Addiction Report (アディクションレポート)

高知東生さんが薬物依存症を明かして活動し続けるワケ「最初はこわかった」

「薬物依存症」であることを公にし、多岐にわたって活動中の高知東生さん。回復の道を歩み続けて5年になるといいます。なぜ、自らのことを世間にオープンに語るのでしょうか。そして、今後の活動の方向性は。

高知東生さんが薬物依存症を明かして活動し続けるワケ「最初はこわかった」
取材に応じた高知東生さん(撮影・吉田緑)

公開日:2024/02/03 01:00

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薬物依存症であることを公表し、回復の道を歩み続けて約5年になる俳優の高知東生さん(59)。自らの経験を活かして依存症の啓発活動に取り組むとともに、「歌の師匠」と慕う歌手の清水節子さんの元で付き人のほか司会や作詞なども手がけている。

2020年には、著書『生き直す 私は一人ではない』(青志社)で、暴力団組長の愛人の子として生まれたことや母親の自死などの過酷な生い立ちを綴った。2023年には初めての自伝的小説『土竜(もぐら)』(光文社)を出版し、小説家としてもデビューした。

高知さんが覚醒剤取締法違反などの罪で有罪判決を受けたのは2016年のことだ。そんな過去も隠さず、ことばを紡ぎ、発信し続ける。依存症や犯罪に対する世間の目が厳しい中、なぜオープンにし続けるのか。今後はどのように活動していくのか。【ライター・吉田緑】

社会に戻るうえで「足枷」になった

高知さんが逮捕されたのは、2016年6月下旬のことだ。ラブホテルで不倫相手の女性とともに現行犯逮捕されたことや当時の配偶者が女優の高島礼子さんだったことから、テレビや週刊誌、新聞などのマスコミで取り上げられ、報道は過熱した。

「家族や周囲の人たちが巻き込まれていく様子に怒りが沸いたこともある」と振り返る。「覚せい剤売人疑惑」などの事実とは異なる内容や「脚色」もみられ、客観的な事実だけではなく「記者の感情を足したような内容」を目にすることもあった。

高島さんとの離婚を公表後は「偽装離婚説が流れている」、「(高島さんから)1億円以上の手切れ金を受け取った」などと報じられた。報道が出るたびに、周囲からは「ウソをついているのでは」「本当はカネ持っているんだろ。生活に困っていないだろ」と言われた。離れていく人も少なくなかった。事実と違うと説明しても「だって、マスコミがそう言っているじゃん」と聞く耳を持ってもらえなかった。

家族と仕事を失い、新たに社会の中で生きていこうとしている最中で「これらの根も葉もない報道は苦しい足枷になった」という。

「ある企業の社長が『先が見えるまで、うちの会社で働きなよ』と手を差し伸べてくれました。働けるだけでありがたい、なんでもやろう、と思っていましたが、取締役会議で『傷モノを雇ってなんの得があるのか』『マスコミではこう書かれている』『再犯して捕まる人もいるではないか』などの反対意見が出たようです。社長に『ごめんな。俺ひとりで決定することができない』と言われ、結果的に雇用が見送られたこともありました」

バッシングが巻き起こるSNS、唯一の救いは…

マスコミだけではない。世間からも厳しい声を浴びた。

高知東生さん(撮影・吉田緑)

留置場から出た後にSNSを覗くと、並んでいるのは非難のことばだった。逮捕されたとき、捜査官に「来てもらってありがとうございます」と発したことについては「何が『ありがとう』だ」「反省していない」などの声があがった。

そんな中、X(旧twitter)で、あるツイートが目に止まった。「高知さんは、回復できそうな気がする。捜査官が来たことに感謝するのは、依存症界では『あるある』の話。彼は、素直に自分のことばで『ありがとう』と表現した」などの内容が綴られていた。非難の嵐の中で「すごく嬉しかった」と振り返る。ツイートをしたのは、ギャンブル依存症問題を考える会の代表を務める田中紀子さんだった。

