Addiction Report (アディクションレポート)

市販薬を使うのはどんな若者? 患者像に迫る(2)

若者に広がる市販薬依存。どんな人生を歩んできた患者たちなのでしょうか?その患者像に迫ります。

市販薬を使うのはどんな若者? 患者像に迫る(2)
沖田恭治さん(撮影・岩永直子)

公開日:2024/09/24 08:19

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若者に広がる市販薬依存。

違法薬物とは様相が違い、医師たちも手探りで患者を診ている。

典型的な患者像はどんな風なのか?

前編に引き続き、国立精神・神経医療研究センターで市販薬を乱用する若者を診ている病院精神診療部医長、沖田恭治さんに話を聞いた。(編集長・岩永直子)

悪いことをしている感覚はない

——市販薬のオーバードーズを繰り返している子は、あまり自分がまずいことをしているという感覚はないようですね。

ないです。

——合法だし、ドラッグストアで買えるし。

そうですね。大麻とは様相が違います。カジュアルに使っている感じがあります。良くも悪くもスティグマ(負のレッテル貼り)感は薄いです。セルフスティグマはほとんどありません。

——私が取材した若い方も、悪いこととは思っていないです。

まあ悪いとも言い切れないのですけれどもね。悪くはないのですが、そのうちネガティブな結果を生みかねないのが問題です。

典型的な患者像

——典型的な市販薬依存の患者像を教えていただけますか?

実際の症例をもとに創作した架空の患者像をご紹介しましょう。

【事例1】20代の女性で、子供の頃の発達歴に特に問題は見られません。弟は ASDと軽度の知的障害があり、彼女が物心ついた頃には両親は弟の子育てに集中していました。中学校の部活動でいじめにあい、友人に教えられたリストカットを始めます。高校卒業後は看護学校に進学。ストレスからSNSで知った咳止めをオーバードーズするようになりました。数錠飲むだけで元気になって学校の課題をやるのに役立ちましたが、だんだん使用量が増えていき、親にバレて、親に連れられて受診した、という患者です。

もう一人は、精神疾患があるタイプです。

【事例2】初診時に、双極性感情障害とも診断しました。依存症の集団精神療法(SMARPP)を試してみましたが、続きませんでした。家庭環境にトラウマはないと判断しましたが、さまざまな心理検査やトラウマの心理療法や入院治療をしばしば希望しています。1年後、主に咳止めを使うようになり、幻覚を見るのを楽しむ目的に変化し、仲間と一緒に使うようになります。2年後には自殺しようと睡眠薬などをオーバードーズし、救急搬送されました。現在は、週2回、通院しています。

沖田恭治さん提供

自傷行為もしている子は半分以上

——典型症例の二人は家庭環境に特段の問題は見られないわけですね。

問題がないですね。どこでもあるような些細な部活のいじめなどで自傷行為を始めています。

——自傷行為もする子は多いのですか?

多いです。全例とは言いませんが、ちょっと線が残るぐらいの軽いリストカットも含めると、市販薬依存でうちの病院にくる患者さんの半分以上は自傷行為をしているかもしれません。女性が多いです。

——日常生活のストレスを解消するための自己治療的な目的ですかね。

そうですね。

——市販薬の不適切な使用も自己治療的な自傷と言えるのでしょうか?

そうですね。最初の例は、うまくいっている人です。リスカをしてもいいことがなかったら、市販薬にも行かなかったのかなと思います。自分で思いついたり、人から教わったりした対処法をやってみて、うまくいった。それで楽になったことを学習している。

そこから、傷が増えるのも嫌だから、市販薬ODを知ってそちらに移った。そんな感じです。

——学生だったらお金をどこから調達しているのでしょう。

お小遣いの範囲でやっている子が多いです。だから見えづらくて怖い。援助交際をして薬代を稼ぐ人もいますが、そんなに多くはありません。月に20万円、市販薬に使って、そのために援交して稼いでいます、ということなら、問題が周りにも見えやすい。

でも案外、そこまで行かないんです。

基準は1瓶。元気になるためから、幻覚を見るためへ進行

——ただ典型症例もそうですが、だんだん量は増えていっていますね。

だんだん耐性がついて、それまでの量では効かなくなってくるからです。

——多い子はどれぐらい飲むのですか?

だいたい基準として1瓶。そこより多いと、「多いな」と思います。1瓶80錠ぐらいです。

——結構、やばいですね。

確かにやばいですね。僕も感覚が麻痺しているところがありますね。ただ1瓶一気に飲むのではなく、1日で10錠ずつ断続的に飲んで1瓶という感じです。

——それを飲むことでどういう状態になるのがいいと先生に話しているのですか?

薬の種類によっても違いますが、元気になることを狙って飲む薬もあります。「元気が出なくて動けないのが、動けるようになる」。そういう言い方をする。別の咳止めでは幻覚を見るのを目的にしています。そして前者の薬から、後者に移行していく人が多いです。

動けなくて家から出られないのが薬を飲んで元気になって外出できた、というのは動機としてわかりやすい。前向きな動機です。でも幻覚を見たくて飲むのは、病理が深い気がします。

最初から幻覚を見るために使う人は、A S Dなどの背景の問題が大きい。毎日がきつくて、薬の力を借りてセルフ解離しようとしています。

——そういうことを目的に飲み始めていたら、症状が重くなっていると考えた方がいいのですね。

そうですね。

——現実逃避のようなものでしょうか?

