「まずは病気であることを知ることが大事」 ギャンブル依存症対策に先駆的に取り組む組織が集まってシンポジウムを開催
企業向けのギャンブル依存症の啓発イベント「ギャンブル依存症から社員を守ろう」が開かれ、先駆的な取り組みをしている企業の担当者が、自身の経験を分かち合いました。ギャンブル依存症から上司の支えで復帰し、今では社員に向けた依存症研修を担当している社員も登壇し「社内で理解をしていただけたのがすごく大きかった」と企業が知識を持つことの重要性を訴えました。

公開日:2025/12/19 07:56
企業の人事担当者向けに12月5日に開かれた啓発イベント「ギャンブル依存症から社員を守ろう」(ギャンブル依存症問題を考える会主催)」。
講演後のシンポジウムでは、ギャンブル依存症対策に先駆的に取り組む組織の人事担当者らが登壇。どのような方法で人材と組織の両方を守ろうとしているのか、経験談を分かち合った。
防衛省 講演を聞いて事務次官もすぐさま対応
登壇したのは、防衛省人事教育局衛生官付2等空佐で、精神科医の丸田眞由子さん、JA福岡市総務部人事課長、清田裕樹さん、株式会社ウィルオブ・ワーク セールスアシスト事業部セールスソリューション営業部長、磯江怜さん、同社マネージャーでギャンブル依存症の当事者でもある宇都宮駿さん。
進行役を務めたギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんはまず、「今でも『うちにそういう問題はありませんとおっしゃる企業があるが、1.7%の人たちがギャンブル依存症になっており、男性だけで見ると2.8%。いないわけがない。大きい企業になれば絶対いる。なので、そういうことを今の時代に言い切っている方が、むしろすごくリスクが高いと思う。当然起きる問題だからこそ、早期発見、早期介入に力を尽くす社内風土になっていくことを願う」と挨拶。ギャンブル依存症は、どの企業にも関係する問題であることを強調した。
続いて、それぞれが対策に取り組むようになったきっかけを披露した。
防衛省では、ギャンブルで借金を抱えて闇バイトに手を出した元自衛官などの事件がいくつかあり、もともと上層部のギャンブル依存症に対する意識は高かったという。そこに田中さんが講演に行ったことで、対策に取り組む機運が高まった。

丸田さんは、次のように、講演が対策を始めるきっかけになったことを明かした。
「田中さんはどんなことが逆効果かなどを話してくださって、組織内で抱え込み過ぎてしまうのはいけないと話してくれました、自衛隊は良くも悪くも家族的で、上司が部下の若い人を子供のように面倒をみる。患者の上司が『お金の管理をした方がいいんじゃないか』と私に相談しにきて、私も専門でないので『それはいいんじゃないですか』と対応していたのを、それは逆効果だと教えていただいて目覚めたところがある。上層部にも本当に反響が大きくて、こういうのが間違った対応なんだと勉強になったんです」
田中さんは「自衛官という使命を持つ職業を志した若者たちがギャンブルで潰れていくのを現場で見ていて、すごく残念でした。すごいなと思ったのは、これだけ大きな国の組織でありながら、事務次官が研修に参加してくださって、すごく理解をしていただいた。私たちの会や家族会について、『困っている人はここに相談しろ』とすぐに通達も出してくださり、そのスピード感は、何か非常時があった時にすぐに対応できる団体なんだなと思いました」と迅速な対応を賞賛した。
JA福岡市では今年4月、職員による約6000万円の横領事件が発覚した。その職員に聞き取りをしたところ、競艇に使ったと告白。最初は自分の金で賭けていたのが、友人や消費者金融へも借金するようになり、最終的には組織や組合員の金にも手を出すようになった。

「(調査を)担当している職員は、当該職員の辛い思いがわかって、話を聞いていて泣くんです。でもその上のレベルの人は『何やってくれたんだ、こいつは!』という感じでギャップがある。その中でギャンブル依存症家族の会の理事に講演してもらい、これは病気だったんだと初めて理解した。その後、その事件をきっかけに我々の管理職を全部集めて、全体で研修を行いました」と清田さんは振り返る。
本人はその後、家族会やギャンブル依存症問題を考える会への相談の上、回復施設に入る手続きを取ったという。
ギャンブル依存症で1年半休職 上司は復帰を支援
株式会社ウィルオブ・ワークの宇都宮さんと磯江さんは、ギャンブル依存症で一時仕事ができなくなった部下と、その復帰を支えた上司の関係だ。

