Addiction Report (アディクションレポート)

「日本の芸能界にもセカンドチャンスを」 社会に根強く残る依存症への偏見の中で 東ちづるさん(3)

依存症啓発対談の第3回では、東ちづるさんが語る、高校時代にのしかかった過剰な期待と心の重圧に迫ります。父のアルコール依存症への後悔や家族への影響を振り返りながら、芸能界でも回復した人が新たなチャンスを得られることの大切さが語られます。

「日本の芸能界にもセカンドチャンスを」 社会に根強く残る依存症への偏見の中で 東ちづるさん(3)
東ちづるさん(撮影・後藤勝)

公開日:2025/10/19 00:09

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月乃光司と東ちづるさんによる〈依存症啓発対談〉第3回。東さんの高校時代の過剰な期待や心の重圧、父のアルコール依存症との関わりを通して、依存症が家族に及ぼす影響や社会の偏見の深さが浮かび上がります。さらに、芸能界でも回復した人が再び社会で輝けることの大切さが伝わる回です。

過剰に期待された子供時代

月乃 東さんが本で書かれていましたが、高校生時代の記憶がほとんどないそうですね。

 そう、3年間ほとんど無いです。

月乃 私の知人に性被害が原因の解離性障害の人がいて、時々記憶が無くなって苦しんでいるんですけど、「東ちづるさんは3年間記憶が無いそうだよ」と伝えたら、凄く喜んでいました。東さんは親子関係が解離の原因だったんでしょうか?

 そうですね。母が若くして私を産んだので、「子どもが子どもを産んだ」と言われないように必死で育てたんですよね。何か立派にしなきゃいけないという呪縛があったのかもしれません。あと、自分がこうしたかった、こういう評価を得たかったというのを、母が私にかぶせたんでしょうね。

月乃 お母さんの希望をかぶせたんですね。

 そうです。母の希望は、祖母の希望でもあったみたいです。世代連鎖ですよね。いい子、優等生を求め、自分自身も良妻賢母にならなければ、と思い込んでいたのでしょうね。

月乃 なるほど。

 世間や学校の私の評価を、母は自分自身の評価のように捉えていたのでしょうね。私は母の期待に無自覚に応えてきたのですが、少し遅いけど高校生ぐらいから自我が目覚めてきたんです。「私って何だろう?」って。

撮影・後藤勝

特に島なので、進学しようとすると親元を離れなければなりません。海を渡らなきゃいけないので、そのあたりで自分の人生をすごく考えたんでしょうね。「ここから私はどう生きるんだ。親元を離れて生きていけるんだろうか」とか。

これまで親に依存していたので、そのあたりで解離しちゃったんですよね。学校の中でも生徒会や学級委員などをやっていたので、いい生徒だった分、先生の期待もしんどかったですよね。

月乃 先生も期待をかけてくれるような雰囲気を出していたわけですね。

 そうですね。背も高かったし、顔立ちもはっきりしていたし、しっかり見られていて、勉強もやればできるし、スポーツもできたので。例えば期待をされて、それに応えて、次も頑張ろうって。もうずっとこの積み重ねで、どこかで安定が欠けてしまったんです。

月乃 そこが本人にとっては結構心の負担で、記憶が無くなるような負担があったんでしょうか。

 本人は負担だと気付いていないから、記憶がなくなるんですよね。北野武さんが、殴られる寸前に「これは俺じゃない」ってふっと思うと痛みを感じないんだと言われていて、そういうことかと思ったんですよね。

死についてもよく考えた

月乃 そして、東さんが死について考えるときもあって、本棚に死に関するコーナーがあったみたいな話も聞いたことがありますが、そういう話、すごく嬉しくなってきます。仲間っぽくて(笑)。

 つらくなったら「死を選べばいいんだから」と言い聞かせることで気持ちを楽にしていました。傷つくことや受験に失敗したとか、何かあったら「自殺マニュアル」を読むとか。今は全部捨てちゃったんですけど。アートとしての「死体写真集」とかも本棚にあったんですよ。

月乃 「生と死」があれば、死を意識して考えることは、大切なことですよね。

 そこで心を落ち着かせるというかバランスをとるという感覚で、私にとって安定剤みたいなものだったんだと思います。

子ども時代からそういう傾向があって、みんなが大好きなヒーローものとか、正義とか正統的なものにはほぼ興味がなくて、アンダーグラウンドなものや妖怪ものが好きでした。例えばガッチャマンでも、主役のヒーローではなく、二番手が好きだったんです。

月乃 コンドルのジョーですね。

 そう!ヤッターマンにしても、ドロンジョが魅力的に見えてこっそり応援してた(笑)元気溌剌とか前向きなものが苦手だったんです。

月乃 東さんは、世間的には、正統派で前向きな明るいイメージですよね。

 見られ方としてはね。

月乃 やっぱりそういうイメージがずっと長く続いていたわけですね。

 ある意味どこか真面目だったから。世間に嘘をついているような気持ちもあって。ざわざわモヤモヤしていましたね。

アルコール依存症についてもっと早く知っていれば

月乃 なるほど、わかりました。ぜひ聞きたかったのが、私と西原さんの本に対して「この本が13年前にあったら、私の父と家族の人生は違うものになっていただろう」と書いていただきましたが、どんな風に変わったと思いますか?

