症と、それでも共通する部分

——Addiction Reportは依存症専門のオンラインメディアなので、自分の過去を依存という視点で捉え直していただいていると思います。これまでそういう風に捉えたことはあったのでしょうか?

でも私はだいたい依存症の話しか書いてきていないです。何かを書いていると、「でも私も依存症の時こうだったな」とすぐ思っちゃうので、依存症の私、 という視点からものを見てきたと思います。このメディアだからこういう書き方をしているということはないけれど、これまで他の依存症の人の記事はあまり読んでこなかったんですよね。でも、Addiction Reportでは、ギャンブルやドラッグやアルコールに依存した人が色々出てきますよね。

例えばドラッグは私はマリファナぐらいしか経験がないし、ちょこっと遊んだだけで依存もしなかった。アルコールもそんなに飲めないからアルコールへの依存は私にはわからない。

自分も依存症なので、やめられないから困っているのはわかるんだけど、買い物とかは、日常の延長線上にあって、気がついたらそれが依存になる感じです。ドラッグの場合は、最初から手を出さなきゃいいじゃないかと、つい思ってしまうんですよね。

でもやっぱり、自分がもしその立場だったら「やめられてなくて苦しい」という気持ちは共感できる。薬物の場合は犯罪だから、逮捕されちゃうし、刑務所入っちゃうし、家族にも迷惑をかけちゃう。もっとつらいじゃないですか。

私の場合は、買い物をし過ぎて月末の支払いに困る程度で、それも大変ではありますが、アルコールは人に迷惑かけちゃったり、ドラッグは犯罪だから家族に迷惑をかけたりするなと思うと、なんだかちょっとかわいそうになっちゃうんですよね。やめられなくて苦しいだろうに。迷惑をかけたくてかけてるわけじゃないだろうし。

ギャンブル依存症もそうですが、お金もなくなっちゃうじゃない?それで人に嘘をついてお金を借りたり、それで友達を無くしちゃったり。「生きててごめんなさい」みたいになっちゃう気持ちはわかるんですよ。それに比べると、買い物依存症は楽だったなと思います。体も別に痛めないし、迷惑かけるといったって、たかが知れてるから。

新たについている若い読者たち

——特に最近は、読者に対する呼びかけの言葉がすごく多くなっています。メッセージ性が強くなっていますが、コメントを読んだことで、読者に呼び掛けたり語りかけたりしようと思われたんですか?

そうですね。コメントがあるから「こういう風に考えたらこうなるんじゃない?」みたいに提案する形に変わってきたところはありますよね。

最初は自分の話を「こうでした」と書いていたけれど、コメントがあるから、「そうか、こういうことで苦しんでる人もいるんだな」と気付かされる。「じゃあ今度はこの視点で書いてみようかな」と、コメントからインスパイアされる感じはあります。

——この連載、元々の中村さんのファンだけでなくて、ここで中村さんを知ったという若い読者もついています。作家の朝井リョウさん(36)も若い読者の一人だと思いますが、この連載をあちこちで勧めてくださっているんですよね。そんな若い読者がついていることはどう感じますか?

だいたい私の交友範囲に若い人がいないんですよ。だから若い人が何を考えて、どんなことを悩んでいるのか、全然知らない。普通に子供を産んでいたら、孫が中学生か高校生になっていると思うんです。でもそういう経験をしていないし、若い人と会う機会もない。

だから若い人が私の書いたものを読んで何かを感じてくれるなら、それはそれで嬉しいです。

でもやっぱり世代が違うと、生きてきた時代の背景が違いますよね。私は高度成長期からバブル時代にかけて思春期から20代までだったので、今の人といろんなことが違います。生き方も違うし、価値観も違う。だからそこでギャップがあるんじゃないかと思ってしまう。でも、もしそこに普遍的なものがあり、若い彼らと私の間に通じるものがあるとしたら、それはとても嬉しいなと思います。

若い人に向けて書けと言われたら、私はたぶん何を書いたらいいのかわからない。就職氷河期とか、その後どんどん不景気になっていった日本で育った経験が私にはないから。私の世代ぐらいまでは調子に乗っている感がありましたからね。イケイケドンドン的なさ。

だから下の世代が私の書いたものを読むと、「いやいやそれはあなたはいい時代だったから」と思うんじゃないでしょうか。買い物依存にしてもそうですよね。

若者が何に依存するのか関心がある

——確かに若い人は、買い物にハマれるお金もないかもしれないですね。

私たちは資本主義の申し子みたいな感じでしたからね。やたらシャネルを買っていたし。でも、今の子は「それどころじゃないよ」という感じでしょう?恋愛や仕事に対する野心も少ないし。

