「感情面でもしらふになった」 新作映画で注目が集まる女優、デミ・ムーアは酒と薬物依存からどう回復したか
新作映画「The Substance」に主演し、注目を集めている女優のデミ・ムーア。実はアルコールや麻薬性鎮痛薬に依存した過去があります。どう回復したのでしょうか?
公開日:2024/10/01 07:27
アメリカでは最近、デミ・ムーアをあちこちで見かける。9月20日に北米公開された主演作「The Substance」のプロモーションで、メディアによく登場しているのだ。
90年代には数々のヒット映画に主演し、当時の夫ブルース・ウィリスとスーパーカップルとしてもてはやされたムーアは、ウィリスと破局した1998年からしばらく、3人の娘たちの子育てを優先し、アイダホ州で半引退生活を送った。2002年からは年1本ほどのペースで映画に出てきているのだが、どれも小さな作品で、主演でもなく、ほとんど話題になっていない。
だが、61歳にして主演した「The Substance」は、カンヌ映画祭で脚本賞、トロント映画祭でミッドナイト部門の観客賞を受賞。衝撃的なこの映画自体も、文字通り体当たりしたムーアの演技も、注目を集めている。賞レースに食い込める可能性もあり、本人も積極的に宣伝活動をしているのだろう。
実は、ムーアは5年前にもちょっとした話題を提供している。著書「Inside Out」が出版された時だ。人生の良かったことも、悪かったことも、真っ直ぐに振り返るこの回顧録では、人々が知らなかった暗い過去が赤裸々に明かされていた。
そのひとつが、依存症。今はすっかり回復しているが、彼女は過去に、アルコールや処方薬に依存し、違法ドラッグを使ったこともあるのだ。
不安定だった家庭環境
ムーアが育った家庭環境は、健全とはほど遠い。母はアルコールやドラッグに、父はギャンブルに依存。父が不倫をするたびに、相手の女から引き離すために母が引っ越しを主張したため、ムーアと5歳下の弟は、年に最低2回は転校した。母は、何度となく自殺を試み、救急車で運ばれている。本気で死にたかったというより、かまってもらいたかったのだろうと、ムーアは見る。
両親が離婚すると、父は弟だけを引き取り(ムーアは長いこと知らなかったが、ムーアは父にとって実の子ではなく、母がその前に短い結婚をした相手との子供だったのだ)、高校生だったムーアは母とロサンゼルスでふたり暮らしをするようになった。まだ15歳だったにもかかわらず、ムーアは、たびたび母に連れられてバーに行った。そのほうが男たちの目を惹くからだ。男たちから「姉妹ですか?」と言われるのが、母は大好きだったのである。
回復施設に入所し、いったん良くなるが......
そんな母を見て育ったムーアは、酒をやらないと決めていた。しかし、その決意は続かなかった。酒に手を出したのは、テレビドラマ「General Hospital」にレギュラー出演するようになった頃。映画「アバンチュール・イン・リオ」(1984)をブラジルで撮影した時には、酒だけでなく、コカインもやるようになった。
それを断つことができたのは、強制されたからだ。ムーアの酒やドラッグの問題について聞いていたジョエル・シューマカー監督は、「セント・エルモス・ファイアー」(1985)の撮影開始前に、回復施設に彼女を入所させたのである。まだ回復施設というもの自体が新しかった頃だ。
行くようにと言われた住所に行ってみたらそのまま30日間入所させられると言われ、驚いたムーアは、「16日後に映画の撮影が始まるのに、それは無理」と抵抗。シューマカーとプロデューサーは施設と交渉し、まじめにプログラムをこなせば特別に15日で出所させてあげるが、その後はカウンセラーが付きっきりで見張るという条件が与えられた。それは、彼女のためによかったこと。回顧録で、ムーアは、シューマカーに心から感謝を述べている。
パートナーに一緒に飲むのを誘われて、スリップ
