ギャンブル依存症者の3分の1が犯罪を実行 闇バイトの強盗致傷事件に手を染めた息子の母が国会議員に対策訴え
日本で相次ぐ闇バイトによる重大な犯罪。その陰にギャンブル依存症が隠れている場合もあります。ギャンブル依存症の果てに強盗致傷事件を起こした息子の母親とギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表が国会議員に対し、早急な対策を訴えました。
公開日:2024/12/17 07:22
ギャンブル依存症問題を考える会は12月17日、議員会館内で闇バイトとギャンブル依存症問題についての勉強会を国会議員に向けて開いた。
ギャンブル依存の果てに都内で起きた一連の闇バイト事件に手を染め、強盗致傷の罪で起訴された男性の母親、みなみさん(仮名、60)が体験を話し、ギャンブル依存症対策の充実を訴えた。
同会の田中紀子代表は、家族会の緊急調査でギャンブル依存症が犯罪に繋がっている現状を明らかにし、オンラインカジノやその周辺の取り締まり強化や、ギャンブル依存症の対策の充実を要望した。
部活の挫折でギャンブルにのめり込み、窃盗などを繰り返す
みなみさんの次男は3人きょうだいの末っ子で、可愛がられて育った。だが子供の頃からやんちゃで、衝動的な行動でトラブルを起こすことも多かった。
中高と野球部に入部し、好きなことに打ち込んで親もほっとしていた矢先、部活で挫折し、高校を中退。その頃からパチンコ・パチスロにのめり込むようになった。金の無心をし、盗みも働くように。盗みで捕まると親が弁償し、謝罪に回ることを繰り返すようになった。
19歳の時に窃盗と無免許運転で少年院に入った。少年院の中では高卒認定試験やヘルパー3級の資格を取り、少年院を出た後は一人暮らしをして自分で稼いで生きていくようになった。
だが職に着くとギャンブルによる金銭問題を起こし、職場から失踪することを繰り返した。
「息子がいなくなったアパートから荷物を運び出すことを5回ほど繰り返し、私は振り回される毎日に疲れ果てていました」
人当たりはよく仕事も頑張るので上司からも可愛がられるのに、ギャンブルで借金を作り、闇金から職場に取り立ての電話がかかると、もうその職場にはいられなくなる。今振り返ると、根は優しい息子もそんなことを繰り返すのは苦しかったのではないかと、みなみさんは思う。
でもその時は、何もわからないまま、そんな息子の行動に振り回されていた。
尻拭いを繰り返し、状況が悪化
息子から金を無心する電話が入ると、みなみさんは居ても立ってもいられなくなり、繰り返しお金を振り込んだ。
「これが最後。金を送って」と連絡が入ると、「もう本当に最後ね。二度と送らないよ」と振り込むことの繰り返し。
「『お金を送ってくれないなら犯罪を起こす』と脅されたこともありました。犯罪でも犯されたら大変だとお金を送り続けました」
数万円単位だった振込額は、数十万円となり、最終的には100万円になった。
「私自身、お金を渡すことをやめられず、貯金も使い果たし、自身の保険まで解約してお金を作り、息子に送り続けました。総額1000万近くのお金を息子に送り続けました」
家族が借金を肩代わりすると、ギャンブルに依存している人は自分の問題に向き合うことができなくなるため、問題をエスカレートさせてしまう。ギャンブル依存症に尻拭いは最もやってはいけない対処法の一つだ。
だが、その時は知識がなかったみなみさん。「ギャンブルの借金を繰り返す息子に対して、どうしたらいいのか全くわかりませんでした」と言う。
ギャンブル依存症問題を考える会や家族の会とつながる
そんな風に誰にも相談できず、孤立していた4年前、厚生労働省の依存症関連の民間団体支援事業で、ギャンブル依存症問題を考える会のセミナーがみなみさんが住む県で開催され、みなみさんも参加した。
「繰り返される借金や、ギャンブルを隠して嘘をつくことなど、息子の症状はギャンブル依存症そのものでした」
その後、みなみさんは毎月開かれる家族の会や自助グループに参加するようになった。同じ経験をする仲間と出会い、安心して自分の苦しみを話せる場所を得られ、気持ちが楽になった。自分が尻拭いしてきたことが息子の病気を悪化させていたことにもやっと気づくことができた。