法人営業部門の磯江さんは、社内の重要プロジェクトに共に取り組む部下として宇都宮さんと働いていた。ところが3ヶ月ぐらい経った頃に宇都宮さんが休むようになり、別部門で働く宇都宮さんの妻が「出社できない」と連絡してきた。うつ病という診断書も送られてきて、休職を受け入れていた。

休職期間の延長を経て、1年半経った頃、復帰の面談をし、そこで「実は自分はギャンブル依存症なんです」と告白された。
「実は家族と離れて1年以上、依存症の回復施設に入っていて、外部とのコミュニケーションを取らない環境を作らないとならず、連絡が取れなかった」と彼は説明したという。
磯江さんは「合点がいきつつも、ギャンブル依存症という言葉や、そんな病気があることを全く知らなかった。その場で検索しました。いわゆる横領とか会社に何か害をなすようなことをやったわけではないし、僕のことを信頼していたし、じゃあもう1回頑張ってみるかということになりました。元々、役もついていたんですけれども、1プレイヤーから再びやるということで、非常に頑張ってくれた。いよいよこの間、マネージャーにまで昇格したところまで来ています」と復帰を後押しした流れを語った。
宇都宮さんはその後、社員や派遣社員に対し、ギャンブル依存症の研修を行っている。

宇都宮さんは、最初に磯江さんにギャンブル依存症であることを打ち明ける時、不安が強かったと振り返る。
「ギャンブル依存症と言うと復帰できなくなっちゃうんじゃないかと思ったり、社内での人間関係が悪くなっちゃうんじゃないかと思ったり。復帰後のことを考えれば考えるほど、言わない方がいいんじゃないかという不安がついて回りました。ただ、完治はないし、職場に復帰した後も向き合い続けなければいけないと考えた時に、職場にもしっかり理解してもらっておくべきだと思って打ち明けたんです」
その時の磯江さんの反応が意外だった。
「すごい印象的だったのが、『そんな病気あるの?ちょっと調べてみるわ』って言ってくれたことです。ないがしろにされなかったことで、すごく安心しました。偏見がすごいあると思い込んでたので、社内で理解をしていただけたのがすごく大きかった。その後、僕自身が社内でできることがないか模索していた時に、社内で依存症の研修することを後押ししてくれたきっかけでもありました」
当事者が研修をする効果
宇都宮さんはそれまで、ギャンブル依存症であることをオープンにして社会復帰する仲間を見たことがなかった。でも自身の経験を仲間に伝えると、少しずつ職場に告白する仲間は増えていった。
当事者が依存症の研修をすることについて、防衛省の丸田さんは「すごく説得力がある」と話す。
「依存症の人は誰もわかってくれないんじゃないかという思いがある。自助グループがお酒でも薬物でも依存症に有効に機能するのは、同じことを経験した人たちの中で話せる、つまり『わかってもらえない』のハードルが下がっている状態だからだということがある。なので、当事者が研修をやってくださる効果は、依存症においては上がるのではないか」
磯江さんも「カミングアウトしてくれた時に、めちゃくちゃびっくりしました。宇都宮がギャンブルをするというイメージが全くないから。でもその後研修をしてくれた時に、こんな人がなりますよとか、こんな経験ありませんか?とか、こんな風に思ったりしませんか?と問いかけられた時に、ほぼみんな当てはまるんじゃないかなと思うぐらい、誰でも可能性があるんだなということを知りました。ぜひ研修を受けてほしいぐらいです」と語る。
宇都宮さん自身は、会社や社員を守るためにやっていた研修で、意外に多かったのが依存症者の家族の反応だったことに驚いた。
「『うちの旦那もそうかもしれない』とか、『自分の息子もゲームに依存している』とか。研修ではギャンブルに特化せずに、いろんな依存に触るようにしているのですが、家族や周りに依存が潜んでいるんだと結構気づいてくれて、『どうすればいいのですか?』という相談を個別に後からしてきます。一つの研修でいろいろなところに広がるなと感じました」
企業がまず知りたいのは「依存症は病気だということ」
最後に企業が研修などで知りたいポイントについて、登壇者それぞれが語った。
