Addiction Report (アディクションレポート)

「スマホが普及し、違法行為に国境がなくなった」 プロ野球選手にも広がるオンラインカジノ対策を巨人軍オーナーも訴え

野球界にも広がる違法なオンラインカジノの汚染。読売巨人軍オーナーの山口寿一氏は、「認識が甘かった」と反省の意を示し、国際的な連携による対策の強化を訴えました。

「スマホが普及し、違法行為に国境がなくなった」 プロ野球選手にも広がるオンラインカジノ対策を巨人軍オーナーも訴え
国境を超えて日本を汚染するオンラインカジノの危機について対策を訴える読売巨人軍オーナーの山口寿一氏

公開日:2025/05/15 08:50

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日本の著名人やスポーツ選手も摘発されている、違法なオンラインカジノ。

読売新聞グループ本社社長で、読売巨人軍オーナーでもある山口寿一氏は、プロ野球界でも違法なオンラインカジノを利用した選手が16人もいたことを報告し、「スマホが普及をしていて、違法行為に国境がなくなった。そのことに対する認識が甘かったと反省している」と語った。

自身が評議員を務めるスポーツエコシステム推進協議会のシンポジウム(5月14日)で語り、「日本のスポーツ界を海外から押し寄せてくる賭博、不正操作の汚染から守るには、マコリン条約(※)の署名、批准に向けて体制を整えていくべきだ」と早急な対策を訴えた。

※スポーツ競技の不正操作を防止するために国際的な協力体制を推進する世界初の条約。2019年に発効し、43カ国が署名、うち14カ国が批准している。

「認識が甘かったと反省」スマホの普及や国境を超えた不正行為でリスク増加

日本のプロ野球界をめぐっては、今年2月にオリックス・バファローズの山岡泰輔選手がオンラインカジノのポーカーゲームの大会に参加していたことが発覚。NPB(日本野球機構)が全ての球団にオンラインカジノの利用者を自主申告するよう求め、山岡選手を含め、8球団、16人が違法なオンラインカジノを利用していたことが明らかになっている。

山口氏は「ジャイアンツの2名に関しては、『違法性を認識しないまま、興味本位で利用していた』ということだった。スマートフォンで手軽に遊べるので、ついやってしまったんだということを言っている。ジャイアンツの2名は単純賭博容疑で書類送検され、これから東京地検の調べが行われるところ」と説明した。

二人が行ったのはトランプゲームやバカラなどで、選手たちはスポーツ賭博はやっていなかったという。

「スポーツベッティングについては、『野球以外のスポーツであったとしてもやってはいけないという意識があって手は出さなかった』と言っている。プロ野球の協約では、野球賭博や八百長は失格処分の対象になる。選手たちはオンラインカジノは違法であるという認識は薄かったけれども、野球協約で八百長、野球賭博を厳しく禁じていて、それが処分の対象になるということはわかっていたので、スポーツベッティングには近づかなかったということのようです」

そして、山口氏はこう悔しさをにじませた。

「とはいえ、私としてはこの問題に気づくのが遅れたということを悔やんでおりまして、反省をしております。というのは巨人軍では10年前、2015年に4人の選手が野球賭博をやっていて、3人が無期失格、一人が1年間の失格処分を受けるということがありました。当時大変大きな問題になった過去があったのに、オンラインカジノという形を変えて選手が賭博罪という犯罪にまたしても関わってしまったと大変悔しい思いでおります」

その上で、賭博をめぐる環境の変化についてこう言及した。

「10年前との違いは、スマホが普及をしていて、違法行為に国境がなくなったということです。そのことに対する認識が甘かったと反省しています。選手が賭博に関わるリスクは10年前と比べると大きくなっているということを認識しておくべきだったと今は思っております」

そして、こう対策の必要性を述べた。

「マコリン条約のことも、選手を八百長から守るためのナショナルプラットフォームと呼ばれる国際組織のことも真剣に検討すべきだと考えているところです」

疑われることすら防ぐ

プロ野球界と賭博との戦いは長い。山口氏はプロ野球の不正防止に長年携わってきた経験から、こう歴史を振り返った。

「プロ野球の不正防止の原点は50年以上に遡る。『プロ野球黒い霧事件』ということがある。八百長をしていた選手が次々に明るみに出て、永久追放などの処分を受けた騒動がありました。その苦い教訓が野球協約の厳格化につながった」

プロ野球の協約では、八百長や野球賭博をした場合は無期失格になるだけでなく、賭博常習者との密接交際を禁じている。

「これは八百長の疑いをかけられることをも防ごうという考えから作られた決まりです。スポーツにとっては疑われること、それが既にリスクなんだということをプロ野球の先人たちは考えた。防衛ラインを八百長や野球賭博などの行為ではなく、それよりももっと手前の疑いを持たれることに置いて、疑われないようにするために賭博常習者との交際を禁じたということです」

プロ野球の不正防止の歴史について語る山口氏

山口氏が関わったプロ野球の暴力団排除活動も、そうした考えの下で行ったという。プロ野球が暴力団の排除宣言を行ったのは2003年、22年前のことだ。

「当時、各地の野球場の外野席、私設応援団と呼ばれる組織に、反社会的勢力、暴力団や暴力団幹部が巣食っていた実態がありました。そこで反社会勢力を排除する取り組みをしました」

当時は、私設応援団が選手を招いてパーティーを開くことが頻繁にあり、その会場に暴力団幹部や団員が来ることもあった。彼らが選手とツーショットの写真を撮り流出すると、野球協約に抵触する可能性がある。そうしたことを予防するために、球団や球場スタッフだけでなく、警備会社や警察、弁護士会、行政組織が情報共有して迅速に対応する官民連携の協議会を作ったという。

しかし、オンラインカジノのように、国境を超えた不正行為への対策はさらに難しくなっている。

「今日議題に上がっているスポーツの不正操作や腐敗防止は、国境を超えてスポーツの分野も超えて取り組まなければならない課題になる。より高い次元で組織を作り、意識を共有していかないといけない。難しいと思うが、着手していかないとアスリートたちを守れないだろうと思います」

マコリン条約の批准と官民連携の組織作りを

そうした国際的な脅威に対する具体的な対策として、山口氏はマコリン条約の批准と、それに基づく官民連携の組織「ナショナル・プラットフォーム」作りに早急に着手すべきだと語った。

その上で、こう述べた。

「日本の現状は、オンラインカジノは違法である、犯罪であるという認識が必ずしも十分ではない。オンラインカジノはグレーではないかという誤解や認識不足がある。オンラインカジノ、違法なベッティングの広がりは急速であり、日本がこのまま何もしないと日本のスポーツ界が標的にされかねない。クリーンな日本のスポーツを守るために、グローバルな活動の方法をよく知って、マコリンコミュニティに参加していくべきだと思います」

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