息子もギャンブル依存症の回復施設に入所させたが、「自分はギャンブル依存症ではない」と認めず、2ヶ月半で施設を飛び出してしまう。
その3ヶ月後特殊詐欺の受け子をして逮捕され、1年6月の実刑判決を言い渡された。ギャンブル依存症問題を考える会の田中代表が支援に入り、出所後は再度、回復支援施設に戻ったが、その時も「自分は依存症ではない」と言って、1日で施設を飛び出した。
今年2月から一人暮らしを始め、5月には家族のもとへ闇金から電話がかかってきた。正しい対処法を知ったみなみさんは、毅然と突っぱね、息子との連絡も絶った。一人暮らしのアパートから郵便物が転送されるようになり、また仕事を辞めて失踪したのだろうと思っていた。
強盗事件のニュース後に、息子が強盗致傷で逮捕と連絡
そんな風に過ごしていた今年の夏頃、強盗事件で若者が逮捕されたというニュースをテレビで目にした時、嫌な予感がした。
「いくらなんでもそこまではしないだろうと信じたかった。しかしそこから数時間後、息子が強盗致傷で逮捕された事実を知ったのです。ショックで頭が真っ白になりました。息子はとうとうここまでしてしまったのだと愕然としました」
その後も同様の闇バイトによる強盗事件が起こり、若者が次々に逮捕された。胸が痛み、家族で苦しい日々を過ごしている。
「ギャンブル依存症が悪化すると、借金でお金に追い詰められ、闇バイトまで応募し、犯罪に加担してしまう現実を改めて突きつけられています」
息子はギャンブルに手を出すまで、人に暴力を振るうような子ではなかった。問題行動はあったものの人には優しく、母の日には毎年カーネーションを送ってくれるような想いやりのある子だった。
「ギャンブル依存症という病気が、息子を変えたのだと思います」
そうみなみさんは話す。
ギャンブル依存症が進行すれば犯罪に手を染める
こうなってしまった今、みなみさんはどうしたら良かったのか、ずっと考え続けている。
「誤解しないでいただきたいのですが、私は息子は依存症なんだから許してくれとか、罪を軽くしてくれと言うつもりはありません。相応の罰を受け、罪を自分で償うべきだと思っています」
「ただもっと早くギャンブル依存症について知り、息子に毅然と対応し、ここまで悪化させる前に治療や支援に繋ぐべきだったと自分自身に対して悔やんでいます。一人で抱え込み、息子に振り回されてきました。社会のためにも、家族のためにも、私と息子自身のためにも、気づくのがあまりにも遅すぎました」
みなみさんが暮らす西日本の田舎町ではギャンブル依存症の支援どころか、情報さえ届いていない。一方で、どんなギャンブルもオンライン化された現代は、どんな地方に住んでいても若者が簡単にギャンブルにアクセスできる。
「ギャンブルに手を出せば、誰でもギャンブル依存症になる可能性があります。そしてギャンブル依存症が進行すれば犯罪にまで手を染めるようになります。そして犯罪のハードルが低くなり、犯罪も重篤化していきます」
「この国には私のように家族のギャンブル問題に苦しんでいる人、息子のように闇バイトに手を出すしかないと追い詰められているギャンブル依存症者がたった今も孤立し、悩み苦しんでいます。このことをお伝えすることが、今の私にできる精一杯のことです。闇バイトの犯罪が1日でも早くなくなることを願ってやみません」
そう話を締め括った。
ギャンブル依存症者の3分の1が犯罪に手を染める
闇バイトによる犯罪が多発しているのを受け、田中紀子代表はギャンブル依存症の家族の会会員に対して緊急アンケート(681人が回答)を実施。実に33.8%、3人に一人が犯罪に手を出していることがわかった。
犯罪の種類(複数回答可)で最も多いのは、横領で52.6%、窃盗(32.6%)がそれに続き、闇バイトが13%と3位に食い込んだ。
闇バイトの種類(複数回答可)で多いのは、口座の売買で76.7%。特殊詐欺の受け子、出し子(26.7%)がそれに続いた。
闇バイトに応募するまで金に切羽詰まった時にやっていたギャンブルは、パチンコ・パチスロが最も多い73.3 %で、最近、若者の間で増えている競艇(40%)がそれに続いた。日本の法律では違法なのに若者に広がっているオンラインカジノも13.3%にのぼった。」
