Addiction Report (アディクションレポート)

名バイプレイヤー・六角精児は「ギャンブル依存=自己責任」は間違っていると断言する

ギャンブル好きとして知られている俳優の六角精児さんは、仕事を断ってまでパチンコをやらなかったことだけが「救い」と振り返ります。

名バイプレイヤー・六角精児は「ギャンブル依存=自己責任」は間違っていると断言する
俳優の六角精児さん(撮影・黒羽政士)

公開日:2025/03/07 02:00

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仕事を断ってまでパチンコをやらなかったことだけが「救い」

ーー六角さんは著書の中でギャンブルについて、「勝ち負けはどうでもいい」とも表現されています。

それは、俳優としてある程度メジャーになってからのことです。それまでは、やっぱり勝ち負けが大事でしたよ。だって、「今日は勝つぞ」と思いながら、パチンコ台の前に座るわけですから。

俳優の仕事が安定し始めて以降、今は「まぁ負けてもいいか」と思いながらやっています。「それのどこが楽しいの?」って思う人もいるかもしれませんが、そういう方は脳汁が出る瞬間を求めている。勝ち負けはあくまで結果の話であって、その過程に必ずあるそういう感覚を味わいたいからやめられないのだと思います。

撮影・黒羽政士

今でも、「もうやめておこうかな」って思った次の瞬間、パチンコ屋に足が向いてしまうことがあります。ただ、僕の場合はまだ軽い方なんじゃないかな。俳優の仕事が入り始めてからは、仕事を断ってまでパチンコ屋に行くことはなかった。そこだけは救いだったなと思います。

かなりパチンコに依存して、ギリギリのところまで行ったけど、何とか踏みとどまることができた。

ーーご自身の中での「仕事を蔑ろにはしない」という優先順位は守ることはできた。

別に行っても行かなくても同じような仕事だったら、仕事よりもパチンコを優先してしまっていたかもしれません。もちろん、どんな仕事も大事だと頭では分かっていますが、僕の場合は芝居の稽古に行かないと、周りの人に迷惑をかけてしまう。それは何があっても絶対にダメだという考えがありました。

僕の場合、「俳優」という仕事を通じて誰かから明確に必要とされているという実感があった。それが良かったのかな。「行っても行かなくても良いような仕事だ」と捉えていたなら、僕は仕事ではなくパチンコを選んでいたと思います。

パチンコを続けるのもやめるのも習慣の話なのだと思います。僕の場合は、仕事があったことで、パチンコではなく仕事を優先するという習慣付けができたんじゃないかな。だから、仕事と仕事をくれた周りの人たちには感謝しています。もしも周りにそういう人たちがいなかったら、どんどんと依存症の深みにハマっていた恐れがあったと思います。

僕自身、どれだけパチンコをやめようと思ってもやめられない状況に恐怖を感じていましたから。

「お金にだらしないパチンコ好き」だと思っていた時期も

ーーパチンコに一番ハマっていた当時、自分がパチンコに「依存している」という自覚はありましたか?

当時はそこまで「依存症」という言葉が知られていなかったので、自覚はありませんでしたね。「自分はお金にだらしないパチンコ好きだ」と思っていました。

ふと「これって病気なのかもな」と思ったのは、漫画家の西原理恵子さんの旦那さんが亡くなってその旦那さんがアルコール依存症だったと知った時です。西原さんの旦那さんはお酒にだらしないのではなく、アルコール依存症だった。それが病気なのだと知った時に、ギャンブルも同じじゃないかと思ったんです。すると、少し経った頃に「ギャンブル依存」という言葉を耳にするようになって、「ああ、自分はギャンブル依存だったのか」と腑に落ちました。

撮影・黒羽政士

ーー「依存」と「ハマっている」の違いや線引きはどこにあると、六角さんご自身は考えていますか?

「後悔するかどうか」が一つの分かれ目じゃないでしょうか。僕の場合は競輪や競艇でお金をどれだけ失っても後悔の気持ちはないのですが、パチンコには常に後悔が付きまとうんです。

所持金が1万円だとして、その全てをパチンコで失ったとしましょうか。もちろんお金を失ってしまったダメージもそれなりに大きいです。でも、それ以上に「またパチンコをやってしまった」というダメージの方が僕にとっては何よりも大きい。こうした後悔は人間の精神を蝕んでいきます。だから、僕自身はパチンコに依存してしまっていると感じるんです。

結局、依存している人間は自分自身にも嘘をついてしまう。「今日はもう終わりにしよう」「明日から俺はやめるんだ」、僕自身も何度も言い聞かせてきました。でも、言っていることとやっていることが矛盾してしまうんです。自分に嘘をついているだけならまだしも、次第に周囲の人にも嘘をつくようになって…

ーー何かにハマる程度で止まることができるのか、それとも依存してしまうのか。その違いはどこからくるのでしょう。

やっぱり、ああいう機械に子どもの頃から弱いんです。ゲームセンターのコインゲームにハマったのも、パチンコにハマったのも、結局は人が介在しない確率だけで当たり・ハズレが決まる面白さに魅了されてしまっているからだと思います。

パチンコ依存の夫に悩む人からの手紙に返事を出せなかった理由は…

ーー六角さんご自身も、現在もパチンコをやっていることを明かされています。完全にパチンコを断つことはできると思いますか?

