Addiction Report (アディクションレポート)

「ダメ。ゼッタイ。」の使用禁止策で、よりリスクの高い薬物へ 薬物を使うMSMの調査で明らかになったこと

男性と性行為をする男性(MSM、Men who have sex with Men)を対象に、薬物使用に関する研究が行われている。MSMの性行動は、HIV陽性との関連で課題を抱えている。

「ダメ。ゼッタイ。」の使用禁止策で、よりリスクの高い薬物へ 薬物を使うMSMの調査で明らかになったこと
MSMの薬物使用の現場について話す、NPO法人ぷれいす東京の生島さん(撮影:渋井哲也)

公開日:2026/10/09 01:45

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「日本では『ダメ。ゼッタイ。』が薬物対策の基本です。日本でもハームリダクションの政策ができないか、というのが、この研究の目的です」

そう語るのは、厚生労働科学研究(エイズ対策政策研究事業)の「ヘルスプロモーションを実現するための包括的支援に関する研究」の研究代表者、生島嗣さんだ。HIV/AIDSや性感染症、セクシュアルヘルスに関連する問題に取り組む、NPO法人ぷれいす東京の代表でもある。

この研究は前提として、薬物を使用する人を一括して「薬物依存症者」として扱っていない。使用目的や心理状態、性行動、人間関係の実態を調査することが目的だ。その上で、必要とされる支援を模索する。

この研究班としての調査は2015年から続けられてきた。MSM(Men who have sex with Men、男性とセックスをする男性)の間ではHIV感染が課題となっており、薬物使用との関連も指摘されているためだ。

危険ドラッグの規制強化後、薬物使用はどう変わったのか

この調査の土台となっているのは、「Love Life and Sexual Health(LASH)」調査(2016・2023)、第4回HIV陽性者全国調査(2019―20)だ。

危険ドラッグは徐々に規制されてきた。2005年には幻覚作用のあるゴメオ(5-MeO-DIPT)が「麻薬」に指定された。2006年には薬事法改正で「指定薬物」の制度が導入され、製造・輸入・販売が規制された。このとき、酩酊作用があるラッシュの成分の一部が「指定薬物」となった。2014年になると、指定薬物は所持、使用、購入、譲り受けも禁止となった。

「ゴメオやラッシュは新宿二丁目でも普通に売られていましたが、規制強化され、店頭から消え、入手ができなくなりました。研究班としてそのことで薬物の使用行動がどのように変わってきたのかを調べたところ、一定数の人が別の薬物に移行している可能性が示唆されました」(生島さん、以下同)

ゴメオは別名でFoxy、5-MeO、フォクシー、COME、X-feel、SEX Hyper、Love Bollなどとも呼ばれている。なお、HIV治療薬との飲み合わせが悪いことも言われている。

研究班の代表、生島嗣さん(撮影:渋井哲也)

「19−20年調査では、危険ドラッグが入手困難になり、その後の代替先として『覚醒剤』を挙げた割合が約6割(60.7%)でした。『ダメ。ゼッタイ。』型の強力な使用禁止策によって、よりリスクが大きい薬物へ移行した可能性があります」

ゴメオやラッシュの規制強化によって、どのような変化が起きたのかを使用経験のある人に聞いたところ、「使用を停止した」と回答した人は59.8%となっており、6割はやめていた。一方で、「使用継続」は13.3%、「代替薬物を使用」は29.9%であった。この「代替薬物」の60.7%が覚醒剤であった。(※Hayashi et al., 2023)

「啓発のありようを考えることができれば」

さらに、「過去1年間の覚醒剤使用」は、13年調査では3.9%だったが、19~20年調査では6.6%で、増加している傾向が示唆された。また、「薬物使用をコントロールできない」も13年調査では7.2%、19~20年調査では10.3%であった。

「危険ドラッグなどの薬物を規制して使用禁止にしただけでは、薬物の使用はなくなりません。そこにハームリダクションの介入が必要になるのではないか。日本での医療目的以外で薬物を使用することがある人たちへの啓発のありようを考えることができればと思っています」

こうした現状が今回の研究の出発になっている。生島さんによると、現在の研究は、ミクロ(個人)と、メゾ(地域・組織)、マクロ(政策・国際比較)の三つのレベルで考えられている。そのミクロレベルのひとつに、「薬物使用者の支援ニーズに関する全国調査」がある。

使用される薬物で最も多いのは?

