Addiction Report (アディクションレポート)

「相談よりもまずは雑談」。支援を支配にさせずに、上手に活用するコツって?

本記事では、松本俊彦×村松英之 出版記念トークイベント、「自分を傷つける生き方、どうしたらやめられる?」のうち、後編のダイジェスト版をお届け。

「相談よりもまずは雑談」。支援を支配にさせずに、上手に活用するコツって?
精神科医・松本俊彦さん(左)と形成外科医・村松英之さん(右)

公開日:2025/01/01 04:00

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前編に引き続き、精神科医・松本俊彦さん(国立精神神経研究センター所属)と、自傷行為の傷跡治療に携わる形成外科医・村松英之さん(きずときずあとのクリニック 院長)、本書のプロデューサーを交えてトークセッションを実施。


「回復」支援で陥りやすい落とし穴や、上手な相談のしかたとは?


(文:遠山怜)


相談してと言われても


ーー(遠山)自傷に限らずですが、依存行為を繰り返すことで人が離れ、だんだんと他の選択肢がなくなっていく。自分の苦しみがどこから来ているのか、どうすれば抜け出せるのかわからない。

講演用スライドより。自傷と孤立のループについて。


そのため、メンタルヘルス分野では、「つらいときは相談を」と呼びかけていますがこれが難しい。当事者の方も、相談が大事というのはわかっている。しかし、結局は言い出せずに抱え込んでしまう。相談に苦手意識がある人は、どんなふうに相談したらいいか、ヒントを伺いたいです。


(松本):誰かに相談しようか迷っている人に、ひとつお伝えしたいことがあります。それは、相談の目的は「問題をすぐに解決すること」ではない、ということです。


それというのも、自傷患者さんが抱えている困難は、誰かがちょっと話を聞いて解決できるようなものではなかったりするからです。いろんな要因が複雑に絡み合っていて、それを紐解くだけで年月を要したり、別の誰かの助けが必要だったりする。


ですから、誰かに相談するときは、「私が今つらいことを知ってもらう」ことを、まずはゴールにしてほしい。相手が「それは大変だよね」と受け止めてくれたら、大事な部分はクリアできているんじゃないでしょうか。


相談相手が見つからない場合は、まずは「雑談」からはじめてみることをお勧めします。「今日、寝坊した」とか「最近、彼氏がむかつく」とか、そんな雑談でいいんです。

それができたら、今度は「愚痴」を小出しに言ってみる。「バイトが忙しすぎる」とか、そんな話をしながら、相手の反応に注意を向けてみてください。相手がどんな性格で何を大事にしているのか、観察してみる。


観察することで、「この人には言っても大丈夫か」判断しやすくなるでしょう。いざ話してみて後悔したり、かえって傷ついたりするリスクを軽減させられると思います。


不思議なことなんですが、一緒にいて心地の良い相手なら、雑談で終わってしまっても、案外満足しちゃったりするんですよね。相談できなかったけど、話しただけで気が楽になっていたりして、そういう関係をまずは目指してみてほしいです。

(村松):最近は、LINEオープンチャットなど同じ悩みを持つ人同士が、気軽に集まれる場所が増えてきました。ただ、それでも患者さんのニーズに、完全には添い切れていないと思います。僕も、日本自傷リストカット支援協会の主宰として、参加者にSlackで相談できる場を提供しているのですが、これがまた難しい。


患者さん同士で傷の程度でマウントを取りあったり、理解を示してくれる人に近づきすぎたりする。患者さんの自由な交流を妨げたくないけれど、放っておくと健全なコミュニケーションの場ではなくなってしまうリスクがある。


自助会は、その時々のメンバーの性質によって、雰囲気が左右されてしまうものなので、できれば相談先は複数あった方が良いと思います。あまりひとつの場所に期待しすぎずに、今は荒れてるからあっちに行こう、と選択肢を持っておくことが大事だと思います。

「気にする必要はない」という圧力


ーー(遠山)支援者の目線から質問です。第三者からみて、当事者に「そんなことで苦しまなくてもいいのに」と思うことがあります。悩みを取り除いてあげたいと思ってしまう。もちろん、悩まずに生きていけるならそれが一番良いと思いますが、一方で、苦しんだり悩んだりすることも、その人の大事な権利の一部だとも思うんです。

講義内スライドより。


つらいといった負の感情は、「本当はこうなりたかった」という願望と、表裏一体ではないでしょうか。第三者が「苦しまなくていいんだよ」と悩みを取り上げることで、相手の持つ価値観を否定してしまう。


相手の回復を手助けしつつ、自己決定権にまで踏み込まないために、支援者はどうしたらいいでしょうか。

(松本):本当にそうですよね。特に医療者は、患者さんの正常から逸脱している部分を見つけて、消そうとする傾向がある。加えて、自分たちが持っている回復のストーリーに患者さんをあてはめようとしたり、美談にしようとしたりしがちです。


僕たち含め医療者って、おせっかいなところがありますよね。でも、患者さんに変化を求めるって、裏を返せば患者さんのありのままを否定することにもなりかねない。特に心を扱う支援職の場合、患者さんの内面の価値観まで縛ってしまう恐れもある。支援しているつもりが、いつのまにか支配している状態になってしまう。


ただ、頭ではそうだと思うものの、疲れていたりすると患者さんの苦しみに、つい手を突っ込んでしまったりして。これは自戒をこめて、注意しなければと思います。


(村松):患者さんへの声掛けって、本当に難しいですよね。励ましてるつもりが、いつの間にか自分の理想論を押し付けてしまっていたり。支援者の「きっと良くなるよ」という声掛けが、患者さんの価値観や自己決定権に踏み込んでいないか、気をつける必要があると思います。

