「田中聖さんは仲間」…胸を張って、迎えるために 杉田あきひろさんインタビュー【後編】
歌手・ミュージカル俳優の杉田あきひろさんは、同じように薬物をやめられずに苦しんでいる人の「光になりたい」と語ります。
ミュージシャンの田中聖さんも杉田さんの「仲間」です。田中さん、そして悩んでいる人たちに伝えたいこととはーー。
公開日:2024/03/20 02:00
杉田あきひろさん(58)は、薬物依存症であることを公にし、歌手として芸能活動を続けている。今日一日を積み重ねられるのは「仲間に救われたおかげ」だという。
同じ「仲間」として、放っておけない人がいる。元アイドルグループKAT-TUNのメンバーで、ミュージシャンの田中聖(こうき)さんだ。田中さんは懲役2年8月の実刑判決が確定し、2月15日に収監された。
杉田さんは「聖くんが社会に出てきたときに、胸を張って迎えられる人になりたい」と語る。
杉田さんが思う「仲間」とは。田中さんや、同じように何かをやめられずに苦しんでいる人に伝えたいこととはーー。(ライター・吉田緑)
どんな人でも「墜ちていくことがある」
杉田さんは芸能活動をしながら、就労継続支援B型事業所の「だるま」で自分自身の経験を活かしてピア・サポーターとして働いている。「だるま」では、生活に困っていたり、薬物やアルコールに問題を抱えていたりする人が軽作業をしている。
「困りごとがある人もさまざまです。虐待やいじめなどの逆境体験がある人もいれば、学歴や社会的地位がある人などもいます。どんな人でも墜ちていくことはあると思いました」
杉田さんは慶應義塾大学文学部を卒業している。これまで『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』などのミュージカル作品に出演し、「うたのお兄さん」として抜擢された。周囲からは「恵まれている」とみられていたかもしれないと感じている。
「友人も多く、いわゆる優等生でした。でも、どこかで甘えがあったんだと思います。人として欠けていたことに気づいたんです」
気づきを得られたのは、長野ダルクや自助グループなどで数多くの「仲間」に出会えたからだ。ミーティングでは過去のことを掘り起こし、自らをみつめ直す作業を続けた。
順風満帆に回復の道を歩んできたわけではない。ダルクのスタッフになった後に施設を飛び出したこともある。それでも「仲間」は再び受け入れてくれた。スタッフとして戻るのではなく、ひとりの利用者としてゼロから再起をはかった。
「未だに夢に薬物が出てくることがあります。ハッと起きて、現実をみて『よかった、使っていなかった』とホッとする。そんな話ができる、嘘をつかなくていい場所がある。弱音を吐いて、分かち合える場所がある。それが、仲間とのミーティングなんです」
杉田さんにとって「仲間」とは「尊い人。回復し続けようと闘っている人」。2019年からは高知東生さんや清原和博さんなどの著名人らが集うミーティングに参加するようになり、今でもオンラインで顔を出す。ミュージシャンの田中聖さんも収監される前までは「仲間」のひとりとして参加していたという。
奇跡は起きる
どんなに墜ちたとしても、人は再び立ち上がることができると杉田さんは信じている。「奇跡」といえる出来事を体験したからだ。
「ずっと、埋め合わせをしたい、謝罪をしたいと思っている人たちがいました。NHKでお世話になった人たちです。今は胸を張って生活できてはいるのですが、過去にたくさん迷惑をかけてしまいました。顔を合わせるのがこわかったんですよね」
東京の繁華街に出向くことにも不安があった。薬物を使いたくなる衝動が訪れるためだ。仲間とのミーティングで薬物を使う「引き金」について考える中で、繁華街がそのひとつだと気づいた。
アルコールをやめてからは、ネオン街に足を運ぶことはなくなった。環境を変えて東京からも遠のいた。しかし、NHKのスタッフに会うためには、繁華街のひとつである東京・渋谷のセンター街付近を歩かなければならなかった。
