ギャンブルに注ぎ込んだ総額は「億単位」、遊ぶ金欲しさに実家も売却…人気YouTuberが“最後の賭け”に勝つまで
登録者数40万人を超える人気YouTuber・ナムさんはギャンブルにハマり、大金を溶かした過去を持っている。何が彼をそこまでギャンブルに駆り立てたのか、そして今思うことは?ナムさんに話を聞いた。
公開日:2024/06/14 08:00
数十年前、それまで順風満帆だった人生は職場の先輩に連れられて足を運んだ競艇場で大きく変わった。
当時は20代後半。1000円の原資が一瞬で7万円超にまで膨らんだ。
「こんなに簡単に当たるのか」。ギャンブルにのめり込むまでに時間はかからなかった。
「ナムさん」という呼び名は、南無阿弥陀仏の「南無」から取った名だ。
2022年5月に始まったYouTubeチャンネルの登録者数は今では40万人を超える。過去にはヒカキンをはじめ、有名YouTuberともコラボし、多くのファンを魅了してきた。
人気YouTuberとなったいま、競艇やパチンコといった賭け事からは足を洗ったと明かす。
それは、つまりファンからの応援や期待を背に、心を入れ替えたということかーー。しかし、そんな仮説はあっさりと打ち破られた。
「65歳を超えてYouTuberになるっていうのも、壮大なギャンブルだよな」
生粋のギャンブラーはつぶやき、笑う。【ライター・千葉雄登】
一時は給料以上の「稼ぎ」、転落への第一歩は…
振り返ると、人生のすぐそばに「ギャンブル」は常にあった。
生まれも育ちも九州。父親もギャンブルが好きで、物心つく頃には自分もパチンコ台の前に座っていた。
本格的にギャンブルにハマったのは30代に入ってから。ボートレースにハマっていた会社の先輩に連れられ、ボートレース場へ。
すぐに毎月の給料をボートレースに突っ込み、給料以上の「稼ぎ」を得るまでに。
「働かなくても食っていける。仕事を続けるなんてバカバカしいな」
そんな考えが頭をよぎり、定職を捨てるまでに時間はかからなかった。しばらくは生活に困ることなく、手元に入るお金はむしろ増え続けた。
「給料を軽く超える大金を手にして、なんだギャンブルで稼ぐなんて簡単じゃないかって思ってしまった。これが転落の第一歩でした」
こんなに楽に稼げるならば、と次第に1回で賭ける金額も徐々に増えていく。
少しの負けは気にしない。「すぐに取り戻せるはずだ」と息巻いた。
ふと気付くと、目の前に残されたのは膨れ上がった借金だけだった。
「人間ってギャンブルで負け続けて、いよいよヤバいぞという局面になると焦るんだよ。でもね、焦ってもロクなことは起きない。焦れば焦るほど上手くいかない。まさに負の循環です」
住み込みで働き、ボートレース場を転々
特にギャンブルにハマったのは30代から50代後半まで。
20数年間は全国のボートレース場を転々として過ごした。
レース場の近くで住み込みで働ける会社を探してはそこで働き、ある程度給料が貯まったタイミングでまた次の場所へと移るーー。
「住み込みの寮に寝泊まりし、建設現場で働くのが自分にとっては一番手っ取り早かった」
一つの場所に留まるのは長くて半年程度。1ヶ月単位で次の場所へと移ることも少なくなかった。
ボートレースで大金を手にすると、キャバレーで派手に遊ぶのがマイルール。
ある時には、歌舞伎町のとあるビルに入ったキャバレーやクラブを全て貸し切り、最上階から1階まではしごして飲み歩いたこともあると笑顔で打ち明ける。
「30人くらいの女の子に囲まれて、彼女たちがひたすら盛り上げてくれる。その感じが、すごく楽しくてね」
「あの頃はボートで稼いでもすぐに使っちゃった。ボートで手にした600万円を1週間くらいで使ったこともありましたね」
豪快なエピソードを語らせれば、枚挙にいとまがない。
遊ぶ時は必ず1人で。ゾロゾロと連れ立って遊ぶのは「俺の趣味ではない」と言い、「いつだって一匹狼だったから」と振り返る。
68年の人生で一度だけ結婚した。だが、ギャンブル癖などが原因で、幸せな生活は長くは続かなかった。
「俺一人で生きている限り、何かあっても責任は自分で負えばいい。一人でいる分には家庭を潰す可能性もないから」
借金かさみ追い込まれた末に、実家を売却
