「アルコール依存症についてもっと知ってもらいたい」バンドマンの宙也さんが断酒に至ったワケ
2023年にアルコール依存症の治療中だと公表した、バンドマン歴43年にもなる大ベテランのロックバンド、「アレルギー」「De-LAX」「極東ファロスキッカー」のボーカリストの宙也さん。現在は精神科でカウンセリングを受けつつアルコールを2年半やめ続けている。
公開日:2024/10/10 02:00
80〜90年代に活躍したロックバンド、「アレルギー」「De-LAX」のボーカリストで現在は「極東ファロスキッカー」というバンド活動を行っている宙也さん。宙也さんは2023年春にアルコール依存症の回復中であることをSNSで公表した。現在は精神科に通院しつつ2年半断酒中だ。ミュージシャンはアルコール依存症に陥りやすい印象がある。宙也さんがアルコール依存症に陥った理由と断酒に至った経緯を聞いた。
ライブ後に飲んでいたのがライブ前に飲むように
「今の若いバンドマンはそこまで頻繁に打ち上げを行わないようですが、僕の時代はライブ後には必ず打ち上げがありました。初めてライブハウスのステージに立ったのは19歳のとき。そこから本格的にバンド活動を始め、ライブ後は朝まで飲むわけです。最初は打ち上げというゴールのためにライブをして飲んでいたのが、次第にゴールの前に飲むようになっていきました」
また、20代の頃は若者が集う安い居酒屋でバイトをしていた。めちゃくちゃな飲み方をして泥酔したお客さんがトイレを汚すこともあるストレスも多い仕事で、お客さんに生ビールを提供するふりをして、サーバーからジョッキにビールを注ぎ、「しゃがんでこっそり飲み干すビールは美味しかった」、それがお酒を美味しいと思う始まりだったかもしれないという。
「僕、もともとお酒が強いんです。アルコール依存症になりやすい人はお酒が強い人だと通院している病院で教えてもらいました。飲んで乱れることもないので。そして、もともとの性格が考え込みやすいんです。ライブの曲順をどうしようとか、ミーティングをどうしようかとか、今日家を出たときの妻の表情はどうだったとか、他にも些細なことです。その考え込みを忘れるというか、中和するのがお酒でした。
家族が寝静まった後に深夜3時〜4時まで深酒をして不安を払拭させていました。いつの間にか家には業務用の4Lの焼酎を常備するようになっていましたね。スタジオでのリハーサル前にも飲むようになったのですが、メンバーは誰も僕がお酒を飲んでいることに気づいていないようでした。
でもライブになると、歌詞を忘れてしまうのではないかと不安で歌詞をiPadに表示させて歌うようになりました。忘れたのではなくただの不安です」
20代後半からは仕事後に駅のコンビニで缶ビールを買って帰り道に飲むようになった。家に帰ると家族がいてゆっくり飲めないので帰り道だったという。また、お酒がないと人とうまく話せないようになった。例えばカード会社に電話をしないといけないとき、電話をかける前にお酒を飲んだ。そして、5〜6年前からはペットボトルに焼酎やウィスキーを入れて持ち歩くようになった。
ライブ前に緊急搬送され精神科に入院
そんな生活を送っていた宙也さんは2年半前、ライブ前に緊急搬送されてしまう。
「翌日ライブだというのにまた深酒をしていて朝になっていたんです。それで、シャワーを浴びて自転車に乗って駅まで行かないといけないのに、手足に力が入らないんです。なんとかシャワーを浴びて自転車に乗ろうとしたのですが、足が上がらない。それで、妻に介抱されながらライブハウスにたどり着いたのですが、歩くのがやっと、座ったら立てなくなり、救急車を呼ぶことになってしまいました」
この緊急搬送されたリアルな模様は『Godspeed U』という楽曲のミュージックビデオの冒頭に収められている。いつもライブ撮影をしてくれる映像監督さんが撮ってくれたそうだ。これは還暦の誕生日から2ヶ月後のことだった。
「緊急搬送されている最中も意識はあったのですが、とにかく体が動かなくて。緊急病院に入れられて一泊、内科にするか精神科にするか妻が聞かれたそうで、妻の判断で精神科を受診することになりました。妻も、お酒を飲み続けている僕と話が噛み合わないことなどで依存症ではないかと気づいてはいたようです」
緊急入院となった宙也さんは2日間、アルコールを抜く点滴を受けた。この点滴が強烈で、大量の発汗と30分おきにトイレに行きたくなることの繰り返しだったという。そして、悪夢にもうなされた。本来なら3ヶ月の入院と言われたところを、どうしても演りたい公演が迫っていたので3週間で退院した。その入院中にアルコール依存症について勉強した。
「もともと薬を飲むのが嫌いで体調が悪いときは漢方薬を飲んでいました。でも、アルコール依存症の治療のために断酒をしたら離脱症状と睡眠障害になり、睡眠薬と精神安定剤、飲酒の欲求を抑えるレグテクトという薬を処方されました。レグテクトは飲んだ後の倦怠感がひどく、数回しか飲んでいません。
AA(アルコホーリクス・アノニマス。アルコール依存症の人のための自助グループ)にも参加したのですが、暗い話が多く、どうも僕には合わなくて参加をやめてしまいました」
実は宙也さんは緊急搬送される前、自分はアルコール依存症かもしれないと思い自ら2回、精神科に予約を入れているが当日になってキャンセルしてしまっている。お酒をやめたいという気持ちは、5〜6年前あたりからあったのだという。
