放置される子どもの「賭博体験」 競輪、競馬などは未成年者の入場禁止を
幼い頃にギャンブルに触れると、将来ギャンブル依存症になるリスクが高まると言われています。しかし今、全国の公営競技で子供を賭博の場に誘い込む動きが進んでいます。未成年の入場をこのまま放置していていいのでしょうか?

公開日:2026/10/21 23:20
幼い時期にギャンブル(賭博)を見ることや、日常的に賭博場へ行くことは、将来ギャンブル依存症を発症する可能性を高めるといわれる。子どもを賭博の現場から遠ざけることは、依存症を予防する上で重要だ。
ところが、これに逆行するような環境づくりが競馬や競艇などの公営競技で進んでいる。子どもの遊び場の設置にとどまらず、未成年者が投票機に触れる状況が放置され、「賭博体験」が黙認されている形だ。所管する各省は現状の問題性に気づき、未成年者の入場を禁止すべきではないか。
子どもが馬券を買う?
10月中旬の週末、JRA京都競馬場は好天に恵まれた。入場フリーパスのこの日、朝から若いカップルや年配の男性に交じり、赤ん坊を抱いた親やベビーカーを押す夫婦、小学生くらいのきょうだいを連れた家族らが、続々と場内に入っていった。走路の前の芝生ではお弁当やお菓子を広げた家族が、レースに歓声をあげていた。
昼前にはイベントスペースで「仮面ライダーマイスショー」が始まる。舞台でヒーローが悪者をやっつけると、ぎっしり埋まった客席から声援が飛ぶ。撮影会には子どもの行列ができ、一段落すると多くの客はレース場前に戻り、また競馬を見始めた。
全国の競馬場内には、子どもを楽しませる仕掛けが盛りだくさんだ。遊具を備えた子ども向けゾーンや、アニメ・プリキュアのショー、人気キャラクター、ポムポムプリンのスペシャルステージなどもある。もちろん無料だ。
家族で楽しめ、子どもが喜ぶなら結構なこと、と思うかもしれない。だがここは賭博の場。問題は、遊び場と賭けをする場との境界線がなく、馬券売り場周辺に自由に出入りできる点にある。
投票を受け付ける機械の前では、どの馬が勝ちそうか、親と勝ち馬を予想する子がいる。小学生くらいの子が親の前で機械を操作する光景すらあった。20歳未満は馬券を買うことも禁止だ。それなのに注意する係員の姿は見あたらない。未成年者が賭け事にかかわるような、法の趣旨に反する状況がなぜ放置されているのだろう。
1着当てゲームも登場
競馬場にとどまらない。「ボートキッズパーク Mooovi(モーヴィ)」という名の遊び場が、各地の競艇場にできたのはここ数年のことだ。レース場を「地域に開かれた場所に」などの狙いで、入場料300円で入れるエリアを場内に設け、ブロックを使って遊べるカラフルなゾーンや、小さい子も入れるボールプール、体を動かして楽しめる場がある。

週末には多くの家族連れで賑わうが、ここでも遊び場と掛け金の支払いや払い出しをするエリアとの間を自由に往来でき、かたわらでは大人たちが賭けに熱中する、何とも不釣り合いな組み合わせが共存する。
ボートレース振興会によると、現在、モーヴィは浜名湖、蒲郡、常滑、尼崎、下関など10か所にあり、児島、徳山にも新設する予定という。ボートレース事業は自治体の主催だ。子育て世代に親子の遊び場を提供するためというが、ならばレース場内に作る必要はない。結局は子連れでも入りやすいように、という集客戦略の一環ではないか。

