Addiction Report (アディクションレポート)

アディクションを繰り返す中で刑務所暮らし。そこから回復の道へ〜クロスアディクションを抱えた湯浅静香さん(下)

さまざまな依存症を繰り返した湯浅静香さん。合法、違法問わず、ハマっていった。結婚するが、生活に刺激がなくなる。そんな中、万引きで逮捕され、実刑判決が下り、刑務所生活をした。ただ、そこが気がついたことがあった。

アディクションを繰り返す中で刑務所暮らし。そこから回復の道へ〜クロスアディクションを抱えた湯浅静香さん(下)
元受刑者や依存症者の家族からの相談を受ける湯浅静香さん(撮影:渋井哲也)

公開日:2024/10/15 22:00

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 クロスアディクションを経験した湯浅静香さん(44)は現在、元受刑者や依存症の人たちの回復を手助けしている。

キャバクラのイベント・チャイナドレスデーで(提供:湯浅静香さん)

現在、刑務所に服役している受刑者との文通もしている。依存症を積み重ねていき、人生がどん底になっていく。そんな中、現在の夫との出会いは、回復の第一歩だったのかもしれない。しかし、依存症の世界からは抜け出せないでいた。結果、窃盗罪で実刑となり、刑務所に入ることになった。

薬物依存症で思考力が弱まっている中で、夫と結婚。

 薬物に依存する中で知り合った夫と結婚したのは、理性的な思考ができていない状態の時だった。婚姻届を一人で区役所に出しにいった。

 「銀座の店の客でした。貢がせた意識がありましたが、夫は知識があるし、訴えられたらどうしよう、もしかしたら結婚詐欺になっちゃうかもしれないと思い、自分から『結婚しよう』と言いました。うちの夫って、父に似ているんですよ。顔じゃなくて、温和な感じが。父の面影を追っていたのかもしれない。この人と一緒にいれば生活は困らないだろうという黒い心もありましたが…。

 夫も驚きつつも承諾しましたので、夜中に婚姻届を出したんです。早く行った方はいいかなって。もう普通の考えじゃない。薬でおかしくなっていました。『さっさと出しちゃえ』って感じでした。『きょう、大安じゃん』って。普段は、私は大安とか気にしない。このときの記憶はところどころないんです」

  夫を母親に紹介したものの、母親もこの頃はギャンブルと向精神薬に依存していた。

「母にも紹介はしました。『この人と結婚しようと思う』って。母は『もうわかった。いいんじゃない』って感じでした。この当時、母はギャンブル漬け。睡眠薬とかも結構飲んでいました。母と私が2人揃って、向精神薬とギャンブルに依存していた。だから、夫に『あの頃、こうだったよね』と言われても覚えていないんです。ところどころ記憶が抜けています」

結婚生活は幸せだが、刺激がなりない

 結婚後の生活はどのように変わったのか。

「母も含めて3人で暮らしていました。結婚後も普通に風俗で働いていたし、その後もドクターショッピングは続いていました。で、結婚生活はむちゃくちゃつまんない。刺激がなく、つまらないけど、幸せでした。ただ、幼少期から母を見ていて、私は『絶対、こんな妻になるもんか』と思っていましたが、自分も掃除もしない、食事も作らない。そうなっちゃったんですよ」 

一方、薬物やギャンブルにハマっていたため、かつて遊び場にしていた夜の街・歌舞伎町には近寄らなくなった。

「薬物も買いに行ったし、ホストにもハマっていたし。『ロマンス』という店がめちゃめちゃ全盛期でした。裏カジノの裏スロがいっぱいありました。なので、夜の歌舞伎町はフラッシュバックしますね。思い出しちゃう。極力、一人で行かないようにしています。ホストには行かなくなりますが、ギャンブルは全然止まらなかった。結婚後もやっていました。『スーパービンゴ』や『吉宗』が撤去されて、5号機全盛の時期です。でも、それらの台を打ちたい。打つには裏スロしかない。でも、裏スロ店の摘発があり、遠隔操作がひどいなどの噂もあり、行くのをやめました」

 ただ、毎日の生活が退屈だった。だからこそ、刺激を求めた。過去の華やかな生活を思い出し、向精神薬への依存度も増していく。

キャバクラで働いていた頃(提供:湯浅静香さん)

「毎日家にいるんですよ。刺激がない。いいときの記憶が蘇ります。夜の店では、私の誕生日に胡蝶蘭に囲まれて、毎回新作のブランドバッグを買っていました。でも、なんで、今はこんな惨めな生活をしているんだろう?と思ったりしました。別に、惨めな生活じゃないんですよ。でも、その頃に比べると感じちゃう。援交している時だって1回7万円が入ってきた。今、全然、お金ない、過去の栄光を引きずっていました。刺激がないから、向精神薬を飲む量が増えました。フリスクケースに詰めて、常に食べていました」

