有名サッカー選手の広告を入り口にオンラインカジノで大借金 「好きな選手だったし、違法だなんて疑いもしなかった」
好きなサッカー選手の広告をきっかけにオンラインカジノにハマった20代の男性。その手軽さから、どんどん抜け出せなくなっていきました。
公開日:2024/03/21 02:00
違法でありながら、日本では実質野放し状態になっているオンラインカジノで身を持ち崩す若者が増えている。
都内に住む26歳のフリーター友之さん(仮名)もオンラインカジノにハマり、多い時は300万円もの借金を抱えた。
手を出したきっかけは、有名サッカー選手の広告。Addiction Reportは友之さんに話を聞いた。【編集長・岩永直子】
マルチの勧誘で先物取引を始める
友之さん(仮名)が賭け事に近い投資に手を出し始めたのは、大学の経済学部2年生だった20歳の時だ。
東北で過ごした高校時代はサッカーの強豪校に入り、プロ選手を目指していた。東京の大学に進学してから海外に留学し技術を磨いたが、挫折する。プロのサッカー選手になるという目標を失った直後、仲の良かった友人に日経225(日経平均株価)の先物取引を誘われた。
「お金は持っていなかったのですが、マルチの勧誘で『絶対に儲かるから』と説得されました。『この通りに取引したら儲かる』というデータの入ったUSBを50万円で買いました」
ピザ屋の配達のバイトで稼いだ金を20万使い、残りは学生ローンで借金した。いざ始めるとなかなか途中で止められない。際限なく取引を続けた。
「ギャンブル脳になっていて、損切りができない。損失が出たらすぐ取り返したくなるし、利益が出たらその利益をまた次の取引に突っ込んでしまう。アドレナリンが出てしまい、ギャンブルみたいな注ぎ込み方をしていました」
でも結局のところ、お金は儲からない。するとマルチの幹部のような人に「今度は君がU S Bを売ったら5万円入るから、どんどん知り合いに声をかけて売っていこう」と誘われた。でも友達に儲からない投資話を紹介することはどうしてもできなかった。
大学3年生になった時、妹と母親が上京してきて一緒に住むことになった。それを機に、怪しいと薄々気づいていたマルチの仲間から手を切った。
次に手を出したのは当時、話題だったビットコイン。それも儲からず、相場の変動を予測して取引する「バイナリーオプション」に移った。「楽して儲けたい」という欲望が手放せない。でも結局いつも儲からなかった。
収入が減り、暇が増えたコロナ禍で再びビットコインへ
就職活動中は、やっと投資話やギャンブルから手を引いた。2020年4月、演劇業界に就職し、数ヶ月で学生ローンの借金を返済し終えた。
「堅実に生きていこう」
一度はそう誓ったはずなのに、世の中はコロナ禍に突入し、上演が激減した演劇業界で給与も減った。
仕事を始めて1年ぐらい経った頃、1ヶ月半ほどの出張があった。コロナ禍で遊びや外出も制限される中、休日の暇な時間に自宅でスマホをいじっていた。何の気なしにまたビットコインに手を出した。最初は勝っていたが、数ヶ月でマイナスに転じた。
「そこでまたクレジットカードのキャッシングを始めて、50万円ぐらいの借金ができました。でもその時はコツコツ返していって、半年ぐらいで完済しました」
有名サッカー選手が広告に オンラインカジノをクリック
2021年9月頃から22年3 月末まで各地の上演で全国を出張した。その移動のバスに乗っていた時のことだ。
「手持ち無沙汰で携帯をいじっていたら、オンラインカジノの広告が出てきました。サッカー選手の香川真司が出ているバナー広告が出てきて、『なんだろう?』と暇つぶしにクリックしました」
学生時代、サッカー選手を目指した身からすれば、超有名、超一流のスター選手だ。
「ドイツ時代から好きで応援していたし、目につきました。なんせ香川ですから信用もしたし、違法だなんて疑うこともなく気軽な気持ちで入ってしまった。オンカジに対するハードルは、この広告でかなり下がりましたね」
クレジットカードを使うと1分ほどで簡単に入金できて、サイトは日本語。数分の手続きですぐ始められた。簡単そうで目についたバカラからやってみると、最初は負けた。それでもかつての興奮が戻ってきて、1万円入れ、10円万入れ、気づくと移動中ずっとハマっていた。翌日も、翌々日も、バスの中やホテルの部屋の中で延々と賭け続けた。
「勝ちが続いて、その年の年末にはだいたい600万円ぐらい勝ちが重なりました。これはいいぞと思いました。今までの投資の負けも全部取り返せる、才能があるのかも、と思いました。『これに出会うために今まで俺は負けてきたんだ。やっと俺に運が来たぞ』とさえ思っていました」
クリスマス旅行、2時間で600万円溶かす
年末年始、2週間ほどの休みをもらい、年末に彼女と伊豆旅行に行った。
クリスマスプレゼントを贈り合い、食事をし、彼女が寝た後、布団の隣で「ちょっとだけ賭けて寝よう」と思った。またスマホを開いた。
最初は10万賭けて、負けた。5連敗ほどして、焦りを感じ始める。元の600万円に戻すために、次は50万円ほど大きく賭けた。それも負けた。
「そこから600万円にするために50万円を賭け続けて、徐々に減っていきました。焦って夜中の2時頃まで賭け続けた気がします」
2時間後、アカウントに残った金額はゼロになった。
「震えて布団の中で吐きそうになっていました。なんであの時やめなかったんだ、とか、いろんな感情が渦巻いて、どうしたらいいのかわからなくなりました」
翌日も彼女と旅行だったが、車を運転していても上の空だった。
「負けた分を取り返そう」。旅行から帰るとそう決意して、消費者金融やクレジットのキャッシング枠で入金した。年末、実家に帰ってもスマホと睨めっこ状態だった。祖母の家に挨拶を行った時も、移動の車の中でもずっと賭け続けた。
カードのキャッシング枠が尽きると、また別のクレジットカードを作って、8、9枚近くになった。2月半ばまで賭け続けて、借りる枠もなくなったところで、借金額の合計は330万円になった。
「そこでようやく『ヤバい』と気づいて、コツコツ返し始めるモードに切り替わりました」
ボーナスも注ぎ込めば2年ぐらいで返せると計画し、仕事に邁進した。
借金と仕事のストレスで休職
2022年4月、仕事のストレスで出勤時間になっても家を出られなくなった。多額の借金を抱えているというストレスも心にのしかかっていた。
「適応障害と診断を受けて、翌年の1月まで休職しました。収入がなくなり、ウーバーイーツで働き始め、その収入で借金を少しずつ返していきました」
配達以外の暇な時間、何かをしていたくて、会社には隠して以前から憧れていたお笑い芸人の養成所に通い始めた。
50万ほど返した頃、たまたま支払いが1万円ほど足りない月があった。
「なんとか簡単に返せないか」
そこで再び頭に浮かんだのが、オンラインカジノだった。
(続く)
▶3000万円をオンラインカジノで溶かす やっと気づいた「自分はギャンブルに太刀打ちができない」に続く
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コメント
どんどん沼にハマっていく様子が、ハラハラドキドキします。ラクして儲かる話なんてないと、わかっていても損を取り返したい!て思ってしまいますよね。いつの間にか、自分では止められない依存症になっていた…
この後、どのようにして回復の道に繋がるのか、続編が楽しみです。
取り返そうと思った時は、もうギャンブル依存症ですもんね
この先、どうやって依存症に気づくのか
続きが楽しみです