Addiction Report (アディクションレポート)

“トー横”から消えた若者たちはどこへ…進む排除の動きと、歌舞伎町の現在地

新宿・歌舞伎町の新宿東宝ビル横、通称「トー横」。家庭や学校に居場所がない若者が集まる場所として知られ、市販薬のオーバードーズ(過量内服)や自傷行為などをする若者も多いといいます。しかし今、そのトー横の景色が変わってきていると聞きました。

トー横に起きている変化とは、なんなのでしょうか。救急医であり、現場で若者支援に携わる茂野綾美さんに、現在の歌舞伎町を案内してもらいました。

“トー横”から消えた若者たちはどこへ…進む排除の動きと、歌舞伎町の現在地
救急医であり、現場で若者支援に携わる茂野綾美さん。新宿東宝ビル横、シネシティ広場の前で(筆者撮影)

公開日:2026/11/03 02:00

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10月のとある金曜日の夜。新宿・歌舞伎町の新宿東宝ビル横のシネシティ広場を訪れると、パトカーが広場前を陣取り、何人もの警察官が警備をする物々しい光景が広がっていた。「トー横キッズ」と呼ばれる若者たちの姿はあまり見当たらない。

新宿東宝ビル横、通称「トー横」周辺。左奥にパトカーが見える。週末や連休などは取り締まりを強化していることが多いという(筆者撮影)

「一斉補導などの物理的な排除が繰り返し行われるようになって、逮捕されたり留置されたりする子も多いです。でも、見えるところで捕まれば、見えないところへ行くだけですよね。今も平均すると1カ月に1人くらいのペースで、人が亡くなっているようです。若者たちはいなくなったわけではなく、大人たちの目から見えづらくなっているだけのように思います」

夜の歌舞伎町を歩きながら、そう切り出したのは、救急医であり、2025年からトー横に集まる若者たちの支援に携わる茂野綾美さんだ。

茂野さんは常勤の救急医として働いてきた中で、自傷や薬の過量内服などの患者の救急対応を何度もしてきた。だが、病院で提供する医療だけでは救えないことに限界を感じるようになり、現在は大学院で公衆衛生を学びながら、歌舞伎町の若者の支援活動を行っている。しかし、白衣を脱ぎ捨てて若者の隣で話を聞くようになると、今度は病院での医療の必要性も感じるようになり、今は週に1、2回非常勤の救急医として当直もこなす。

警察による取り締まりが強化されたトー横の若者たちは、今、どこでどう過ごしているのだろうか。そして、そうした若者たちへの支援のあり方とは。歌舞伎町の町を歩きながら、茂野さんに話を聞いた。

パトカーが張り込み、柵で覆われた歌舞伎町の今

「今日は警察がいるせいか、人が全然いないですね。SNSで取り締まりの情報などが出回っているんです。でもいつも朝ここを通ると、人がゴロゴロ寝ていますよ。お酒を飲んだり、市販薬を過量内服したりする人もいます」

茂野さんは、そう言いながら歌舞伎町を案内してくれた。トー横と呼ばれる新宿東宝横広場には、青色の柵が設置されており、イベント時を除いて中に入ることはできない。

あちこちに禁止事項が掲げられていた(筆者撮影)

「10代の子どもたちのことが割とセンセーショナルに取り上げられていますが、私が関わっている支援施設にくる人たちの年齢の中央値は20代で、世間が思っているよりも大人なんです。もちろん 10代の子もいるんですけど、未成年の場合は支援者側も児童相談所や警察に連絡をして、保護してもらったり、可能なら家に帰ってもらったりすることができるんですが、大人だと帰る場所がないですね」

警察の取り締まりのため、人が少なくなっていた東宝ビル横の広場を離れ、北側の「大久保公園」に向けて歩く。近づいてきたのは、直径5センチほど、高さは155センチの私の身長の2倍ほどもあるような、鉄柱の柵だ。

大久保公園の周辺に設置されていた鉄の柵は、かなりの威圧感がある(筆者撮影)

