叩くあなたは君子なのか? 正義で人を叩くのはネット依存の始まり
ネットでの誹謗中傷に悩まされたスマイリーキクチさん。ネットで人を叩く人に伝えたいメッセージとは?
公開日:2024/03/06 02:00
ネット上で事実無根なのに、残虐な殺人事件の犯人に仕立て上げられて、仕事を無くした経験があるタレントのスマイリーキクチさん(52)。
ネットで人を叩くことに依存している人に伝えたいメッセージとは?3回連載の3回目。【編集長・岩永直子】
ずっと疑いの目を向けられて
——薬物で逮捕され、メディアが煽るバッシングの餌食になった芸能界の人たちが償いを終えて復帰した時、メディアが今度はどのように報じるのか注目しています。
悪い人間性のようなものに焦点を当てますよね。1回疑われると、ずっと疑われます。一度でも大麻や覚醒剤を使うと、復帰しても「また使っているんじゃないか」と邪推する人もいるでしょう。
人にずっと疑われて生きるなんてつらいことです。
——そうやってメディアやS N Sで疑いの目を向け続けられると、孤立し、自暴自棄になってまた薬を使うパターンをいくつも取材してきました。欧米だと、回復しようと頑張っている人を称賛する文化があります。なぜ日本はこうなのでしょうね。
やっぱりルールを重視する社会なのでしょうね。ルールを破ると、過剰に批判されます。もしかしたらそこには「私は守っているのに」という嫉妬があるのかもしれません。
「私は昔から、悪いことをしないように我慢しているのに、あなたはルールを破った。そんな人がテレビに出て、いい生活をしている。私はルールを守っているのに、なぜこんなあの人より酷い生活をしなければならないんだ」という嫉妬です。
叩いている人の投稿を見ると、生活感が透けて見えます。それ以前の投稿を見ても、文句や悪口、誹謗中傷、プレゼントがもらえる懸賞のリポストばかりです。つくづくS N Sは心の貧しさを具現化するツールだと思います。
悲しい人たちが、自分たちより弱い立場の人を叩く。昔「一億総いじめっ子時代」と書いたら、抗議がきました。まさにそういう感覚です。
薬物の怖さより、言葉のリンチの方が怖い
——そういう人は、煌びやかな世界にいた沢尻エリカさんやピエール瀧さんが薬物でつまずいたら、胸がすく気持ちになるのでしょうかね。
もちろん足を引っ張ることには理由があって、「相手に非があるのだから何をやってもいいんだ」という言い分もあります。ネットの中はエコーチェンバー(※)で自分と似た価値観を持つ人がいるから、みんながやっていると思って攻撃に拍車がかかる。
※SNSで自分と似た価値観の者同士のコミュニケーションが繰り返され、その思想が強化されていくこと。
リンチしやすい状況をプラットフォームが作っているので、反対の意見を見なくなります。見たとしても「これは論外」と切り捨てていく。
薬物で捕まった人の報道を見ると、メディアはその人の私生活や周りとの関係性をほじくり返しますが、その人がどうやったら回復するかという視点では書きません。
なかなかやめ続けることができないぐらい怖いものだと、薬物そのものの怖さをちゃんと伝えることも必要なのに、薬物の怖さより言葉のリンチの方が怖いです。
ギャンブルやアルコールは寛容なのに、薬物に厳しいのはなぜ?
