Addiction Report (アディクションレポート)

書籍出版記念イベント「やめられない」から楽になる わたしたちの作戦会議 イベントレポート(前編)

8月26日、都内で『「やめられない」をどうするか きみと同じことで悩んでる大人たちの生存戦略』出版記念イベントが開催された。当日は著者6人を中心に「やめられない」への向き合い方について議論が交わされた。本記事では当日の様子をお届けする。

書籍出版記念イベント「やめられない」から楽になる わたしたちの作戦会議 イベントレポート(前編)
「やめられない」をどうするか きみと同じことで悩んでる大人たちの生存戦略

公開日:2026/09/07 02:00

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2026年7月31日に金子書房から発売された、『「やめられない」をどうするか きみと同じことで悩んでる大人たちの生存戦略』。

本書では「やめられない」に悩む若者たちに向けて、当事者と専門家が対話を重ねていく。

著者は精神科医の松本俊彦氏、大学教員の横道誠氏、漫画家の菊池真理子氏、アダルトビデオ監督の二村ヒトシ氏、編集者・ライター・Youtuberのだいまりこ氏、そして編集者・研究者の加藤浩平氏の6人。

8月26日、都内で本書の出版記念イベントが開催された。著者6人が登壇するほか、ライターのトイアンナ氏がMCを務める。

当日は年代も職業も異なる6人の登壇者が、「やめられない」についてトークを繰り広げた。参加者からは時折笑い声やどよめきが聞こえ、会場には不思議な一体感があった。

左から加藤浩平氏、菊池真理子氏、二村ヒトシ氏、松本俊彦氏、だいまりこ氏、横道誠氏、MCのトイアンナ氏

依存先を変化、分散させるのもコーピングの1つ

『「やめられない」をどうするか』では、「コーピング」という言葉がたびたび登場する。コーピングとは何か、著者はコーピングとしてどのような行動をとっているのか語った。

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松本俊彦氏(以下、松本):

コーピングとは、困難な問題が降りかかってきたときに、それを上手く乗り切るための方法です。

腹が立ったりとか、イライラしたりとか、不安だったりとか、我々はいろんな感情に襲われますよね。

その感情を自分の力で、他の人の力を借りずに簡易に緩和する方法のことをコーピングと言います。

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登壇者もまた「やめられない」の当事者。コーピングとして、お酒やタバコに頼っている経験について述べた。

横道誠氏



横道誠氏(以下、横道):

私は昔、お酒を日常的に飲んでいました。夕方に帰ってきて、6時ぐらいから日が変わるくらいまで飲む。

今はお酒だけでなく、今回のように誰かと対話をしたり、自助グループに参加したり、いろんな映像を見たり、コーヒーやゼロカロリーのコーラを飲んだりしながら、依存先の分散をしています。

加藤浩平氏(以下、加藤)

僕も以前、かなりのアルコール依存で、家でもかなりお酒を飲んでいました。 良くないと思い、家では絶対に飲まないと決めて、代わりに飲み屋を回るようにしました。今でも毎週末、ゴールデン街で飲み歩いています。

読書会のイベントに参加するとか、哲学対話に参加するとか。依存そのものは解決していませんが、だんだん他の方向へシフトしていく。

自分の依存先を半歩ずつ変化させたり、広げたりするのもコーピングかもしれません。

だいまりこ氏(以下、だい):

私はタバコを1日1箱吸っています。人によってはタバコを悪し様に言うけど、私がタバコをやめたらイライラしてしまう。

だから私は「タバコは1箱ぐらいなら吸っても大丈夫だ」と言ってくれる人で周りを固めています。

若いころにしていた、口外できないようなことよりは、タバコの方が全然健康だと思っている。 

だからやめられないけれど、心も体も含めて健康にそこまで悪くない対処法を見つけていくしかないのかなと思っています。

「やめられない」に悩む人は、どうすればいいか

「やめられない」に悩む人へどういう言葉をかけるか?という問いに対して、横道氏は「やめなくていいんじゃないですかね」と答えた。

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横道:

やめようとするからこそ、かえって欲しくなる。

やめようとするより、もっといろんな楽しいことを試して、好きなことを増やしていく方が安全な解決方法です。

私は自助グループで当事者の支援をしています。依存症そのものを変えるのはうまくいかないけれど、新しいことに挑戦すると状況が変化していくのではないかと思います。

例えば小さいころ好きだったけど、成長するうちにやらなくなってしまったものもありますよね。成長していくうちに興味がなくなったり、忙しさにかまけてできなくなっていたり。

そういうことに取り組んでみると新しい展開が起こり、心のよりどころにしているもののバランスが変わっていく。

だい:

