Addiction Report (アディクションレポート)

薬学部生だけど、市販薬のオーバードーズに頼って生きる 発達障害、両親の不仲、複数のしんどさを抱えて

大学の薬学部生として薬剤師になることを目指す愛さんは、実は市販薬のオーバードーズを繰り返しています。「飲み過ぎは良くないともちろん頭ではわかっている」のに、なぜ続けているのでしょうか?

薬学部生だけど、市販薬のオーバードーズに頼って生きる 発達障害、両親の不仲、複数のしんどさを抱えて
「薬学部生としてもちろん薬の飲み過ぎは良くないと頭ではわかっている」と話す愛さん (撮影・岩永直子)

公開日:2025/01/23 02:13

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大学の薬学部で薬剤師を目指して学んでいる愛さん(仮名、20歳)は、用法用量を超えた市販薬を飲んで心を保っている。

ASD(自閉スペクトラム症)やA D H D(注意欠如・多動症)などの発達障害や両親の不仲によるしんどさから、市販薬をオーバードーズするようになった。

Addiction Reportは愛さんに話を聞いた。

周囲の輪に馴染めず、両親は不仲

両親と4つ下の妹がいる家庭で育ち、幼い頃から家族や親戚に「この子は変わった子だね」と言われ続けてきた。友達がみんなで鬼ごっこをしている時に、一人離れて本を読む。一人でものづくりに何時間でも没頭する。

「友達と遊べないわけではないのですが、一人で何かやっているのが好き。特に女子同士でなんでも一緒に行動するようなベタベタした関係性が苦手でした。大人と喋るのも得意で人見知りしないし、子供らしくないとよく言われていました」

両親はずっと仲が悪かった。

「幼い頃から、ずっとギスギスしていて、私は二人の仲を取り持とうとするのですが、空気を読むのが苦手だから失敗し怒られる。4つ下の妹は空気を読むのが得意で場を和ませるのが上手。差を感じて落ち込むことの繰り返しでした」

「小学4年生になったぐらいからは、両親が二人で喋っているのを見たことがないんです。同じ家にいるのに子供に『お父さんに言っておいて』『お母さんに言っておいて』とことづける。私は伝書鳩役です。私がいないと両親は話せない状態でした」

小学校6年生の時に両親の不仲を決定づけることが起きる。母の浮気の証拠を偶然見つけてしまった。

「私は不安になって、お父さんに言ってしまったんです。それを言ったらまずいのだとわからなかった。両親に仲良くなってほしい、お母さんが悪いことをしているならお父さんに言わないとダメだと思ったんです」

だが、母と妹が不在の時に父にそのことを伝えると、父は今までにないぐらい怒り、そのまま家を出てしまった。わんわん泣いているところに、戻ってきた母も浮気がバレたことに気付いたようだった。

父は数日間、帰ってこなかった。あとで聞いたところ、浮気相手のところに乗り込んで行ったらしく、しかもこれが4回目だった。

そんなことは知らなかった愛さんは、父が出ていって機嫌が悪い母を見ながら、自分が家族を壊してしまったという罪悪感に苛まれていた。

父が帰ってきて、母方の祖母も含めて両親で話し合いをした時のことだ。母は愛さんに、「あんたのせいでこんなことになった。お前なんか死ねばいいのに。お前なんか産まなきゃ良かった」と言い放った。

「子供にとっては母親が全てなのに、その母に生きていることを否定された。私は深く傷つき、その頃からリストカットが始まりました。自分はいらない子で、両親も祖母も誰も気にかけてくれない。そんな感覚が深く自分の中に染み込んでしまいました」

