Addiction Report (アディクションレポート)

3年やめていても囁く悪魔「ちょっと休憩しませんか?」 田代まさしさんが語る薬物の本当の怖さ

シャネルズ、ラッツ&スターのメンバーやコメディアンとして人気を博しながら、覚醒剤などで逮捕されることを繰り返してきた田代まさしさん。なぜ違法薬物を使ってしまうのか、やめ続けるためには何が必要なのか聞きました。

3年やめていても囁く悪魔「ちょっと休憩しませんか?」 田代まさしさんが語る薬物の本当の怖さ
最近、徐々に音楽活動も始めている田代まさしさん(撮影:後藤勝)

公開日:2024/02/03 00:00

シャネルズ、ラッツ&スターのメンバーやコメディアンとして人気を博しながら、覚醒剤などの違法薬物で逮捕されることを繰り返してきた田代まさしさん(67)。

2022年10月に3度目の服役を終えてから薬物依存症の回復支援施設「ダルク」に通い続け、今は徐々に歌手や依存症の当事者として体験を語る活動を始めている。

なぜ違法薬物を使ってしまうのか。そして止め続けるためには何が必要なのか。

Addiction Reportは田代さんにお話を聞いた。(編集長・岩永直子)

徐々に増やし始めている音楽活動

——2022年10月に出所されて、どういう生活を送っていらっしゃるのですか?ライブの仕事も少しずつ増えているようですね。

増えています。保護観察が2年ついて、最初のうちは週1回保護観察所に通い、週1回尿検査もしていたので、仕事は全くできていませんでした。今は月1回になったので、少しずつ再開しています。

——今はどんなスケジュールで動いているのですか?

週1回、ダルクに通って、プログラムとミーティングに参加します。そのほかに月1回、出所後の追跡調査のようなものに参加しています。刑務所を出た人に最近の生活はどうか、どう回復していっているか、電話で聞かれる調査です。

——ステージは、依頼があった時に単発でやっているのですか?

最初のうちは保護観察所の方から、「芸能活動のようなことはまだ控えてほしい」と言われていました。「こちらからはダメです、という権利はないですが、マーシーさんが傷つくことがあってはならないという考えからお願いしています」と言われました。

それで自分の名前を冠にしてライブをやるのは控えていましたが、最近はだいぶん元気になってきたし、いまだにシャネルズ時代の歌を歌うことで喜んでくれるお客さんがいます。

そんな姿を見ることが自分の回復にもつながる。それで少しずつ仕事を増やしているのが現状です。

再使用の落とし穴 客から薬物を渡されたことも

——「マーシーさんが傷つくことがあってはならないから」というのはどういう意味なのでしょう?

例えば知り合いの社長さんのパーティーで歌うなら誰が来ているかがはっきりしている。しかし、普通のライブだと誰が来るかわからない。

実際の体験談ですが、以前、ライブに来ていたファンに薬物を手渡しされたことがありました。「お気持ちお察しします」と手を握ってきて、「なんだこれ?」と思ったら薬物でした。

芸能の仕事を始めるとそういう機会が増え、止めようとしている僕が足を引っ張られて傷つくことは好ましくない、という意味だと思います。

3年やめていても 悪魔の囁き「ちょっと休憩しましょうか」

——お客さんに手渡しされた時に、その薬物はどうしたんですか?

捨てようと思ったのだけれども、この肩にね、天使と悪魔が出てきてね(苦笑)。ちょうど3年ぐらい止めていた時でした。その悪魔が「3年間、よく頑張りましたね。ちょっと休憩しましょうか?」と囁くんです。

——それもそうかなと思っちゃったんですか?

ついね、「じゃあ、1回ぐらいなら」と思ったのですね。

「やめてしばらく経った頃に悪魔が囁いてくる」と話す田代まさしさん(撮影・後藤勝)
「やめてしばらく経った頃に悪魔が囁いてくる」と話す田代まさしさん(撮影・後藤勝)

——3年間止めていてもそう思ってしまうのですね。

それが薬物依存症の奥深さです。自分にいいように解釈しているのは自分でもわかっています。依存症の人は「3年間頑張ったのだから、神様がご褒美で1回ぐらい休憩しなさいとおっしゃっているんだな」と自分に都合のいいように解釈してしまうのです。

——それは前の逮捕の時ですか?