ーー(遠山)当事者の方に取材すると、「逆境をバネにして〜」という言い方をしたり、「苦しかった過去を乗り越え今の自分に」という綺麗な回復のストーリーに寄せようと意識しているのかな、と感じることがあります。


でも、必ずしも逆境をバネにする必要なんてないのではないでしょうか。飲み込んだ苦しみは、血肉にせず吐き出したっていい。起きた出来事を、必ずしもセルフストーリーに組み込まなくてもいいんじゃないか、そう思います。

トークセッション終了後、参加者からいくつか質問が投げかけられました。

【質問】「自傷行為から自殺行為に発展して、自殺未遂にいたることもありますか?」


(松本):「発展して」という言い方は、ちょっと正確ではないように思います。確かに、自傷行為を繰り返すことで、体を傷つけることへの抵抗感は徐々に失われていくと思います。でも、死にたい気持ちを呼び起こす一番の要因は、「切ったら楽になった」という、自傷による心の鎮静効果がだんだんとなくなってくることだと思います。


今までは切ることでスッキリできたのに、切っても苦しみから解放されなくなる。そうしたときに、「死にたい」という気持ちが輪郭を持って浮かび上がってくる。自傷行為に挫折して、自殺行為に移行するという印象があります。

ですから、自傷の心の鎮静効果が感じられているうちに、ほかの方法がないか探っていくことが、自殺を防ぐ上で重要ではないかと思います。


【質問】「リストカットが一番ひどかった頃から数年が経ちます。それでも、年に1、2回は切ってしまいますが、これは許容してもいいでしょうか」


(松本):月1回ストロングゼロを飲んで泥酔してる人よりは、ずっと健康的ですね。自傷行為とほどほどに付き合えているのであれば、それはそれで自分を許容してあげてもいいんじゃないかと思います。

【質問】「自傷行為をしている人にとって、回復の12ステッププログラムは有効だと思いますか?」

(松本):「回復の12ステップ」とは、依存症患者さんの自助会で用いられる、重要な考え方のひとつです。回復に必要なプロセスを12段階にわけて定めたもので、依存症治療を大きく変えたきっかけでもあります。


僕自身も、こうした患者さん本人による取り組みをとてもリスペクトしています。ただ、必ずしもすべての依存症患者さんが、回復の12ステップにマッチするとは思ってはいません。


回復の12ステップの冒頭には、「私達はアルコールに対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた」という文言があります。これが、患者さんによっては、ものすごく不快に感じることがあります。

特に女性で、虐待やDVなどにあって、大きなトラウマを抱えているような場合。今まで周りにさんざん振り回されてきて、自己決定権を奪われてきた人が、さらに「無力だと認めろ」と言われたら、立ち直れなくなってしまう。


ですから、回復の12ステップを見て嫌だと思ったら、無理に活用しなくていいのではと思います。自分にとって、都合のいいところを参考にするぐらいがちょうどいいんじゃないでしょうか。

【質問】「自傷に対する偏見がなくなると、興味本位で自傷を始めてしまう人が増えるのではないか心配です。また、傷跡を見て気分を害する人もいると思うので、オープンにしすぎることは危険ではないでしょうか」


(村松):SNSで自傷行為の画像をアップしている人もいますが、基本的に患者さんは傷を隠そうとします。変な目でみられたくないというよりも、相手を不快にさせないように隠している患者さんがほとんどです。ですから、仮に自傷行為の偏見がなくなったとしても、そこまでオープンにすることにはならないと思います。


(松本):これは「大麻を合法化したら国民がみんな薬物中毒になるから禁止」という議論と似ていますね。では実際、違法薬物を非犯罪化したり合法化した国で、薬物問題が蔓延しているかというと、その反対です。


これは自殺と自傷の研究でも、同じことが言えます。自傷行為が多く行われている国では自殺率が低く、逆に自傷行為が少ない国では自殺率が高い。もちろん、自傷と自殺は無関係ではありませんが、自傷することで誰かに気づいてもらえる可能性は高くなります。自傷行為ができる国は、自殺にまで追い詰められない国なのかもしれません。


もっとも優先すべきことは、「自傷をなくすこと」なのか、それとも「自殺を防ぐこと」なのか。その辺りを考えることで、偏見がなくなる意義が見えてくるかもしれません。


【質問】「職業上、子どもと関わることがあります。傷跡を見られた場合、どう説明したらよいと思いますか?」

(村松):その子の性格や関係性にもよるので、一概にどうすべきとは言えないのですが、猫に引っかかれたとか事故にあったとか、いったんはごまかす人が多いですね。


ただ、なかには、傷跡の理由をお子さんに打ち明けた方もいます。「過去につらいことがあって自傷行為をした」と。世の中には、つらい思いをして生きている人がたくさんいる。自分が何か不可解に思うことがあっても、その人なりの複雑な事情があってそうしているのかもしれない。そういうことを知ったうえで、人と接してほしいと思ったからだそうです。


もちろん、そこまでできる方は少数派だと思いますし、必ずしも過去を打ち明けるべきだとは思いません。ただ、苦しんできた過去があるからこそ、伝えられることもある。そう思います。

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コメント

4日前
匿名

私は支援者から支援を受けています。

「まずは雑談」

安心して、いろんなことを話せる方の存在は大きいです。

逆もありまして、警戒して「ちょっとこの方には…」と思うこともあります。

自分が支援者に相談するときにヒントになるお話がいろいろありました。ありがとうございます!

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