チャーリー・シーンが告白する、依存症と生きた半生
「プラトーン」や「ウォール街」で日本でも大人気となった俳優、チャーリー・シーン。酒やドラッグに依存してキャリアを崩しましたが、回復後、Netflixで配信中のドキュメンタリー「aka チャーリー・シーン」でその半生を振り返っています。

公開日:2025/10/06 01:59
「プラトーン」、「ウォール街」、「ヤングガン」、「メジャーリーグ」などのハリウッド映画で注目された80年代後半。チャーリー・シーンは、日本の映画雑誌にもたびたび取り上げられ、東京ガスなど日本のコマーシャルにも複数出演した。
だが、その後、彼の姿をビッグスクリーンで見る機会は大きく減る。2000年代初めにはコメディ番組でキャリアを巻き返すも、最終的にはその仕事すら失った。それもすべて、私生活のトラブルのせいだ。
ハリウッドと依存症の関係は昔から強いが、今も生きるスターの中で、彼ほど長年の間に何度もこの問題で世間を騒がせた人はいないだろう。だが、そんな彼も、この7、8年は、ドラッグ、酒と完全に縁を切っている。そこに至るには、どんな経緯があったのか。
Netflixで配信中の二部構成のドキュメンタリー映画「aka チャーリー・シーン」で、本人がここまでの暗い歴史を振り返っている。
アルコールやドラッグ三昧の日々
この映画の中で、自分の半生を「partying(遊びまくり)」、「partying with problems(遊びまくる中で問題が)」、「problems(問題だらけ)」の3つの段階に分けたのは、チャーリー本人。その最初の段階、つまり遊びまくっている頃は、ニコラス・ケイジとも派手に酒、ドラッグを楽しんだ。しかし。エスカレートしていく様子を見た家族は心配し、本人に内緒で相談し合い、回復施設に入所させる手配をする。施設に向かう車は父マーティン・シーンが運転し、赤信号で停まった時にドアを開けて逃げ出さないよう、チャーリーは真ん中に挟まれる形で座らせられた。
施設を出た後、しばらく遠ざかっていた誘惑に負けたのは、ニコラスの家に泊まった時。ニコラスが寝てしまった後にキッチンに行き、冷蔵庫を開けると、そこにはよく冷えたフォースター・ラガーがあった。そのビールのおかげでアルコールの味を思い出したチャーリーは、その後、レストランに行くと、ウエイターに良いチップを渡した上で、「コーヒーカップの中に(ほかの人にはわからないよう)こっそりワインを入れて欲しい」と頼むように。外にはすっかり立ち直ったと見せかけていたが、実は再び依存症が戻ってきていたのだった。
「フリーマネー」のロケでモントリオールに行くことになった時も、現地でどうコカインを入手するか、すぐに情報を入手。コカインを摂取しすぎて、18時間も鼻血が止まらず、遅刻したこともあった。カメラが回る中、眠りそうになり、監督に注意されて、トイレに行き、氷をお尻に突っ込んで目を覚まし、乗り切ったシーンもある。「この頃の僕は、依存症が必要とするものを満たすもののために仕事をしていたようなもの」と、チャーリーは振り返っている。
1998年には、ドラッグの過剰摂取で倒れているところを友人に発見され、救急車で病院に搬送された。一時は彼が死んだという報道も出たため、父マーティンは記者会見でそれは間違いだと否定。この出来事を受けてチャーリーは回復施設に送られるが、数日で抜け出す。それを知り施設に連れ戻してもらうべく警察に電話をしたのは、マーティンだった。
ドラッグで結婚や仕事も破綻
2000年、チャーリーは、パーキンソン病のため降板することになったマイケル・J・フォックスからシットコム番組「スピン・シティ」を引き継ぐ。2番目の妻デニス・リチャーズとは、この番組の共演をきっかけに交際を始め、結婚。続いて主演した新作シットコム番組「ハーバー★ボーイズ」は放映開始直後から大ヒットし、彼のキャリアは再び大きく花開くが、またもや依存症が忍び寄り、攻撃的な行動を取るようになって、デニスから離婚を言い渡される。