 間違いなく、アルコール依存症専門家の先生のところに治療に行って、回復プログラムを受けてもらって、断酒会なり何なり、家族で取り組めたと思います。父親や夫としてではなくて、1人の人間として。私たちはお互いに大事にしながら、家族になれたと思います。

月乃 なるほど。

 父が亡くなった後に、父のことをよく知らないことに気づいたんですよ。すごく後悔と懺悔と未練があります。母ももっと救えたと思うんです。ありがちな話ですが、「あの人はお酒が好きだった」ということで解決したがり、「体を悪くしてしまったのは嫁のせいだ」と言う長男である父親の家族もいるわけです。母は本当にしんどかったと思います。

月乃 アルコール依存症という病気があって、病気の治療プログラムは確立されているんですけれども、そこにつなげることができたならということですよね。

芸能界でもセカンドチャンスを

 本当にそうです。この頃ってまだ芸能界でお酒のトラブルを起こすタレントは、精神面が弱いとか、芸能界復帰、社会復帰をさせてはいけないというムードでした。うーん、今でもそういう感じはあるか・・・。

月乃 まだまだ、ありますよね。

 そうですよね。ハリウッドみたいに、回復したらセカンドチャンスがあるという社会になってほしい。

月乃 ハリウッドの人なんて、いっぱいいますよね。

 薬物もアルコールもSEX依存症も。 回復したら立派!って讃えて応援されますよね。依存症をカミングアウトして、治療して、回復して、大作に出るという復活劇が羨ましいですよね。

月乃 ドリュー・バリボア、マイケル・ダグラス、ロバート・ダウニー・Jrとか、いっぱいいますね。エリック・クラプトンに会いたいな。

 つらかったよねって。

月乃 「エリック、つらかったよね」ってハグしたい。仲間ですね。この対談シリーズに出てくれないかな。

 アタックしたらいけそうじゃないですか。絶対アタックした方がいいと思います。日本大好きだし。

月乃 そうですか。

 アタックしましょう!渡航費でも彼は軽く自分で出せるでしょうし。

月乃 対談もいいし、「こわれ者の祭典」にも出てくれませんかね。「病気だョ!全員集合」って言ってくれませんかね(笑)。

 以前、オノ・ヨーコさんに自閉症啓発イベントのときに猛烈にアタックしたらOKだったんですよね。そのためだけに来てくれたんですよ。

月乃 私、観客席で見ていましたけど、そのためだけに来てくれたんですか。すごいですね。

 やっぱり皆さん人間なんです。心が動けば、ちゃんとアクションしてくれるんです。

月乃 アメリカは依存症の自助グループに通って回復した人のイメージが良いそうですね。社会的にも自助グループのプログラムをやった人は信頼できるという見方があるそうです。そういう話はよく聞きます。

日本社会に根強く残る偏見

 日本でも厚労省のイベントなどで、依存症の著名人たちを登壇させたり、イメージは変わりつつあります。ただ、まだまだ偏見はありますよね。

月乃 まだまだ偏見は結構ありますね。

 歯痒いですよね。そこをアップデートしたら、セカンドチャンスがある、生き直しができる社会になりますよね。情報番組のコメンテーターのコメントも影響力があります。依存性は人格ではなくて病気だと理解した上で、当事者を感情的に排除しないコメントをしてほしいです。

月乃 そうですね。

 表現者によっては依存症になる環境があるかもしれません。発信することや表現することへのストレスがあって、そこに誘惑があれば、アルコールや薬物へ依存する可能性がある。そして、問題を起こしたときに、寄ってたかって再起不能に叩きのめす風潮がありますよね。さっきも話に出たハリウッドみたいに、敗者復活戦のチャンスがあればと思います。

月乃 全くその通りです。日本も高知さんのような回復したモデルがたくさん出てくるといいですね。

 高知さんは、テレビはまだ復帰できていないんですよ。

月乃 やっぱり、偏見は根強いですね。

 それはスポンサーさんへのイメージもあると思います。

月乃 やっぱりスポンサーありきなので、薬物で問題があった人を取り上げるのになかなかまだ抵抗があるということですね。

 だけど、依存症の人やまだ自覚がない予備軍の人もたくさんいるので、企業さんも積極的に取り組んでもらえるとありがたいですよね。企業が変われば社会が変わりますから。回復している人たちの生まれ変わろうと頑張っている事実を知ってほしいです。

依存症者の後遺症や子供への影響

月乃 ちなみに、親がアルコール依存症の場合は、お子さんがやはりアルコール依存症者に好意を持ちパートナーに選ぶ傾向があるといいますが、東さんにはそういったことはありましたか?