逮捕から約1年後、Xでの投稿を再開した。「毎日こうやって生きている」と発信したかったためだ。「執行猶予が切れるまではそっと毎日を過ごそう」。そう思いながら生活していると、ある日「会いませんか」とメッセージがあった。送り主を見て、ハッとした。田中さんだった。しかし、喜びよりも不安が勝った。

「当時は人間不信に陥っていました。俺、死んだほうがいいんじゃないかなって。どん底にいたんですよね。お会いしてもマトモに話せないと思ったので『精神的に不安定なので、今はそっとしておいてほしい』と伝えました。でも、そんな僕の主張は無視され、日時を決められてしまった。愛ある強引ですね」

2019年2月22日、2人は初めて顔を合わせた。別の世界を生きているようにみえて、実は共通点もあった。田中さんもギャンブルをやめたくてもやめられなかった過去がある。薬物を自らの意思でやめられずに苦しんできた高知さんにとっては、先を行く「仲間」だった。

「田中さんはご自身のことをすべて曝け出して話してくれた。こんな人いるのか!とビックリするとともに、この人だけは分かってくれると思いました。喫茶店を変えて7時間は語ったと記憶しています。それからも会うようになりました」

世間に公表することは「こわかった」

これまで、芸能人が違法薬物を使った過去や依存症について語る様子はほとんどみられなかった。高知さんも自らオープンにするつもりは微塵もなかった。

時が経てば世間も忘れるのではないか。誰かが手を差し伸べてくれるのではないか。そして、再び芸能界に戻ることができるのではないかーー。違法薬物を使って逮捕された芸能人が表舞台に復帰する姿をみて、そのように考えていた。

「恥を価値に変えて、公表しませんか」。こう声をかけたのは、田中さんだった。当初は戸惑った。前例がないためだ。

「自助グループなどで他人に自分の背景を話すにも精一杯だったのに、今度は世間に話すなんて。俺の人生はいったいどうなってしまうんだろう、と不安に駆られました。ただ、抵抗もある一方で、田中さんを信じなければ誰を信じればいいんだろう、との気持ちもありました。ちょうどそのころ、共感し分かち合える仲間たちに出会い、自分自身とも向き合い始めていました。『世の中には、まだ苦しんでいる人たちがいる。勇気を与えてほしい』と言われ、自分が役に立てるならばやろう。何より自分のためになる、と思いました」

高知東生さん(撮影・吉田緑)

公表しよう。取材にも応じようーー。そう決めたにもかかわらず、当日になると「こわい。行きたくない」という気持ちが湧き上がった。芸能界に生きる中で「仕事を完璧にやらなければ、次はない」との考え方も根付いていた。誰かに教わったわけではなく「そのような空気があった」。

万人から評価を得ることは困難だ。役柄や監督などとの相性もある。それでも、2、3人の監督に評価されれば、次のチャンスを得てギャラもあがる。次がなければ、消えていく。常に、そのときの仕事をこなしながら「次」を考え続けてきた。長年の芸能界生活で染みついた考え方は、容易に手放せるものではなかった。

「やると決めたのに潔く踏み切れない自分が嫌でたまりませんでした。完璧にやらなきゃ、うまくやらなきゃ、答えなきゃ…そう考えてしまうことも苦しかった。今ならば『ありのままで自分らしく』と言えますが、当時はその感覚もありませんでした。実際にメディアに出た後に、完璧ではなかったかもと家で落ち込むこともありました」

今も、何が「完璧」なのかはよくわからない。不安に襲われることもある。しかし「すべてを曝け出したことで、こわいものがなくなった」。取材では、そのときのありのままを語る。「人の考え方は変わる。10年後には別のことを言っているかもしれない」と笑う。

「されど、所詮5年。まだ旧型の自分がいる」

芸能人には発信力がある。自らの回復のプロセスを語ることは、同じような道を歩む人や苦しんでいる人、そしてその家族の励みにつながることもある。しかし、高知さんが語るのは、あくまで「自分自身のこと」だ。「自分は自分。人それぞれのやり方がある」という。

