当事者が適切な相談先に繋がることが大事「依存症の理解を深めるためのトーク&音楽ライブイベント みんなで考えよう依存症のこと」イベントレポート
2月26日、都内で厚生労働省主催の「依存症の理解を深めるためのトーク&音楽イベント みんなで考えよう依存症のこと」が開催された。依存症当事者である著名人を迎えてのトーク&音楽ライブの模様をお届けする。
公開日:2025/02/28 02:00
「依存症の理解を深めるためのトーク&音楽イベント みんなで考えよう依存症のこと」(主催・厚生労働省)が2月26日、都内で開催された。依存症当事者である著名人を迎えてのトーク&音楽ライブの模様をお届けする。
依存症は当事者の周りの人も学ぶべき問題
会場には多くの観客が集まり、この模様はオンラインでも配信された。
オープニングでは依存症啓発サポーターのお笑いコンビ「相席スタート」の二人が「依存症は怠けている、意思が弱いと思われがちだが、当事者だけでなく当事者の周りの人も学ぶべき問題で気づきが多かった。世間の偏見から『自己責任』と言われ、当事者やその家族がSOSを出せない」と、サポーターとして活動して気付いたことを述べた。
ストロング系チューハイを1日30本
続いて国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さん、ラッパーのUSUさん、ロックミュージシャンの宙也さんを迎えてトークセッションへ。依存症には大きく分けてアルコール、薬物、ギャンブル等の3つの種類があり、最初のテーマはアルコール依存症だ。
USUさんはかつてアルコール依存症で、ストロング系チューハイを1日に30本も飲んでいたという。
「最初のうちは晩酌として嗜む程度だったのですが、次第に嫌なことを忘れるために飲む量が増えていき、1日4回は気絶していました。飲むと二日酔いになるので、その二日酔いを覚ますために迎え酒をし、酒に酒で蓋をしていました」
近所のコンビニに酒を買いに行く際は家族にバレないように、裏口から裸足で出かけていたというUSUさん。大量に酒を買っていくUSUさんをコンビニの店員が心配し始め「もうこれ以上買ったらダメですよ」と言われても、コンビニ店員に反発して怒り、後輩にも暴言や暴力を振るうようになり性格が変わってしまった。
そんなUSUさんが断酒を決意したのは、毎日気絶するまで飲酒するUSUさんに対して母親が疲れ切り、しまいには包丁を持ち出してくるまで追い詰められたのを見て、家族に迷惑をかけていることに気づけたからだという。
現在は4年4ヶ月酒をやめ続けている。USUさんの場合、根底にうつ病がありその苦しみから逃れるために酒を飲んで酒に支配されるようになり、最後には酒をおいしいと思わなくなったと語った。
飲み過ぎたのは苦手なコミュニケーションを克服するため
ロックミュージシャンの宙也さんも最初は食事と共に酒を楽しむ程度だったと語る。
「元々コミュニケーションが苦手な面があり、例えると水が入ったプールという社会で他の人はうまく泳げているのに自分はうまくその水に馴染めず、プールに酒を入れてみるとうまく泳げるようになったような感覚だったと今振り返ると思います。僕は飲み過ぎで緊急搬送をされてから断酒をして『まだ3年』です。酒をやめたいと思ったときにはもう遅いんです」
宙也さんは家で常に手が届く位置に4Lの業務用の焼酎を置いており、それをわずか1週間で飲み干していたという。知人のライブハウスのスタッフにそれを話したところ、「うちの店でも4Lを1週間では使い切れない」と言われたエピソードも明かしてくれた。
また、宙也さんもUSUさんと同じく、倒れる頃にはお酒がおいしいと感じなくなったという。
メリットよりデメリットが上回った状態が「依存症」
さて、依存症の定義とは何なのか。松本俊彦さんは「アルコールや薬物を摂取したりギャンブルをしたりすることによってメリットよりデメリットが上回った状態」だと解説した。
また、松本さんは「依存症の当事者に『他に楽しみを見つけよう』は禁句です。当事者にとってアルコールや薬物、ギャンブルなどが一番の楽しみになっているからです。悩んでいる当事者や家族、周りの人が適切な相談先に繋がることが大事です」と語った。
家族と共に立ち直ることができる
第一部のトーク後はUSUさんと宙也さんによるミニライブが開催された。USUさんは力強い言葉をラップで表現し、宙也さんはバンドマンのレジェンドならではの表現力と歌唱力で会場をわかせた。