——薬物に対しては世間の反応は非常に厳しいですが、ギャンブルやお酒に関しては日本は寛容です。芸人の方もオンラインカジノにつながるサービスの宣伝をしていたり、M-1グランプリでも依存症の専門家たちから危険性が指摘されているストロング系チューハイが公式ドリンクになったりしています。
基本的に企業が経営する形のものは全てO Kになっていますね。オンラインカジノも、サッカーチームのスポンサーになっているということを聞いて驚きました。薬物は企業がありません。
お酒に関しても、お酒で口が滑ることは一般的によくあることです。ギャンブルもパチンコや競馬があり、違法・合法関係なく身近な存在になっています。依存する人も身近にいる。だからなんとなく慣れてしまっています。
一方、違法薬物に関しては見慣れていないので、「覚醒剤を使うと凶暴になるんじゃないか」などというイメージがあるような気がします。昭和の時代ですが、パンツいっちょで包丁を振り回して人を刺した深川通り魔殺人の犯人のイメージが僕にも残っています。テレビCMの「人間辞めますか?覚醒剤やめますか?」の印象も強いです。
結局、世間の視線の厳しさは、違法であるか合法であるかなのでしょう。でもオンラインカジノは全部違法なのに寛容です。ギャンブルは合法なものもあるので、なかなか見分けづらい。競馬の番組も地上波で流れていますからね。
僕としては一番凶暴になるのは、ネット依存だと思っています。
ネットで殺害予告が続いた時、警察から「殺されたら捜査してあげるよ」とか「あんたは頭がおかしいんだ」とか「ノイローゼだ」と言われていた時期がありました。
そんな時、覚醒剤で芸能人が逮捕されたニュースを見ると、「なんでネットの名誉毀損や脅迫は捕まえてくれないんだよ」と思っていました。
覚醒剤を使った人は捕まって、僕は捜査してくれない。この差はなんだろうと感じました。
誰でも加害者になり得るのがインターネット
——そのあたりの温度差についてはどう思われますか?アルコールやギャンブルには寛容なのに、薬物は社会的に制裁を与えようという価値観が非常に強いです。でも薬物依存症の人は罰を与えて孤立するとかえってやめられなくなります。叩く人も依存症というスマイリーさんの指摘は非常に重要ですが、そちらの対策にも力を入れるべきですよね。
そうです。ネットの誹謗中傷は特に依存度が高い。人を傷つけるし、正義と暴力は紙一重です。本来、正義は弱い人を守るはずで、誰かを吊し上げるものではありません。それはリンチです。
だけど今はほとんどの人が、人を吊し上げるのが正義だと思っています。
その怖さを著書『突然、僕は殺人犯にされた』で書いたつもりなのですが、拙著を読んだ人達から「中傷されすぎて頭がおかしくなったんじゃないか」と言われました。その時に開成中学の国語の先生だけが、「情報化社会の中では善意のつもりが加害者にもなってしまう」とネットの危険な側面に理解を示してくれました。
それまでもメディアの取材で、「誰でも加害者になり得るのがインターネット」と話していたのですが、「加害者にはなりませんよ」とみなさんが言って、全部カットでした。
そんな時に開成中学の先生は加害者なってしまう危険性をいち早く察知して、情報モラルだと授業日数が少ないので、国語の授業の教材として拙著を採用してくれました。講演もさせてもらい、昨年も拙著を授業で採り入れてくれました。
僕は講演の度に「被害者・加害者にならないために」というサブタイトルをつけてきました。それも自治体の人から何度も「加害者にはならないでしょう」と言われてきました。
能登半島地震では中年の男女が自動販売機を壊したと報道され、「こんな時に!」と当初、ネットで強い批判を受けました。そうしたら後で、避難して大変な思いをしている人が水分を取れないから、みんなに配ったとわかりました。
でもマスコミは、「誰かが壊したんだ。けしからん」と考えて、火事場泥棒のように報じた。社会が求めている情報に見合うネタを探してきて、記事にしたのだと思います。
誰でも弱さがあり、誰でもミスをする 叩くあなたは君子ですか?
覚醒剤も同じです。一度逮捕されると、普段いい人であっても、その人のネガティブな情報だけを集めて、悪者のイメージに当てはまるストーリーを作って報道されてしまう。
——Addiction Reportはそうではない報道を目指したいと思っています。その人がなぜ依存に至ったのか、背景や事情を取材したいのです。
背景は大事です。背景を知ると、自分の世界が広がります。その価値観が自分をパワーアップさせてくれる。
表面的な「悪いことをした」ではなく、なんであの人は薬に手を出したのか、その人の状況を知る。
誰でも弱さがありますし、誰でも人生でミスをします。
それなのにネットでは匿名になった瞬間、なぜか“君子”になってしまう。自分のことは棚に上げて人を叩く。自分だってそんなに人間性が優れているわけでもないのに、他人のミスは許さない。モラルに厳しい人ほどマナーに欠けています。
「つまずいた人らしく」「被害者らしく」を求める世間の目
一度ミスした人は幸せになってはいけないし、犯罪被害者は被害者らしくしてなければいけない。そんなイメージが定着しています。
よく犯罪被害に遭った人と会うのですが、被害者は人前で笑ってはいけない、と苦しんでいる人がいます。
——遺族でもそうですが、派手な服を着て出掛けてはいけない、楽しいことをしてはいけないという世間の圧力を感じるという話をよく聞きます。