「『こうでなければならない』と決められた型はないと思います。いろんな回復の形があっていい。いろんな人がいていい。どの方法を選んでもいい。今日に感謝して、1日でも長く薬物を使わずに、自分らしく成長しながら生きることが大切だと僕は考えています」

高知東生さん(撮影・吉田緑)

回復の道を歩み始めて、もうすぐ5年を迎える。仲間に「自分を大事にして。自分のことを知って」と教えられ、初めて自分自身と向き合った。これまでの「生き方」に課題があることに気づかされた。

「これまでの自分は外ヅラばかりよくて、人を悲しませたり裏切ったりしてきました。本当に大切な人を大事にできない人間だった。嫌われることがこわくて『ノー』と言うこともできなかった。自分を大切にできないので、誰かに感謝することもできませんでした。子どものころから大人に振り回され、自分を出せなかったことが根っこにあると気づきました」

約5年間で「誰に対しても自分の意見を正直に言えるようになった。『ノー』と言えるようになった」など、人としての成長を感じている。社会に生きる中で、仲間以外からも「理解はできないけど応援する」「顔つきが変わった。すごく優しくなった」などと声をかけられることもある。しかし「されど、所詮5年」と語る。

「50年以上生きてきて構築された思考やとらえ方の癖は、そう簡単には変わりません。まだまだ成長過程で訓練中です。今も『まわりに評価されたい』『答えなきゃ』などと考える『旧型の自分』が顔を出すことがあります」

薬物依存症を公表してからは、その経験を活かして多岐にわたる活動を続けてきた。世間からは「いつまで依存症であることにすがっているのか」「そんなことを売りにしないで前を向いて生きなよ」などの声が聞こえてくることもある。「ありがたいと思う一方で、傷つくこともある」とありのままの気持ちを吐露する。

今後の方向性については「まだ結論が出ていない」。人の役に立ちたいーー。その気持ちは変わらない。今日1日を生きてこられたのは、人に助けられてきたためだ。だからこそ「今の自分にできることをしたい。支えてくれた人を大事にしたい」と考えている。

「まずは『旧型の自分』がもう少し自分自身と向き合う必要を感じます。新たな挑戦をするにしても、決断はそれから。前を向いて進むことを諦めているわけではありません。ただ、過去を振り返ると、周囲の評価を気にするあまり、歩く速度を間違えていたように思います。もちろん、5年を区切りに次のステップに進むことができる人もいるでしょう。でも、僕はまだです。台本を一度読んで覚えられる人もいますが、僕は20回読まないといけないタイプだった。自分の歩幅で、自分らしく歩みたい。人生は長いですから」

【高知東生(たかち・のぼる)】俳優・歌手・タレント・小説家

高知県高知市出身。著書に『生き直す 私は一人ではない』(青志社)、『土竜(もぐら)』(光文社)。ASK認定依存症予防教育アドバイザーとして啓発活動などをおこなう。YouTubeたかりこチャンネル(https://youtu.be/rj96-LCcLJI)にも出演する。

コメント

10ヶ月前
仙人

高知東生さんのことばと姿勢にホッとします。自分の人生に深く向き合い、弱さを受け入れる誠実さに励まされます。

わたしも虚勢を張らずに、自分をもっと愛し、ひとを愛せるようになりたい。

インタビューをした記者の問いかけとまなざしが、高知さんの正直な思いを引き出した要因にもなったのかな、と想像しました。

10ヶ月前
なほこ

芸能人で、薬物依存症から回復に向かっていく様子や自分のことをさらけ出しているのを見たのは高知東生さんが、初めて。

依存症は回復できるんだ、生きづらさが根っこにあるんだ、とメディアを通して、世の中の人に伝えてくれたはじめての人だと思う。

リカバリーカルチャー、ずっとずっと応援してます!

10ヶ月前
匿名

高知さん、いつも優しさに満ちたXの投稿、励みにしてます。「何歳でも、いつからでも、自分も少しでも変われたらなぁ」と勇気づけられます。大切な仲間の皆さんと共に、回復の道を歩まれることを応援します。「たかりこ」も見てますよ〜!

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