ネットもメディアも「残酷ショー」 つまずいた人をバッシングするSNSやそれを煽るメディアたち
つまずいた人をネットで執拗にバッシングする人たちやそれを煽るメディア。スマイリーキクチさんはそれを「残酷ショー」と呼びます。
公開日:2024/03/05 02:01
S N Sで昔起きた残虐な殺人事件の犯人に仕立て上げられた経験を持つ芸人のスマイリーキクチさん(52)。
誹謗中傷をしてくる人たちの中に、実は社会的弱者と言われる人が多く含まれていることに驚いたと言います。
そしてメディアがそれを止めるどころか、バッシングを煽る報道をすることに愕然とします。3回連載の2回目。【編集長・岩永直子】
現実世界での不遇感、劣等感を攻撃で解消
——新型コロナに関しては、正確な情報を発信している医療者を執拗に誹謗中傷することが多発しています。医療者の一部は、「このままでは発信する人がいなくなるから」と訴訟を起こしています。
埼玉県川越市の医療センターの教授もネットの誹謗中傷を受けて訴訟を起こしましたが、特定された人物から「年頃の娘がいて示談金が払えない」と泣きつかれているそうです。罪の意識が軽いのです。
——興味深いのは、スマイリーさんが誹謗中傷されて提訴した相手の4分の1は精神疾患を病んでいる人だったということです。いわゆる社会的弱者ですね。
働いておらず、ニートでした。
——コロナの発信について医師たちを誹謗中傷した人たちもそういう属性の人が多いと聞いています。社会から弾かれて苦しい思いをしている人が、芸能界や医療界で活躍している人を引き摺り落とそうとするのは、どういう心理なのだと思いますか?
幸せそうに見える人に嫉妬したり、自分の価値観と異なる意見は許さなかったりする。根本的にスルーする能力がない。常に、「自分がルール」なのでしょうね。
違う価値観があるのは当然ですが、そういう人は常に「自分が正しい」と思っています。思うだけなら構わないのですが、自分だけの“正しさ”を証明するために、他人を攻撃する。攻撃しないと気が済まない。
心が病んでいるからそうなるのか、そういう行動が病ませてしまうのか。誰かを攻撃していないと、自分の存在が証明できない問題を抱えています。
——現実社会での不遇感がそうさせるのでしょうか?
そうですね。劣等感もあるかもしれません。それをネットで吐き出すことで、解消する。そしてまた、S N Sではそういう人同士がつながってしまうのです。
社会では孤立しているのですが、サイバー空間では同じような価値観の人たちが少数でも大多数に見えてしまう。僕は「砂鉄の原理」と呼んでいるのですが、磁石を砂場に入れたらわずかな砂鉄がくっついてくるように、人間性を疑われることを言う人でもS N S上だと引き合ってしまう。差別する政治家の人が一人でもいれば、その人をカリスマにして「私の代弁者」と祭り上げていく。
ヘイトスピーチをやっている人はまさにそうですね。その構造がわかっていて、政治家はそういう発言をしています。でもその意図をわからないで利用されているユーザーがいます。
憎しみ依存にハマると社会復帰できなくなる
憎しみの依存で感じているのは、最終的に社会で誰とも共存共栄できないということです。ネットだけが居心地の良い場所になると、闇にどっぷり浸かっていくことになる。
同じ価値観を持つのはいいですが、いびつな感覚な人たちと内向きの方向に固まっていくと、社会では認められないので、社会復帰できなくなります。
ネットには情報に洗脳されて心を破壊する危険が潜んでいます。
——薬物依存の人をネットで叩く人は、実はS N Sやネット依存だったり、憎しみ依存だったりするというのはとても興味深い指摘です。どちらも依存の問題なのですね。
そうです。よく少年犯罪が起きると、家族を晒して追い詰めるネットリンチが起きます。あれをやる人たちは「悪い奴に対しては何をやってもいいのだ」と言います。
しかし、そもそも一般の人が罪を犯した人に制裁を加える権利はないのです。嫌なら見なければいいだけです。
それをわざわざ苦情を入れたり、追い回して追い詰めたりする。それは単純に言えば群集心理なのでしょう。
——以前はこれほどひどくなかったのに、今、これほどS N Sでのバッシングが加熱しているのは、格差の広がりとか、ネットの普及などが背景にあるのでしょうかね。
そうだと思います。まず、そういう人は人間関係など何かストレスを抱えています。それで暇で無知な人ほど人を叩く。
