月乃光司、カッコいい回復者、高知東生さんにジェラシー? 回復プログラムで生き直す 東ちづるさん(2)
東ちづるさんとの依存症啓発対談の第2回は、酒席の断り方からスタート。依存症を「回復できる病気」と伝える重要性が語られます。社会に根強い依存症への偏見について問題提起がなされています。
公開日:2025/10/18 02:05
月乃光司と東ちづるさんによる〈依存症啓発対談〉の第2回。身近な酒席での断り方から、回復モデルとして注目される高知東生さんの存在まで。二人の率直なやりとりから「依存症は病気であり、回復可能である」というメッセージが浮かび上がります。
付き合いの酒の席、どうする?
東 職場では、アルコール依存症の人ってことは認知されているんですか?
月乃 25年くらい「こわれ者の祭典」の活動を続けていて、地元の新聞やテレビにも紹介されているので、皆、薄々知っているみたいですね。
東 会社の宴会とかがありますよね。そういうときは、もちろん飲まないでしょ。どういう理由にしてるんですか?
月乃 体質的に飲めない、と言います。後は基本的に酒の席には出ないようにしています。ストレスがかかるから。
東 私も最近は、宴席に無理して出なくてもいいし、無理して飲まなくてもいいんだなってことがわかってきました。その方が体の調子もいいですし。私は飲めちゃうんですけど、父も母も二人とも飲めますから。でも最近はそんなに飲まないんですよ。「東ちづるはお酒が強い」というイメージになってしまっていてすすめられるんです。それにサービス精神で答えていたんですけれども、最近はもう自分のペースで飲むようにしています。その方がいいですね。
月乃 アルコール依存症でない人は、全然お酒を飲んでも問題ないですが、体調が悪くなったりすることがあるので、飲み過ぎない方が絶対にいいですね。
東 そうですよねぇ。最近私もそう言っています。この歳になってやっとわかってきた。遅い!(笑)
月乃 アルコール依存症でやめている人は、会社の付き合いや冠婚葬祭で「絶対出なきゃ」と思うかもしれませんが、再飲酒のきっかけになるので、出ない方がいいと思います。宴席では飲まなくても、その後で飲んでしまうケースがよくあります。
東 気持ちを伝えればいいんです。お祝いの気持ちや感謝の気持ちは伝えられますから。それで十分です。日本では昔から「出席して飲むのが当然」という風習がありましたが、それは本当に悪習だったと思います。
月乃 順番としては、会社やアルバイトでも構いませんが、仕事が上手にできなくても、遅刻や無断欠勤をせずに真面目にやっていれば評価はされます。本当は面接時からアルコール依存症だと伝えて理解してもらえるようになれば一番いいのですが、まだそこまで至っていない現実です。真面目だと評価されたら、アルコール依存症だと伝えるのもいいですね。酒の席に出なかったり酒を勧められなかったりするので、断る理由としても活用できます。
依存症の回復モデル、高知東生さんにジェラシー
東 アルコール依存症が病気だということは、世間で認識されるようになりましたでしょうか?
月乃 まだまだ偏見も多いと思いますが、以前より多少は理解が進んでいると感じています。ギャンブル依存症の啓発活動が、ここ数年で依存症の理解を進めている気がします。現実に田中紀子さんのパワーはすごいですね。
東 依存症といえば、ギャンブルだけでなく薬物もですよね。
月乃 回復のモデルケースとして、高知東生さんの存在は大きいと思います。依存症が脳の問題の病気であり、回復が可能であることがもっと伝わっていくといいですね。
東 本当に、草の根的な活動が今SNSで広がっていて、エンタメを通じてです。ショートドラマを作ったり映画を作ったりして。
月乃 そういえば、東さんと高知さんのショートドラマがありましたね。すごく素敵でした。ただし私は高知さんにすごくジェラシーを感じているんです。私もこの業界、依存症表現業界で23年やっていますが、まったく人気が出ないんです。高知さんはかっこいいから人気があるじゃないですか。もちろん俳優さんですから、かっこいいのは当然ですが。

東 高知さんと対談したことはありますか?
月乃 ありますよ。「タカリコちゃんねる」でお会いしたんです。
東 ああ、田中紀子さんと高知さんの「タカリコちゃんねる」ですね!私もお世話になりました。
月乃 高知さんと言えば、なんといっても「愛人、薬物、ラブホテル」のスリーカードですよね。
東 イメージダウンにもほどがありましたね。
月乃 「愛人、薬物、ラブホテル」のスリーカードは世間的なイメージは最悪ですが、私のどん底時代のスリーカードは「オナニー、焼酎、引きこもり」ですよ。もっと最悪です。
東 (笑)。
月乃 愛人がいるんでしたら、本妻もいるんでしょ。「愛人、薬物、ラブホテル」の方がかっこいいじゃないですかっ! こっちは「オナニー、焼酎、引きこもり」ですよ。東さんみたいな著名な俳優さんの前で、こんな言葉を連呼していて恥ずかしいですが。
東 (笑)。
月乃 私、さっき言ったように承認欲求の塊ですから、SNSのフォロワー数やYouTubeのカウント数も気にしてしまうんです。だから人気者の高知さんにジェラシーを感じているんです。高知さんが、いつもSNSで発している言葉も、とても含蓄があります。
東 あれに至るまで彼も本当に地獄を見ていますからね。俳優業界でも以前お互い知り合いだったけど、友達という意識はなかったんです、私は。当時は正直、印象も良くなかったです。
月乃 そうなんですか。それはどういう感じだったんでしょうか?