1つ前の府中刑務所に入った時です。「3年止めていても」と言いますが、ダルクでは「3年ぐらい経ったら気をつけましょう」と教えられます。それぐらい経つと安心して油断してしまうから。「安心してはダメですよ。それぐらいからが大切です」と言われます。

出所して最初のうちは刑務所なんてもう嫌だし、気をつけるのは当たり前だから気をつける。でも、3年も経つと刑務所の記憶も薄れて、「もう3年経ったのだから大丈夫だろう」という気持ちが芽生えてくる。悪魔が出てくるのです。

きっかけは「面白いことを言い続けなければ」というプレッシャー

——使い始めの頃のお話を聞かせてください。お笑いを始めて面白いことを言い続けなければいけないというプレッシャーがあったそうですね。かなり追い詰められていたのですか?

毎日、何本も違う番組の収録が続いて、毎回面白いことを言わなければならない。しかもそれができて当たり前だと思われている。外にはそういうプレッシャーを感じているようには見せないようにしていたんです。平気でやっていると周りに思わせることはできました。

ギャグを言い続けることに悩んでいる姿を周りに見せるのもプロではないと思っていたのです。一流の人はみんなそうじゃないですか。

あの志村けんさんでさえ、「夜考えたギャグを次の日の朝見て、『本当にこれは面白いんだろうか?』って、いつも思い悩む」とおっしゃっていたから、みんな面白いものを生み出すために悩む。簡単にできちゃう人もいるのでしょうが、僕はできないタイプでした。

——結構、真面目ですよね。人を笑わせるために思い悩むなんて。

何度も罪を犯してしまった僕が言うのもなんなのですけれども、真面目なんですよ。真面目じゃないと捉えられがちなのですが、仕事に関しては真面目。ちゃんとやりたいという思いがあります。適当ができない。

——ところが、その悩みをちょっと舞台裏で見せちゃった時に、アシスタントディレクターが寄ってきて、薬物を勧めたのですね。

「最近、元気ないですね」って、覚せい剤を教えてくれました。

薬が与えてくれた「面白いことを思いついた!」という錯覚

——芸能界で活躍する前、トラック運転手の仕事をしていた時に一度試したらなんとも思わなかったとご著書に書かれています。

その時はあまり良くなくて「こんなものか」と思ってすぐに止められました。でも、そのテレビの人がくれたものは全然違って、「ああこんなにいいものなのか」と思ってしまったのです。

「お笑いでのプレッシャーで使い始めた」と語る田代まさしさん(撮影・後藤勝)
「お笑いでのプレッシャーで使い始めた」と語る田代まさしさん(撮影・後藤勝)

——アイディアも色々思い浮かんだりしたのですか?

今、思うとそんな大したことではないのです。「男と女のラブゲーム」の替え歌で、「飲み過ぎたのは〜あなたの精子〜♪」と歌ったりとかね。今思うとつまらないよね(苦笑)。

でも思い悩んでいた時には、「すごい面白いこと思いついた!」という感覚なんです。「すげえ、この薬。なんでもっと早く使わなかったんだろう」と思うぐらい強烈でした。

——ご飯を食べた時やセックスの時の快感と比べるとものすごい強さだと表現されていますね。

以前、お寺で講演をした時、あるお坊さんから「『病なのだから仕方ない』とおっしゃっていましたが、病は自らかかりたくない、健康でいたい、かからないために治療したいと思うものです。でもあなたたちは自ら病にかかりましたよね」と言われたことがあります。

僕は「おっしゃる通りです。法律で禁じられているとわかっていましたが、それでも私は使ってしまいました。そういう意味で私は自ら病になったのかもしれませんが、誰一人として最初に使う時にこんなに止められないとは思わない。ダルクにいる全員がそう答えると思いますよ」と答えました。