検索、検証、経験が精査する力と想像力を育む
スマートフォンを見ていると、世界中の情報をリアルタイムで見ている気になります。それで世界を知った気になる。
でも自分が見ているスマホの世界は、細い筒の穴から見ている世界に過ぎません。だからこそ、情報を見る時は一度筒を外して周りを見ると、視野も広がってもっと色々な世界観が見えてきます。
だから僕は子供達に講演する時はいつも、「検索の後に検証してほしい」と伝えています。
ネット検索はゴールではなくスタートです。検索→検証→経験が、情報を精査する力と想像力を育みます。経験をもとに情報に接していかないと、この情報化社会で溺れてしまいます。
——実体験が大事というのは確かにそうですね。
今は情報が多過ぎて、みんな溺れそうになっています。口をパクパクしている状態だから周りを見ることができない。情報を精査しないまま消費して、ヒートアップして喜んでいるのは、その情報を発信した週刊誌だけだったりします。
これからオールドメディアから、ますますネットに移行が進むでしょう。テレビの場合はスポンサーがいるからダメだった情報も、ネットでは視聴者が有料で見ているから自由に発信できる場合があります。
テレビのスポンサーにクレームが来ると、その人は番組に出られなくなります。僕も事実無根の誹謗中傷を受けていた時は散々クレームが入れられ、仕事にも影響がありました。
事実でなくても、殺害予告で「使いづらいタレントに」
——テレビの人が信じているよと言ってはくれるものの、毎回クレームが来たら使いづらいタレントにされてしまうわけですね。
2014年、NHKの生中継に出る番組告知をしたのです。すぐにブログに殺害予告が来ました。中継場所は子供達もたくさんいる公共の場所だったので、テレビ局の人や警察の人と話し合い、出演は取りやめることになりました。
誹謗中傷事件も収まり、報道もされたのに、こういうことが起きると、二度と生中継の仕事は回してもらえなくなります。また殺害予告があったら、企画自体が無しになってしまいますから。
——今も生中継のお仕事はないのですか?
それ以来ないです。「殺害予告が来たので出演できませんでした」とブログで報告すると、それが記事になって出てしまった。それで二度とそういう仕事は来なくなりました。
——潔白は証明されたのに、まだそんな実害があるのですね。
ありますね。僕は殺害予告や爆破予告が来なかった年がないのです。今もずっと続いています。10年誹謗中傷を受け続けてきたので、その倍は続くのだろうなと思っています。デジタルタトゥーの怖さです。
——警察がなかなか動かなかったですものね。
1999年なんてパソコンも普及していない時代でしたし、ネット犯罪を捜査する刑事さんも見つかりませんでした。2008年に捜査してもらう段階でも、日常生活でネットを利用している刑事さんはほとんどいなかったように感じます。
——捜査する側が技術的に遅れていたから、余計、野放しにされてきたのですね。
そうだと思います。
誹謗中傷が娯楽に
誹謗中傷は娯楽で、ネットリンチが「言葉で人を殺すゲーム」としてみんなが楽しむものになってしまいました。特に相手に非があれば、それこそ違法薬物をやっていた人に対しては、何をやってもいい風潮があります。
しかし、その攻撃によってその人が自殺したら、攻撃していた人はいつだって「誰がここまで追い詰めたんだ」とコロッと態度を変えるでしょう。
——匿名の発信だからですね。
もし特定されているアカウントがあれば、今度はそちらを責め始めます。常に臨戦体制です。結局、そういう人はS N Sは人を叩くツールだと思っている。
でもS N Sは本来、人と交流するツールです。S N Sは世界中に「自分はこういう人間です」と発信する履歴書のようなものですが、別の価値観で使っている人がいます。不思議です。
テレビやネットは「残酷ショー」 ネガティブな感情を煽るメディア
——SNSでそういう価値観の人がヒートアップすることはあるかもしれません。しかし、少なくともメディアは、見識を持って報じてほしいところです。しかし薬物に関しては、メディアは叩きたい放題です。
薬物と不倫に関しては叩きたい放題ですね。
——しかもその人の仕事仲間や友人らから批判のコメントを集めてきて、説教します。
ピラニアに餌を撒くような作業ですよね。
——メディアが歯止めになっていないどころか、発信するプロが一般の人の悪感情を煽っています。それについてはどう思いますか?