借金が増え、遊ぶ金も底を尽いたある日、ナムさんが繰り出したのは「実家を売却する」という暴挙だった。
実家へ帰ると、両親が家を空けている隙に家の権利書と実印を引っ張り出し、不動産屋へ駆け込んだ。
売値は約1500万円。
現金で受け取ると、実家へ帰ることなく、行方をくらませた。
「当時はとにかく、どうにかして金をつくらなきゃならないと必死だった。追い込まれれば追い込まれるほど、金策の知恵が次から次に湧いてくるから不思議です。実家を売ればまとまった金が手に入るなと…そんなことしか考えていなかった」
もちろん父母は売られたその実家で暮らしていた。その後の両親の生活について確かめることがないまま、数十年が経過した。
父は既にこの世を去っていると風の噂で耳にした。
あの出来事以来、生まれ故郷の土は踏んでいない。
生活保護から路上生活へ、転がり込んだYouTuberへの挑戦
これまでにギャンブルに注ぎ込んだ総額は「億単位」。
紆余曲折ありながらもギャンブルにお金を注ぎ込む暮らしを続けたある日、ついにお金が底を尽いた。金策の手段も手元には残されてはいなかった。
まさに万策尽き、一時は生活保護を受給。生活を立て直そうと試みた。
しかし、そのような生活も長くは続かず、2021年に横浜市・関内の地下通路へ流れ着く。段ボールハウスでの生活がそこから始まった。
「関内にたどり着いたのはたまたま。別に何か特別な縁があったわけではないんです」
そんな地下通路で現在の番組ディレクターと出会い、YouTuberへの道がひらけた。
2022年5月のチャンネル開始から2年が経過し、チャンネル登録者数は40万人を突破した。
ヒカキンとのコラボ動画を配信するなど、名実共に人気YouTuberの仲間入りを果たしている。
ナムさんのファンは小学生から80代までと幅広い。「親子でYouTubeを見ています」といった声も時に寄せられるほか、動画のコメント欄には「ナムさんみたいになりたい」「頑張って」といった温かい言葉が並ぶ。
そんな言葉を目にするたび、ナムさんは「もうバカなことはやれない」と強く心に刻んでいるという。
「今さら賭け事にお金を使っても何も面白くない」
ギャンブルにハマっていた当時は「依存症」と言われても仕方のない生活を送っていた自覚があるが、今はギャンブルから足を洗った。
でも、なぜ?
そう問いかけると、ナムさんの口を突いて出たのは意外な一言だ。
「今のYouTuberとしての生活はチャンネル登録して、動画を見てくれるファンのおかげで成り立っています。そんな中でギャンブルなんてできるはずがない。それにね、もう今さら賭け事にお金を使っても何も面白くない」
時間を潰すことが目的であれば、スマホゲームで事足りる。しかも、現在暮らしている古民家の近くはパチンコ屋すらない環境だ。
さらに最近では古民家の改装のために動き回っているため、「そもそもギャンブルに注ぎ込む時間がない」と漏らす。
「ある意味、違う時間の使い方を知ってしまったから。今はわざわざギャンブルを1時間やるくらいなら、家の周りの草刈りに1時間を使いたいんです」
YouTuberになったのを境に、人生は文字通り一変した。
もしも、目の前にギャンブルをやめたいけどやめられない人がいたとして、かけられる言葉があるとすれば、「ギャンブルをやめられないのはしょうがない」という一言くらい。
一見、ギャンブル依存の当事者たちを突き放すようにも思える言葉だが、そうではない。
裏にあるのは、ギャンブルにハマった一人の人間としての偽らざる実感だ。
「だって、何かしらきっかけがない限りダメでしょう。たとえ周囲の人が手を差し伸べたとしても、ギャンブルにハマっている最中は素直にその手を掴めない。ギャンブルに夢中なうちは、自分の目の前にあるチャンスに気付くことすら難しいからね」
【ナムさん】YouTuber
YouTubeチャンネル「ホームレスが大富豪になるまで」に出演。動画投稿は2022年5月に始まり、現在までにチャンネル登録者数は40万人を超えている。2023年末にはチャンネル収益を原資に山梨県に古民家を購入し、現在は古民家の改修を進める様子などをチャンネルで配信している。