Addiction Report (アディクションレポート)

「アディクションについて知り、考えるきっかけがさらに広がっていけば」 エンタメで依存症の理解を広げたアディクション国際映画祭

「アディクション国際映画祭」二日目は、「アディクトを待ちながら」が上映され、ナカムラサヤカ監督や主演の高知東生さん、沖映社の2人のトークショーも開かれました。AA創設者のビル・ウィルソンのドキュメンタリー映画を製作し続けているジェイ・スティネットさんも講演し、AAで語られる「大いなる力」の意味について語りました。

「アディクションについて知り、考えるきっかけがさらに広がっていけば」 エンタメで依存症の理解を広げたアディクション国際映画祭
トークショーで語るナカムラサヤカ監督(真ん中)と高知東生さん(左から2番目)、田中紀子さん(左)、モバイル・プリンスさん(右から2番目)、真栄城潤一さん(右)

公開日:2026/11/06 02:05

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依存症への理解を広げるために10月11日、12日に東京都内で開かれた「アディクション国際映画祭」。

二日目は、ナカムラサヤカ監督の「アディクトを待ちながら」(制作・ギャンブル依存症問題を考える会)上映で幕を開け、この映画を高く評価しているポッドキャスト「沖映社」の2人も交えたトークショーが開かれた。

初日に続き、プロデューサーのジェイ・スティネットさんも講演し、アルコール依存症自助グループのAA創設者、ビル・ウィルソンのドキュメンタリー最新作も公開された。

「今の時代にはないコミュニティのあり方で勇気づけられる」

「アディクトを待ちながら」の上映後、ナカムラ監督、主演の高知東生さんをはじめ、この映画をポッドキャスト番組「沖映社」で絶賛したモバイル・プリンスさん、真栄城潤一さんも登壇してのトークショーが開かれた。

この映画は元々ワークショップとして始まったもので、出演者には結末を知らせないまま撮影を進めていった。クライマックスシーンのやり取りは俳優たちのアドリブ。監督が最低限の設定だけ一部の俳優に伝え、俳優たちが役を生きる形でドラマを作り上げていった。まずそんな映画の成り立ちをナカムラ監督が説明した。

高知さんは、その時の演技についてこう振り返った。

「アドリブだからどうというより、もう演じることが自分ではできなかった。ただ『大和遼』という役だけは自分の心にいるけれど、そこから自分がどう言うかも、俺本人がその場面で楽しんじゃおうと思って。だから、何が出てくるか最後までわからない。ただ言えることは、4年前、俺はこうやってまだもがきながら、仲間に支えられて、自助グループに通いながら、そこで生まれた自分なんだな、大和遼、お前よく頑張ってるよっていう。4年前の自分自身の本当の気持ちが、その時に味わっている年月、時間、今日という日が、あの言葉を全部生んでくれたのかなと思います」

プロデューサーを務めた田中紀子さんは、「ナカムラ監督とずっと啓発動画を作ってきて、今回初めて映画という形になったのですが、『色々あったけど、最後は家族の間もうまくいっちゃった』みたいな物語は嫌だなと思っていました。そんな非現実的なことや、ありきたりの家族愛はすごく嫌だなと思っていたので、逆に今までになかった依存症の自助グループや仲間たちの回復していく姿がこの映画で表現できたかなと思います」と語った。

沖映社の真栄城さんは、「沖縄の小さい映画館で上映していて、館長に『これたぶん刺さると思うよ』と勧められてみたのですが、見ているうちに映画が持っている磁場のようなものにどんどん巻き込まれていった。クライマックスの高まりは座席の肘置きをグッと握って、こっちも体が熱くなって、熱気に巻き込まれるような感覚でずっと見ていましたね」と語った。

モバイル・プリンスさんも、「もうやられましたね。ずっと泣いていましたし、いびつな映画だと思っていたんですけれども、そのいびつさにどんどん虜になって、2年ぐらい前からずっと好きです」と述べた。

沖映社の2人は、ポッドキャストでこの映画を紹介するときに、依存症についても事前にリサーチし、正確な情報も併せて伝えた。

「田中紀子さんが発信してる内容をなるほどと思ってそれをほぼそのまましゃべっている程度なのに、コメント欄にすごい書き込みがあったんです。『ありがとうございます』とか『感謝してます』と言われて、嬉しい気持ちと同時に、たったこれだけのことでこんなに感謝されるって、(依存症の当事者や家族は)普段からどれだけ肩身の狭い思いをしてきたんだろうと思いました」