「1回使ってみてください。必ずやめられなくなるから」

——最初に使った時の感覚をなかなか表現できず、すごい言葉を編み出されましたね。

だって、脳内でドーパミンが大量に分泌されると言われても、そんなもの見たことがない。「強い意志」というのも、どんな大きさで何色をしているのか見たことがない。説得力に欠けるわけです。自分は見たものしか信用できませんから。

薬物の怖さについて語る田代まさしさん(撮影・後藤勝)
薬物の怖さについて語る田代まさしさん(撮影・後藤勝)

じゃあ自分でもしっくりする表現は何かなと考えた時に「1回使ってみてください」というのが一番自分らしいなと思ったのです。

「でも勧めているわけではありませんよ。使ったら俺みたいになるんですよ、反面教師ですよ」ということまでセットで伝える。

薬物を研究する科学者の人たちや医師たちは、使ったことがありません。科学的に説明することはできるけど、その人たちは使ったことがないから説得力がない。心に残らない。

でも一回使ってみたら「ああこれじゃマーシーもやめられないわ」となるはずです。100%そうなります。だから最初に使おうとしている時に、僕の言葉を思い出してもらえたら嬉しいなと思う。僕は経験者だから説得力がある。

この先僕はやめ続けられるか、使うのかはわかりませんが、今、メッセージを届ける時はこういう風に言っています。

「この先は僕もわかりませんよ。明日はやめ続けていられるかわからない。薬物依存ってそういうものです。でも最初に手を出すときに『ああそういえばマーシーが言ってたな。こんなにやめられなくなるものだって』と思い出してくれたら、手を出さずに済むかもしれない」

「なんで最初に使ったんですか?」とよく聞かれます。

そんな時は、「『赤信号を渡ってはいけません』と小さい頃から教育されていても、たまたま急いでいて、お巡りさんも見ていなくて、車も見ていなかったら『1回ぐらいならいいかな』と思いませんか?それぐらいの気持ちで僕は始めました。皆さんもそういう経験はないですか?」と言っています。

そんな程度で始めてしまうのです。軽い気持ちで、1回程度ならと思って。でもやめられなくなるのです。

「ダメ。ゼッタイ。」と言われても

——その講演をなさった時に「ダメ。ゼッタイ。」というポスターが会場に貼ってあったとおっしゃっていました。でも田代さんはダメと言われたら余計やりたくなる性分で、そういう人には効果がないとおっしゃっていましたね。

そのキャッチコピー、刑務所にも貼ってあるんですよ。「いやいや、それがわかっていてここに来ているんですよ」と薬物で刑務所にいる奴らはみんな思う。「まだそれ言います?」って全員ツッコミ入れている。

わかっていて手を出したのだし、いまさら「ダメ。ゼッタイ。」って言われても。わかっていてもやめられないのが薬物なんですよ。

仕事のための薬が、薬のための仕事に

——使い始めた時は仕事のアイディアのためと思っていたけれど、そのうち薬のために仕事をするようになったと書かれています。

逆転現象が起きるんです。仕事をするために薬を使い始めて、薬を買うために仕事をするようになって、そのうち仕事はどうでもいいやって、薬中心の生活になる。

——スリップ(再使用)した時は、寂しさに負けてということもおっしゃられています。薬の問題で別居していた前の奥様と会いたくても会えなかった時に使ってしまったのですね。

最後にもう一度やり直したいなと思った時に、元妻が来てくれなかったのがすごくショックでした。「一緒に乗り越えてくれないんだ」と思ったら、「もういいや」と思ってしまった。

依存症ってそういう心の隙間に入り込んでくるのですね。寂しさとか、孤独。一人でいる孤独もあるのですが、社会からはじかれているという孤独もあって、そういう時が一番やばい時です。

逮捕後、自殺を考えたことも

——自殺をしようと追い込まれた時もあったそうですね。

それは捕まった最初の頃です。「もう終わった」と思ったのです。あんな華やかな芸能界にいて、ある程度の地位も築いていたのに、大々的にニュースになって「ああ俺の人生、もう終わった」と思ったわけです。色々な人を悲しませ、子供たちもつらい目に遭わせた。

