Addiction Report (アディクションレポート)

「あいつはバカだ」「俺は大丈夫」強烈に残った“1回損した”悔しさから痛い目見たギャンブルにのめり込み

自身もギャンブル依存症当事者として仲間の支援を続ける宮本雄二さんは、どのような経緯でギャンブルにハマったのか。

「あいつはバカだ」「俺は大丈夫」強烈に残った“1回損した”悔しさから痛い目見たギャンブルにのめり込み
ギャンブル依存症当事者の宮本雄二さん

公開日:2024/08/31 01:45

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ギャンブル依存症の当事者として仲間の支援を続ける宮本雄二さんは、自身の兄をギャンブル依存症をきっかけにした自死で失った過去を持っている。

宮本さんはどのような経緯でギャンブルにハマり、そして兄はどのようなことが理由で自死をするに至ったのか。話を聞いた。

パチンコで痛い目も、競馬でビギナーズラック

ーーまずは宮本さんご自身のことからお聞かせください。初めてギャンブルに手を出したのは、いつ頃のことだったのでしょうか。

あれは高校3年生の春休みでした。1万円を握りしめて、パチンコ屋へ行ったんです。

高校時代の友人がパチンコで儲かったって言っていたんですよ。だから、僕もやってみようと1人でこっそり行きました。

結果は惨敗。ビギナーズラックなんてものはなく、20分で終わってしまって。その時は「パチンコなんて2度と行くか!」と思ったのを覚えています。

ーーてっきりビギナーズラックで大当たりしてハマったのかと思っていましたが、最初は負けてしまったんですか。

そうなんですよ。だから、パチンコには手を出さなかったのですが、大学に入ってから競馬をやったんです。

僕の地元は大分なのですが、通っていたのは北九州にある大学でした。その大学は目の前に競馬場があるという環境なんです。なんせ、モノレールの駅名が「大学前」ではなく、「競馬場前」ですから(笑)。

しかも、競馬は100円から賭けることができる。その手軽さもあって、大学1年生の秋頃から、時々競馬場に通うようになりました。

大学時代、バイト先での宮本さん

ーー入学後すぐというわけではなかったんですね。

やっぱり入学して半年くらいはバイトをしたり、「まずはギャンブルではない方法で」という意識がどこかにあったのだと思います。でも、周りの友達も競馬をやっていたし、自分もやってみようと思うまでに時間はかかりませんでしたね。自然な流れでした。

振り返ってみると、つくづく自分は周囲の人に流されやすいんですよね。一見、真面目なように見えて、色々な人の意見を素直に真に受けてしまう。周りの人たちが赤信号でも横断歩道を渡り始めたら、一緒に渡ってしまう。そんな人間なんです。

ちょっとしたきっかけで、規範意識を失ってしまう。当時は学生は競馬場で馬券を買ってはいけないとなっていたのですが「バレるわけないだろ」と友人に言われて、馬券を買いました。

ーー初めての競馬の結果はどうだったのでしょうか。

こちらはビギナーズラックがあり、300円で買った馬券が7500円になりました。

「こんなに簡単にお金が増えるんだ」と興奮したのをはっきりと覚えています。やっぱり脳汁が出たレースのことは、しっかり覚えているものなんです。

初めての競馬で勝ったこともあって、「競馬って楽しいな」という印象が強く残った。以来、時々競馬場へ足を運んではコツコツと馬券を買うようになりました。

ーーいきなりハマるわけではなく、コツコツと買っていたのですね。

やっぱり、パチンコでいきなり1万円負けたという失敗体験が色濃く残っていたので。2度とあんな体験はしたくないという思いが強かった。だから、賭けたとしても数百円という感じでした。