離婚成立からまもなく出会った3番目の妻ブルック・ミューラーは、自身も依存症で事故を起こしたり、コカイン所持で逮捕されたりして、回復施設に入所した歴史があった。ふたりは2008年に結婚。だが、その翌年のクリスマス時期、アスペンで休暇中に夫妻は共にドラッグをやり、トラブルに発展して、チャーリーはDVの疑いで警察に逮捕されることに。チャーリーは司法取引に応じ、回復施設への入所のほか、アンガーマネジメントのクラスを受けるよう命令された。
そんな中でも「ハーパー★ボーイズ」を製作するワーナー・ブラザース・テレビジョンと放映するCBSは、チャーリーが酒とドラッグをやめてくれると信じ、当時としては史上最高のギャラでチャーリーと契約を更新。しかし、2011年、チャーリーはまたもやコカインとアルコールの過剰摂取で病院に搬送され、ついにその非常に美味しい仕事を失った(このドキュメンタリーには出てこないが、番組でチャーリーが演じたキャラクターは死ぬことになり、代わりにアシュトン・カッチャーが新たなキャラクターとして登場。この騒ぎは世間の関心を集め、むしろ視聴率はさらに上がっている。チャーリーはこのなりゆきに不満で、、ワーナー・ブラザース・テレビジョンとクリエイターのチャック・ローリーを相手取り訴訟を起こした)。
ドラッグディーラーが減薬も
このドキュメンタリーに、チャーリーにドラッグを提供したディーラーが出てくるのもまた、興味深い。マルコという名のディーラーは、刑務所から出てきたばかりのところで、突然チャーリー・シーンを名乗る男性から電話を受けた。マルコは刑務所で「ハーパー★ボーイズ」を見ていたので、本人の声だとすぐわかったという。出所した後はまともな道を歩もうと思っていたマルコだが、セレブのチャーリーにドラッグを売ると、1回あたり1万5000ドル、時には2万や3万ドルが手に入るとあり、その魅力に勝てなかった。
やがてふたりは友達として一緒に時間を過ごすようにもなり、ますます関係が深まっていく。そんなマルコは一方で、チャーリーがコカインをやめられるようになることに貢献することにもなる。チャーリーに与えるコカインを、少しずつ薄めていったのだ。
完全に断つきっかけは、娘への罪悪感
だが、彼が完全に酒とドラッグを断つことになるきっかけを与えてくれたのは、デニスとの間に生まれた長女サミーである。ある日、サミーがヘアサロンに連れていって欲しいと連絡をしてきたのだが、チャーリーは朝から酒を飲んでいたので、友人に運転してもらって娘を迎えに行った。その帰り、娘が「なぜ父娘ふたりきりではないのか」と思っているのではないかと、チャーリーはふと罪悪感を覚えたのだ。
父がトラブルばかり起こしていた子供時代は学校に行くのも辛かったというデニスとの次女ローラも、今では何か頼みたいことがあると父に連絡すると語っている。ブルックとの間に生まれた双子の息子たちとも、良い関係にある。父としてわが子との関係を強めるかたわら、チャーリーは、息子として、かつて腹立たしく思うこともあった父マーティンに対し、大きな感謝の念を持つようにもなっていった。ハリウッドで最も長く語られてきた依存症の物語は、希望を感じさせる形で終わったのだ。
回復を支える家族や友達の重要性
とは言え、もちろん「今のところは」である。この後もまた誘惑にはまらずに行けるのかどうか保証がないことは、チャーリー自身が認めている。

もうひとつ特筆すべきは、チャーリーとの離婚後、ブルックも依存症の問題で双子の息子たちの親権を取り上げられた時、彼らの面倒を見たのは2番目の妻デニスだったこと。ステップファミリーが当たり前になっているアメリカでも、一時的であれ、元夫の再婚相手の子供をふたりも引き取るというのは、かなり寛大と言わざるをえない。ほかにも、チャーリーには、ずっと支えてくれた友達、兄妹たちがいた。周囲の優しさ、理解、サポートがいかに大きいのかということを、あらためて考えさせられる。
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