Addiction Report (アディクションレポート)

ギャンブルに依存し命を絶った兄、「自分は悪くなかった」と目を背けた過去に向き合う理由

ギャンブル依存症当事者の宮本雄二さんは兄をギャンブル依存症による自死で失っている。3回目の記事では亡くなった兄について話を聞いた。

ギャンブルに依存し命を絶った兄、「自分は悪くなかった」と目を背けた過去に向き合う理由
宮本さんの兄が亡くなる3週間前、還暦祝いの場で撮影された写真

公開日:2024/09/02 01:45

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自身もギャンブル依存症として苦しみ、現在ではギャンブル依存症問題を考える会の当事者支援部としても活動する宮本雄二さん。宮本さんには実はギャンブルに依存し、自死した兄がいる。

インタビュー3回目では、兄のギャンブル依存について話を聞いた。

自死選んだ兄、大学時代にはギャンブル理由に留年

ーー7月20日に開催されたギャンブル依存症自死遺族会立ち上げのセミナーでの講演で、お兄さんもギャンブル依存症当事者で最終的には自死を選ばれたというお話を紹介していました。

そうなんです。実は兄については、これまで基本的に話をしてこなかった。だからこそ、自分で兄について話をしてみて初めて、これまでずっと兄についての感情に蓋をしてきていたと気付かされました。

ーー当日の講演では時に涙も流し、兄への思いを打ち明けていましたね。

あれだけ泣いて、昔の自分だったら恥ずかしいと感じたと思うんです。でも、今は全部さらけ出すことができてよかったなと感じています。

ーーお兄さんがギャンブル好きだったことは昔からご存知だったんですか。

いえ、全く知らなかったんです。中学・高校時代は野球に熱中していましたし、正直そこまで兄のことに興味がありませんでした。しかも、兄は北海道の大学へ進学して、盆とか正月も基本的には帰ってこない。僕が高校に通っていた3年間のうち、兄が帰省したのは1回だけ。兄が何をしているのか、あまり知らなかったというのが正直なところです。

大学時代の宮本さん

そんな関係性が変わったのは、僕が大学4年生になった頃、兄と一緒に暮らしてからです。「このパチンコ台で月に40万円勝った」とか話をしていて、そんなに勝つの?とびっくりしたのを覚えています。

あとは僕の友達も交えて兄と一緒に麻雀をしたり、楽しい時間でした。

ーーお兄さんは大学時代にギャンブルにハマって、1年留年していた。

はい。でも、それもはっきりとギャンブルが理由でとは家族から聞かされておらず、なんとなく兄が父に「留年をさせてくれ」と頼み込む手紙を送っていたのを目にした程度でした。

兄が懇願していたのは、何となく記憶しています。

ーーお兄さんと父親との関係性はどのようなものだったのでしょうか。

兄が高校を卒業してからは、あまり会話をしていなかったと思います。話をしていたとしても、いつも素っ気ない。兄は6歳ぐらいの時に、重病になって3ヶ月くらい入院していたことがありました。父は父で口を開けば、当時のことを引っ張り出して「あの時に甘やかしたから、あいつはダメになったんだ」と言い続けていて…

あんなことを言われ続けていたらショックだっただろうなと今では思います。

ーー宮本さんご自身は、お兄さんとどのように向き合っていたのですか。

父に認めてもらうために、どこかで兄を見下していた部分があったと思います。そうすることで、「俺は兄貴よりも優れているんだ」と示そうとしていたんじゃないかなと。

父はいつも兄や僕を誰かと比べて、色々とダメ出しをしてくる。しかも同じ中学校から東大へ進学したような人と比べられたり…野球の試合で勝っても「そのぐらいで喜ぶな」と言われたり。

ありのままの自分を認めてもらって、褒められたという経験がないんですよ。

もちろん父も心の中では認めてくれていたのかもしれない。でも、そんな言葉が口から出たことはなかったので。僕は認めてもらったと感じたことはありませんでした。

そんな中でどうしたかというと、「俺は兄よりはすごい」という立ち位置を守るしかありませんでした。

親が隠していた1度目の自殺企図

ーーお兄さんはその後、小学校の講師として働き始めたものの自死をしようとしたり、ギャンブルでつくった借金が膨らんでいったわけですね。

兄は教員採用試験には受からなかったのですが、非常勤の講師として小学校に一時期勤務していました。2年ほどその小学校で働いていたのですが、ある日自殺を図って、入院を経て実家へ連れ戻されました。

大学を卒業して以降もギャンブルにはハマっていたようで、親が「2度とギャンブルはしない」と約束をすることを条件に300万円の借金を肩代わりしていました。

その後は実家を出て、簿記の専門学校に通っていたのですが、その中で再び借金が発覚し、親が再度肩代わりしました。ガソリンスタンドで勤務するようになってからは、給与については親が管理していたようです。

実は兄が一度自殺しようとしていたことは、生前は全く知らなかったんですよ。ギャンブルで借金をつくっていたことについても、親から聞かされていなくて。

完全にブラックボックスで、蓋をされていました。

1年ほど前、自分がギャンブル依存症の啓発に関わる活動をしていることを伝えるために地元へ帰ったんです。自分の埋め合わせのためでもありますし、とにかく何をしているのかを報告はしておこうと。

その時に色々と話している中で、兄の一度目の自殺企図の際に「兄ちゃんが車の中にいた状態で見つかって、一度実家に連れて帰ったんだ」と聞かされて。そんなことがあったのかと驚きました。