私は酒をやめてから、父親がアルコール依存症の女性と付き合ったことがあります。やはり、「あなたはお父さんに似ている」と言っていました。依存症者にものすごく惹かれると言っていました。

この人はアルコールに問題がないみたいだと安心して付き合いだすと、酒乱であったり、問題が後から発覚したりするケースが多々あったそうです。どうもそういった人を探す傾向があり、そういった人が寄ってくるそうです。

 父とどこか似ている人に惹かれる傾向は否めないですね。全くおっしゃる通りだと思います。ただ、パートナー(夫)は下戸です。アルコール分解酵素を持ち合わせていません。なので、飲酒をする私の気持ちは全く理解できないようです。「なんで酔うまで飲むの?」と不思議がっています。

月乃 私はお父さんに似ているところはありますか?

 残念ながらないようです。

月乃 それは残念です(笑)。

 仕事をバリバリして筋骨隆々な大黒柱を目指す父でしたよ。東京の病院に入院している時に、私は両親に上京してもらったことを後悔しそうになって、「因島に帰りたい?」って聞いたんです。そしたら「いいや、あそこは仕事の思い出ばかりだから」と即答だったんです。ショックでした。父は「仕事が大好きな人」と思い込んでいましたから。

家族のために一生懸命だったということを知って、もっと話したいと思いました。でも、自分のことは語らない。いえ、私たちが聞かなかったんですね。父や夫、小さな会社の代表である前に、1人の人間ということに気づくべきでした。月乃さんのように、“表現する人”であったら違っていたと思いますね。

月乃 似ていないのはとてもとても残念でした。私も筋骨隆々および仕事バリバリを目指します。コンドルのジョーのようになります。20年くらいかかりそうですが(笑)。私も生きるために自助グループで自分のことを語ったり、朗読したり、自己表現していきたいです。

「東さんは私が好きですか?」

月乃 今回の対談、コンセプトは「私が好きな人に会う」なのですが、私は東ちづるさんが大好きなんですよ。先日のまぜこぜ一座の公演でも思ったんですけど、座長として、みんなをリードして、でもそれが支配的じゃなくて、出演者の個性に合わせていて。衣装なんかもすごく素敵なんです。

これから東ちづるさんの魅力について語ると3時間ぐらい話さなければいけないですね。一言で言うと、かっこ良くてチャーミングなんです。それで私、大好きなんです。

これから重大な質問をします。東ちづるさんは私が好きですか?

東さんに「好き」と言ってもらって有頂天(撮影・後藤勝)

 好きですよー。好きだから、報酬はもちろんのこと、交通費や宿泊費を出してまで公演出演をお願いしているんです。私は座長なので、私が好きな人、お互いに好きじゃないとうまくいかない、面白くならないんです。本当に好きですよ。

月乃 私は承認欲求の塊なんで、私のどういうところが好きですか?

 もう唯一無二ですよね!こんな面白い人いない!月乃さんのこれまでの体験を書かれてる本を読むと、実際に会ってる月乃さんとのギャップもすごいんですよね。すでに別の人生を生きてる人みたいな。詩を朗読するときには、表現者として、スペシャルに魅力的!かわいいですよね。

月乃 私はかわいいですか。

 キュートというか、かわいいんだよねー(笑)。

月乃 今、私、史上最大の「いいね!」をいただいたような気持ちになりました。脳内でドーパミンが音を立てて流れています。満足感でいっぱいです。

 この間のまぜこぜ一座で、満員のお客さん600人全員で「いいね!」してますよ。

月乃 ありがとうございます。ということで、また明日から会社員として地道にがんばっていけそうです(笑)。

(終わり)

【東ちづる(あずま・ちづる)】俳優・一般社団法人Get in touch代表

広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。

ドラマや映画、情報番組、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは、骨髄バンクや障がい者アートなどのボランティア活動を30年以上続ける。2012年アートや音楽、映像、舞台などのエンタメ通じて、誰も排除しない“まぜこぜの社会”をめざす、一般社団法人Get in touchを設立。代表として活動中。

自身が企画·構成·キャスティング·プロデュース·出演する映画「まぜこぜー座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」はAmazonプライム他で配信中。

また、自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した著書「妖怪魔混大百科」(ゴマブックス)を基に、漫画やマスコットを展開。

【月乃光司(つきの・こうじ)】

1965年生まれ。高校入学時より対人恐怖症・醜形恐怖症により不登校となり、通算4年間のひきこもり生活を送る。自殺未遂やアルコール依存症により、精神科病棟に3度入院。27歳で自助グループにつながり、以来、酒を飲まない生き方を続けている。現在は会社員として働くかたわら、「生きづらさ」を抱える人々に向けて、執筆・朗読・イベント運営などを通じてメッセージを発信している。著書に、西原理恵子との共著『お酒についてのマジメな話~アルコール依存症という病気~』(小学館)。心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」代表。ASK依存症予防教育アドバイザー。弁護士会人権賞受賞。

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