「“飲みニケーション”がなくても人間関係は成立する」毎日飲んでいたお酒をやめ続けて6年の常見陽平さんの遍歴
過去は毎日お酒を飲んでいた働き方評論家の常見陽平さん。しかし6年前のある日、突然お酒をやめる。お酒をやめた理由はいくつかあるものの、一番はいつでも車の運転ができることだという。そんな常見さんの過去のお酒との付き合い方とやめた理由を聞いた。
公開日:2024/09/30 08:00
働き方評論家で千葉商科大学国際教養学部准教授の常見陽平さんは、お酒をやめ続けてもう6年ほどになる。かつては毎日お酒を飲んでいた常見さんだったが、今は、洋酒の入った焼き菓子を食べただけでも気分が悪くなることがあるという。
仕事帰りに駅のホームで缶ビールを飲んでいた
「お酒をやめたきっかけはいくつかあります。1つ目は子どもが生まれたことです。特に子育てにおいては突然体調を崩したときにすぐに車を出して病院に連れていかなければいけません。お酒を飲んでいると運転できないのと、誤って子どもがお酒を飲んでしまったり、酔って子どもを踏んでしまったりしては危ないと思ったんです。
2つ目は健康診断に引っかかったことです。レッド、イエローでいうと、薄いイエローレベルくらいではありますが、肝臓の数値が悪くなってきたのです。飲んだ翌日、二日酔いになっているのはちょっと良くないなと思って。だんだんお酒を飲むという行為がつらくなってきたんです。翌日が特に辛くなりました。
3つ目は、偉そうに聞こえるかもしれませんが、メディアに出ることが増え、面割れし、電車移動を避け車移動を増やしたくなったことです。もっと売れている人はいますが、私ごときでSNSに目撃情報を書かれたり、見ず知らずの人にお店で声をかけられることが増え、プライバシーを守りたいなと思ったのです」
お酒をやめるまでは常に家に缶ビールや、焼酎、ウイスキーを常備していたという常見さん。会社員だった頃は仕事帰りにキオスクでビールを買って駅のホームでプシュッと缶を開けて飲むことが日常だったという。仕事をして汗をかいた状態で飲むビールはとてもおいしかったそうだ。お酒を飲んでいた頃は酔った状態でネットの生配信番組に出演し、暴言、失言、さらには嘔吐までしてしまったこともあった。
「ただ、大学生くらいまではお酒はおいしいと思わなかったですね。気持ち悪くなっちゃうし。
でも、社会人2年目で当時、独身寮に住んでいたときに、キリンの発泡酒『淡麗』が大ヒットしたんです。仕事終わりで疲れているときにゴクゴク飲めるようなちょうどいいお酒です。当時150円くらいで買うことができて。値段からして最高に美味しいわけではないのですが、仕事帰りに気持ちよく飲めるものでした。僕が住んでいた独身寮にはお酒の自販機があり、会社から帰ってきたら自販機でお酒を買って飲んでいました。缶ビールや発泡酒を2〜3本毎日飲んでいましたね」
常見さんが飲んでいたのはコンビニや自販機だけではなかった。当時、寮の最寄り駅に風俗街とつらなった飲み屋街があり、そのど真ん中に深夜3時までやっている中華料理屋があった。終電まで仕事をした後、深夜2時頃まで同僚たちと会社の悪口を言い合いながら飲んでいたそうだ。
毎日飲むことが習慣化されていった
「それから名古屋に転勤になったこともお酒を飲む量が増えた出来事でした。新しい環境で老若男女の友達が増えて飲む機会が増えたんです。その後、東京に戻り、『じゃらんnet』の営業企画担当をしていました。全国に出張があったので、新幹線の中で飲んだり、出張先のことを知るためにはおいしいものと一緒にお酒も楽しまないとダメだと思い込んで飲んでいたんです。
それから2005年、バンダイに転職したのですが、そこで採用担当になったのです。そのとき、内定者を連れて『来年から頑張ってね』と飲むようになったり、会社説明会などでお世話になった社員を社内接待したり。そのときは量を飲むというより日常的に飲むという感じでした。
2007年に著者デビューし、2009年頃から執筆活動により没頭するようになりました。30代半ば頃でしたね。この頃、書籍、連載の原稿の締め切りが連鎖し、ストレスがたまって飲んだり、同世代の著者や編集者と飲むことが習慣化していきました。朝まで飲んだりしませんが、やっぱり怖いのは習慣化ですね」
依存症とまではいかないが、お酒を飲むことが習慣化していった常見さんは6年前、突然お酒をやめた。このまま飲むと寿命が縮むのではないかと、ある日、冷静に考えた。まず3日間やめてみると全く苦痛はなく、それからこんにちまで一滴も飲んでいない。お酒をやめてからも仕事の都合上飲みの席に出ることはある。しかし、お酒は飲まずにソフトドリンクで済ませている。カフェインも夜6時以降は控えているため、ウーロン茶ではなく炭酸水を飲んでいることが多いという。
「飲みの席に顔は出しますが、アルコールのせいで話がループする人や、不倫・風俗自慢、金儲け自慢をするような下品な話をする人たちとは一線を置くようになりました。それと飲みの場での無礼講ですね。楽しく飲んでくれよとは思うのですが、無礼講な振る舞いをする人がすごく気になってしまって。でも昔は自分もそういう振る舞いをしていたんだなと思ったりします。
ただ、そういう人たちと一緒に“飲まなくなった”というだけで付き合いは変わっていません。お酒の席に出て飲んだ人たちを車で送るのは好きなんです。飲みの席が終わってちょっとみんな気の抜けたとき、『送ってあげるよ』と言うとみんな喜ぶし良い意味で本音が聞けるのが楽しいです。いわゆる“飲みニケーション”がなくても人間関係は成立するんだなと」
「ちょっと一杯」が危ない
かつて毎日お酒を飲んでいた常見さんがお酒をやめ続けられている理由は本人にもよくわからないそうだ。ただ、お酒をやめてから健康診断の肝臓の数値は徐々に良くなっていった。
「僕が思うに、『ちょっと1杯』が続くのがヤバいのではないかなと。その1杯を飲んでしまうとすべてのバランスが崩れて、また飲む習慣に戻ってしまう気がするんです。若い頃から音楽が好きだったので、よく音楽雑誌のミュージシャンのインタビューを読んでいました。ミュージシャンってアルコール依存症や薬物依存症に陥る人が多いじゃないですか。依存症を克服した人は、『元に戻るのが怖い』と言うのですよね。私も同じ気持ちです。
ただ、大好きなバンド、ZIGGYの森重樹一さんはアルコール依存症で断酒していて一時、依存症関連の当事者として発信していたのに数年前、また飲み始めてしまったのですよね。明らかにブログから、荒れている様子や苦悩が伝わってきてショックでした」
お酒を断って変わったことというと、ご飯がおいしく感じられるようになったことと、朝スッキリと目覚められること、何よりいつでも車を運転できることだそうだ。アルコールは断酒をしてもスリップ(再飲酒)してしまう可能性が非常に高いが、常見さんはもう飲むことはないと断言する。
世には人に迷惑をかけたり怪我をしたりするレベルまでは飲まない人は多いであろうし、常見さんもそのうちの一人だと考えられる。常見さんは「うっすら習慣化」を恐れてアルコールをやめた。今、筆者も含めてアルコール依存症とまではいかないが、毎日飲んでいる人は、もし飲まなくなった自分を想像してみるのもいいかもしれない。