そうですね。僕の周りでも犯罪被害に遭った人は、写真を撮るときに、急に悲しい顔をされる。でもお酒を飲みながら話をしているとニコニコしている。笑顔の写真だけを見た人からは「ああ悲しんでいないんじゃん」と思われてしまうんです。
悲しさは消えていないのだけど、紛らわしているところを切り取られる。「私は人前で笑ってはいけないのですかね?」と話されるので、「笑ってもいいんじゃないですか。悲しいことがあったとしても、常に泣いていなければいけないわけじゃないですよ」と伝えました。
そういう世間の目に晒され続けていると、被害者は笑ってはいけないと自分でも思い込んで、笑顔を封印する。笑いたい時は笑っていいし、泣きたい時も泣いていい。被害者なのに感情を殺さなければ生きられない社会。他人の目を気にして生きていくと心が壊れます。
その二次被害、三次被害が続いて苦しくなるわけです。
立ち直った自分をみんなに見せて、握ってくれる手を離さないで
——もうちょっとお互いに寛容になれないですかね。つまずいた人やつらいことがあった人を支えるまでいかなくても、見守るぐらいできないかなと思います。そういう人を応援するメディアになりたいと思っています。
完璧な人なんて世の中にいません。立ち直った自分をみんなに見せてあげることが一番の恩返しです。
一度つまずいた人の中には人を信じられなくなっている人もいるかもしれません。でも人を好きになる気持ちは忘れないでほしい。世の中、一度しくじった人に対して足を引っ張る人もいます。でも手を差し伸べてくれる人間も必ずいる。
その人が自分の手を握ってくれる手だけは離さないようにした方がいい。世の中、優しい人はいます。その人が手をずっと握ってくれるだけで、幸せですよ。
正義で人を叩く入り口に立った時、依存にハマる
——憎しみ依存、ネットで叩くことに依存している人に対してのメッセージもお願いします。
そんな人は、誰一人幸せではないと思います。叩いているからといって、自分の知識やモラルが向上するわけでもありません。なんの役にも立たないことをムキになってやって、それに合わせた生活を続けている。
僕は人生で一度、海で溺れたことがあります。その時、ああ死ぬかもしれないと思った瞬間、走馬灯が流れました。
たぶん叩いている人は死ぬ前に、Xで投稿した画面が走馬灯となって延々と出てくるでしょう。それでいいのでしょうか?人を叩くことよりも、励ますことに力を割いた方がいい。
五十音は、ひらがなで「あい」から始まって、「をん」で終わります。愛のある言葉を発したら、最後に恩が返ってくる。人を叩いたって誰も助けてはくれないので、愛のある言葉を使って、恩が返ってくるような言葉の使い方をしてほしいと思います。
「正しさ」よりも「優しさ」を発信してほしい。正義で人を叩く入り口に立った瞬間、依存にハマります。自分はどの入り口に立っているか。自分の立ち位置を常に振り返ってほしいですね。
(終わり)
【スマイリーキクチ】タレント、一般社団法人「インターネット・ヒューマンライツ協会」代表
1972年、東京都足立区生まれ。1993年、コンビ「ナイトシフト」結成。翌年解散。1999年、根も葉もない噂によってネット上で残虐な殺人事件の犯人に仕立て上げられ、全ての仕事を失う。その時の経験をもとにネット犯罪の恐怖や被害を防ぐ方法について啓発する講演を全国で行なっている。2020年、一般社団法人「インターネット・ヒューマンライツ協会」を立ち上げ、代表に就任。著書に『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房文庫)がある。
【スマイリーキクチさんインタビュー】
- ネットでのバッシングは「憎しみ依存症」 人は「正義感」から人を叩く
- ネットもメディアも「残酷ショー」 つまずいた人をバッシングするS N Sやそれを煽るメディアたち
- 叩くあなたは君子なのか? 正義で人を叩くのはネット依存の始まり
コメント
こういう人々の一番自分のしたことの意味を理解し更生させられる可能性が高い治療方法は、
実際に自分が怒り・恨み・憎しみを突き付けられる側になる事だと思う。
そうでもされて、初めて自分のしてきた事の過ちに気づくと思う。
今日もまた、地震予知観測をなさってる方のXアカウントに嫌がらせ目的か、観測が無意味である、常に地震が起きると言ってるデマ発信機だという趣旨のコミュニティノートが書かれ、恐ろしいことにそれに役に立った評価が役に立たなかった評価を140以上も上回る数字を出していました。
確かにそこのアカウントは観測データを述べていて3.11の際も観測データを出していたのですが誰も聞く耳は持っていなかった。
あなたの観測は役に立っている、役に立たないのはこういう嫌がらせをやっている連中だと例を上げたら、またストーカーアカウントが嘘をつきだし、アイドルのストーカーをしていると捨てアカで嫌がらせされました。
実際、ストーカーなどしていないのに匿名掲示板では統合失調症だと決めつけられ、IPをコロコロ変えて多数派気取ってます。
きっとこの記事の趣旨は届かないでしょう、彼らは自分達こそが正義であり私をなんとしてでも悪人に仕立て上げ加害者にしていきたいのですから。
人様を勝手にストーカー呼ばわり、統合失調症の隠語、糖質呼ばわりしている時点で中傷行為だと気が付かないのだから、彼らにこそ天罰が下って欲しい。
もう自分はネットストーカーによるバッシングや決めつけでこの世の中に生きている場所がないと感じてきています。