現実逃避もあるでしょう。でもトラウマの問題はそこにないものです。昔の経験がトラウマを引き出しているにせよ、今はその人のものになっている。逃れられない。そこから少しでも離れるためという意味があると思います。

——親との関係はそう悪くないのですよね。

本人は「親が悪い」と言いますが、客観的に見ると親がひどく冷たいとかそういうことはないことも多いのです。少し変わっているなと感じさせる方はいますが、それを言い出したら誰もどこか変わったところはありますし、虐待がものすごいというわけではありません。

個別で一人ひとりを見ると、親御さんの関わりが良くないことはあります。ただそういう家庭はたくさんあります。その患者さんの意味づけや理屈づけの方の問題もあります。

一つ目の事例も親御さんが弟ばかり面倒を見ているという背景があるにせよ、愛情深いお家です。親の問題や家庭の問題だけではない。

——そうだとすると、その子が元々持っているストレスへの弱さや繊細さが関係しているのでしょうか?

それもあると思います。でも僕が一番大きいと思うのは、市販薬に対するアクセスのしやすさです。

——スマホを持っているとか、個室があるとか?

それもありますが、情報を得てもドラッグストアがこれほどあちこちになければ買えません。田舎でもドラッグストアが10時頃まで開いていますし、ネット通販でも簡単に買えちゃいますから。

O Dのハードル下がると自殺未遂も

——二つ目の例は、自殺未遂まで進んでしまった患者像です。コントロールしているつもりでも、やはりずっと続けていると、量が増えて、こんな危険なことになる可能性も高くなるのですか?

この人も途中まではコントロールできていると思っていたのでしょう。幻覚を目的に使うようになったのも、他の仲間と一緒に楽しむために使っているノリだったと思います。

元々の精神疾患があったことも影響しています。

自殺未遂を起こした時は、職場で問題を抱え、衝動的にやっているんです。

——何か大きなストレスがかかった時に、元々の精神的な脆弱性も後押ししたんですか?

それもあるけれど、それに加えて過量服薬することに対する気持ちのハードルが低くなっているのですね。だからこんなことになってしまいます。

——でもこの人は死のうと思ってやっているのですよね。

そこの判断は難しいです。この人は薬に関する知識がある人で、この量で死ねるとは思っていないだろうなとも感じます。もちろん本人は死ぬ気だったと言います。でも本当に死ぬんだったらもっと確実な方法があるし、市販薬のODなんてしない。よりハードルの低い手段を選んだのだろうと思います。

——他の人に見せるためとか、演技的な意図はどうでしょう?

それもないんですよ。どちらかというと、「これで死のう」というよりも、語弊はありますが、「死ねたらいいのに」ぐらいのイメージかもしれません。これぐらいで死ねるならそれほど苦しくなくていいなと思っている感じです。

——ただ、毎日生きていくしんどさが元々あって、急にストレスがかかると、「死んでもいいか」というレベルになり、ODへの心理的ハードルも低い。うっかり死んじゃう可能性もあるわけで、怖いですね。

はい。怖いです。

——先生が診ている中で亡くなった患者さんもいるのですか?

いらっしゃいます。おそらく意図せず結果として亡くなってしまった人もいますが、そうでなく明らかに死ぬことを目的として亡くなる人の方がほとんどです。

——最初はカジュアルに市販薬を使っている人全てがそうなる可能性はあるわけですね。

市販薬だから、というよりも、市販薬使用自体がメンタルヘルスの問題を抱えていることの一種のサインです。

——それが積み重なって重くなったら、本気の自死があるかもしれませんか?

そうです。あるかもしれません。

(続く)

【沖田恭治(おきた・きょうじ)】国立精神・神経医療研究センター 病院精神診療部医長

2007年、浜松医科大学卒業。千葉大学病院、カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学、千葉県精神科医療センターを経て、2018年1月から2022年9月まで国立精神・神経医療研究センター脳病態統合イメージングセンター室長。2022年10月より現職。2024年1月より岡山大学医学部医学科臨床教授兼務。専門は脳神経画像、物質使用障害。


Addiction Reportでは、なぜ市販薬に頼りながら生きている人がいるのか、取材を続けていきます。楽になるため、しんどさを忘れるため、楽しむためなど、市販薬を使った体験をお話しいただける方、市販薬に依存している人の支援についてお話しいただける方を広く募集しています。ご協力いただける方は、Addction Reportのメール[email protected])かX(https://x.com/addiction_rpt)、岩永のX(https://x.com/nonbeepanda)のDMまでご連絡をお願いします。岩永が必ずお返事します。秘密は守ります。

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コメント

3日前
匿名

体への影響を考えると「体に良くない、悪い」なんでしょうけれど、「悪いとも言い切れない」という言葉が印象的でした。

ただ、背景として、あまりご本人にとってよくないことが起きているように思いました。自死にもつながっているようですし…。危険なサインなのですね。

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