「いざ歩いてみると、使いたい衝動は訪れませんでした。ちょっとでも回復しているんだと思いました」
過去に世話になったスタッフは、笑顔で杉田さんを迎えてくれた。そして2023年11月に開催された『おかあさんといっしょファミリーコンサート』秋のNHKホール公演で声の出演を果たし、2曲歌う事ができた。
「すごく嬉しかった。薬物に手を出さず、地に足をつけて生きていることを認めてくれる人たちがいるんだ、と思いました。がんも克服して、やっと笑顔で再会して謝ることができました。感謝しかありません」
2023年12月24日に開催された『Oh!23’s 歌のお兄さんズ ファミリーコンサート』にも「杉田あきひろ」の名前があった。再び「うたのお兄さん」としてスポットライトを浴びた。
「お客さんが喜んでくれたんです。こんなに嬉しいことはありません。自分を待っている人がいる。『過去』を知りながらも『今』を見てくれる人たちがいる。もう誰も裏切ることはできない、と思いました」
「もちろん、世間の誰もが受け入れてくれるわけではありません。でも、自分がまだ回復途上だとわかった上で、前を向いて歩み続けていれば、奇跡のような瞬間がある。このことを聖くんにも伝えたい」
待っている「仲間」がいる
杉田さんは、田中さんを待っている「仲間」のひとりだ。2023年の夏、田中さんが見せた表情を今でも忘れられないという。
「とてもいい顔をしていたんですよ。素を出してくれたんだな、と感じました。もちろん、僕は聖くんのすべてを知っているわけではありません。でも、社会に戻ってきたときは、胸を張って迎えたい。社会には心ないことばを言う人もいます。でも、僕たち仲間だけではなく受け入れてくれる人、理解しようとしてくれる人もいます」
杉田さんが薬物依存症であることを公にしたのは「芸能人だから」でもある。「芸能活動をしていなければ、隠し通したかもしれない」という。
「仲間とのミーティングがあるおかげで、薬物依存症であることを背負って生きていく覚悟ができました。啓発活動はこれからも続けていきますが、僕にできるのは、自分のやるべきこと、音楽活動を地道に続けること。一度失敗した人間であっても、回復し続けられる。時間はかかるけど、やるべきことを積み重ねていけば、応援してもらえるようになる。それを自ら示すことで、依存症で苦しんでいる人の光になりたいと思っています」
「今日一日」薬物を使わない日々を送り続けるために、胸を張って仲間を迎えるために、そして同じように悩み苦しむ仲間のために。杉田さんは、歩み続ける。
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【杉田あきひろ(すぎた・あきひろ)歌手・ミュージカル俳優】
NHK『おかあさんといっしょ』で「うたのお兄さん(9代目)」を務める。慶應義塾大学文学部卒業。在学中にミュージカル『レ・ミゼラブル』で舞台デビューを果たす。その後も『ミス・サイゴン』などに出演。ASK認定依存症予防教育アドバイザー。現在は神戸市にある就労継続支援B型事業所「だるま」にてピア・サポーターを務めながら、コンサート活動などを続ける。
コメント
あきひろお兄さんの歌を聞いて子育てしてきました。子供たちも私もあきひろお兄さんが大好きでした。
薬物依存症だと聞いてびっくりしましたが、裏切られたとは思いません。
あきひろお兄さんは優しい人だってことは歌声にも溢れていたし、記事を読ませていただいて一層そう思いました。
依存症と癌の2つの病に向き合い、乗り越えておられること尊敬します。
お兄さんが今も歌われている姿に、私はとても勇気をもらいました。
あきひろお兄さん、ありがとうございます。
あきひろさんさんお兄さんズは本当に感動しました😂やっぱりあきひろさんにはオーラがありますこれからも飛躍して行ってほしいです(^-^)
後編(後半)読みたかったです。
仕事はやいなぁ!