「誰にも愛されないのではないか」セックス依存症となった背景には何があったのか。実は、宗教2世であり、飲酒の問題を抱えた家族がいた〜セックス依存症のまゆみ(下)
セックス依存症のまゆみは「誰でもいいから愛されたい」と話している。そんなまゆみの家庭環境は、宗教2世の問題や、アルコールの問題を抱えていた。
公開日:2024/08/18 06:00
仕事の欲求は満たされているのに、なんで生きるのが辛いの
まゆみ(仮名、29)は、性行為によって、しんどいことを忘れることができると話していた。いったい、何を忘れたかったのか。
「全部がしんどいです。生きていることが基本的に苦しい。何もなくても辛いんです。仕事は好きなことをしています。仕事の欲求は満たされているのに、なんで生きるのが辛いのかな。説明がつかない」
しばらく考えて、まゆみからは次のような言葉が出てきた。
「多分、私の中での猛烈なコンプレックスでしょうか。やっぱり、誰にも愛されていないみたいなところです。愛されたい。当時はとにかく誰でもいいから愛してほしい。だから、そのための努力だったんですよね。仕事もそうだし、セックスもそう。全部、愛されるための努力でしかない。でも、何も報われないから楽しくないみたいな。
だって、仕事なんて、お給料をもらえるだけだし。セックスしたところで、別に愛につながるわけじゃない。何も報われないから何をしていいかわからない。でも、(ハプバー通いの)辞め方がわからなくなってしまって…。
途中からは、もう行きたくないなら行かなくていいと思っていたんですよ。でも、たまにうまく行く。つまり、お店の客で気に入った男性にあてがわれた客をうまく捕まえることができると褒められるんです。それが10回に1回あると、やっぱ人間っておかしくなるじゃないですか。人間に限らず、生き物ってそういうものってあるじゃないですか。簡単にいううと条件付けみたいなもの。パチンコと同じです。たまにうまくいくから。その脳汁が止まらないんです。居場所と勘違いしてしまうんです」
ハプバーに通い続け、診断を受け、入院する
通い詰めて1ヶ月後、もともと通っていた精神科のカウンセラーに相談をする。すると、①開き直る、②気合い、③薬、④入院―という4つの選択肢を提示してくれた。ただ、開き直ってハプバーに通い続けるのは、警察の摘発や性病感染、妊娠のリスクがある。気合いでなんとかなるなら、そもそも常連にならない。薬はこれ以上変えられない。その上で、「1番のおすすめとして入院」をあげた。
この頃、「セックス依存症(性嗜好障害)」の診断を受ける。ただ、通っていたのはクリニックだったために、入院施設がない。そのため、病棟がある病院に紹介されて、入院することになった。
「自傷他害の危険があるということで入院することになりました。『自分を傷つけなくていい空間にしばらくいた方がいい』と言われました。入院して何かあったわけじゃないですが、刺激はまったくなかったです。毎晩、先生が病棟に来て、依存症のワークみたいなものをやらされました。宿題が出たんです。『どうしてこんなことがしたいのか?』とか、『そのかわりになる行為はありますか?』などをやりました。初歩的なことからやらされました。
その後、退院して、もともと通院していたクリニックに戻りました。ただ、医師が変わることになって、『うちでは見切れない』と言われました。そのため、新しい病院を探して、今の病院にクリニックに通うことになり、2、3年が経ちます。ただ、カウンセリングは、月一回、元のカウンセラーのところに行っています」
その後も出会い系サイトで複数の男性と出会う
まゆみは母親と2人で暮らしていたが、現在は一人暮らし。ただ、これがまた刺激を与えるきっかけになってしまった。出会い系サイトを使って、1週間で10人ほどあって、セックスをし続けた。
「3つぐらいのサイトを使いました。マッチングアプリは真面目な人が混ざっているし、出会い系サイトは手っ取り早い。もう家に帰るのが辛くなってしまったんです。『帰りたくない』と思って、いろんな男の人に会いに行きました」
