依存症報道は、「ダメ。ゼッタイ。」から変わったか?依存症を「タブー」から解放するために
2025年2月2日、国内初の依存症専門オンラインメディアであるAddiction Reportの創刊1周年を記念して、フォーラムが開催された。依存症啓発キャンペーン「I'm an ADDICT」が発表されたほか、歌手・俳優の田中聖さんの楽曲のPVを公開。司会進行はアナウンサーである塚本堅一さんが務め、タレントの田代まさしさん、俳優の高知東生さんも駆けつけ大いに賑わった。

公開日:2025/02/07 03:00
2025年2月2日、東京・大手町で国内初の依存症専門メディアであるAddiction Reportの創刊1周年を記念して、フォーラムが開催された。今年から新たに発足する依存症啓発キャンペーン「I'm an ADDICT」のアパレル商品がお披露目されたほか、歌手・俳優の田中聖さんが収監前に制作した楽曲「Love Yourself Again」のPVを公開。



当日の司会進行はアナウンサーである塚本堅一さんが務め、タレントの田代まさしさん、俳優の高知東生さんも駆けつけ、会場に集まった400名近い当事者、当事者家族とともに大いな盛り上がりを見せた。

本記事ではイベント当日の様子を一部抜粋して、前編・後編に分けてお届けする。
(文:遠山怜、撮影:長谷川美祈)
メディアは簡単に変わらない。だったら自分たちがメディアに
イベント冒頭、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会の代表理事であり、Addiction Reportの発起人である田中紀子さんが登壇。メディア発足の意図を改めてこう振り返る。

「依存症当事者に対して、世間の風当たりは強い。特に著名人の場合、メディア報道を通じて『甘えの問題』『精神が弱いからだ』と激しいバッシングを受ける。そうした風潮もあって依存症当事者や家族は、批判を恐れて誰かに相談することができない。依存症は甘えや精神の弱さからなるものではなく、れっきとした病気です。治療や支援につながることで、回復できるんです」
依存症は、WHOが定める国際疾病として認定されている一方、日本のメディアでは、依存症への偏見や誤った理解にもとづいた報道が今でも行われている。
「メディアをひとつの団体の力で変えるのは難しい。なぜなら、彼らは依存症当事者をバッシングすることで、依存症が抑止できると信じているからです。わかってもらうのが難しいなら、自分たちがメディアを立ち上げるしかない。そう思っていた矢先、医療記者として活躍していた岩永さんがフリーになると聞いて、猛烈にアプローチしました」
編集長を務める岩永直子さんは、今後の報道体制について意気込みをこう語る。

「スポンサーをあえて持たないことで、権力や特定の団体に忖度しない報道ができるメディアを作ってきました。科学的根拠に基づく、当事者や家族を勇気づけられるような記事を、厳選したライターや作家に書いてもらっています。これからももっと書き手を充実させ、良質な記事を増やしていきたい」
会場では、Addiction Reportでも特集した歌手・俳優の田中聖さんが依存症当事者に向けて制作した楽曲「Love Yourself Again」のPVが流れ、曲を通じて「依存症はつながりの中で回復できる」というメッセージを送ると、会場は拍手に包まれた。


「辛気臭い」「暗い」イメージをぶっ飛ばせ

さらに、当事者を勇気づける試みとして、依存症啓発キャンペーン「I'm an ADDICT」のアパレルブランドが発表された。Tシャツやパーカーには「I'm an ADDICT(私は依存症である)」のロゴが大きく据えられ、作家・中村うさぎさん、ライターの姫野桂さん、タレントの田代まさしさん、俳優の高知東生さん、依存症当事者がそれぞれ「I'm an ADDICT」を着用したビジュアルを公開。キャンペーンを企画した、国内外の広告表現を手掛けるクリエイティブディレクターの橋島康祐さんは、アパレルを発足した経緯をこう語った。