そしてUSUさんは「依存症は家族も巻き込んで共依存になってしまうことがある。家族も共に強い気持ちを持っていると立ち直れる」と語り、宙也さんは「大切なものが一つでもあれば回復できる」と当事者やその家族に向けてエールを送った。
ギャンブルする金を作るために犯罪につながる恐れも
第二部のトークでは、ギャンブル依存症の当事者で、プロレスラー・タレントのダンプ松本さん、母親の薬物依存や買い物依存に苦しんだ経験を持つ医師のおおたわ史絵さん、ギャンブル依存症問題を考える会代表の田中紀子さんらが登壇。ダンプ松本さんは「極悪」とプリントされたTシャツに竹刀というまさにヒールの出で立ちだった。
ダンプ松本さんは現役時代にパチンコにハマっていたエピソードを語った。
「私の時代はまだ依存症という言葉がなかったので、ただのパチンコ好きだと思っていました。パチンコを始めたきっかけは、練習中のランニングコースにパチンコ屋があり、夏はクーラーがきいていたし飲み物も飲み放題だったので、試しに入って300円で打ってみたら9000円になったんです。それ以降、毎日朝から晩まで同じ台に張り付いて1日に10〜15万円使うようになりました」
そんなダンプ松本さんだったが、次第にパチンコに疲れるようになってきた。周りの台の人はみんな玉が出ているのに自分だけ出ないと悲しくなり、友達と飲みに出かけたらパチンコよりも楽しくてやめられたという。
田中紀子さんも元生粋のギャンブラーだが、今はギャンブル依存症問題を考える会で多くの講演やサポート、啓発を行っている。そんな田中さんが今注意を呼びかけているのがオンラインカジノ。スマホひとつでいつでもどこでもできて、あっという間に依存症になってしまう。また、オンラインカジノに使うお金を作るために、犯罪に繋がる可能性も指摘した。
実は相席スタートの山添さんも依存症ではないがパチンコ好きで、パチンコをするお金を相方である山崎さんに借りている。山崎さんは「変なところから借りるより私が貸したほうが安全」という思いから貸しているそうだが、田中さんは「借金の肩代わりをしないことも重要」と警鐘を鳴らした。
依存症の疑いがあったら専門機関に相談を
医師のおおたわ史絵さんは依存症当事者の家族として登壇。看護師だった母親は常に体調が悪く、鎮痛剤などの薬を服用していたが、ある時からアメリカで問題になっていて危険性の高い医療用麻薬「オピオイド」を自ら注射するようになった。せん妄などを起こす母の症状に父親と共に苦しんだ過去を語った。
当時は依存症の専門医がほとんどおらず、やっと見つけた専門医を頼って母親を入院させるための戦いがあり、「家族は良い治療者にはならないので、専門医に相談を」と呼びかけた。
おおたわさんの「家族は良い治療者にならない」という発言から、松本医師は依存症の疑いがある場合、精神保健福祉センター、保健所、依存症専門医療機関、自助グループや家族会へ相談することを勧めた。自助グループや家族会に参加すると、いろんなパターンの依存症を知ることができ、自分に近い当事者と共感することができるという。
ラストは全員で「上を向いて歩こう」を合唱。
依存症の当事者やその家族、また依存症について知らない人に、わかりやすく楽しく正しい知識を届けられるイベントだった。
依存症に関する偏見がなくなるため、このようなイベントがもっと多くの人に届くことを願いたい。
コメント
イベントはYouTube配信で見ました。
出演者皆様のそれぞれのトークをお聞きして、「現実にあったこと?」とびっくりするとともに、これが「依存症」なのかと改めて学びました。
姫野さんの本レポートは、先日のイベントを手にとるように再確認できるものでした。
まだ、イベントを見てない方も是非、YouTubeでご覧ください。
イベントに参加しました。
久しぶりに見るダンプ松本さんのお元気な姿に感激し、おおたわさんのお母様のお話には、衝撃を受けました。
以前アルコール依存で苦しみ、今は回復の道を歩んでいるUSUさんと宙也さんの歌う姿にも感動しました。
相席スタートのお二人の掛け合いのおかげで、依存症について楽しく学ぶことができたと思います。
依存症についての正しい知識を楽しく理解する良い機会となったと思います。このようなイベントがもっと増えること、期待します。
「『他の楽しみを見つけよう』は禁句」
そうなのですね!
ダンプ松本さんが過去のできごとを振り返ってお話してくださって、うれしいです。
依存症のこと、学び続けていきたいです。