最初の1〜2年くらいは、律儀に収支表までつけていましたからね。今日はいくら勝った、負けたと毎週のプラス・マイナスを記録していました。

「1回損した」悔しさがパチンコへのめり込むきっかけに

ーーある意味、節度を保ってギャンブルをしていた宮本さんのタガが外れたのはいつ頃のことだったのですか。

20歳になった頃に友達に誘われて、再びパチンコ屋へ行ったのがきっかけでした。「絶対儲かるから」「3000円だけでいいから」って半ば強引に連れていかれたんです。

正直乗り気ではなかったんですが、やってみたら、そこで来たんですよ。ビギナーズラックが。3000円が一瞬で1万2000円になって。

大学時代の宮本さん

ーー1万円の負けの記憶が完全に上書きされてしまった。

そうですね。もうたった30分で上書きされて、「バイトでコツコツ働くのがバカらしいな」なんて思ったのを覚えています。とにかく気持ちが良かった。

でも、僕がその時遊んでいた台は、大当たりした時にチャッカーという場所に球が入らないと出玉が出てこないという仕様だったんです。しかも、僕は一度外してしまった。

隣に座っていたおばちゃんに「あんた、ここに入れないと玉は出ないよ。早く打ちな」って声をかけられて。すぐさま頭をよぎったのは、「1回損した」という言葉だった。せっかく大当たりしたのに、出玉がもらえないなんてもったいないと。

儲かったのだから、それでいいはずなんです。でも、余計な知識を得て損をしたことを知ってしまったんです。僕の頭の中は「1回損した」「あの1回分を取り戻したい」っていう考えでいっぱいでしたね。

損したも何も、当たってすらいないわけだからもともと何もないのに…

ーー不思議な感覚ですね。勝ったことではなく、「1回損した」という感覚の方に引っ張られてしまう。

改めて考えてみると、もともとおかしなところがあったのかもしれませんね。勝って気持ちが良いという感触よりも、取り損ねた悔しさの方が強烈に残っているんです。

思い返すと、パチンコ屋の両替機ってたまに前の人が受け取り忘れたおつりが残っていたりするんですよ。たまに数千円くらい、そこで拾ってラッキーと思ったり。

でも、僕の中で思い起こされるのは、誰かのおつりをゲットした時のことよりも、自分が両替をして取り忘れた時のことばかりです。

なんで1万円で3000円分のパッキーカードを買ったのに、7000円のおつりを忘れてきたんだって。そんなことばかり。

だからこそ、「あの時の負けを取り戻したい」とドンドンとのめり込んでいったのだと思います。もうその頃には、楽しい娯楽ではなくなってしまっている。強迫観念に囚われてしまっていたんです。

ーーパチンコに再挑戦してから、比較的短期間でハマり始めた。

ハマる素質がある人がやったら、一瞬じゃないですかね。即座にスイッチが入る。最近増えてるオンラインカジノとかもハマっていく時の脳内の過程は全部一緒です

ーー射幸心を煽って、業者側は儲けていくわけですね。

ギャンブルを続けていた頃の自分は「俺は大丈夫だ」って信じてましたから。客観的に見たら、かなり綱渡りの生活なのに。ジェットコースターのような乱高下を繰り返していた時でさえ、負けてる誰かを見ては、「あいつはバカだな」って。

這い上がれないくらいどん底に落ちて、「ああもう無理だ」って自覚した時にようやく「あんなに周りの人たちをバカにしてたけど、俺もとんでもないバカなことをしていたんだな」って気付くんです。

公営ギャンブルもそれ以外も、人間の脳の仕組みを踏まえたビジネスですから。こうやって依存症啓発に関わるようになって仕組みを知って、本当に怖いなと感じます。

ギャンブル依存は心が弱いからだと言う人もいますが、違いますよ。こんなに作り上げられたシステムの中に、一度はまり込んだら抜け出すのは簡単ではないとつくづく思います。

コメント

16日前
まみこ

損した記憶が強烈に残るってのが、なるほどーーと共感しました。私もそうなんです。

宮本さんの自己分析、すごい参考になります。

次のお話も楽しみです!

17日前
ヨーコ

宮本さんがご自身の体験を公の場で語ってくださることに敬意を表します。ギャンブル依存症が正しく理解され、多くの方が支援に繋がることを祈っています。

17日前
QOO

宮本さんは誰がみても真面目で誠実そう。そんな人でもギャンブル依存症になるんだという、本当に誰でもなりうる病気なんだなと思います。

17日前
匿名

こんな風にハマっていくんだ、誰でも依存症になる可能性があるんだと改めて思いました。

17日前
匿名

「脳汁」ギャンブルをしない私でもわかるような気がしました。快で脳みそがいっぱいになる瞬間ですね。

とても興味深いお話でした。

連載になるのかな…またお話を聞きたいです!ありがとうございます。

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