コロナ禍での高校入学 パニック障害や過敏性腸症候群を発症

それでも成績は常に上位1割に入り、中学では委員会の委員長や生徒会役員も務めていた。中学まではなんとなく上手く過ごせていたと思う。

再び不安定になり始めたのは、進学校の高校に入ってからだ。

新型コロナウイルスの流行の始まりと高校入学が重なり、入学した翌日から2ヶ月間、登校できなかった。

長く自宅にいることになって困ったのが、やはり両親の不仲だった。家族が揃う時間が長くなり、コロナ禍のストレスも溜まってお互いに当たる。

1年の夏頃から学校が再開し、友達もでき始め、「これで高校生活を楽しめる」と灯りが見えたように感じた。

ところが、そのタイミングでパニック障害や過敏性腸症候群を発症した。

電車に乗っているとしんどさが襲ってきて、動悸が早くなり、息が詰まってくる。教室にいると、お腹が痛くなりトイレに駆け込んでしまう。

「なぜ電車に乗ったり、教室にいたりするとこんなにしんどいのだろうと思っていました。それでも最初はだましだましなんとか通っていました」

追い討ちをかけるように、冬ごろには仲良くしていたクラスの女子に仲間外れにされた。その子がクラスの中心人物だったことから、他の子も自分に話しかけてくれなくなった。

「たぶん私がまた空気を読めていなかったのでしょう。特別嫌なことをしたつもりもないのに、いつの間にか周りから距離を置かれていました。家も居づらいのに、学校でもこうなっちゃったかと。小中の頃は目を背けていたけれど、やっぱり自分はみんなに馴染めないことに直面せざるを得ませんでした」

スクールカウンセラーに相談 精神科受診を勧められる

高校1年の終わりの3月、約1週間、学校に行けなくなった。翌年の授業のためにどうしても必要な用事のため必死に登校した日、「先週、どうしたの?」と養護教諭に声をかけられた。所属していた部活の顧問で、部活も無断で休んだことを心配されたのだ。

「1週間ぐらい休んだ」と答えると、ただ事ではないと気付いたのか、なぜ学校に行けなかったのか話を聞いてくれた。

「初めて自分が抱えていたものを他の人に聞いてもらいました。親がずっと冷戦状態で家庭でも苦しく、友達との関係がうまくいかずに教室でも苦しいことも話すことができました」

リストカットも、高校に入ってからストレスで再開していた。そのことも打ち明けた。

「自分への罰のような気持ちで切ると、安心する。誰にも怒ってもらえないから自分で傷つけなくちゃと思ってしまう。死にたいという気持ちが強くなった時も、切ることで多少落ち着く。そんなことを話しました」

先生から親に話すと言われたが、「親に言われるぐらいなら死ぬ」と返すと、スクールカウンセラーにつないでくれた。

一通り話を聞いてくれたスクールカウンセラーの先生から、「発達障害もありそうだし、家庭環境も影響していそう」と精神科を受診するよう勧められた。養護教諭からも、親に受診させるよう連絡された。

「親に言われるのはすごく嫌でしたが、親に怒られたら、それを理由に死んじゃえばいいやと自暴自棄になっていました。誰かに話せた安心感よりも、話してしまったという不安の方が強かった」

ところが親は「学校も通えているし、家では元気だから大丈夫。サボりたかっただけでしょう」と深刻に捉えてくれなかった。問題は先送りされた。

「その頃は、自分でも精神科を受診したかったのかわからない。助けてほしいとは思っていましたが、誰が助けられるのかわかりませんでした。ちょっと期待はしていたんですよ。保健室の先生が伝えてくれたことで、母は優しくなるんじゃないかって。でも真逆の反応が来たので、ぽっきり心が折れました。もう親には何も知られたくないと思いました」

「世の中にはもっと親に酷い虐待をされている子がいる。こんなちょっとのことで傷ついているなんて、自分が弱過ぎるんじゃないかとも思っていました。今考えるとさっさと受診しろよと思うのですが、精神科ってハードルが高くて、自分のレベルではまだ関係ないだろうと思っていたんです」

精神科クリニックを受診 心の蓋を開く

親の薄い反応を見て、慌てたのは先生たちの方だ。親が連れて行かない限り、高校生に精神科を受診させることはできない。

とりあえずスクールカウンセラーの面談を月1〜2回続けた。2年生の三者面談のタイミングで、養護教諭が親を保健室に呼び、もう一度愛さんが精神科の受診が必要な状態だと話してもらった。

高2の夏休みに精神科のクリニックを初めて受診。知能検査も受け、その年の秋にはA S Dと診断された。自立支援医療の申請書もその場で書かれ、そこには持続性気分障害という診断名も書かれていた。抗不安薬も処方された。

処方された薬を飲んでもそんなに効いている感じはしなかった。一通りの検査を受けた後、カウンセリングも受け始めると、親に酷いことをされてきたこと、自分はしんどさを感じていることをやっと自覚した。

「気付いてはいたのでしょうけれども、認めたくなかったのでしょうね。カウンセリングを受けると、認めざるを得なくなった。あまり親のことを悪く言いたくなかったのに、憎いとか親に対するマイナスの感情が増えるのが辛かったです」

親を憎む自分の気持ちに気付きながら、一緒に暮らさなければいけない。生きづらさは増したように感じた。

「でもその蓋を開かないと、根本的な治療ができないのもわかっていました。見ないように蓋を閉めたままだったら、いまだに生きづらさの原因もわかっていないでしょう。どうしても必要な作業だったのだなと今は思っています」