これからどうすればいいんだろうと、どんどん落ち込んでいった。その時、死ねばみんな「もう死んだのだから」と思ってくれるかなという気持ちが湧いてきた。もう死ぬしかないやと思った時に、僕より若い年齢で亡くなった母親が夢の中に日傘を差して笑顔で出てきた。その笑顔を見ると「もう少し生きてみよう」と思った。

今は、死ぬ気持ちがあればなんでもできるし、死ぬのが一番大変なことだと思えるようになりましたが、その時は全世界が敵だと思っていたから。仕事もなくなり、今まで培ったものも家族も全て失い、ファンもなくし、リーダー鈴木雅之の信用もなくし、あんな素晴らしいグループにそれに泥を塗ってしまった。

全部が八方塞がりになって死にたくなった。刑務所にいたから、それで済みましたけれども、社会にいてそんな気持ちになったらまた薬に向かっちゃうんですよ。救いがなくなるから。

また、偽りなんですが、薬が一時的な幸せをくれるんですよ。後から思うと、それは偽りの幸せだと分かるのですが、うった瞬間はああ幸せだなと錯覚を覚えるのです。

田代まさしさん(撮影・後藤勝)
撮影・後藤勝

▶「笑いで紛らわせてきた子供時代の寂しさ 「自分で解決する癖」が裏目に」に続く

【田代まさし(たしろ・まさし)】歌手、タレント

1980年、鈴木雅之さんとシャネルズとしてデビュー。デビューシングル「ランナウェイ」がいきなりのミリオンセラーを記録して以降、数々のヒット曲に恵まれる。その後、志村けんさんにギャグセンスを認められ、お笑いにも進出。「バカ殿様」や「志村けんのだいじょうぶだぁ」などでお茶の間の人気を不動のものとするが、2001年から覚醒剤などの使用の罪により3度の刑務所服役生活を余儀なくされる。2022年10月福島刑務所を出所後は、保護観察所と日本ダルクに定期的に通いながら、依存症で苦しむ仲間たちの為に、ライブ、You Tube、講演など、精力的な活動を続けている。


【田代まさしさんインタビューシリーズ】

  1. 3年やめていても囁く悪魔「ちょっと休憩しませんか?」 田代まさしさんが語る薬物の本当の怖さ
  2. 笑いで紛らわせてきた子供時代の寂しさ 「自分で解決する癖」が裏目に
  3. 「本当に反省しているんですか?」 世間の疑いの目、足を引っ張るメディアやSNSに晒され続けること
  4. 目指すのは「今日一日」やめること 回復に役立つのはつらい刑務所暮らしではない

コメント

3ヶ月前
匿名

すごく正直にお話されていて、それが伝わってくる素敵な文章でした。

田代さんがライターさんを信用している、ちゃんと書いてもらえるだろうと感じてお話されているんじゃないかなと。

Addiction Report、今後も期待!

3ヶ月前
ちこ

アルコール依存症で悩んでいます。この記事を貼り出して毎日見ようと思います。悩みつづけてきた方の言葉には説得力があります。ありがとうございました。

3ヶ月前
なほこ

すごくおもしろい!!

マーシーさんが、こんなに赤裸々に語っているの初めて読みました。

子どもの頃、「バカ殿」も「だいじょぶだぁ」も好きだった。

いつも隣に田代さんのことも大好きだった。報道では、ひどい人のように伝わってずっと悲しかったけど、自分をさらけ出し、回復に真剣に向き合う姿は、あの頃の田代さんと変わらないカッコいい田代さんだった!!すごく嬉しい🤭

続き楽しみです!!

3ヶ月前
匿名

正直にお話して下さりありがとうございます。

マーシーさんの回復を応援しております。

私も今日一日!

3ヶ月前
poo

才能があるのに、自身がそれに気づいてないようでもったいない。それに気づけばそれを磨こうとする気持ちを快楽にできるのに…

3ヶ月前
ぴこ

マーシーさん、語ってくれてありがとうございます。回復、応援してます。Eテレのバリバラにもまた出ていていただけたらうれしいです〜

写真、かっこいい!

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