それで視聴率が取れるからそうしているのだと思います。メディアの方は正義はいらないし、事実であるかどうかも関係ない。人が面白がるものを提供するだけです。
昔、地方の政治家が不適切なことをしたと報じられ、ネットリンチを受けた結果、命を絶ってしまったことがありました。NHKの番組で何が起きたのか証言できる方々を取材したのですが、その方のお母様は「テレビに殺された」と言っていました。
その言葉はすごく印象に残っています。亡くなったとたん、ヒートアップしていた報道はパッと止みました。もう旨みがないからです。ガムと同じで、味がしなくなったらプッと吐き出してしまう。
大麻や覚醒剤で捕まった人に対しても、みんなが叩きたいだけ叩いて、視聴率が取れなくなったなという段階でプッと捨てます。使い捨てのようです。
僕の事件の時に、新聞社はネットの情報をそのまま記事にしていたので、ネットもメディアも「残酷ショー」に感じました。
それ以来、情報を見る目が変わりました。まず話半分で見るようになりましたし、作り手が何を伝えたくて、読み手にどう思ってもらいたいのか。今は情報提供者の意図を考えながら見るようになっています。
(続く)
▶叩くあなたは君子なのか? 正義で人を叩くのはネット依存の始まり に続く
【スマイリーキクチ】タレント、一般社団法人「インターネット・ヒューマンライツ協会」代表
1972年、東京都足立区生まれ。1993年、コンビ「ナイトシフト」結成。翌年解散。1999年、根も葉もない噂によってネット上で残虐な殺人事件の犯人に仕立て上げられ、全ての仕事を失う。その時の経験をもとにネット犯罪の恐怖や被害を防ぐ方法について啓発する講演を全国で行なっている。2020年、一般社団法人「インターネット・ヒューマンライツ協会」を立ち上げ、代表に就任。著書に『突然、僕は殺人犯にされた』(竹書房文庫)がある。
【スマイリーキクチさんインタビュー】
- ネットでのバッシングは「憎しみ依存症」 人は「正義感」から人を叩く
- ネットもメディアも「残酷ショー」 つまずいた人をバッシングするS N Sやそれを煽るメディアたち
- 叩くあなたは君子なのか? 正義で人を叩くのはネット依存の始まり
コメント
今も匿名掲示板で嫌がらせを受け続けています。
嘘の中傷、ストーカー呼ばわり、それが延々と続きます。
どこへ行っても、何をしても、すべて自分は否定され続け安住の地がなくなりました。
やっと安心して推せるアイドル見つけたなと思っても、興味もないくせにやってきては暴れ回り荒らされ、自分が推してるから荒らされると言われいられなくさせられるの繰り返し。
仲間だって数人で集まり、集団心理で延々とストーカーのようにバッシングし続ける彼らには何もこの記事の意味は届かないでしょう。10年以上もストーカーを続けてる彼ら自身が異常なのを誰かが指摘し、警察が適切に捕まえた上で更生施設に入れさせて一生私と関わらないようにして欲しいと思います。
読んでいて辛くて苦しくてそして怖くなりました
誹謗中傷する人は、その先のことをもっと想像力を働かせて欲しい
そして、受け止める私もきちんと判断しなくてはいけないと実感してしました