「これが大久保公園です」

茂野さんにそう言われても、しばらくはそれが公園であることに気付けなかった。公園というよりも、むしろ刑務所のような印象だったのだ。公園に張り巡らされた柵には、赤と黄色の警告カラーで「この付近での待ち合わせをはやめてください」という看板がかかっていた。

公園に掲げられた警告(筆者撮影)

柵の周りに、スマホを手に持った若い人たちがちらほらと立っている。

「周りに立っている子たちは、いわゆる買春客を待っている子たちですね。彼らは客をとることを『案件』と呼んでいますが、Xでいくつもアカウントをつくって、仕事をしているようです。逆にインスタやTikTokはお友だちを作るためのツールで、使い分けをしています」

よく見ると、客待ちをしているのは女性だけではなく、男性の姿もある。

「男女は半々ぐらいで、体を売っている男の子もいます」

私立一貫校に通う子や留学生も…“トー横キッズ”の実態

モノトーンを基調として、フリルなどの甘い要素とスタッズなどのハードな要素がミックスされた、いわゆる地雷系のファッションが、トー横キッズの象徴だと言われている。だがざっと見る限り、ごく普通のファッションの若者もいるようだ。

「トランクを引いて歩いている子たちは、家出をしてきた子であることが多いです。歌舞伎町に集まる子たちの半分以上は都外からと言われていて、埼玉、群馬、栃木、茨城、千葉……北関東が多いですかね」

取材をした日は「いつもより若者の姿が少ない」とのことだったが、それでもトランクを引きずる人を何人か見かけた(筆者撮影)

1時間ほど周辺を歩いて東宝ビル横の広場に戻ると、パトカーと警察官の姿が消え、人数は少ないものの、若者が集まりだしていた。彼らはどこに寝泊まりしているのだろうか。

「ネットカフェを使う子たちもいますが、彼らがいつも泊まっているホテルというのがいくつかあって、そこに寝泊まりしている子が多いです。歌舞伎町で稼いだお金でホテルに泊まったり、お酒や薬を購入したりしているようです」

格安のホテルが立ち並ぶ歌舞伎町のホテル街(筆者撮影)

茂野さんによると、このあたりに若者が集まりだしたのは、2018年頃からのようだ。当初、若者たちは東宝ビル横の路地にあるカラオケ店前に集まって自撮りをしていた。その若者たちを、周辺の店で働く女性たちが「キッズ」と呼び始め、次第に若者たちが自ら「トー横キッズ」と自称するようになったという。2021年頃から、集まる場所がカラオケ店前から東宝ビル前の広場に移動し、現在では広場周辺を「トー横」、かつてのカラオケ店前は「旧横」と呼ばれている。

「旧横」と呼ばれるカラオケ店の前のエリア(筆者撮影)

「何カ月も歌舞伎町に“住んで”いる子もいれば、自宅に住みながら歌舞伎町に通ってくる子もいます。ごく普通の子が多いですよ。中には別に親との関係性も悪くないし、私立の中高一貫校に通いながら、親には内緒でトー横に通う子もいます。偽名で生活している子が多いですね」

家庭や学校に居場所がない若者が歌舞伎町に集まるのだと思い込んでいた私は、学校や自宅での生活と並行して歌舞伎町に通う子どもたちがいると聞いて驚いた。一体どういうことなのだろうか。

「もちろん家庭が機能していないというケースもあります。でも、保護者とお話すると、必ずしも機能していないご家庭ばかりではないと感じています。誤解を恐れずに言えば、ちょっと“バーチャル”に近いのかなと思うんですよね。 SNS の中のキラキラした世界で、お金を稼いで、みんなでホテル泊まって、なんか楽しそう、みたいな感じで足を運ぶ子も一定数いると思います」

若者たちが選択する、したたかな生存戦略

歩いていると、「おねーさん、イケメンいかない?」と声をかけられた。ホストクラブへの勧誘だ。茂野さんは慣れた様子で「イケメンいかない」と応じる。「え〜イケメン行こうよう、1000円から行けるよ?」と畳み掛ける客引きの男性。