東 うーんと、本心がわからないというか、とても表層的なかっこ良さ。以前は、ちょっと話はするけど、腹を割って話せない感じの人でした。でも逮捕後から数年経って回復プログラムを受けて、再会したときには別人のようでした。今はスムーズに何でも話せるし、仲間感もありますね。
月乃 人としての魅力が増していましたか?
東 そうですね。
「依存症になってよかった」
月乃 私も、依存症になってよかった、アルコール依存症になってよかった、本当にそう思っています。
東 よくそうおっしゃっていますもんね。
月乃 いや、依存症にならなかったら厳しかったですよね。
東 月乃さんが、つらかった時代の本を読むと、本当によく生きてこれたなって思います。
月乃 アルコール依存症の自助グループで回復できたので、死ぬ前に巡り会えて良かったです。そうしないと心が壊れていたかもしれません。自殺した可能性もあります。ただ、もし死んでいたら最悪ではなく、今も生きていたらもっと最悪だったかもしれません。長期の50代、60代の引きこもりの方って多いですから。
東 多いですね。
月乃 世の中には社会に対する憎しみからの通り魔など、いろんな犯罪があります。被害に遭った方やその家族のことを考えると、本当に胸が痛みます。私も家族がいますので。
その一方で、犯罪加害者に安易に共感してはいけませんが、一歩間違えば自分もそちらに行った可能性は否定できません。
加害者はかつての被害者でもある現実
東 私、刑務所で受刑者のロングインタビューを数年間していたんです。全国各地の軽犯罪から重犯罪、高齢者や女性、交通や少年犯罪など、さまざまな人にインタビューしました。加害者になる一線を越えてしまうことは誰にでもあるんだなって本当に思いました。加害者の人は、かつての被害者でもあるんですよね。
月乃 それはどういうことでしょうか?
東 加害者の多くが、ネグレクトやDVを受けたり、多少なりとも承認されなかったりした、ある意味被害者でした。私が会った例では、99%はそうでした。誰もが加害者になりうるんだなって強く思いました。大人が子どもたちに「気をつけなさい」と気を配るのは、いじめられないように、危ない目に遭わないようにするためですが、いじめる側にならないように、加害者にならないようにすることも考えないといけませんね。
月乃 そうですね。
東 私はもう今は承認欲求とか本当に薄いんですけれども、以前は期待をされてそれに応える子ども時代を過ごしてきたので、もしかしたら私も感情が爆発することがあったのかな、というのは思いますね。
月乃 薬物依存症の女性の過半数以上が性的虐待や家庭内暴力を受けているそうですね。トラウマを薬物で生き延びてきた人が多いんですね。
東 うん、うん。
月乃 そういう人が多いので、今の加害者や被害者の話だと、そういう背景もあるのかなって思いますね。
東 そうですね。うん。
(続く)
【東ちづる(あずま・ちづる)】俳優・一般社団法人Get in touch代表
広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。
ドラマや映画、情報番組、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは、骨髄バンクや障がい者アートなどのボランティア活動を30年以上続ける。2012年アートや音楽、映像、舞台などのエンタメ通じて、誰も排除しない“まぜこぜの社会”をめざす、一般社団法人Get in touchを設立。代表として活動中。
自身が企画·構成·キャスティング·プロデュース·出演する映画「まぜこぜー座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」はAmazonプライム他で配信中。
また、自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した著書「妖怪魔混大百科」(ゴマブックス)を基に、漫画やマスコットを展開。
【月乃光司(つきの・こうじ)】
1965年生まれ。高校入学時より対人恐怖症・醜形恐怖症により不登校となり、通算4年間のひきこもり生活を送る。自殺未遂やアルコール依存症により、精神科病棟に3度入院。27歳で自助グループにつながり、以来、酒を飲まない生き方を続けている。現在は会社員として働くかたわら、「生きづらさ」を抱える人々に向けて、執筆・朗読・イベント運営などを通じてメッセージを発信している。著書に、西原理恵子との共著『お酒についてのマジメな話~アルコール依存症という病気~』(小学館)。心身障害者のパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」代表。ASK依存症予防教育アドバイザー。弁護士会人権賞受賞。
コメント
高知東生さんに嫉妬する月乃さん
申し訳ないですが爆笑してしまいました!
コツコツ会社員生活して家庭を営んで
月乃さんご立派です!