その後長いこと酒から遠ざかっていたムーアが再び飲み始めるのは、15歳下のホットな俳優アシュトン・カッチャーとカップルになった時だ。きっかけは、バカンス先でのディナーで赤ワインを飲んでいたカッチャーが、「依存症って本当にあるのかな。適度に飲むならいいんじゃないのかな」と言ったこと。恋人と一緒にワインを飲めたらもっと楽しいのにという本音だったのだろう。実は、ムーア自身も、普通の人のようにそういうことをできたらいいのにと思っていた。今の自分ならコントロールしながらアルコールとつきあえるかもしれない。そう思ったムーアは、ホテルの部屋に戻ると、ミニバーからビールを出して飲んだ。
そこから少しずつ量が増えていき、やはり自分は「普通」にとどまれなかったと気づくのは、45歳の誕生日パーティだ。メキシコの超高級リゾートに友人たちを招待し、みんなとテキーラのショットを楽しんだムーアは、ジャクジーに浸かりながら意識を失ってしまったのである。幸い、誰かがすぐ引き上げてくれたが、少し遅かったら大変なことになっていたかもしれない。ホテルの部屋に連れ戻してくれたカッチャーは怒っていて、前日にやはり醜態をさらした自分の写真を見せられた。
オピオイド依存にも
さらに、同じ頃、ムーアは、歯の治療で麻薬性鎮痛剤オピオイドを処方され、依存してしまった。ジュリア・ロバーツ主演の映画「ベン・イズ・バック」やマイケル・キートン主演のドラマ「DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機」など数多くの作品にも描かれているように、オピオイド依存症は、何の疑いも持たない一般人を襲う恐ろしいものだ。ジョニー・デップも、映画の撮影中に怪我をし、医師から痛み止めとして処方された薬を言われるままに飲んでいたところ依存してしまい、抜け出す過程では死ぬほど苦しんだことについて、アンバー・ハードに対する名誉毀損裁判で語っている。
カッチャーに告白すると、「僕にできることはあるか」と聞いてくれたが、ムーアは「自分でなんとかする」と答えた。それで、ムーアは、カッチャーが仕事でヨーロッパに行っている間に、回復に挑んだ。デップも裁判で述べたが、その辛さは実際に体験した人にしかわからない。ヨーロッパから戻ってきたカッチャーは、ムーアに優しい言葉をかけてくれなかった。
そんなふたりの夫婦関係は、カッチャーの不倫がメディアに暴露されたことで破綻する。ムーアが離婚申請をしたのは、結婚から6年後の2011年。それからずっと、ムーアはまったく酒を飲んでいない。
「感情面でもしらふになった」
20年も禁酒をしたのに、それを破ることになり、また12年も禁酒を続けてきたことについて、ムーアは、「New York Times」に対し、「私はまたそのドアを開けてしまった。(適度な量だけで)うまくやっていけるかと思ったけれど、私はそれができるタイプではなかった」と語っている。
今は、「感情面でもしらふになった」とも、ムーア。「ドラッグ、アルコール、セックス、買い物などからしらふになるというのは、わかりやすいでしょう。でも、感情面でもしらふになれたことで、誰かのために本当にいてあげることができる。今の私は、居心地が悪いと感じる場面に直面しても、(酒やドラッグを使って)感情に麻酔をかける必要はないのだと知っている」と、「New York Times」に向けて語っている。
人生の長い間、依存症に向き合ってきたムーアの言葉には、真実の重みがある。
コメント
数年前に「Inside Out」を読みたすぎて、翻訳ソフトを駆使して仲間と読んだことがある。
育った環境もエンタメ界も壮絶で、なによりアシュトンがあまりにもクソ(失礼)すぎて胸が潰れそうだった。
そこから自分の人生を歩んでいくムーア。日本語版の出版を心待ちにしている。
映画の公開も楽しみ。
デミムーアは大好きなハリウッドスターの1人。
ハリウッドスターの中には多くの依存症者がいるが、回復という社会があるから周りが正しい対応を知っているかと思いきや、そうでもない人もやはりいるんだなと感じた。
私もアルコールに依存傾向なので、今は飲まないが、普通に飲めない事を忘れたくないと思いました。