真栄城さんは元々地元沖縄で新聞記者をしていた経験がある。

「テレビで無責任な専門家じゃない人たちが誤解を振りまくような行動が沖縄と似てるんですよ。沖縄のことを知らないやつが好き勝手に沖縄のことを全国で言って、本土の人たちはそれを真に受けるみたいな構図は似ている部分もある。我々のポッドキャストは日々それに中指を立てながら発信しているのですが、紀子さんのイズムや突破力みたいなものは見習わないといけないなと思います」

沖映社のnoteで「心の中に田中紀子」という文章を書いていることも明かし、「(依存症に対する)これまでの世間の風当たりの強さを考えると、これぐらいパワフルな人じゃないとこうならなかったのかなと複雑な感情と尊敬とがある。田中紀子でNetflixドラマを作るべきだ!」と2人で盛り上げた。

プリンスさんはこの映画を好きな理由として、「自分の弱さとか、ダメなところとか失敗したこととかを素直に開示して、受け入れてもらって、多種多様な皆さんでお祝いしたりする姿を見ると、今の時代にはあんまりないコミュニティのあり方として、すごく勇気づけられるし、ああいったものを自分も作りたいなってなるし、普遍的に刺さると思いますね。羨ましいとすら思う」と、自助グループや依存症の仲間のあり方に惹かれたことを指摘した。

田中さんはそれを聞いて、「私たちは逆に普通の人たちに優越感を持っていますからね。かわいそうだな、みんな自助グループがないんだもんと思っちゃう。ありのままの自分で、地位とか名誉とか関係なく弱さをさらけ出す人、イコール弱い人じゃない。でも、それを言うと、弱い奴らの集まりのように勘違いされる。弱さをさらけ出して、自分がこんなこと考えてるんだよねとか、自分が今こういうピンチを迎えているんだよねと話せるいうことは、信頼と、それを話しても自分は絶対になんとかなると思える強さがなければ言えない。人間はみんな弱いし、大したことないのが人間。それを打ち明けられる仲間と出会えたのは、すごく幸せだと思いますよね」と自助グループでつながる喜びを伝えた。

優秀で頑張り過ぎている女性こそ依存症に

その後、ナカムラ監督のもう一つの作品、パチンコ依存の主婦を描いた「嘘つきは◯◯のはじまり」も上映され、ナカムラ監督と映画ライターのよしひろまさみちさんとのトークショーも開かれた。

元々はTwitterで流した1話140秒の連続ドラマ(12話)だったが、追加撮影して短編映画に作り替えた。あいち国際女性映画祭2024にも招かれ、観客賞も受賞した。

「女性当事者の話にしたのは、本当に素晴らしい」とよしひろさんが語ると、ナカムラ監督はこう狙いを語った。

「女性だと、アルコール依存やキッチンドランカーの人たちの話は聞いたことがあると思うのですが、お母さんが頑張っていて、優秀であればあるほど、そういう状況になっていく感じを表現したいよねと話し合ったんです」

会場にいたギャンブル依存症に陥った主人公の娘役を演じた石川葵さんや、ママ友役を演じた荻野みかんさんも登壇した。

ナカムラ監督は「夫婦の物語だと多分、離婚して終わると思うんですよ。でも守るべき子供がいるからこそ、ここをなんとかしてリカバーしなきゃいけないっていう方向に持ってくわけですよね」と、依存症からの回復を描くのに家族関係が重要だったことを明かした。

AAや12ステップは神を信じなければいけないわけではない

最後に上映された映画は、AA創設者のビル・ウィルソンの霊的体験に焦点を当てたドキュメンタリー映画「Bill W. Conscious Contact」だ。長年うつ病やアルコール依存に苦しみ、祈りや瞑想などによって大いなる力に繋がろうと奮闘し続けた姿をプロデューサーのジェイ・スティネットさんが追う姿を描く。

上映後、スティネットさんが講演した。

ジェイ・スティネットさん

スティネットさんはまず「ビルは決して、アルコールを自分たちでコントロールできるようにとか、そういう大きなことを言ってたわけではない。いくつかの回復のためのステップをちゃんとフォローしていくと言っているだけで、彼はもともと壮大な計画があったわけではなかった」と述べた。

ビルは両親の離婚で祖父母に育てられたことが人生に暗い影を落とし、酷い酒飲みになっていく。酔うと自分がどこにいて何をしていたのかもわからなくなり、ズボンを脱いだ状態で家に帰ってきたこともあったという。

