「アディクトを待ちながら」主演の高知東生に恨みをもった少年への恩返し
映画「アディクトを待ちながら」が6月29日から全国で公開されます。違法薬物で逮捕された当事者や依存症者の家族を出演させたことにどんな思いを込めたのか、プロデューサーの田中紀子が明かします。
公開日:2024/06/29 01:15
私が代表をつとめる「ギャンブル依存症問題を考える会」が製作した映画「アディクトを待ちながら」が、6月29日より、新宿K'sシネマを皮切りに全国で公開となる。お陰様で、連日満席の予約が入り、「チケットが買えなかった」と言う声が多数寄せられ、嬉しい悲鳴をあげている。
この映画は、決して啓発ドラマではなく、エンタメとして製作した映画作品なので、依存症に興味がない方も是非ご覧頂きたい。きっと楽しんで頂けると思っている。
怒りと疑問から逮捕経験者をキャスティング
この映画は、私のかねてよりの怒りと疑問からキャスティングされている。
主演の高知東生さんらが逮捕された2016年頃から、製作された映画に出演した俳優が薬物事件で逮捕されると、その作品をお蔵入りにしたり、文化庁が助成金を取り消すということが起きた。このような行為で、映画界及び芸能界、そしてそれを支援する文化庁は、「薬物依存症者は社会の迷惑」というスティグマを強化し、正義の名の下で犠牲者を増やしていった。
私は、この対応に「一体この人達は誰に気を使い、何を恐れているのだ」と、依存症の啓発活動に携わる者として腹がたってならなかった。
薬物依存症は、日本では犯罪者の側面ばかりが強調されがちだが、一方で「病気」でもあり医療アプローチが必要でもある。それを「この世にないもの、いない者」と蓋をするとは誰のためになるのか?余計に世間から隔絶され、治療や支援に繋がりにくくするだけである。
日頃のこんな思いから、「いっそ捕まった経験のある有名人で、私が繋がれる人にはみんな出演してもらおう」という、チャレンジ企画を実行するに至った。
そして薬物事犯で逮捕経験のある、高知東生さん、橋爪遼さん、塚本堅一さん、そして劇中歌で杉田あきひろさんにも参加してもらった。果たして、劇場公開がOKとなるだろうかと一抹の不安はあったが、なんとか無事公開にこぎつけることができた。
後半部分はアドリブで演技
またこの映画は、最初は役者向けワークショップのつもりだったのが、映画化まで話しが進んだ。そのため後半部分は、ワークショップがそのまま映画に反映されている。
そしてこのワークショップでは、高知東生さんがサプライズで登場している。俳優陣は驚いたであろうが、そのまま演技は続けられている。ゆえに高知さん登場以降の演技は全員がアドリブである。
これはリアリティ番組を多数手がけてきたナカムラサヤカ監督が、俳優が「役になりきるということを教えたい」と、実験的にやってみた仕掛けで、「カット!」がかかるまで演技を止めてはいけないと事前に念押しをしておいた。
俳優達が、内心の驚きを隠しながら続けた演技と、それら俳優達の演技を受けて発した、高知さんのアドリブ台詞にも注目して頂きたい。逮捕から8年間、回復努力を続けてきた高知さんの心の言葉は何を語ったのか?どうぞお楽しみに。
ギャンブラーの父を持つ若手俳優「琉斗」
さて、この映画にはもう一つ、他のスタッフも殆ど知らない、監督と私と高知さんと、ギャンブル依存症者を持つ一部家族メンバーだけが知っている秘話がある。
この映画には、実は俳優やエキストラで依存症の当事者・家族も参加している。その1人がゲーム依存のテル役を演じた横山琉斗である。我々は親しみを込めて「りゅうと」と呼んでいる。
琉斗は、ギャンブラーの父を持っている。母は私と活動を共にしてきた仲間で、彼女が繋がってきた時には、シクシクメソメソした人だったが、その後、夫も自助グループに繋がり回復したこともあり、今では二人でバリバリと活動し、新しく繋がってくる仲間達をサポートしてくれる頼れる仲間になっている。
琉斗は我が家の息子の1歳年下で2002年生まれである。我々は琉斗が小学校の頃から知り合いだが、同年代ということもあり思春期特有の子供達の悩みも共有してきた。依存症家庭の子供達には、親の病気についてどう話すか?から始まり、心の問題も発症しやすい。一喜一憂しながら、共に歩んできた同志でもある。
高知さん逮捕で「ハンゾウチーフ」終了に怒り
そしてこの年頃、幼稚園から中学生くらいまでの子供たちにとって、実は高知東生さんは大好きなキャラなのだ。間違わないでほしいのは高知東生と言っても彼らは誰だかわからないだろう。だが「ハンゾウチーフ」と言えば、誰でも知っているキャラなのだ。
