Addiction Report (アディクションレポート)

覚醒剤取締法の“厳罰化”が残したもの――「取締り強化のための処罰」に、個人の回復を接続できるか

覚醒剤は、乱用を抑える手段として犯罪化され、やがて社会不安を鎮めるために厳罰化されてきた。
その過程で、使用者は「排除すべき存在」として扱われるようになった。しかし現在、刑事罰は「更生の場」として位置づけられている。罰することで、人は回復できるのか――。

覚醒剤取締法の“厳罰化”が残したもの――「取締り強化のための処罰」に、個人の回復を接続できるか
※画像はイメージです。

公開日:2026/05/13 02:00

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後編では、この制度のねじれに迫る。

(取材・文:遠山怜)


規制は続く、それでも終わらない「いたちごっこ」


ーー現代でも、危険性が指摘された成分は次々に指定薬物となり、大麻使用罪も新設されました。いまも薬物使用を「犯罪」として扱う範囲は広がっています。こうした規制にも、覚醒剤取締法と似た発想があるのでしょうか。

西川:そうですね。市場に出回った成分について、健康被害が新たに判明した場合、国が規制に乗り出すという構図は現在でもあります。もっとも、規制後には化学式が似た合成薬物が市場に出回り、別の健康被害を起こすなどの問題が続いています。

(写真)西川伸一さん:明治大学 政治経済学部 政治学科教授。主な研究分野は国家論、現代国家分析。著書に『覚せい剤取締法の政治学』(ロゴス)

ーー一方で、薬物依存については「処罰より回復」という考え方も広がっている。しかし、これまで見てきた覚醒剤取締法の歴史を踏まえると、そもそも刑事罰は回復を目的に設計されたものだったのか、疑問が残ります。

西川:少なくとも、覚醒剤の厳罰化に踏み切った当初は、回復のためという発想はほとんどなかったと思います。発端は、とにかく「取締りで乱用を鎮圧しよう」というものでした。その当時において、依存は病気だとは思われていなかった。

世の中の認識は、『悪いことをしたのだから長く刑務所に入っていろ』という程度のものでした。処罰は本人の更生のためなんだという発想は、後から付け足されたものだと思います。

ーー当時の世相において、取締りは規定路線だったと伺いました。では、現在なら法制度に使用に至った背景や依存の問題を組み込むことはできるのではないでしょうか。

西川:たとえば、使用者を一律に処罰せず、「被害的な使用による中毒」の場合は刑の減刑を考慮する、といった除外事項を設けた制度運用は、理論上はありえると思います。

しかし、除外事項を設けると、検挙者のうち、どの使用が本人の意図でどれが被害的使用なのか、一件一件、細かく事情を見ていく必要がある。裁判の量刑判断において、そうした個別事情や被害性を細かく拾うには、とかく時間も人手もかかる。

そのため、少なくとも、覚醒剤取締法をめぐる当時の立法議論では「使った」という事実を規制対象にする、という方向で議論が進んだものと思われます。

「更生」を掲げながら進む厳罰化


ーー量刑判断が難しくなるという現実的な問題はありますね。では、導入する上で、何が一番の障壁になりますか。

西川:世間が「病気なのだから治療がいる」という見方に、賛同するかどうかだと思います。ですが、刑事政策全体の傾向から見るに、かなり厳しいように思います。

それというのも、現代では、刑事施設での処遇は、単なる処罰ではなく更生を重視する方向へ変わりつつあります。ですが、刑事政策全体の傾向を見ると、二十一世紀以降、明らかに厳罰化の方向へ進んでいます。

薬物事犯でいえば、新たに大麻使用罪が制定されました。特に、裁判員裁判の制定以降は、特定の重大事件類型では量刑が重くなる傾向が見られます。

表向きは「受刑者の人権を尊重しましょう」とはなっているけれども、刑事政策の動きを見るに、やはり「悪い奴は厳しく罰しろ」という認識止まりになっているように見える。日本のこの現状を踏まえると、現在の人権意識をもとに、刑事事件の処遇緩和に繋げようとするのは、かなり厳しいと思います。

ーーしかし世の中では、厳しい処罰が本当に更生につながっているのかまでは、あまり問われていないように思います。

西川:そうですね。実際、犯罪者として長い間収監され、社会から隔離された人が、出所後どう更生できるのでしょう?何年も、何十年も刑事施設にいて、出所したところで犯罪者と指さされ、まともな働き口もない中で、真面目に働き続けられるものでしょうか。その辺りの議論がないのも問題だと思います。

世の中が厳罰化に疑問を持つとすれば、薬物事犯の再犯が治安上の問題として無視できなくなったときかもしれません。もっとも、それは、長期スパンの長い目で見たときにあり得る、という程度です。

罰された人は、社会に戻ってくる

ーーもちろん、現在は元受刑者を地域で支援する再発防止策が行われています。ですが、刑事施設の待遇に変化がある一方で、世の中の認識はあまり変わっていないように思います。

西川:現代は、依存症は病気であるという観点から、収容施設の中で治療プログラムにつなげる試みは行われているようです。しかし、それが出所後に再使用しない保証にはならない。結局は、出所してからやめ続けられるかどうかにかかっている。

しかし、社会の側は薬物使用者を「犯罪者」というレッテルで見る傾向が強く残っている。意思が弱いとか反社会的だとか、そういう目で見てしまう。それは彼らの回復という観点からすれば、逆効果ではないでしょうか。更生を可能にするのは、私たちの態度にかかっているのだと思います。

ーーいくら薬物事犯を厳罰に処したところで、いずれまた社会に戻ってくる。今、長年先送りし続けた問題に、向き合うべき時期に来ているのかもしれません。最後に、読者の皆様にメッセージをどうぞ。

西川:今もなお、『覚醒剤を使う人は人間ではない』、というような抑止の言葉を聞くことがあります。こうした排除の言葉は、結果として回復を難しくするでしょう。温かく迎えること、やめ続けられるように支えることが大事ではないかと思います。




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