私もやめられていないけれど、「やめられないね」と語り合えるだけでもすごく大きな一歩だったと思います。

この本から学んだのは、「やめられない」のは別のことで困っている状態だということ。

うちの息子もゲームをやめられない。でも、「この子は何に困っているんだろう?」と思いながら見るのと、頭ごなしに「ゲームをそんなに長時間(やるのは)やめなさい」と言うのは全く違う気もします。 


松本:

罪悪感を持つとコントロールが効かなくなってしまうことが多いので、基本的には楽観的に捉えるのがいいかなと思っています。

ただしやめられないものが、例えば痴漢とか盗撮だと問題がある。

社会的・医学的に危ないかどうか、また人に危害を加えるかどうかというところを精査しながら、少しずつ安全なものにコーピングの対象を変えていくのが無難だろうなと思っています。 

患者さんたちの中には、薬物をやめたらお酒に、お酒をやめたら食べ吐きや吐き戻しに、その後リストカットに依存する人がいる。

ずっと長い時間見てみると、依存する対象がだんだんとダメージの少ないものに変わっている気がします。

これはただ単に依存する対象が変わっているのではなく、生き延びるためにより安全なものにシフトしている途中なのかなと思います。そう考えてみると、いろんなものを肯定的に捉えられそうです。

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加藤さんは研究者の立場から、「子どもの持つこだわりは必ずしも悪ではない」と語る。

加藤浩平氏


加藤:

僕自身は思春期のいわゆる自閉スペクトラム症(ASD)と言われている子たちに、研究者として関わっています。どの子たちもいろいろなこだわりを持っている。

昔、自閉症のこだわりは病的なものだと言われていました。だからこだわりは悪いもの、周りから止められるものだと解釈される傾向がありましたが、最近は変わってきた。

今はスペシャルインタレスト(特別な興味)というような言い方で、フラットに捉えられるようになってきました。

スペシャルインタレストによって、本人の余暇が充実しているという研究もある。

自分のやめられないものが、自分や他者を傷つけるもの、罪悪感を生むものでなければ、どのようにして周りがそれを「いいね」と言えるのかが、僕は大事だと思っています。

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無理にやめようとすると、さらなる罪悪感を生む。こだわりの対象や頻度を、少しずつ安全なものに変えていくことがポイントになりそうだ。

やめようとするのではなく、まずやめられない理由と向き合って

漫画家の菊池真理子氏は、自身の経験を元に「『やめられない』の後ろにあるものを見てほしい」と語りかける。

菊池真理子氏


菊池真理子氏:

私の父親はアルコール依存症でした。

だから、今までの話をひっくり返してしまうかもしれませんが、実は依存症の人に対して「嫌だ」と思う気持ちがゼロではないんですよ。自分もいろいろなものに依存してきて、本まで書いているのに。

最初に「本を書きませんか?」 と言われたとき、本当は乗り気ではなかった。でも結果的に今回の本を通して、「依存症とか、お酒を飲む人は嫌だな」と思う気持ちがあっても、依存する背景を頭では理解できるようになりました。

どこまで心から納得できるかはまだ未知数だけれど、昔ほど(依存症の人に対して)嫌な気持ちはありません。

「自分も依存しているんだから、同じ仲間だよね」という気持ちもあるので、泥酔している人を見ても昔ほどパニックを起こさなくなりました。

何かやめられなくて困っている人は、お酒などのやめられない物質そのものではなく、その後ろで自分が何をしているのかを一回見てほしいと思います。

怖いだろうし、それを見たくないからお酒を飲んでいることはすごくわかるけど、一度向き合ってほしい。

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菊池氏の言葉に、二村氏も大きく頷く。


二村ヒトシ氏:

依存症は否認の病ですが、自分がなぜそうなっているか、ぜひちょっとだけ見つめてほしい。それが嫌で、できないからお酒を飲んだり、セックスに耽溺したりするんだけど。

僕の知っているセックスワーカーで罪悪感を持っていない人は、自分がなぜそれをするのか見つめている。だからそのこと自体はやめられなくても開き直れて、自分や人へ害を与えずに済んでいる感じがします。

菊池さんの話を聞いてもう一つ思ったのは「対話のグループで友達を作るのはいいことなんだな」ということ。

菊池さんは「アル中は嫌だ」と思いながらも、僕みたいに性依存の人間や、横道さんみたいなお酒を飲む人と仲良くしていますよね。 

この本でも何度も言っているけど、病気ではなく個人を見るのは大事だよね。


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前編ではコーピングという行動と、登壇者から「やめられない」に悩む人へのメッセージをお届けした。

後編では、依存している人に対するアプローチや、「やめられない」当事者の家族が支援につながる必要性について議論が交わされた。

【後編へ続く】

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