悪化していく症状

カウンセリングを始めてから症状はひどくなっていった。記憶が飛び飛びになる「解離性障害」も現れ始めた。

「心を掘り返してみると、今まで耐えられていたことに耐えられなくなった。平気ではなくなりました。過去に問題のある人はそういうパターンが多いのかなと思います」

そのうち、記憶が飛んでいる時にリストカットすることもあり、危険が強くなっていった。 休んだり早退したりすることも増え、成績は下がった。

2学期の終わりにはもう一つ所属していた部活での最後の大きなイベントを終えた。不安定な毎日の中で、唯一楽しみにしていたイベントだ。

それが終わって気が抜けた3学期、家で記憶がないまま暴れる解離性の症状があった。主治医は「休学して自宅で療養」を勧めたが、母親は「もう家では面倒を見られない」と言い、主治医に紹介状を書いてもらった精神科病院に1ヶ月入院した。

入院中、自分の告げ口で両親の不仲が決定的になった小学校6年生の頃に子供返りもした。退院後、母の浮気を父にばらした時に、「死ねばいい」と言われたことに深く傷ついてきたと両親に伝えた。母は「勢いで言ってしまった。本心ではない」と言ってくれたが、気持ちは収まらなかった。

眠れなくなって精神科クリニックで睡眠薬を処方された。その頃、Xの病み垢で薬をたくさん飲むと意識を飛ばせるという情報を得て、睡眠薬を10錠程度飲むようになった。オーバードーズの始まりだった。

大学薬学部に進み、市販薬のオーバードーズを始める

高校3年になり、幼い頃からお世話になってきた薬剤師への憧れから、薬学部に志望を定めた。推薦入試で受けることができる大学を担任が探してくれて、秋には早々と受かった。

2023年4月に大学に入学し、通学の電車や教室は相変わらず苦しかったが、前期はかろうじて通い続けた。しかし、6月頃になるとしんどくてたまらなくなった。

オーバードーズを何度も繰り返していたので、高校3年の終わり頃からクリニックの主治医は睡眠薬を処方してくれなくなっていた。眠れないけれど、頑張って起きて、頑張って授業を受ける。

「でも夜起きていると嫌なことしか思い浮かばない。とにかく寝たいし、忘れたいし、記憶を飛ばしたい。追い詰められていきました」

その時、Xの病み垢でたどり着いたのが、市販薬のオーバードーズだった。アルバイトで稼いだ金で買った鎮痛薬の1日の用量をいっぺんに飲んだ。頭がふわふわして眠気が強くなり、やっと眠ることができた。

「1日の用量なので、それほど体に負担はかからないだろうと計算していました。

一応薬の勉強をしているし、単純に臆病でもあるのでそこは慎重です。使っているうちに効果を感じにくくなり、どんどん量が増えていくのをSNS情報で知っていて、恐怖心がありました。だから、私はどうしてもきつい時だけ通常の数倍の量を飲む。量も頻度も抑えながら、オーバードーズをしていました」

(続く)

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なぜ市販薬をオーバードーズするのか?

コメント

7日前
ゆきねっと

薬局勤務の薬剤師です。女子学生のODに日々心を痛めております。まして薬学部生だとは。薬剤師になるには大学で6年間学ぶ必要があるため、まだ過酷な毎日が続くはずです。大学によっては女子学生の比率が高いので、辛いことがあるかもしれません。でも生き延びて、生き延びて薬剤師になってほしいと思います。人よりも多くの痛みを知る彼女は、優しく素敵な薬剤師になれるはずです。彼女が社会に出る頃私は定年退職しており、同じ職場で出会うことはないでしょう。それでも悩めるODガールたちを支援していけるよう、松本先生の教えを吸収しています。とにかく生き延びてください。お願いです。

7日前
キャサリン

「世の中にはもっと親に酷い虐待をされている子がいる。こんなちょっとのことで傷ついているなんて、自分が弱過ぎるんじゃないかとも思っていました。」

この言葉が胸に刺さる。

どんなことに傷つき、どんなことに悩み、どんな痛みを感じているのかは人それぞれで比べることなんかできないのに、世の中には、もっと貧しい人がいる、もっと苦しい人がいる、もっと深刻な問題を抱える人がいる、とそれぞれの困難を言えなくしている社会。

私もその社会の一員なのでは、と改めて問われた記事。

7日前
匿名

つらいことがあったんですね…。「どうしてもきついとき」の大変さが伝わってきました。

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