「酒をやめるために、色々あの手この手を尽くしたんですけれども、全部失敗に終わりました」

ある日、飲み仲間がすっぱり酒をやめているのを知り、どうやったのかビルが問うとこう返されたという。

「1つ目は、自分自力でお酒をやめることはできないと自分で認識すること。2つ目は、大いなる力に助けを求めること。キリストでもブッダでも、どんな神でもいいし、神じゃなくてもいいし、何か自分より大きな力に助けを求めることだと言われました。そして、3つ目は、自分の人生を見直して、人に迷惑をかけたり、人を傷つけたりした時はどんな時かを認識することだと言われました。そして、それを精算しなさいと言われました。そして、自分と同じような状況にある人を、見返りを求めずに助けなさいと言われました」

後の12ステッププログラムにつながるこの内容に、ビルは当初ピンとこなかった。しかし、飲み仲間がもう飲んでいないという状況だけ気になっていたという。その後も酒を飲み続け、再入院の際に神秘的な体験をしてやめようと決意した。

スティネットさんはここまで話した後、観客にこう語りかけた。

「今回私が映画を作った最大の目的は、皆様に(AAが回復のために推奨する)12ステッププログラムを実践するためには神を信じなきゃいけないと思わないでほしい。神を信じなければいけないという誤情報を信じないでほしいということでこの映画を作りました。男女どんなに賢い人も、AAや12ステッププログラムはキリスト教のものだと思っている人がいます」

ビルも神を信じたわけではなく、入院中に「神はいるのか?」と問いかけて、白い光を見るという神秘的体験をした。

その神秘的体験の意味についてスティネットさんは、「彼は完全に他者から愛されたと感じ、どんな関係であろうと自分のことを理解してもらえたと感じたということです。いい面も悪い面もすべて理解してもらえたと感じたんです。その中で、彼はもう2度と飲むまいと心に誓いました」と語った。

そして、12ステッププログラムの意味についてこう語った。

「アルコール依存症とかドラッグの依存症は、頭の中で解決できるものではありません。これは、心を通じた体験がなければ解決することはできないんです。そして、ビル・ウィルソンが私たちに示してくれた12ステップは、心を解放する手段なんです。ビルが示した通り、不可能が可能になるということなんです」

2回目の開催に向けて

二日間にわたって開かれた映画祭のクロージングセレモニーで、実行委員長の田中紀子さんは「2日間、これだけ充実した時間を過ごせて、皆さんの協力にすごく感謝したい」と述べ、裏方で支えてくれた家族会のスタッフたちにも感謝の言葉を贈った。

フェスティバル・ナビゲーターを務めたよしひろまさみちさんは「何より今日ここで見ていただいたの人の多さに本当に驚かされて、こういう風に映画をまとめて見る機会自体がほとんどなく、それを待っている人たちがこれだけいたことに感動している。1回目がこれだけ盛況だと、2回目もあるんですよね?」と2回目の開催に繋げた。

高知東生さんは、「依存症の理解をどういう風にさらに広げていくかを考えるうえで、こういう映画祭やエンタメを本当に大切に思ってくれて、その中で僕らもできることを1歩1歩やってきました。1人でも多くの人に知らせていきたいなという思いを胸に、また頑張り直そうと思いました」と決意を述べた。

沖映社のモバイル・プリンスさんは「また沖縄でも『上映会とかやりましょうよ』とか言って、今度はこっちが巻き込んでいく番だなみたいにして行ければ。また違う意味で仲間みたいな皆さんとお会いすることができて、1つ1つ学びながらいい関係を続けていければいいなと思っています」と挨拶。

沖映社の真栄城潤一さんは、「全部をわかることはできないですけど、分かろうとすることは諦めたくないし、分かり合える地点にたどり着けたのは、皆さんの熱気や、共有している知識や、感情を分かち合って文化で繋げてもらえたから。そんな素晴らしい映画祭だったなと思います」と述べた。

ナカムラサヤカ監督はメッセージの形で「この映画祭がこれからも続いていくことで、アディクションについて知り、考えるきっかけがさらに広がっていくことを願っています。私も応援団の1人として、できることを考え続けていきます」と思いを会場に届けた。

ジェイ・スティネットさんは「今回上映された映画の質の高さに刺激を受け、その一部となれたことを嬉しく思っています。このアートの力というものに驚いていますし、その一員になれて感動した。本当にありがとうございます」と喜びの言葉を述べた。

(終わり)











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