防衛省の丸田さんは「病気だとわかることが最初に必要だし、それが一番大きく必要なこと」と話す。
4月に田中紀子代表が行った講演で、反響が大きかったのが、依存症は糖尿病などと一緒だと例えた表現だった。
「みんな研修を受ける前は、『なんだかんだ言っても本人のやる気の問題でしょ』と心の片隅で思っている。そこに、これは糖尿病と同じ病気なんです、ということがバンと入ってくる。それでやっと講演内容が入る頭ができるところがある。もう一つは、具体的にどうすればいいのかをしっかり話してもらえるといい。例えば、こういう風に繋げる。こういう風に声をかけようというのが具体的にあるといいなと思います」
JA福岡市の清田さんは、「依存症だと自覚しておらず、人には迷惑をかけていない段階で、知識を伝えることが必要」と語る。
福岡は公営ギャンブルが多く、誰でも気軽にギャンブルを始められる環境が整ってしまっているという。
「不祥事防止ではなくて、もっと低い段階で、研修を受けている職員に刺さるように、働きかけを随時続けていくことが大事じゃないか」
部下の復帰を支えた磯江さんも「病気だと言われて、それが一番刺さった。自堕落が引き起こしていることではなく、症状であると理解したことから、彼が再度活躍できる場所を作るのが自分の責務だと感じるようになりました」と言う。
「人的資本経営はめちゃくちゃ意識してますし、本当に人は宝だと思っていますので、切り捨てるような判断にしたくない。そういうことにならないために、我が社の全社員が活躍するための正しい理解を身につけることがすごく大事なんじゃないかなと考えている」
田中さんによると、企業によっては、人権研修や自殺対策の一環としてギャンブル依存症の研修を組み込むところがある。
「みなさんで知恵を絞っていただいて、研修をねじ込んでいただけるとありがたい」と呼びかけた。
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企業向け啓発イベント「ギャンブル依存症から社員を守ろう」
コメント
様々な事業所はもちろん各自治体や学校の現場でもギャンブル依存症についての研修を行い、ギャンブル依存症に対する正しい知識の普及・啓発と予防教育を行うことが必要です。社会にギャンブル依存症に対する正しい理解が広がることを願って自分にできることを実行していきたいと思います。
初めて打ち明けた時、受け止めてもらえたと感じるか?シャッターを降ろされた気持ちになるか?私はこの二つの感覚で見分けている。
私は職場の産業医にギャンブル依存症を打ち明けた時、『じゃ30分だったのでこれで終わりにするね』といわれて落ち込んだ。職場の課長に打ち明けた時『まだ異動して間がないのに私を信じて打ち明けてくれてありがとう。それぐらい辛かったんだね』と言われた。この違い。
職場の依存症教育は大事。家族だけでなく職場や身近の誰もが依存症になりえる。
依存症とはズレる話ですみませんが、ギャンブル企業で長くバイトしていて、正社員の待遇をぼんやりながら知るだけでも絶対ギャンブルで客側は儲からない仕掛けになっているんだなと感じていました。
高額配当になっても、私の働いていたところは国有企業なので収入認定され、その後しっかり税金取られますし、そういう面も教育や知識が必要だと思います。
働いていた当時、対応した60代の男性の全身包帯だらけの隙間から見えた、いかにも暴行の跡を10年以上経つ今も時々思い出します。
ギャンブル依存症への企業側の理解が進めば、早期に正しい対応策が講じられる。日本の経済を支える、多くの若者達に、リカバリーできるチャンスを与えて欲しい。
誰でも、なる。誰でも、なおる。ギャンブル依存症はそういう病気です。まず、企業から発信し社会全体に広まれば凄いです。生き直す風土が企業に根付く事を望みます
企業でも、ギャンブル依存症が病気であることの理解が進み、正しい知識が広まって欲しいと思います。その取り組みを発信していただき、心強く感じました。ギャンブル依存症への理解が、貴重な人材を失わずに済むということを企業に分かって欲しいです。
誰でもなる、ギャンブル依存症です。企業研修は本当に重要です。職業も色々で医師や看護師のギャンブル依存症もいらっしゃいます。色々な所での啓発の必要性を感じます。