「依存症の問題は、当事者や家族以外にはなかなか広がらない。興味がない人にも、依存症問題を考えてもらうにはどうしたらいいのか。Tシャツやパーカーなどアパレルなら、依存症問題につきまとう負のイメージを払拭しつつ、誰しもが気軽に取り入れられると考えました。依存症で苦しんで戦い抜いてきた当事者が、カッコよく見えるように、自分を恥じることなく自身の体験を言葉にできるように、という思いを込めています」



写真撮影を務めたフォトグラファーの後藤勝さんは、「当事者がカッコよく見えるように撮った」と思いを明かした。
「薬物依存症のマーシーです」

前半最後のパートでは、タレントの田代まさしさんが満を持して登場。「薬物依存症のマーシーです」と、自助グループで恒例の自己紹介からはじまり、お笑い芸人・ヒロシの持ちネタをパロディしつつ薬物依存を自虐ネタにすると、会場は笑いに包まれた。回復の難しさについて、当事者として心のうちをこう明かす。
「覚醒剤使用で逮捕され、裁判を受けているとき何を思ったか。正直なところ、反省よりも腹立たしい気持ちしかなかった。犯罪とは、被害者がいてこそ成立するものだと思っていた。でも、覚醒剤使用の場合、被害者はいないじゃないかと。でも、今思えば逮捕されることで周りの人に散々迷惑かけていたのだから、被害者はいたんだけどね。でも、当時はそう気づけなかった」
「ダルクにつながってミーティングに参加するようになってからも、『俺はここにいる他の当事者とは違う』と思っていた。ダルクには、薬物使用でもっと大きな後遺症を抱えていたり、長期に渡って収監された猛者もいる。だから、俺はここまでじゃないし、依存症ではないとすら思っていた」
「でもミーティングに通ううちに、周りとの違いよりも共通点が見えるようになった。他の人の話を聞くうちに、『ああ俺も同じこと思ったことがある』と気づいた。仲間がいたからこそ、自分は依存症なんだと思えた」

「何度も逮捕され、仕事を干されいろんな人から縁を切られる経験をしてみると、人が自然に接してくれることのありがたさが身に染みる。人が自分のためにしてくれることを当然だと思っていると、感謝の念はわいてこない。『ありがとう』の反対は『当たり前』なんだよね」
「『ありがとう』を漢字で書くと『有難う』なのは、難があってこそ人への感謝の気持ちがわくことを意味しているのかもしれない」と最後に語ると、会場は大きな共感に包まれた。
(後編に続く)
コメント
ダメ。ゼッタイ。に代わる
『だれでもなる だれでもなおる』涙がでました。
依存症に対する世の中の偏見を一掃したい!
まーしーについてつくづく素晴らしいエンターテイナーだと思いました。
アディクションレポート1周年イベント大盛況でした!すごいです。
久々にマーシーのお姿拝見できて、また、回復し続けておられてとても嬉しく思います。依存症からの回復は難しい、でも一日一日を乗り越えて回復されてる姿に本当に勇気と希望をもらいました!
アディクションレポート、もっともっと広がり続けて正しい情報を1人でも多くの方に届いてほしい。広めていくひとりでありたい。
素晴らしいイベントでした。
田代まさしさんの自助グループに繋がってからの気持ちの変化に、めちゃくちゃ共感しました。
田中聖さんの歌も、本当良い曲ですよね!CDめちゃくちゃ聴いたので、早々に歌詞覚えました!
「みんなを愛すから」の歌詞のところで仲間の顔が浮かびます。凄い好きです!
後編も楽しみです♪
イベント当日の盛り上がりを思い出しながら読みました。
創刊1年で、これだけたくさんのことが行われたんだと感慨深いです。
またアパレルブランドは本当にかっこよくて。特にトレーナーはドンドン外に着ていきたい!と思います。橋島さんの言葉には希望を感じました。
アディクションレポートに関わってくださっているすべての方に感謝してます。2年目も楽しみです。
とても楽しいイベントでしたね!
依存症のこと、回復のこと、正しい知識が広がるようにという想いから立ち上げられたAddiction Report。
きっと一読者の私には想像がつかないような外圧と対峙しながらも、顔を出して、記事を書いて、ディレクションしてくださる方々がいることに、希望を感じています。