「退院後はまだ離脱症状や不眠症にしばらく悩まされました。体もなかなか言うことをききませんでした。アルコール依存症の治療中だと公表したのは治療から1年経ってからです。自分は回復しているなと感じたので公表しました。
断酒してからは良いことがたくさんです。朝、起きたとき気持ちが良いんです。今は夜12時前には眠くなって寝てしまいます。お酒を飲んでいたときは何か考え込んで、お酒を飲んで後回しにしていたのを後回しにしなくなりました。やらなければならない次のことに対しての不安もなくなりました。そしてミュージシャンとして一番うれしいのは耳が良くなったことです。メンバーの演奏がよく聴こえるので歌をうまく歌えるようになったんです。
また、今までお酒を飲んでいた時間をヨガや筋トレ、ウォーキングにあてています。お酒を飲んでいたタイミングでヨガです。毎日コツコツやることが好きになりました。毎日お酒をコツコツ飲んでいたのでそれと同じなんですかね(笑)」
依存症について正しい知識が広まってほしい
また、宙也さんが強く主張するのはアルコール依存症についてきちんと知ってほしいということだ。病気であるということを知らない人には「だらしない」「意志が弱い」という印象を持たれる。アルコール依存症であることを公表した際、周りから「一杯くらいならお酒は薬にもなりますよ」と言われたそうだが、それはアルコール依存症について知識がないからこその発言だと宙也さんには思えた。お酒を飲んでいた頃に受けた健康診断の結果は肝臓の数値が最悪だったのが、最近受けた健康診断ではオールAだった。
「自分の周りではアルコール依存症が一因で亡くなった友人もいます。まさに今、アルコール依存症に陥っていて『病院を紹介してくれないか?』と助けを求めて連絡してきた友人もいました。治療が始まってから志半ばで亡くなった友人もいます。
実は最近、ご縁があって保護猫を飼い始めたんです。まだ子猫なのですが、譲渡してもらう際『猫のためにあと20年は生きなきゃね』と言われました。亡くなった友人のためにも、今のバンドメンバーのためにも、僕はもっと歌いたいし猫のためにもお酒をやめ続けます。何よりも、迷惑をかけた家族との過去を取り戻したい。明るい未来にしたい。主治医からは断酒から2年がスリップ(再飲酒)しやすいと言われているので気を付けています」
ちなみに緊急搬送されたのがコロナ禍だったので、退院後も飲み会の機会がなかったのも幸いしたそうだ。最近、久しぶりにライブ後に打ち上げに出たが、周りがお酒を飲んでいる中、宙也さんは炭酸水を飲みながら話もできて、何の苦痛もなかったという。
宙也さんはずっと歌っていたいという目標がある。今は3ヶ月に一度通院してカウンセリングを受けている。宙也さんの歌を心待ちにしている人のため、大切な家族のために回復し続けていけることを願う。
コメント
たぶん依存症の53です。
ずっとお話し聞きたいな、と思っていたので、良かったです。
ファロキの2枚目くらいから、宙也さんの歌詞の雰囲気が変わったな、と思ってました。
「生まれた性別関係なし!」と言い切ったり。
「ジャジャジャーン、アチョー!」の遊び心とか。
突き抜けてるなー、と思い、微笑みながら聴き入りました。
また、リンダガレージに2度ほど参加しましたが、歌ウマ!!!と思いました。いい意味でこんな声だっけ⁈とも。
良い影響が見受けられること、ファンとして嬉しい限りです。
僕は今のところキッパリ断酒は無理そうですけど、量や飲む時を減らしていってます。
最後に質問です。
身体が動かなくなった原因は何だったのでしょうか?
お聞かせいただけたら幸いです。
ほぼほぼ同じ思いです。
世代が近いので、我々の時代は飲んでなんぼ!みたいな感じだったので、共感します。
自分も、AAとかは合わずで、身近なアル中仲間と話してるほうが、なんとなく?なぐさめ合えるって感じで、、でも飲酒は止めれずにいます。断酒、、しないとですね?!
宙也さん、お話ありがとうございます!
私の青春時代はバンドブームでした。
宙也さんはど真ん中でした。
私は医療職としてアルコール依存症に関わっています。その中で宙也さんがアルコール依存症であることを公言され、このようにお話してくださることに一方的に縁を感じて、嬉しいです。
また宙也さんのライブに行きます!
ネコちゃん、ご家族と健康で歌い続けてください。
私がずっと好きだったあっちゃんは先に行ってしまった…その分宙也さんには長く唄って欲しいです。
めっちゃ共感しました!私も考え込みやすい性格なので…。お話ありがとうございます。お酒を絶ってからの生活、すてきです。ねこちゃんのためにも、健康でいらしてくださいね。
バンドやってる友人も結構な量の酒を飲んでいた。
宙也さんがおっしゃっているように、打ち上げのたびに朝まで飲んでいた。
ジャンクなつまみを美味しいと思って食べながら。
酒をやめてから最初に驚いたのは、美味いと思って食べていたつまみがよくこんなの食べてたなというレベルのひどい代物だった、と笑っていた。
その友人のことを思いながら読んだ。
宙也さんの歌は優しい。治療が間に合ってほんとによかった。
音楽、仲間、ご家族と保護猫、絶妙なバランスだなあ。
話してくださったことに感謝。