そう、当時の子供達が熱狂し大人気となったTV番組「逃走中」、その中に出てきた高月ハンゾウというのが高知さんの役柄だった。もちろん今でも「逃走中」は特番的に放映されており人気もあるのだと思うが、当時の人気はそれこそ社会現象と言っても過言ではないくらい子供達を熱狂させていた。
バラエティ番組「人志松本のすべらない話」で千原ジュニアさんも「うちの妹の息子、甥っ子が。今はもう小3なんですけど、幼稚園ぐらいから『何をそんなに!?』というぐらいフジテレビの『逃走中』がメチャクチャ好きなんですよ」と語っておられる。
この「逃走中」のキャラであった高月ハンゾウチーフ率いるクロノス社軍団の話が、高知さんが逮捕されたお陰で、うやむやになってしまったのだ。このことをうちの子供達も怒っていたが、琉斗もハンゾウチーフの大ファンだったらしく、突然終わってしまったことをめちゃくちゃ怒っていたらしい。
私が高知さんと繋がった当初、母である仲間から「うちの子高知さんの演じてたハンゾウチーフが大好きで、高知さんが逮捕されてあれが終わっちゃったこと、すっごく恨んで怒ってたんですよ」と言われた。「へぇ!そうなんだ。まぁうちの子もあの番組大好きだったけどね」などと話していた。それが今から6年前、琉斗が16歳の時のことだった。
ちなみにこの高知さんと出会った6年前は、高知さんと街を歩くと、本当に子供達から度々「ハンゾウチーフですか!?」と声をかけられた。子供達は目をキラキラさせながら、お母さん達からは「頑張って下さい」と、なんとも複雑な感じで見つめられた。
あの番組に関して高知さんは責任を痛感されていたと思う。その度にファンの皆さんに「いやぁ、本当に申し訳ありません」と、頭を下げておられた。
俳優デビューで実現した「傷つけてしまった人への埋め合わせ」
だから高知さんを恨み、怒っていた子供達の1人だった琉斗が「俳優になる」と高校卒業後の進路について、宣言した時には我々は仰天した。「りこさん、どう思います?」と母は心配なのか愚痴なのかわからないが、私に話してきたが「まぁ、でもやりたいことがあるっていうのは良かったよね」ということで意見が一致し、見守ることにした。
2022年、当会ではTwitter(現X)ドラマ「嘘つきは○○のはじまり」という、ギャンブル依存症の家族模様を描いた作品を製作した。この時、ふと思いついて琉斗を俳優として起用することにした。こうして琉斗ははじめて高知東生さんとこの作品で対面した。
「逃走中」のストーリーがうやむやになったことで怒っていたという琉斗だが、実際に対面したときには、高知さんが「すまんかったなぁ」と謝ると「いえ、ども、あの」といった具合にしどろもどろになっていて可笑しかった。
この時の監督もナカムラサヤカさんで、琉斗はパン屋のジャンという役になり、何と俳優としてのデビュー作品が東ちづるさんとの共演ということになったのだ。本人はもちろん大喜びしていたが、私自身も高知さんが傷つけてしまった子供達に、たった一人でも埋め合わせの機会ができたことを嬉しく思っている。我々依存症者のプログラムの中にはこの「傷つけてしまった人への埋め合わせ」という行動提案が大きな位置をしめている。
依存症の家族として生まれたことを恥じない社会を
この作品で琉斗はナカムラサヤカ監督と繋がり、今回の映画でも声をかけられ出演することになった。
依存症という病気は「家族の病」でもある。私たちギャンブラーの妻は子供に世代伝播していくことを何よりも恐れている。だからこそ、みんなで力を合わせ、自分たちの世代だけでなく、子供達の世代にも目を配り、一緒に夢も叶えていきたい。
ギャン妻達の夢、それは「依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること」私たちはこう思っている。
コメント
映画みました。本当に全て感情がリアルで痛くて嬉しくてもう涙どばどばでした。りゅうと君の姿は本当にまぶしかったです。高知さんの言葉も胸にささりまくりでした。本当に素晴らしい映画。まだまだ見ます!!!!回復って本当に素敵。
映画の帰りにこの記事を読みました。早く読まなくてスミマセン…と思ったのですが、観た後だからこそ、りこさんの思い入れや子供への未来を思い、またまたジーンとしています。
私も小学生の子どもがいます。学校や友達との時間が大好きで毎日元気なことを改めてありがたく思いますが、時折大人の問題を空気で感じ取らせてしまっていることがあります。
口出ししすぎず、見守る気持ちを持ちたいです。そして、世代伝播はとめたいなと思います。
若手俳優「琉斗」なんて清々しい笑顔なんだろ。依存症の家族として生まれたことを恥ない社会を担って大きく羽ばたいて欲しい、高知東生さんの埋め合わせも彼の大きな力になるでしょう。私にも希望の光が見えてきた!