僕の場合はやめ続けてもいないし、やめるつもりもありません。つくづく思うのは、「今日はやらなかった」という毎日を積み重ね続けていくしかないということです。

以前、ある方から「家族から借金をしてまでパチンコを続けてしまう夫がいるのですが、やめさせるにはどうしたらいいですか?」という手紙が届いたことがありました。でも、僕はこの人に返事を出すことはできなかったんです。どれだけパチンコ依存が苦しいことか分かっているからこそ、安易に「大丈夫ですよ」「いつか完全にやめることができますよ」なんて言えないなってと。

やっぱり、ギャンブル依存の身内がいたら、家族は自分たちを守るために、まずはその人から離れるという選択肢も考えるべきだと思うんです。でも、問題の真っ只中で思い悩んでいるご家族の方にこのことを伝えるのはなかなか難しいですよね。

撮影・黒羽政士

ーー改めて言葉にしていただくとすると、六角さんにとって、パチンコで得られる刺激はどういったものなのですか。

仕事で得られるものとは全く違うヒリヒリ感が味わえるものです。もうその感覚は異次元です。非日常の快楽だからこそ、自分も依存しているんでしょうね。

でも、最近ふとした時に気付いたんです。俳優の仕事もある意味で「非日常を生きる」ということだよなと。舞台やスクリーンの中で、自分ではない誰かの人生を演じる時、そこには必ず発見がある。その面白さは唯一無二です。

一時期は仕事にはない非日常の快楽を常に求めていました。でも、仕事にも面白さを見出すことができるようになったのは大きな変化だなと感じています。

誤解がないように言葉を選ぶ必要はありますが、僕はパチンコに依存して、借金をつくって妻に愛想を尽かされた経験も無駄ではなかった、「最悪の経験」ではなかったと思うんです。結果的には自分が役者をする上で、これまでの経験が活きている。辛い経験もあったけど、「ダメ人間」とレッテルを貼られる側の気持ちが痛いほどよく分かった。

これはこれで、良い経験だったなと自分としては捉えています。

「家族や友人に話してみたらどうでしょうか」

撮影・黒羽政士

ーー六角さんと同じようにパチンコやギャンブルに罪悪感や後悔を感じつつ、やめたいけどやめられない人にどんな言葉をかけますか?

僕が何かを言う必要なんてないよなって思うんです。なぜなら、パチンコに依存している人は自分が依存状態にあると薄々気付いていると思うので。自分に嘘をついて、周りの人にも嘘をついて、どうにもできないーー。その苦しさが分かるからこそ、まずはとことん行けるところまで行けばいいんじゃないでしょうか。

もちろん、その過程で周りの人に迷惑をかけたり、家族を失う人もいるかもしれない。人によって状況は違うだろうから一概には言えないけれど、自分一人で抱え込むのではなく、家族や友人など周囲の人に話してみたらどうでしょうか。

もちろん誰かに話したところで、すぐさま問題が解決するわけではないと思います。でも、誰かに話すことで、まずは1日やめてみることができるかもしれない。まずは1日、次は2日、そうやって小さな一歩を積み重ねていくためにも、自分がいま何に苦しんでいるのかを言葉にして、周囲に打ち明けてみることをおすすめします。

それでも、いつかはまたパチンコに手を出してしまうかもしれない。もしそうなったら、また1からやり直せば良いんですよ。

ーー六角さんはご自身の体験を包み隠さず、オープンにされていますね。

こういうことはオープンにした方が良いと僕は思います。隠れて裏でコソコソやっていると、どんどん心が不健全な状態になっていきますから。周囲の人には自分がどんな人間なのか、知ってもらった方が良いと思うんです。

撮影・黒羽政士

ーーとはいえ世間一般では、まだまだギャンブル依存への理解が少ないのも実情です。

多くの人々は、まだまだギャンブル依存について「ダメ人間」という括り方をするでしょう。もちろん、全ての人に理解してもらえる日なんてきません。だけど、「依存症は自己責任」という考えだけは間違っていると伝えたい。

何でもかんでも「自己責任」で片付けようとする人がいるけど、僕はこの言葉が一番嫌いです。依存症は病気です。だからこそ、周囲の人や医療機関に相談することが大切なんです。

(終わり)

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コメント

10日前
匿名

世間ではギャンブル依存症の理解がまだまだですが、そのまま放っておくのではなく、いろんな形で発信していく事で少しでも理解していただくことができると思います。1人1人の力で、ギャンブルだけでなく、依存症という病気の理解が広まってほしいと願います。

六角さんありがとうございます。

2ヶ月前
新見

自己責任という言葉ですぐ片付けようとする人が嫌いって言葉に共感。他人の痛みが分からないだけではなく、そもそも分かろうという気すらない姿勢に反吐が出る

2ヶ月前
匿名

最悪の経験を知ったからこその言葉が素晴らしくて、胸が熱くなり涙が出て来ました。感動しました。

俳優のお仕事 頑張って下さい。応援してます。

2ヶ月前
ゆう

「誰かに話すことで、まず1日はやめてみることができるかもしれない」

「自分が今何に苦しんでいるかを言葉にして周囲に打ち明けてみる」

今、ギャンブルをやめられなくて苦しんでいる当事者の皆さんに聞いて欲しい話だと切に思いました。

2ヶ月前
みーさん

私今74歳です パチンコ 麻雀 ボート16からやってます 娘2人ギャンブルしない婿で良かったです サラ金 銀行300万ぐらいで 済んでよかった 結婚してから ずっと女房が働いてくれた 感謝してます バス運転手して73歳まで働いて 退職金だけは手を出さなかった

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