ホスト街、ホテル街、キャバクラに居酒屋。あちこちにきらめくネオンサインや人のうねりを見ながら、私はずっと落ち着かない気持ちになっていた。この場所を住処として暮らしている若者たちは、どんな気持ちなのだろう、と想像してみる。

「性感染症にかかっていた10代の女の子に必要な治療をして家に帰しても、数カ月後に戻ってきてしまったことがありました。治療して自宅に戻せばいいってもんでもないんだってその時に思ったんです」

「お仕事」をする若者が路上に立っている姿が見受けられた(筆者撮影)

私にも10代の子どもがいる。親として、なにに気をつけたら良いのだろうか。

「生まれてきてからの成育歴も含めての今があるんだとすると、『こうすればいい』っていうのは一概に言うことは出来ないですね。ただ、世の中が思っているほど家庭にも学校にも居場所がなくて困窮してる若者ばかりが集まっているとは限らないと思います。若者たちなりの生存戦略があって、したたかに生きる方法の一つだという感じがするんですよね」

さらに茂野さんは、「TOYOKO KIDS」という言葉はSNSを通じて海外にも広がり、観光名所のような要素も帯びてきていると続けた。

「海外からこの光景を見に来る人もいるし、実際に体験したいと思う人たちが一定数いるようです。"トー横キッズごっこ"をしにくる海外の若者もいます。以前出会った北欧からきた10代の女の子は、トー横キッズをやってみたくて日本に来たと言っていました。他にも自傷行為や薬の過量内服をしている留学生の若者たちが集まってきていて、一種の聖地のようになっているんだと思います」

驚きつつ、試しに英語で検索をしてみると、フランス、スペイン、中国、タイなど、世界各国の人が言及している投稿が見受けられた。

再開発計画から始まった支援と、排除によるいたちごっこ

では、このトー横に柵ができ、若者たちを排除する動きが始まったのは、いつ頃から、なぜなのだろうか。調べてみると、2022年ごろから一時的に柵が作られることがあったという記事をみつけた。

茂野さんが支援活動に関わるようになった2025年には、すでに柵は常設されており、自由に中に入ることができなくなっていたという。

青い柵が張り巡らされたシネシティ広場。この日はこのあと、この柵の中でアイドルのライブが開催されて大勢の客が集まっていた(筆者撮影)

「2023年にオープンした歌舞伎町タワーは、歌舞伎町の街全体を観光拠点としてもりあげていきたいという再開発計画で建設されたようです。そうした中で、やはり公共空間に目的もなく集まったりたむろしたりされるのは、景観上も治安上もよろしくないというのが、行政や警察の見方ですよね」

取材の日、トー横にはパトカーが張り付き、歌舞伎町一帯には警察官が何人も歩いていた(筆者撮影)

歌舞伎町タワーの中に入っているカフェチェーン店は、カラフルなカーテンのようなものが設置され、同じチェーンの他の店舗よりも凝ったデザインだ。高層階には高級ホテルが入り、映画館や劇場、ライブハウスもある。タワーの2階には、日本の屋台を思わせるようなフードコートが広がり、インバウンドの観光客を意識しているのだろうと感じた。

茂野さんによると、柵ができて広場にいられなくなった若者たちは、柵の外にあるコンビニ前のわずかなスペースに身を寄せるようになったという。だが、2026年の夏頃から警察が毎日のように張り込む日が続き、そこにもいられなくなった。そして、若者たちが次に選んだのは、広場の北側にあるビル「ハイジア」の軒下だ。

「ハイジアの軒下のなにがいいかというと、屋根があって雨風をしのげるのと、裏手に病院、横には交番があって、良くも悪くも人の目がある安心感があったんですね。この夏はかなりの人数がハイジアの軒下に集まっていました」

東宝ビル横の広場から少し北側にあるビル「ハイジア」の軒下には、「安全第一」と書かれた工事用のバリケードが張られていた(筆者撮影)