ただ、この時は数週間で治った。
「なぜなら、一人、ピンと来た男性がいたんです。そいつに絞ったという形です。普通にセックスフレンドみたいな関係です。というのも、男性の方から、『普通に昼間デートをしたい』と言い出してきたんです。それで、一時は恋人になったんです。でも、いまは別れて、お付き合い前提での友達をしています。私のことが『病的なところが怖い』っていう話になってしまったんです。
私は遊びのつもりだったんです。でも、相手の男は『映画とか行かない?』とか言い出した。私は人に対して依存体質だし、セックスしないで帰るとなると、『怒ってる?』と思ってしまうんです。でも、相手の男は、毎回セックスをしなくても大丈夫だったんです。そんな中、私が『距離を置こう』と言ったんですが、『ちょっと待って』と言い、相手の男がおかしくなってしまった。別れ話をすると泣くんです」
背景には、新興宗教とアルコールの問題を抱えた家族
まゆみはなぜ依存的な体質になったのか。実は、家族に十分に甘えられない環境だった。父親はどんな人物だったのだろうか。
「父親は創価学会の信者なんです。子どもは信者にさせない条件で、母親は結婚したらしいです。でも、私を信者にさせました。そのため、私が2歳の頃から、父親と母親は別居生活をしていました。私は母親と一緒に住んでいました。父親は、育児をするというよりは、宗教2世をつくることに熱心でした。もう、人間じゃないと思っていたくらいです。
それでも小学校の頃は月一回、父親と会っていたようですが、ほとんど記憶がありません。高校の時は、通わせたい大学のパンフレットを送ってきました。父親と会いたくないと思っていたので、心が折れました。最終的に大学4年生の頃、両親は離婚しました。父親はお金に困っていないのに、養育費をちゃんと渡されず、母親も『足りない』とよく言っていました。卒業してからは連絡していません。父親は、母親にお金を渡したくないから離婚したのではないかと思っています」
両親の別居で、まゆみは母親と一緒に住んだ。
「母親とは一緒に祖父母の家で住んだりしていました。持病があったので、私は過度な期待をされました。ただ、母と祖母は折り合いが悪く、実家を出るために、父親と結婚した面があります。でも、家に戻ってきた形になります。高校生になると、厳しく育てられました。そのため、居心地はよくなかったです。夜は、お互いの怒鳴り声が聞こえました。子どもに隠れて喧嘩をしていたようで、全部、枕越しに聞こえました。大学進学時には、家から出たいと思っていたので、県外の大学へ行こうと思ったんです。すると、母も祖母も『ついていく』と言っていました。そのためもあり、結局、家から通える大学へ進学しました」
祖父はどうしていたのか。
「祖父のことはほとんど見ていません。診断は受けていませんが、アルコール依存症だったのではないでしょうか。仕事人間である一方、仕事がない日はお酒ばかり飲んでいました。祖母との関係は悪かったし、祖父は金遣いが荒かったのを覚えています。昔は、祖母への暴力もあったようです。夏は、クーラーのある祖母の部屋で寝ていたのですが、祖父の文句を独り言のように呟いていました。そのため祖父のことを私は反面教師にしようと思っていました」
祖父はアルコールの問題を抱えていたようだが、実は、母親もそうだった。
「母親もお酒の飲み過ぎで肝臓が悪くなっています。母は人とのコミュニケーションが難しいくらいでした。だから、お酒で人間関係に影響が出たところを見たことない。それくら『もともと』がないですね」
まゆみが育った家庭は、宗教2世の問題を抱えていたり、アルコールの問題も抱えたていた。バランスが取れた人間関係をベースにはしていない。このことが、まゆみの「セックス依存症」に影響を与えたのかもしれない。だとすれば、自分自身を見つめ直す時間や空間を確保できるかどうかがキーポイントになるのではないか。
(おわり)