この記事を読んで、田中紀子さんの深い気持ちがよくわかりました。
「薬物依存症者は社会の迷惑」というスティグマを強化し、正義の名の下で犠牲者を増やしていった。
の部分と
「依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること」
の部分が、とても心に響きました。
映画を見るのがとても楽しみです。
田中紀子さんが、ある集まりで、
「どうして、日本では、依存症者が関わった作品が誰にも観られないようになっちゃうのか。」
「そんなのおかしいよ、それなら、そういう人がいっぱい出てる映画、作ってやる。」
「日本のエンタメ界に殴り込みだ!」
って明るく強く宣言されていました。そして、「リカバリーカルチャー」カッコいい!と嬉しくなりました。そして、勇気が出てきた。
今週、この映画を観に行きます。楽しみ過ぎます!
携わってくださってる皆さんに感謝します。ありがとうございます!
「依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること」この言葉を真剣に受け止めて夢とならないよう我が子にも恥じない人生歩んでほしいと、涙ながらに記事を読みました。
私たち家族の影響を受けた子供の為にもりゅうとくんの家族や、沢山の回復した当事者、家族が必死に取り組んだ跡を私も引き継いでいきたいと真剣に思いました。
私は夫の問題で自助グループや支援団体に繋がるまで、
「虐待は世代間伝播する」という話と自分が被虐者である事実を結びつけて、「私は子どもをつくらない方がいいんだ、それが不幸な子どもを作らない最善でたったひとつの方法なんだ」と思ってきました。
田中紀子さんの言葉に、今はその通りだと思うことができます。
もちろんそれは不安がなくなったということではありません。でも、選択を諦める自分より、子どもたちが幸せになれる社会の為に自分の使命を全うする自分を選びたいんです。
依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること
たくさんの涙が出てきました。子どもたちには、父親はギャンブル依存症という病気て施設にいる事を話しました。息子たち必死でがんばっています。息子たちには、恥じる事なく自分の人生を歩んでいってくれる事を願っています。
そして、依存症者の偏見のない社会を願っています。
我が家も同じです。
ギャンブル依存症の父親を持ち、回復できず両親は離婚しました。
今うちの娘たちは2人とも元気で明るい不登校です(笑)
最初は娘と一緒に悩み苦しみましたが、今は娘が決めた人生を見守っています。
ゲームの長時間使用や昼夜逆転、お金の使い方など色々問題はありますが、そういう1つ1つ全てが経験。
これから成人になり、社会に出ていく時に、依存症の家庭で育ったことが逆に強みになるといいなと思います。
田中紀子さんが映画制作に込められた思いがとても深いことを知りました。薬物事犯者出演の映画の放映中止が「薬物依存症者は社会の迷惑」というスティグマを強化していることへの怒りや疑問、依存症家庭の次世代の子どもたちを大切に思う気持ちなど、社会への提言と身近な人達への愛が映画という媒体で形となって表現されているのですね。益々映画を観ることが楽しみになりました。
この記事を読んで、やっぱり自分がしっかり回復していくことが周りの家族に対してできることなんだなと感じました。
同じような娘を持つ母としてやるべきことがはっきりと見えました。
いよいよ公開になりましたね。
来週、関西で観るのが楽しみです。
でも、たぶん涙で見れないと思います。
今、この記事を読んでいるだけでこんなに泣けてくるのだから…
りこさんの仲間への愛が溢れる記事。
将来の夢が持てない子が多い中で「俳優になる」と自分の進むべき道を見つけられる子供に育ったのは親御さんの努力の賜物ですね。子供達が依存症の家族だと恥じることのない社会になる事を願っています。