ところが、わずか2週間ほどで、ハイジアの敷地には工事名目のバリケードが張られた。

その後、若者たちは数週間にわたってあちこちを転々とし、結局今は、もともとの東宝ビル横のコンビニ前のスペースに戻ってきつつあるのだそうだ。2026年10月の時点では、「ハイジア」前のバリケードはまだ張られたままだった。

だが取材の日のように、警察が張り込みをしていることが多くなり、若者たちは近くの格安ホテルの室内に滞在したり、池袋や大宮など他地域の「界隈」へ移動したりする動きもあり、行政や警察との「いたちごっこ」の状態が続いているという。

必要なのは、今その時に応答する姿勢

茂野さんは、報道される場合とされない場合があるものの、「平均すると1カ月に1人の割合で、落下事故などによって命を落とす人が定期的にいるようだ」と話す。

「直接の死因は墜落が多いと思われるのですが、おそらくその前に薬を飲むなどしてフラフラになっていると考えられます。希死念慮の強さや深刻度にかかわらず、命を落としてしまうことそのものが問題だと個人的に思っています」

若者の支援活動に関わるときは、医者としてではなく、一人の支援員として関わっているという茂野さん。それは、「医者として病院で受け入れる前段階や、あるいはその後にできることがもっとあるのではないか」と感じているからだ。

「医者として出会う場合は、患者の訴えは基本的にそのまま受け止めたいんです。でも、そうじゃない姿勢が大事なこともありますよね。壮絶な虐待経験を毎回聞かせてくれる子がいたんですけど、あるときどうしても書類上確認しなくてはいけないことがあって、話してくれたことが概ね嘘だってことが分かったんです。ただ、いつも『話してすっきりした。またね』って言って実際また来てくれているので、それでまた1 日彼女が生きてくれるんだったら、嘘でもいいかと思うんですよ」 

「立場ではなく個として人が生きるということを考えていきたい」と話す茂野さん(筆者撮影)

茂野さんはさらに、「正しい選択と、応答としての最善は違う」と続けた。例えば、身分証やお金をもっていない若者が受診をしたいと言った場合、支払いが困難な人が無料か低額で必要な医療が受けられる「無料低額診療所」を紹介するのが妥当な選択だ。だがそれは、彼らへの応答としては最善ではないと言う。

「私も医者なので、翌日診察時間内にしかるべき病院に行ってください、と伝えることが制度上の正解であることはよくわかるんです。でも、困っていると伝えてきてくれた時に、『明日病院に行こう』じゃなくて、『今から行こう』って言える選択肢が増えたら、なにか変わるんじゃないかと思うんですよ。困っているのは“今”であって、今その時に受診しなかったら明日は受診しないかもしれないですよね」

救急医として働いてきたキャリアの中で、人も時間も限られた医療現場だけでは助けることができない命があるということを目の当たりにしてきたからこそ、立場ではなく個として関わることを大切にしたい、という。その一方で、だからこそ「必要な時に適切な医療が受けられる体制が必要だ」とも訴える。

たとえば薬の過量内服をしてしまった場合は、意識が朦朧としながら嘔吐すればいつ窒息するかわからない怖さがある。リストカットもすぐに縫えばそれなりに綺麗に傷が治るが、放っておくとミミズ腫れのようになってしまう。茂野さんは、その時の相手の事実として話に耳を傾けることも、必要な医療に必要なタイミングでつなげることも、どちらも「目の前の相手に応答する」ということだと捉えているのだと感じた。

歌舞伎町に集まり、ODや自傷行為をする若者たちに必要なのは、排除ではなく、応答してくれる人の存在なのかもしれない(筆者撮影)

孤独や生きづらさの形はさまざまだ。外からは見えないこともある。賑やかな場所でモブになれる心地よさと、人の数が多いほどに孤独感が増す感覚は、私自身にも覚えがある。よくわからない不安や孤独と見えない戦いを続ける若者たちが、確かな関係性を築くことで、生きることを肯定できるとよいな、と思いながら、私は歌舞伎町を後にした。

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