高知東生さん、亡き母の写真と共に舞台挨拶 「自分自身をもう一度信じて、みなさんに恩返しを」
第3回横浜国際映画祭で正式出品された「アディクトを待ちながら」が上映され、監督や俳優らが舞台挨拶に立ちました。主演の高知東生さんは亡くなった母の写真を手に、涙を流しながら感謝の言葉を述べました。

公開日:2025/05/06 05:08
第3回横浜国際映画祭最終日の5月6日、正式出品された映画「アディクトを待ちながら」(ナカムラサヤカ監督)が上映された。
上映後、ナカムラ監督や、出演した俳優の高知東生さん、橋爪遼さん、青木さやかさん、武藤令子さん、荒井千佳さん、田中紀子プロデューサーが舞台挨拶をした。
依存症の当事者や家族も観客席で拍手を送り、主演の高知さんは胸に忍ばせていた母の写真を見せながら、「自分自身をもう一度信じて、自分を愛して、これからみなさんに恩返しをして、リカバリーカルチャーを作りたい」と涙声で感謝の言葉を述べた。
高知さんの人生と重なるアドリブの演技
「アディクトを待ちながら」は、ギャンブル依存症問題を考える会が、依存症からの回復を映画で描こうと製作。高知さん演じる薬物で逮捕された経験がある歌手の大和遼が、ゲスト出演するはずのコンサートの会場になかなか現れず、それを待つ当事者たちを描いた群像劇だ。
ナカムラ監督は、クライマックスのシーンで俳優たちにその後の展開を伏せたままアドリブの演技をさせ、リアリティにこだわった演出をした。アドリブで高知さんが語る言葉は、高知さん自身の挫折や世間からのバッシング、今に続く回復への道筋とも重なって、多くの観客の胸を打ってきた。
「心の成長が正直に喋らせた。全然芝居はしていません」
舞台挨拶に立った高知さんは役作りについて、「役者人生をずっとやってきて、舞台挨拶も何十回もやってきた中で、上部っ面で喋ってきた自分ですけれども、今日はそういうわけにはいかず、自分の心に正直に言うとするなら本当にいろんな人に出会って支えてもらって......」と語り出したところで、涙で言葉が詰まった。
そして「全然、芝居なんか...できたことが......。たぶんその時の心の成長が、僕の口を通して正直に喋らせたのだと思います。だから全然、芝居をしてません」と言葉を詰まらせながら語り、観客席からは大きな拍手が注がれた。

その直後に挨拶した橋爪さんは、「こんなに感動した後にですか?本当にペラッペラな話になるんですけれどもね」と、おどけて笑いを巻き起こし、会場の空気を一変。
自身も覚せい剤取締法違反で逮捕された橋爪さんは、映画では、薬物での逮捕報道を見て依存症に辛辣な意見を言うサラリーマン役を演じた。
「この映画で7年ぶりに映画、お芝居に復帰させていただきました。すごい貴重な経験だなと思って台本を開いてみたら、僕もアディクト(依存症者)なんですけれども、『依存症なんてクソだ!』と言い張る役。とんでもねえ役をかましてきやがったなと思ったんですけれども(笑)。でも、僕自身の挑戦だったのもあるし、これを演じたらまた違った形で僕自身も語れるのではないかなという思いの中で、実際現場にいたらすごくナチュラルにスラスラとできた。そんな感じでやらせていただきました」
「外野のよくあるような言葉が突き刺さる」
青木さんは、おしゃべりな美容院の客役として、依存症に理解のない世間話をする女性を演じた。

「自分も芸能人であるけれども、芸能人の人で何かがあった時にあれぐらいの軽口を叩いちゃうなというところがあって、その感覚を思いながら演じました。実際に映像を見てみるとなんて嫌なやつなんだろうと感じがして、生々しく映った。普通の話だと思うのですけれども、これだけ人を傷つけるんだ、これだけ嫌な感じを受けるんだと、自分でセリフを言って自分に突き刺した感じがあります」
そして、「外野の人たちの生々しい言葉がこの作品にはたくさん出てくるのですが、どれもこれもよくあるような言葉。それがどれだけ自分に突き刺さってくるのか、改めて教えてもらったような気がします」と、世間の何気ないバッシングが持つ負の影響を語った。
クライマックスシーンの撮影秘話
映画で買い物依存症の母親役を演じた武藤令子さんは、クライマックスシーンの秘話を明かした。

監督は役者に最初に渡していた台本と違う結末を用意しており、そのサプライズを知る立場で演じていた武藤さん。
「決裂してしまうのではないかと思うぐらいで、私もわかっていながらどうしたらいいのだろうと本当にリアルな状況に置かれました。高知さんが素晴らしくまとめていったので、心から良かったと思うシーンになりました。そのハラハラ感は伝わっているのではないかなと思います」