「ギャンブル依存症問題を考える会」のメンバーらが全国の主な公営競技場を調べたところ、競輪や競馬、競艇場では、親子で賭けに熱中する姿がごく普通に見られたという。
- 子どもが舟券を手にレースを観戦する。
- 「当たった!」と親に報告する子どももいる。
- 券売機前に警備員がいたが、子どもの舟券購入を注意する様子はない。
――ある競艇場での光景だ。
北九州市の小倉競輪場ではこの夏、1位を当てたら抽選で賞品がもらえる「親子で楽しもう1着当てゲーム」を開催、子どもたちがレース結果を予想し、番号のうちわを持って応援していた。金銭を賭けないとはいえ、未成年者をレースに事実上「参加」させるようなイベントは、単なるお遊びでは済まされず、度を越している。
各運営者は子どもに来てもらう仕掛けづくりには熱心でも、賭博行為から子どもを遠ざけようという意識は決定的に薄いのが実情だ。
同会代表の田中紀子さんは「賭博場を子どもの身近な遊び場にすることは、賭博を日常のものとし、将来的な依存症のリスクを高める。子どもの遊び場と施設を結びつけるようなことはもうやめてほしい。運営団体に強く求めたい」と話す。
入場規制「考えていない」
北米での青少年を対象とした調査によると、8歳までにギャンブルを経験した子と経験していない子を比較すると、倍の確率で成人後にギャンブル関係の問題を引き起こす。
――そんな研究結果に触れた大阪商業大学の研究員、大谷信盛氏の論文を引き、かつて立憲民主党の初鹿明博・衆院議員(2018年当時)が、衆院内閣委員会(18年6月1日)でこの問題をとりあげ、未成年者の入場を禁止するよう求めた。
初鹿氏「子どもを連れて競馬場や競艇場に行って、何番と何番がいいとか聞いて、買ってあげたりする親はたくさんいる。そうやって面白いと思ってやり始めるようになっていく。子どもをだしにした集客はやめてほしい」(一部略)
この時の各省の回答の要旨は、以下の通りだ。
野中厚・農林水産大臣政務官 農水省からお答えする。競馬場は全体がギャンブル場というより、勝馬投票券を購入する場もあれば、馬事振興、馬事文化を学ぶ、馬に直接触れる経験ができる数少ない場でもある。他国でも馬と人間の関係が歴史ある国であれば入場規制はなく、未成年者の入場を一律に制限することは適当でない。
大串正樹・経済産業大臣政務官 競輪、オートレースはスポーツとしての側面もある。開催自治体の中には、レース場を地域活性化の中核と位置づけ、家族連れでの来場を促している。未成年者は自転車競技法及び小型自動車競走法において車券購入が禁止されており、従来から警備員が車券を購入しようとする未成年者と思われる者に声かけや年齢確認などの措置を講じているため、未成年者への入場規制まで行う必要はない。
高橋克法・国土交通大臣政務官 モーターボート競走場は単に舟券を購入する場ではなく、水辺に親しむ機会を提供するという側面がある。未成年者についてはモーターボート競走法で舟券の購入が禁止されており、警備員による注意喚起、声かけを実施し、防犯カメラによる監視をしている。ポスター、場内放送等で注意喚起もしている。
これらの答弁から8年以上たち、一部で顔認証システムも導入されているが、それでも投票時の年齢確認や注意が十分とは言いがたい。水辺に親しむ、スポーツなのでといった、取ってつけたような理屈で正当化する言い分からは、依存症の深刻さと真剣に向き合う姿勢はうかがえない。馬券や舟券を買う建物と子どもの遊び場との導線を完全に遮断し、根本的にチェック態勢を見直す必要があるだろう。
スマホ全盛の今、レース場に来なくてもネットを通じて賭けることができ、各施設とも入場者を増やすのに必死になっている。アクセス制限や本人確認の厳格化などの対策がネットで求められるなか、現場での対応がおろそかになっては何にもならない。
基本法の精神はどこへ
重視すべきは、子どもの成長に与える影響である。
2019年に出版された『ギャンブル依存症当事者から学ぶその真実』(𠮷岡隆編集、中央法規)という本に、依存症の当事者の赤裸々な証言が紹介されている。
「小学校のころ、お盆やお正月に親戚が集まると、花札をするのが恒例行事でした。目の前でお金が飛び交い、親戚たちの表情を見ていて、とても楽しそうに思いました。当然、興味をもち、普段の日に兄弟で真似事をするようになり、やがてお年玉を賭けるようになっていきました」(57歳男性)
「隔週くらいで親戚を交えて4人から10人くらいの家庭内麻雀をやっていました。自分も小学3年生のころから小さいレートで賭けるようになり、ルールや計算も覚えた。(略)自分の脳は依存症者になる土台ができあがっていたと思います」(51歳男性)
これらの言葉は、幼少期に身近にあった賭博の世界が、その後の発症にどう関係しているかを示唆している。個人差はあるものの、若いころの体験は成長に影響する。とくに脳の報酬系への刺激が関係するギャンブルの場合は軽視できない。
ちなみにパチンコ店は、風俗営業法で18歳未満の立ち入りが禁止され、18歳でも高校生は条例や規則で入場が禁じられている。業界として、今は子連れの来店も断っている。2030年に大阪で開業するカジノも、IR整備法で未成年者の入場禁止が決まっている。青少年の健全育成が目的なら、公営競技だけ例外扱いする理屈は通らない。
2018年に成立したギャンブル等依存症対策基本法は、第一条で、依存症は「本人だけでなく家族の日常生活に支障」をもたらし、「多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の重大な社会問題を生じさせている」として、総合的な対策の必要性をうたっている。国と自治体には依存症への理解を深めるため、学校や地域での教育活動も求めている。
日本の依存症患者の多さは、ギャンブル施設が身近にあることが背景にあるともいう。政府や施行者はいま一度、同法の精神に立ち返ってほしい。このままでは新たなギャンブラーをつくり、依存症増加への道を加速させるだけだ。
