Addiction Report (アディクションレポート)

回復支援施設通いに当初は戸惑いも…「依存症かどうかがそこまで重要ですか?」スタッフの一言で現実直視

違法薬物所持の罪で逮捕された塚本さんは釈放後、知り合いに会うのが怖いという思いから飲食店を避けるようになったという。回復への道にどのようにつながったのか、話を聞いた。

回復支援施設通いに当初は戸惑いも…「依存症かどうかがそこまで重要ですか?」スタッフの一言で現実直視
元NHKアナウンサーで現在は依存症啓発に取り組む塚本堅一さん(撮影・黒羽政士)

公開日:2024/09/18 01:45

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違法薬物所持の罪で逮捕された塚本さんは釈放後、知り合いに会うのが怖いという思いから飲食店を避けるように…さらに、電車内で目にしたある啓発ポスターが追い討ちをかける。

次第にうつ症状も悪化していく中で、どのようにして回復への道につながったのだろうか。

飲食店では逃げ道確保、電車で啓発ポスターを目にし…

ーー釈放され、NHKも懲戒解雇され、しばらくは飲食店に入ることも電車に乗ることも避けていたと著書には書かれています。

飲食店のようなお店に入れなかったのは、誰かに会うと怖いからです。

仮に飲食店に行くとしても必ず逃げ道を確保しようと。そんなことをしていると、ドンドンと行動範囲は狭まって、知っている一部の店にしか行けなくなってしまいました。でも、外でご飯を食べるだけでそんなことを考え続けるのも面倒くさい。

次第に、ぱっと買って出られるコンビニやパン屋のようなところばかりに足を運ぶようになりました。

実は釈放されて1年近く経ったある日、ある飲食店で僕をとある番組に抜擢してくれたNHKのプロデューサーに似た人に遭遇したんです。その時には、もうパニックになってしまって。「もしもプロデューサー本人だったらどうしよう」「なんて謝ればいいんだろう」という考えで頭がいっぱいになりました。

電車に乗るのが怖かったのは、同じように密閉された空間で誰かに遭遇する怖さもありましたが、それよりも薬物使用に警鐘を鳴らす啓発ポスターの文言にくらってしまうという面が大きかった。

釈放されて間もなく、電車に乗ると「危険ドラッグ 落ちたら終わり 人生のタイトロープ」というポスターが目に入ってきた。何かしら映画のタイアップポスターだったと記憶しているのですが、そのメッセージが当時の自分にはかなりキツくて…

これから頑張っていこうという気持ちを全て削がれ、相当落ち込みました。それ以来、なるべく電車に乗りたくないなと思って、移動は基本的に自転車という時期が続きました。

撮影・黒羽政士

ーーそのような時に、田中紀子さん、上岡陽江さん、松本俊彦先生が荻上チキさんがパーソナリティを務めるラジオ番組「Session-22」に出演した回の文字起こし記事を見つけたのですね。

はい。当時は逮捕から1年が経過するくらいのタイミングで、薬局の看板の「薬」という文字や帰省ラッシュの「ラッシュ」という文字を見るだけで、発作のように心臓がドキドキしてしまう。日常生活を送るのが非常に困難な状態でした。

ふとした時にYahoo!ニュースのようなものを見てしまうと、「薬物で捕まった元アナウンサーは、次は覚醒剤に手を出しているらしい」と事実無根の記事が載っていたり…本当にズタズタでした。

そんなタイミングで、「薬物報道ガイドラインを作りました」といった趣旨のネット記事を見かけたんです。当時、著名人が薬物使用の罪で逮捕され、その後のバッシングが過熱していたタイミングでもありました。

とはいえ、「薬」という文字を見ることすら避けていた自分は、最初はなかなか読むことができず、記事から距離を置いていたんです。

少ししてから一度読んでみると結構良いことが書いてあった。その記事を読んで、もしかするとこの記事に登場している人たちならば、私を取り巻く状況を変えてくれるかもしれないと思いました。

問題は、まずは誰に連絡を取るか。松本先生はちょっと調べただけでも、著名な精神科医であることが分かりましたし、連絡先も書いていない。上岡さんはダルク女性ハウスの代表ですが自分が上岡さんの支援対象に入るのかどうかは正直分からない。最後に残った田中さんは事務所のホームページにも掲載されていたし、そこには問い合わせ先も出ていたので、まずはこの人に連絡してみることにしました。

ただ、すぐさまメールを送ることはやはりできませんでした。

ーーなぜでしょうか。

やっぱり断られたらどうしようと思うと、怖かった。冷静に考えれば、そんなことないだろうと思うのですが、当時は何もかもが上手くいかない状態で、ここで田中さんにも断られたら、いよいよ立ち直れなくなってしまうような気がしてしまいました。

それで、半年くらい寝かせた後で、ようやくメールを送ってみたんです。すると、田中さんからすぐに返事が届きました。

「何とかなりますよ」「一度お会いしませんか?」とそこには書かれていて、安心したのを覚えています。

待ち合わせ場所は飯田橋の喫茶店。前日に下見に行って、どこの席であれば逃げ道を確保できるかといったことを考えた上で、当日を迎えました。

田中さんとお話をした時に、松本先生の診察を受けることを勧められて。松本先生の診察を受けると、薬物依存ではないけれども回復支援施設を見学してみるように勧められました。

結果的には芋づる式に、色々な人につなげていただきました。

ーー仮に田中さんにメールを送っていなかったら、今頃どうなっていたと思いますか。

確実に鬱症状はひどくなっていったと思います。あのままでは解決策は見つからず、家から出られなくなっていったのではないかなと。メンタルヘルスを何とかするという考えがそもそもありませんでしたから、「引きこもりおじさん」が誕生していたんじゃないかな。

症状が悪化する中で、自ら命を断とうとしたかどうかは分かりませんが、状況を打破できないまま時間だけが過ぎていったのではないかなと。

撮影・黒羽政士

回復支援施設で感じた戸惑いとは?