過去の栄光に縋ったのか、万引きを繰り返した

 そんな時万引きを繰り返した。逮捕され、実刑となり、刑務所暮らしになる。

「夜の仕事の時は買い物の依存だったこともあったので、値札を見ないで服を買っていました。新作が入ったら店から電話がかかってくるほどでした。家には服が山ほどありました。結婚後もそれを味わいたかったんだと思う。万引きをして部屋の中がモノで溢れていく。そんなときに捕まるんです。1回目は店の人に取る瞬間を見られてしまったんです。そのときはお金を払って帰されました。2回目には逮捕され、罰金50万円。3回目は執行猶予。4回目で実刑でした。4回とも服を盗んだんですが、取り調べで盗んだ服を見て、全然好みの服じゃないって思いました」

 ちなみに、万引きで3回逮捕されても、「常習窃盗罪」にはならない。「盗犯防止法」で「常習窃盗」となるのは、過去10年以内に窃盗・窃盗未遂罪で懲役6か月以上の刑の執行を3回以上受け、刑務所に収監された経歴が要件になる。湯浅さんの場合、実刑は1回のみだ。窃盗症かどうかも問われていない。

アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計の手引き」(DSM―5)によると、

A.個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。

B.窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり

C.窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感

D.その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない。

E,その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。

「この頃は、窃盗で依存症があるというのはまだまだ裁判では指摘されていませんでした。しかも、これまでいろいろやってきたのに捕まらなかったんですよ。たとえば、21歳の誕生日に自分で買ったベンツで事故を起こしました。新宿のホテルでドラッグパーティーをした帰りでしたが、警察が来ても薬物の検査はされませんでした。まともにしゃべっているので、警察も思いつかなかったんでしょ。覚醒剤や大麻ならわかったかもしれないけど、ケミカル系だったんで…」

 薬物使用で逮捕されてもおかしくなかったが、切り抜けていた。ただ、窃盗による逮捕が続いた。3回目の逮捕は、執行猶予が決まってから2週間以内だった。

「私、本当に無知だったんです。執行猶予の後は実刑って、学校では勉強してないじゃないですか。一般の人って執行猶予もよくわからない。留置所でベゲタミン(製造中止となった睡眠薬)や向精神薬が定量出て、ラリっていました。だから正常になることもない。でも、逮捕されて、精神鑑定を受けました」

クロスアディクションを指摘され、安心した。それから回復の道へ

 鑑定の結果、鑑定医にはさまざまな依存症を指摘された。

「(鑑定医に)『君は典型的な依存症だね』と言われました。『性に奔放なところ、買い物がとまらないところ、薬物もギャンブルも窃盗も、全部、依存症だね』と。初めて、わけのわからない自分の行動に病名がついて安心しました。先生に『どうすればいいんですか?』と泣きながら聞くと、『依存症は治らないけど、回復はできるから』『出所したらちゃんと依存症の病院に行きな』と言われました。警察の護送者の中では『我々は仕事柄、薬物依存の人をたくさん見る。(逮捕されて)戻ってくる人が多い。あなたはそうなってほしくない』と言われました」

こうした経験を活かして今、オンライン相談のサービス「碧の森」をつくり、依存症者やその家族、受刑者の家族の相談を受けている。きっかけとなったのは、刑務所内で元ヤクザの牧師、進藤龍也さんの講話が流れたことだった。

「刑務所にいた人がやり直せたんだって話をしていて、感動しました。こうなれたらいいなと漠然と思いました。どうすれば立ち直れるのだろうと思い、受刑者たちのヒアリングをしたんです。共通点が多くありました。私の人生を遡ったんです。なんでギャンブルにハマったんだろうって…、徐々に心の棚卸しをしていきました。そんな中で仮釈放です。夫には見捨てられたと思っていたら、疲れた表情の夫が迎えに来てくれました」

出所後は生活を建て直す中で、夫との信頼関係も回復していった。ブログで幼少期からこれまでの経験を書いていくと、受刑者や依存症者の家族から相談が寄せられた。

国家資格であるキャリアコンサルタントの資格を取り、相談業務を始めた。 相談者は受刑者や依存症者の家族が多い。現在も、通信制の大学に入学し、社会福祉士や精神保健福祉士を目指している。

自身の経験からできることを今も模索中だ。

(おわり)

碧の森

https://aono-mori.com 

湯浅静香Ch

https://www.youtube.com/@shizuka_yuasa

湯浅静香のXアカウント

https://x.com/shizuka_yuasa

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