賭ける金が増え、借金が増えれば増えるほど、ギャンブル依存症や犯罪のリスクは高まるが、違法なオンラインカジノの規模は、今や競艇と同じ規模まで膨らんでいると田中代表は説明。
同会の家族相談会で面談した人の調査によると、オンラインカジノをやっている人の割合は年々増加し、コロナ禍で激増。警察の取り締まりも厳しくなっているため今年は高止まりの傾向が見えるが、11月時点で17.8%もの割合を占めている。
アフィリエーターや広告塔をなぜ取り締れないのか
こうした調査結果を受けて、田中代表は参加した国会議員や各省庁の官僚に早急な対策を訴えた。
違法なオンラインカジノは、オンカジを合法としている海外に拠点があっても、日本人が日本国内にいる日本人向けに運営しているケースもある。こうしたケースは日本の司法で取り締れないのか、疑問を投げかけた。
また日本を拠点としている決済代行業者やアフィリエーター、YouTuberが若者のオンカジへのハードルを下げ、著名なサッカー選手や格闘家が広告塔になっているケースも多い。
田中代表は「こうした行為の収益は賭博幇助に当たり、犯罪収益ではないか」と疑問を投げかけ、こうしたオンカジ周辺で収益を得ている企業や著名人らへの警告や、取り締まりの強化を訴えた。
その上で、違法なオンラインカジノの厳罰化や、取り締まりのための専門人材や予算の確保を要望。海外からのオンラインカジノサイトについては、日本国内では閲覧できないようサイトブロッキングの検討を要望した。
さらに、闇バイト関連の犯罪で逮捕した場合、背景にギャンブル依存症の問題があったら、ギャンブル依存症問題を考える会のような支援団体に繋ぐよう求めた。
田中代表は、特に地方ではギャンブル依存症の情報や支援が届いていないことを説明し、「そもそも賭博が禁止されている日本では、監督省庁がきちんと管理監督をするという名目で、特別にギャンブルが許されてるはず。ですから、アルコール薬物ゲームの依存症とは、監督官庁の責任の度合いが違う」と、監督官庁の責任の大きさを指摘した。
その上で、厚労省や内閣官房に、家族や当事者が早く相談に繋がり正しい知識を持てるような対策を実現できる予算組みを訴えた。
ギャンブル依存症から発展した闇バイトの重大な犯罪が相次ぐ中、公営ギャンブルは売り上げを伸ばし、新たに大阪I Rも作られようとしている。
田中代表は「ギャンブル依存症対策はギャンブル産業との戦いでもあるが、国はギャンブル産業の振興も同時に行なっている。アクセルとブレーキを同じ監督官庁が踏んでいる構造が、問題解決を難しくしている」と国のギャンブルへの向き合い方を批判した。
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コメント
みなみさん
勇気を持って、ご自分の経験をお話くださりありがとうございます。
国会議員にその苦しみと、対策の必要性がきっと伝わったと思います。
日本においては賭博そのものが犯罪だと若者は知っているのかな?
と思います。あれだけ、バンバンCMを流し、町中に広告が溢れ、スマホの中では有名人や憧れのスポーツ選手が誘ってくるギャンブル。世間知らずで真面目な若者が安易にハマってしまうのは訳ないです。国がもっと本腰を入れて対策を打ち出さないと、この国に明るい未来はないと思います。
若い世代がギャンブル依存症にならないように病気の啓発や予防教育を広めなければならない。
違法なものを取り締まらない大人たちに責任がある。子供たちや何も知らずに苦しむ若者から搾取するようなギャンブルビジネスだのみの国なんて いやだ。
多くの人にこの記事を読んでもらいたいです。
みなみさんが語られた通り、依存症支援とは決して犯した罪を軽くすることではありません。
依存症が進行性の病であること、周囲の正しい対応が結果的に当事者含め多くの人を守る一番の手段であること。
家族も友人も当事者も、相談できる場所があること。
いつ誰がなるか分からないからこそ、正しい依存症知識が広まってほしいと思います。