ーー依存症ではないのに回復支援施設へ通うということへの戸惑いもあったのではないでしょうか。

松本先生からは「とりあえず、色々な人の話を聞いてみてください」「色々な人がいるから、きっと私のカウンセリングを受けるよりも良いですよ」と言われて、その回復支援施設の扉を叩きました。でも、やはり最初は、何の目的で自分がこの回復支援施設へ通っているのかを理解できていませんでした。

プログラムを受ける時は1つのクラスに20人ぐらいが参加して、それぞれが最初に「〇〇依存の〇〇です」と自己紹介するんです。他のみんなは明確に何かの依存症で、何かをやめるために来ている。でも、私にはそれはない。

もちろん薬物をやめ続けるためではありますが、そこまで依存していたわけでもなかったので…

撮影・黒羽政士

最初は潜入取材をしているような感覚でいましたね。完全に「お客さん」目線、第三者という感覚でした。

でも、回復支援施設にそんな人はいらないですよ。そんな態度じゃ絶対に浮くし、どれだけ課題に取り組んだとしても、どこか上の空でした。

そんな私の居心地の悪さを察してか、担当のスタッフが2〜3ヶ月経った頃に話を聞いてくれて、「依存症かどうかがそこまで重要ですか?塚本さんも色々あって違法薬物のようなものを作って逮捕されて、会社をクビになって、ここにいるんでしょ。それって他の人とあまり変わらなくないですか」という言葉をかけてくれた。

その時に、「ああ、そうか。そうだよな」と。その時に初めて、自分も「ここにいていいんだ」と思うことができました。

誰に謝るべきか、「埋め合わせ」で洗い出し

ーー回復支援施設での体験はどのようなものだったのでしょうか。

当初は先ほどお伝えしたように飲食店にも入れず、電車にも乗れなかった。日常生活にかなり支障がありましたが、回復支援施設12ステッププログラムを受ける中で少しずつこうした恐怖心も薄れていきました。

私の場合、もともとの生きづらさというよりは逮捕後の生きづらさが特に大きな問題でした。その生きづらさに向き合い、自分一人ではどうにもできなかった「埋め合わせ」と言うステップに向き合うことができたのが一番大きかったと思います。

実は田中紀子さんにお会いした時にも、12ステッププログラムを受けることを勧められたのですが、一番やりたくなかったのが「埋め合わせ」というステップでした。

自分が誰に迷惑をかけたのか、自分が誰を傷つけ、誰に傷つけられてきたのかをリストアップしていく。そして、自分が謝るべき人は誰なのかを洗い出していく。

私一人ではこのステップを完了することはできなかったと思います。私の場合は施設の担当者と一つずつ丁寧に洗い出していきました。

逮捕後、自分はNHKのアナウンサーとして視聴者全員にご迷惑をおかけしてしまったと捉えていたのですが、だからといって視聴者全員に謝って回るのは不可能です。となると、これは埋め合わせできませんね、といった感じで住み分けをしていきました。

そのような住み分けが完了すると、次はどのような時に、どうやって謝るのかを考える。ここではその時の文言まで事細かに考えていきます。

このような取り組みを通じて、自分は誰に、どんな言葉で謝りたいのかを確認することで「もし、ここで誰々に会っても謝ればいいんだ」と考えられるようになる。結果的に飲食店に行く際や電車に乗る際に感じていた怖さは消えました。

撮影・黒羽政士

ーー「埋め合わせ」以外で印象に残っていることなどはありますか。

当時はテレビを見ることができなかったし、特にNHKの番組を見るのを避けていたんです。やっぱりNHKを見ると、知り合いや同期が出ている。反面、自分はもうそこに映ることはないのだと実感してしまうのが嫌だったのだと思います。

ある日、施設の中でアルコール依存で仕事から逃げ出してしまった人が、「俺、この辺は行けないんだよ」って話していて。僕も当時は「もう渋谷には近づけない」と思っていたので、同じように感じている人がいるんだと。

そうやって行きづらい場所があるのは私だけじゃないと気付くことができたのは大きなことでした。

(続く)

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コメント

2ヶ月前
匿名

話してくださって本当にありがとうございます!

2ヶ月前
まり

言葉が真摯でグッときました。

2ヶ月前
キャサリン

啓発ポスターの文言にくらってしまった、この声が麻防センター等関係各所に届きますように。

「依存症かどうかがそこまで重要ですか?」この言葉が胸に沁みる。

塚本さんのお話は、さすが言葉を生業にされているだけあって、とても明確で、ひと言一言を大切にしているのが伝わってくる。スッと心の深いところに届く。

写真がまた素敵で、心のヒダに柔らかく触れたり、ピリッと弱い電気が走るような感じがしてとてもよい。

2ヶ月前
maruko

Twitterで塚本さんがカフェしている呟き見て、回復してよかったな〜って思います

日常のささやからな幸せを感じる安堵を取り戻せて本当によかった〜

2ヶ月前
そらにじひめじ

ほんとうにありがとう

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