夏休み明け、子どもの様子に「あれ?」と思ったら――行動の奥に目を向けて(前編)
夏休み明けに子どもの不登校や自殺が増えることが、広く知られるようになった。近年では子どものスマホやゲームに対する依存も問題視されている。子どもの様子に「あれ?」と思ったとき、大人はどうすべきか?教育と診療の現場へインタビューを行った。

公開日:2026/08/29 08:00
夏休み明けを憂うつに感じる子どもは少なくないだろう。実際、夏休み明けの9月1日前後に小中高生の自殺が増えているというデータも報告されている。
自殺や不登校という形ではなくても、夏休み前と様子が大きく変わってしまう子もいるようだ。
まずは教育の現場、次いで診療の現場でお話をうかがった。
夏休みはあくまできっかけ
R先生は、都内の公立中学校に教師として勤めている。夏休み明けの生徒たちについて、まずはR先生に尋ねた。
――R先生が担当している生徒の中にも、夏休み中や夏休み明けに心の調子を崩してしまう子はいましたか?
はい、時々そういう子を見かけることがあります。
例えば夏休み明けから不登校になってしまったKくん。彼は大人しい性格ながらもユーモアがあり、クラスでも複数の友人がいました。
しかし、Kくんは夏休み明けから次第に学校を休みがちになってしまいます。夏休みの間にオンラインゲームにのめり込んでいたようです。
本人は不登校の原因を明確には話しませんでしたが、「ゲーム以外の相手を信頼できず、それ以外の人と関わりを持つのが怖い」と口にしていました。
話を聞いてみると、Kくんは家族との関係に悩んでいて、保護者自身の精神疾患などさまざまな問題を抱えていることがわかりました。
ゲーム以外のものにハマってしまうケースもあります。
Mさんは夏休み中に、リストカットやオーバードーズを繰り返していました。私たち教員がMさんの異変に気付いたのは、夏休みが明けてからです。
メンタルクリニックの受診や家族の協力により、Mさんはオーバードーズをやめられたものの、リストカットはなかなかやめられないようでした。
Mさんはリストカットのことを「自分が傷ついていることが視覚的にわかって、自己陶酔できる」と語っていました。
――KくんもMさんも、もともと悩みや心の傷を抱えていたのですね。
夏休みが元凶というより、子どもがもともと抱えていた問題が、夏休みをきっかけに明るみに出るように見えます。
夏休みは学校の授業がない分、生活リズムも乱れがちです。教員にも相談できる機会がなくなってしまう。
その結果、自己判断でトラブルを悪化させてしまうケースや、適切なSOSを出せず大きな問題を起こしてしまうケースも散見されます。
夏休みに雰囲気が変わる子ども
KくんやMさんによる行動の背景には、家族関係の悩みや傷つきがあった。このような子どもたちに、周りの大人はどう接すればいいのだろうか。
続いては診療の視点から、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長、松本 俊彦先生にお話をうかがった。
――夏休みや夏休み明けに診察をされていて、子どもの依存症による受診が増えるなどの変化を感じることはありますか?
夏休みに、依存症で受診する患者さんの数が目立って増えることはありません。ただ、夏休みの前後で子どもの雰囲気がガラッと変わってしまうことはありますね。
真面目だった子が不真面目になったり、髪の毛の色が変わっちゃったりとか。
学校の友人以外との交友関係が始まる場合もあります。
長期の休みなので、その間に少しはめを外してしまう。ただし、これは昔からよくある話で、今に始まったことではありません。
――学校の外で交友関係が始まる中で、薬物などの情報を得て、そこから依存に向かってしまうようなこともあるのでしょうか?
依存するような行動そのものを人から教わって始めるケースは、それほど多くないような気がします。
薬物に関しては、こっそり市販薬を使っていた子が、市販薬を乱用するコミュニティの存在を知って近付いたり、さらに違法薬物に遭遇したりする可能性はあります。
――学校外の交友関係は、多様な価値観を知るきっかけになる反面、薬物につながる情報にアクセスもできてしまうリスクもあるのですね。
子どもの変化、どんな背景があるのか?