高知さんの埋め合わせをこの記事を通して知ることができて幸せな気持ちになりました。
我が息子もギャンブラーの家族として生まれ育いました。そのことを恥じる必要がない社会になるよう、私も尽力する使命があるなとひしひしと感じました。
アディクトを待ちながらの映画に行く電車の中で読みました。泣けてしまいました…私も夫がギャンブル依存症で、子供が同世代です。
親が依存症でも子供が恥じない社会は、先ず親自身が依存症を恥ずに、胸を張って人生を生きることですよね。その為には高知東生さんも受けている12ステッププログラムが必要だと改めて感じました。
心配でも自分の子供のやりたいことを受け入れ応援できたことで、りゅうくんは幸せだし舞台での演技も年々上手くなってきてるし、夢に向かってこれからも親への感謝は忘れず頑張ってほしいと願っています。頑張ってね❗
記事を読んで、涙が止まらないです。依存症と言う病について、世間は偏見を持ち、バッシングされる病。
アディクトを待ちながらという依存症映画の中で、
こうやって、依存症の親を持つ子供たちが笑顔で自分を叶えること
高知さんの、子供たちへの埋め合わせとなること。
神様って、やっぱいるんだねぇと思わされました。
素敵ですね。いろいろな思いがつまり、何をどこから見ても、プログラムなんだ!と、あらためて、感慨深いものがあり、ますます、映画が楽しみになりました。
本当に依存症者も家族も、それを恥としない社会の実現が待ち遠しい!
田中紀子さんの壮大な夢、あらゆる世代の仲間を救っていくことが、一つ一つ目の前で叶えられていく過程を目の当たりにし、今語り切れないほどたくさんのことを教えて頂きながら、共に活動出来ることに心から感謝致します。
今、目の前の1人を救うことがどれだけ世の中を変えていく力になるのか。たくさんの人を正しい方向に巻き込みながら社会を変えていく。
こんな素敵な生き方を目の前で日々見させて頂いて、私も少しでもそんな生き方が出来るように、自分の経験を生かして他者の助けになる活動をしていきたい。
「アディクトを待ちながら」の秘話も聞けて嬉しいです。上映心待ちにしています。
ちょっと、最後は涙と鼻水で、読んでるスマホの画面が霞みました。私たち夫婦のことで子どもたちが自分たちのことを恥じることのないよう、彼らを守り、愛し、育む社会になるよう、私たちにはやることがあるなと改めて思いました。高知東生さんが「埋め合わせ」に取り組む姿勢にも胸が熱くなりました。
泣けました。ハンゾウチーフの埋め合わせが実際にリュウト君になされていたんですね。
そしてギャン妻の代弁をして下さりありがとうございます。「依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること」を私も心から願い、田中紀子さんの活動に付いていきたいと思います。
『逃走中』のハンゾウチームのこと、知りませんでした。
りゅうとくんと高知さんが出会えてよかったです。涙出ました。
涙が止まらない。
我が家も同じです。
お写真がいい笑顔で見ていて嬉しくなりました。
読んでいて泣けました
両親のもめごと、喧嘩の中で成長していく子供たち、たくさんのドラマや傷つき体験があると思います。そんな中で両親がそれぞれ回復に繋がり続け社会に向けても苦しんでいる仲間を助ける活動を堂々としていくことで、子供たちがこんなふうに成長できたら素晴らしい。親を恥じることなく自分のやりたいことを見つけて進んでいく。
こんな裏話を公開していただきありがとうございます。皆さんのやさしさが伝わってきました。感謝です。
わたしの子供もギャンブル依存症の夫を持っています。
「依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること」わたしもそう願っています。
「依存症の家族として生まれたことを、子供達は恥としない社会となっていること」
本当にそういう社会にしたいです!