だからあの人たちの悩みみたいなものはすごく興味があります。私の世代は「何者かになりたい」という野心があって、自己実現じゃないけれど、何者かになれない自分と格闘するようなところがあった。そのストレスや、自分への絶望感や、周囲とうまくいかないところが、依存症の根っこにあったと思います。

でも今、ポテンシャルが全体的に落ちた若い人たちは、何に依存しているのだろうと思います。

中村うさぎさん(撮影・岩永直子)

——今、若者の間で流行っているのは、圧倒的に市販薬依存なんですよね。

市販薬ってなんですか?

——市販の風邪薬や咳止めを大量に飲んでラリるみたいな感じです。しかも若い女の子が特に多いんです。

トー横キッズみたいな?

——トー横キッズもその一部ですね。

ブロン液(咳止め)なんて昔はやりましたよね。この間、インフルエンザにかかって、咳が止まらなくてブロン液を買ったんですけれども、どれぐらい飲んだら飛ぶのかなと思いました。でも医者の友達に2本も3本も飲まないとダメだよと言われて、ちょっと無理だなと思いました。

——今は錠剤も売っていて、その瓶を飲んでいるのですよね。

そうなんですね。でもそれはつらいですね。背景は違えども、何かしら生きづらさや苦しさがある。私から見たら、今の若い人たちの方が全然生きづらいと思います。だって貧しさってまず生きづらい。なんだかんだ言って私たちの時代は豊かだったから、家出をしたって、急に食べるものに困ったりはしなかった。でも今の若い子は、本当にホームレスすれすれみたいになっているじゃないですか。

——でも家が裕福で家族仲もそれほど悪くない子も市販薬依存になっているんですよね。

何かから逃げたいのでしょうね。

周りにいない依存症の人を取材したい

——これからこんな風な依存症を書いてみたいとか、この連載でやってみたいことはありますか?

私の周りにいない依存症の人に興味がありますね。私の周りだと恋愛依存の人は結構いるのですが、セックス依存とか、風邪薬など市販薬をたくさん飲む人とか、自傷行為をする人にも話を聞いてみたいです。自傷行為もなんらかの依存だと思うのですよね。

私の知り合いにもリストカットしている人はいたけれど、もうみんな大人になっているんですよね。今ではリスカもしなくなっていて、あれほど自滅的な行動をしていた子が何十年も経って落ち着くところに落ち着いているのは不思議ですね。人生ってなんとかなるんだなと思ってしまう。普通に結婚もしていますし。

だから、周りにいないようなタイプの人を取材してみたいなとは思うんですね。興味があるので。DVの加害者にも興味があります。あれは支配欲の依存なんでしょうね。なぜ殴らずにいられないのか、本人もわからないと思うんですよね、そういうのも興味があります。

——中村さんが依存症者を取材する企画を立てても面白いかもしれませんね。

ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子さんの話も面白かったしね。YouTubeでも発信されていますよね。何かしらの依存症を抱えている人の悩み相談に答えるということもやれたらいいなと思います。連載じゃなくて、別の枠でもいいんですけれどもね。

そういう人に色々出会ってみたいなと思います。おかげさまでこの仕事のおかげで私も元気になったしね。

——連載でそう書いてもらえて、編集長として感無量でした。今はYouTubeにもたくさん出演されているし、なんだか風が吹いていますね。回復のいいモデルのような気がします。

本当に世捨て人になっていましたからね。こうやってまた世に出ていくことになるとは思わなかったので、このお仕事をいただけて感謝しています。そうやって外に出ていくと、また興味も広がるし、会ってみたい人とか、聞いてみたい話も増えていくんですね。世捨て人だった時は何も興味がわかなかった。ちょっと鬱っぽかったんでしょうね。世間の隔絶しているから、何にも関心が持てなかったし。

そういう時間が10年近くあって、今またこうしてやっていけるのはありがたいです。

コメント

コメントポリシー

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが確認した上で掲載します。掲載したコメントはAddiction Reportの記事やサービスに転載、利用する場合があります。
コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただいたりする場合もあります。
次のようなコメントは非掲載、または削除します。

  • 記事との関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 特定の企業や団体、商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 事実に反した情報や誤解させる内容を書いている場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合
  • メールアドレス、他サイトへのリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。以上、あらかじめ、ご了承ください。