逆にそのサプライズを知らずに演じていたのは、高知さん演じる大和遼の妻役の荒井さん。
「旦那様である高知さんには一度もお目にかからない予定のまま撮影に臨んでいたのですが、急に遠くから声が聞こえてきて、『あれ?誰だっけこの人』と(笑)。そこからは無我夢中で。とても抱きつきたい衝動に駆られて、無我夢中で抱きつきにいったことが私にとっては心に残るシーンになりました」と、リアルな感情に揺さぶられながら演じた思い出を語った。
「次はレッドカーペットでインタビューされる作品を作る!」
田中プロデューサーは「依存症者を扱ったエンタメ作品は、いつも酷くてダメでどうしようもなくて落ちぶれて死んでいく、みたいな映画しか見たことがなかったので、絶対にリカバリー(回復)を映画にしてやるぞと思ってついにここまできました!みんなのおかげです。ありがとうございます!」とガッツポーズを見せた。

また、田中プロデューサーは「映画製作も依存症になる」と驚きの発言も。
レッドカーペットに駆けつけた仲間から、「一緒に作った感じがして良かった」と喜びの声を寄せられたが、「一つだけ言いたいことがある」と、あることを言われたという。
「レッドカーペットでインタビューされている作品がいくつかあったのに、なぜ『アディクトを待ちながら』はインタビューされなかったんだ?と言われたんです。『次はレッドカーペットで一番最初にバーンと並んでみんながインタビューされるような作品を作ってくれ』と言われて、やったろうやないか!と。横浜国際映画祭、見てろよ!と、そういう意気込みでおります」
そうぶちあげて、観客席から拍手喝采を浴びていた。
母の写真を胸に「全ての人に感謝を」
高知さんは最後に、「正直、俺は朝からずっと泣いているんですね。本当に嬉しくて。全ての人に感謝をしたい」とまた涙声に。
「みなさん笑うかもしれないけれど、俺、7年前死のうと思ったんですよ。それが今日、あったかいみなさんの心で包まれながら、もう一度俺はこのステージに立ち直すことができている。監督はじめ、キャストのみなさんはじめ、プロデューサーはじめ、お客様はじめ、横浜国際映画祭の関係者のみなさんはじめ、改めてこれほど心から感謝という気持ちに包まれています」
そして、田中プロデューサーの方を見ながら、「何よりもりこちゃん(田中プロデューサー)自身、今日という日を迎えるまでこの作品は色々な問題を抱えていました。それを一人で跳ね除けて....」と述べると、田中プロデューサーは「持ち逃げしたやつもいましたから」と大笑い。

高知さんは「決断し、前を向いて実行するこの人の力がなかったら、正直言ってこの作品はありません。こういう人たちに支えられて、本当に生き直すと決めた以上、今こうやってある日がまさか来るとは」と語り、「自分ごとですけど」と胸の内ポケットから1枚の写真を取り出した。
17歳の時、突然自死した母の写真。「おふくろも連れてきました」と高知さんは泣きながら写真を見せた。
「おふくろも言っています。『こんなどうしようもない丈二(高知さんの本名)やけど、みなさんもう一度信じて、応援してあげてください』。親孝行できないですけど、姿はないけど、心を大切に、自分自身をもう一度信じて、自分を愛して、これからみなさんに恩返しをして、リカバリーカルチャーをりこちゃんと一緒に作りたいと思います。本当にありがとうございます」
会場からはすすり泣く声と、大きな拍手が送られた。
「再起しようと思ったら再起できる社会を目指して」
最後に、ナカムラ監督は「小さな、小さな映画が、皆さんの一人ひとりの力によってここまで来ることができました。横浜国際映画祭の皆様にも本当に大きな感謝をお伝えしたいと思います。うちの映画、4人も逮捕された人が出てきます。そういう人たちが、再起しようと思ったら再起できる社会を我々は目指してこの映画を作っています。そういったことを応援していただいたような気持ちにも今回、ならせていただいております。本当にありがとうございました」と挨拶。

観客席を見ながら、「みなさんのお顔を創作の糧にさせていただいて力をいただきましたので、これからも作品を作り続けていきたいと思います。本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べた。


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コメント
高知さんの言葉に終始泣き、遼さん千佳さん、青木さやかさん令子さん、田中紀子プロデューサーのコメントにそのまま泣き笑いする、濃密な舞台挨拶でした。
サヤカ監督によって、やり直そうと努力し続ける人が活躍できる社会を目指して製作された本作が、横浜国際映画祭に正式出品されたこと。本当にこの映画に込められた想いに賛同してもらえたような気持ちで嬉しく思いました。
りこさんの次なる挑戦への意欲やサヤカ監督から上映継続の発表などなど、これからの展開にも目が離せませんね!