――学校では、夏休み中にオーバードーズやリストカットなどの症状が悪化してしまう子もいるようです。
これは2通りの背景が考えられると思います。
1つはフラッシュバック。学校でトラウマになるような辛い体験をしても、その状況の中にいるうちはフラッシュバックは起きないんですね。
夏休みに入り、安全な場所に行って初めて辛さが増してしまう、という考え方ができます。
もう1つは、逆に家にいるのが辛いケースです。
学校の授業がなくなって、四六時中家にいるのがすごく辛くなってる子たちがいる可能性があるんですよね。
実際、コロナ禍が始まって学校が休校になり、「ステイホーム」という言葉が普及してから、私たちの外来に市販薬のオーバードーズやリストカットで受診する患者さんが一気に増えたんですよ。
つまり、学校が辛くて命を絶つ子もいる。一方で、学校があるから、生きてる子たちもいる。
夏休みにオーバードーズやリストカットをしている子がいたとして、その中には家にいるのがつらい子たちも混じってる可能性も考える必要があります。
――夏休み明けの学校がしんどくて、ついつい一時的に何かに頼ってしまうケースも考えられます。一時的に頼りにしている状態と、それがエスカレートして依存してしまっている状態は、どう違うのでしょうか?
状況が改善したり、学校に慣れてくれば自然とよくなる子もいます。
例えばリストカットによって周りが心配してくれて、状況がよくなるようであれば、それ以上リストカットする必要はなくなります。
一方で過酷な状況がずっと続いていて変わらないのであれば、そういう子たちはゲームやリストカットを繰り返すしかなくなります。頼っているもの1つで、今の状況をくぐりぬけようとする。
そうすると、どうしてもエスカレートせざるを得なくなるのかなと思います。
――ゲームやリストカットへ一時的に頼っていても、状況が変われば改善する可能性もあるのですね。
「やめられない」子どもへのアプローチ
――子どもがリストカットやゲームに依存している様子を保護者が見て、やめさせたくなるなことも多いかと思います。子どもの様子を見て「依存しているのでは」と感じたとき、保護者はどのようなアプローチをとればいいのでしょうか?
まず最初に、子どもがしんどさをまぎらわすための手段としてゲームなどの行動をとっている可能性を、頭の片隅に浮かべてほしい。
しんどいけど人に相談するほどでもないとき、大人でも何か単純なことに没頭して気をまぎらわしたりしますよね。Tik Tokのショート動画とか。
子どもたちにとって、例えばゲームがしんどい気持ちを紛らわす手段になっているとすれば、ゲームを取り上げることが根本的な解決にはなりません。
それから、よく大人が無理やりゲームを取り上げたりとか、もっと短い時間――例えば一日一時間にしなさい、とかってルールを決めたりしますよね。
子どもはどうするかというと、隠れてやるようになるだけですよ。保護者が注意してもいいけど、それはきっと子どもにとって何の解決にもならない。
保護者の方には子どもに、「あなたがゲームばっかりやってて、勉強する時間がなくなってるんじゃないかって心配なんだ」みたいに伝えてほしい。
本人が「確かにそうかもしれない」と同意するようなら、本人の案を取り入れながらルールを決めてみる。
「じゃあ一日何時間ぐらいだったら勉強の邪魔にならないと思う?」というふうに、あくまでも本人が主導でルールを決めたっていう形に落とすといいでしょう。
もし本人が「勉強の邪魔にはならない」と言うなら、しばらく様子を見てみる。その後に成績が芳しくないようなら、ゲームが関係している可能性についてもう一度話し合う。
子ども自身が決めたかのように持っていくことが大事かなと思います。
――ゲームばかりしている、リストカットをしているなど、子どもの様子に異変を感じていても、親が子どもとコミュニケーションを取りづらい状況があると思います。依存症に関する相談窓口は複数ありますが、保護者はまずどこに相談すればいいでしょうか?
子どもの考えや、子どもの中で起きていることがわからないときですよね。
最初に相談する場所として、僕は都道府県政令指定都市に少なくとも一箇所ある精神保健福祉センターをおすすめしています。
もちろんそこから児童相談所など、別の機関を紹介されることもあるかもしれませんが、最初の窓口としては最適だと思います。
――全都道府県にあるのであれば、場所問わず相談できますね。
※厚生労働省のホームページに、全国の精神保健福祉センターが掲載されている。
前編では、夏休みをきっかけにスマホやゲームへの依存、リストカットやオーバードーズをしてしまう子どもたちの背景について、教育、診療の視点で紹介した。
「依存症という概念が広まってきたのはいいことだと思う。一方で『依存症』というカテゴリにとらわれると、その背景を見落としてしまう可能性もある」
松本先生は昨今の状況に対する懸念点も指摘する。
中編では、現状の課題やスマホとのほどよい距離感について、引き続き松本先生に解説していただく。
(中編に続く)
(参考)