これは2022年11月から2023年1月に実施された、第2回「Love Life and Sexual Health(LASH)」調査のデータをもとに二次分析したものだ。日本在住のMSMの、薬物使用の実態と、薬物問題の重症度、さらに重症度と関連する要因を調べた。

分析対象となったのは、SNSやMSM向け出会い系アプリを通じて募集された6179人の回答から、重複回答や矛盾回答などを除いた、生まれ持った性別も、性自認も男性であるMSM、4472人だ。

4472人のうち、生涯薬物使用経験のある回答者は853人、19.1%であり、過去12か月間に薬物を使用した回答者は146人、3.3%だった。

使用される薬物で最も多いのはラッシュであった。過去12か月間に使用した薬物は、「ラッシュ」が38.7%。次いで「覚せい剤」(25.4%)、「大麻」(17.6%)、「5-MeO-DIPT(ゴメオ)」と「MDMA」がそれぞれ10.6%であった。また、2種類以上の薬物を使用した回答者の割合は21.1%であった。薬物を使用する動機としては、「性的快楽を高めるため」が90.8%であった。

4人に1人超が「中度以上」

この研究では、薬物使用の重症度を測る「DAST-20」を使用した。

ちなみに、東京都福祉局の「とうきょう依存症ポータルサイト」では誰でもチェックができる。

0点は問題なし。1~5点は「軽度」で、精神保健福祉センターや依存症専門医療機関への相談が勧められる。「6~10点」は「中度」で外来治療が必要で、専門的治療が検討される。「11~20点」は「重度」で集中治療が必要なレベル。

本調査ではDAST-20の中央値は2点だった。73.2%は5点以下(「問題なし」または「軽度」)だった一方、6点以上の「中度」以上は26.8%だった。

薬物を使用する人が必ずしも集中的な医療を必要としているとは限らない。一方で、医療的支援が必要なレベルになっている人たちが一定数いることも判明した。この結果は、薬物使用者を一律に扱うことの難しさを示している。

研究班は使用される薬物について調査した(撮影:渋井哲也))

重症度が高いのはどんな人たちか?

では、どのような人が薬物問題の重症度が高かったのか。

分析で最も強い関連が見られたたのが、覚せい剤の使用だった。覚せい剤使用とDAST-20の6点以上の「中度」になることに関連が見られた。また、薬物使用の動機が「現実逃避」であることも、重症度との関連が見られた。

「何を使ったか」だけでなく、「なぜ使ったのか」も重要だ。

「『現実逃避』と同じくらい、『薬物を勧める相手と親密になるため』も重症度と関連があります。寂しさという点も薬物使用の動機になり得るということです。『薬物を一緒に使用することで誰かとつながることができた』、『一人じゃないと思えた』という声も聞きます」

MSMの薬物使用と性行動との結びつきは強い。ただし、薬物を使っているからといって、すべての人に同じ問題があるわけではない。性的快感を高めるための使用と、現実から逃れるための使用では、その背景が異なる。

刑事施設に収容されたHIV陽性者も調査。「新しい人間関係をつくるのは難しい」

日本では薬物使用を刑事司法上の問題として扱う政策が中心となってきた。別の分担研究では、刑事施設に収容されたMSMへの対応について調べるため、HIV診療を行うエイズ治療拠点病院や地域の医療機関を対象に調査を実施した。

回答があったのは144施設で、回収率は36.5%だった。ブロック拠点病院は13施設(回収率は86.7%)。中核拠点病院は31施設(回収率は57.4%)。一般病院とクリニックは100施設(回収率は30.7%)。いずれも一定の割合で、拘束中のHIV陽性者の通院を受け入れていたり、抗HIV薬を処方したりした経験があった。

ぷれいす東京が、刑事施設に収容されたHIV陽性者の支援について考え始めたのにはきっかけがある。規制されたラッシュを海外から個人輸入したとして、医薬品医療機器等法違反と関税法違反で男性が起訴され、NPO法人ぷれいす東京は訴訟支援をした。刑務所に収容された後は文通したり、出所者の支援をしたりしている。

「出所者が最初に困るのは住居の確保です。親族が受け入れない場合もあります。薬物を使用することで人間関係が変わってしまっていますが、出所して、すぐに新しい人間関係をつくるのは難しい。HIVが関連していれば、ぷれいす東京が関わることもできます。本人の力だけでは難しいこともある」

刑事施設に収容された人たちの医療の継続性について調査した、生島さん(撮影:渋井哲也)

医療提供の連続性の実態も調査

こうした経験をもとに、分担研究では逮捕前、勾留中、出所後など、医療提供の連続性に関する実態調査を行なっている。

「こうした医療提供の連続性について、これまで誰も調査をしていません。例えば、刑務所に入所している場合、医療は法務省の予算でなされています。しかし、出所後は、個人個人の社会保険や国民健康保険などで行われます。そのため、医療との断絶が起きることがあります。

刑務所にいるときに医師がHIVの検査をし陽性だった場合は、一定の要件を満たせば身体障害者手帳の交付対象となり、医療費助成などの制度につながる場合があります。しかし、そのことを医師が知らないこともあり、刑務所内で検査が行われず、『障害者手帳』がスムーズに申請できないこともあります」

治療へのアクセスを担保することは、公衆衛生上の予防の観点からも重要だ。自己負担を減らすことで医療にアクセスしやすくするため、切れ目のない医療支援は必要だ。生島さんは、縦割りの施策のギャップに一石を投じたいと考えている。


【参考文献】 

※Hayashi, K., Wakabayashi, C., Ikushima, Y., & Tarui, M. (2023). Characterizing changes in drug use behaviour following supply shortages of 5-MeO-DIPT, alkyl nitrites and new psychoactive substances among men living with HIV in Japan. The International journal on drug policy, 118, 104080. https://doi.org/10.1016/j.drugpo.2023.104080

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