もうとにかく衝撃的で、親と泣きながら話したのを覚えています。

兄の死後、兄についての話題はタブーのようになってしまっていて、お互いあまり突っ込めない状態だったんです。

兄から届いた「あとは頼む」の一言

ーー父親の還暦祝いの直後に、お兄さんは亡くなったと伺っています。

兄は家族を代表して、父親の還暦祝いの段取りを進めていて、当日はお祝いの席なのにお酒も飲まずに僕の息子と笑顔で遊んでくれました。

やけに良い表情で息子のことをかわいがってくれていたので、そのことだけがとても印象に残っているんです。

今思えば、あの日の還暦祝いをしっかりとやり遂げることが兄にとっての最後の大仕事という位置付けだったのかもしれません。

その3週間後、朝6時頃に「あとは頼む」とだけ書かれたメールが届いて。これはおかしいぞと思った僕はすぐに実家の両親に連絡をして、兄の部屋を覗いてもらったんです。

その時には、もう兄は部屋にはいませんでした。

次に電話がきた時には、もう兄が亡くなった状態で見つかった後のことで。

兄は家の近く、海のそばで亡くなっていました。どうやら道具だったりを前もって色々と準備していたようです。

これは推測ですが、1度自殺をしようとしたことがあっただけに、2度目はより入念に準備していたのではないかなと。

やっぱり居場所がなかったんだろうなと思うんです。

ーーお兄さんは亡くなる直前までギャンブルをしていたのでしょうか。

亡くなる前日もパチンコ屋に行っていたようです。借金もサラ金だけでなく、親族から数百万円単位で借りていました。

僕もギャンブルで借金をつくってしまった人間なので、よく分かるんです。最初はどうにかなっていても、徐々に首が回らなくなってしまって。罪悪感も強くなっていく。

借り入れや返済について、さすがにもう限界が近づいていたのかもしれません。

ギャンブル依存、間違った対応しないためにも正しい知識を

ーーお兄さんの死について、どのように受け止めていたのでしょうか。

やっぱり兄が自死した直後は上手く受け止めきれなくて。本当にどうしたらいいか分からなかった。無理やり落とし所をつくろうと必死でした。

父に「兄貴はなんで死のうとしたんだろうね?」って尋ねると、「あいつは病気で亡くなったんや。心の病気や」と。当時はそれが一番腑に落ちるなと思ったのを覚えています。

その時はそれ以上掘り下げることをしなかったんです。蓋をしようとしたんですよね、僕も含めて家族全員で。

1度だけ借金の保証人になってくれないかと言われて断ったこともあったんです。だから、僕も目を背けたかったんだと思います。「自分は悪くなかった」と思いたかったんじゃないですかね。

掘れば掘るほど、辛い記憶しか出てこない。そして、そんな現実を直視せざるを得ないので。

ーー先日のギャンブル依存症自死遺族会発足のセミナーでは、どうすれば自死を防ぐことができたのかとポイントを挙げてお話しされていました。

当時思ったことというよりは、今だからこそ考えていることですね。

正直なことを言えば、兄の死について、すぐさま罪悪感を感じるといったことはなかったんです。ただ、依存症啓発や当事者支援にも関わる今、兄のような人の死を防ぐために自分の経験や体験を活かすことができるのではないかと考えています。

今まで兄の死から目を背けて、蓋をしてきたことへの反省含めて、何ができるのかを考えたいと思ってあの日はお伝えしました。

うちの実家の両親もそうですが、借金を肩代わりしたり、2度とギャンブルはしないと誓わせたり、金銭管理をしたりといったことは間違った行動です。しかし、多くの人はこういったギャンブル依存症や借金対応についての正しい知識を持っていません。良かれと思って必死に考えた行動が間違っているなんて、悲しいですよね。家族の努力が報われるためにも正しい知識が必要です。

だからこそ、より広く正しい知識を伝えていく必要があると思います。

また、兄が大学に在学していたタイミングで依存症予防に関する教育が行われていれば、兄自身が自分の状況についてギャンブル依存と気付くことができた可能性もあります。

さらに言えば、兄が初めて自殺を試みた時に依存症の入院治療や回復施設に関するアドバイスがあれば、その後が変わったかもしれません。あるいは私や親に借金対応の知識があれば、回復につながることができた可能性があると思います。

ギャンブル依存症は病気なんです。しかも、生死に関わる病気です。

仲間につながり、回復につなげるためにもまずは正しい情報をより多くの人に届けることができるように自分にできることを最大限頑張っていきたいと今は考えています。

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コメント

3ヶ月前
匿名

記事を読んで、より多くの人に正しい知識が広まるよう願いました。

私も広める一員になり、努力していきたいし、そうする事がギャンブラーの妻になってしまった意味なのかなとも思いました。

3ヶ月前
めぐみ

第3回は特に多くの人に読んでほしいです。

お兄様の、親の何気なく放つ言葉に傷つき、挽回しようと試みる姿を想像して胸が締め付けられました。

自分では「そんな筈ない」と思っても、他者に言われ続けると“真実のように”思い込んでしまうことはありますよね。

宮本さんご自身も、自衛の為に取ったかつての言動に、今も苦しんでおられるように感じました。

宮本さんの貴重な経験談を通して、1人でも多くの人が正しい知識を得て、助かる命が増えますように。

発信してくださってありがとうございます。

3ヶ月前
匿名

お話してくださってありがとうございます。これからのためにおつらい経験をお話してくださったことに感謝します。命にかかわる疾患なのだと理解できました。これから、もっとたくさんの方に理解がひろまって、いろんなタイミングでご本人やご家族が回復の道につながれますように。

3ヶ月前
匿名

お辛い経験をお話くださりありがとうございます。 

依存症による自死をなくしていくためにも、私たちにできることをやっていきたいと思います。

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