「ダーティ・ダンシング」で有名になったジェニファー・グレイ アルコール依存症から回復した背景は?
1980年代、映画「ダーティ・ダンシング」での主演で話題になり、新作「リアル・ペイン〜心の旅〜」も間も無く日本で公開されるジェニファー・グレイ。実はアルコール依存から回復した過去がありました。
公開日:2025/01/30 02:00
1月31日に日本公開される映画「リアル・ペイン〜心の旅〜」に、ジェニファー・グレイが出演している。ジェシー・アイゼンバーグが監督、脚本、主演を兼任するこの映画でグレイが演じるのは、ポーランドのホロコースト跡地をめぐるツアーに参加するアメリカ人観光客。脚本、助演男優(キーラン・カルキン)の2部門でオスカーに候補入りした感動作で、グレイは助演ながらもしっかり存在感を放っている。
その名前を聞いて、懐かしいと思う洋画ファンは少なくないのではないか。グレイが主演した1987年の「ダーティ・ダンシング」は、当時、世界中にセンセーションを巻き起こしたものだ。グレイが演じたベイビーは、ある夏、家族と過ごした避暑地でダンスの達人(パトリック・スウェイジ)と恋に落ちる17歳のユダヤ系女子高生。そのピュアな魅力とダンスの腕前で、グレイは一気に注目の人となった。当時は、マシュー・ブロデリックやジョニー・デップとの婚約、婚約破棄といったゴシップでも世の中を沸かせている。
だが、実は「ダーティ・ダンシング」の大ヒットからそれほど経たない頃、彼女は密かに依存症から回復してもいたのだ。その背景について、グレイは、2023年に出版された回顧録「Out of the Corner: A Memoir」で真摯に語っている。
ドラッグや酒、タバコがいつもそばにある環境
あの時代のニューヨークというのもあるのかもしれないが、かつてグレイは、かなりワイルドで奔放な生活を送っていた。16歳の高校生だった頃には、24歳のヘアスタイリストと交際。当時「ヴォーグ」の編集者だったヴェラ・ウォンや有名なカメラマンなど、恋人の仲間である業界の大人たちと一緒に夜な夜なスタジオ54に足を運んでは、明け方近くまで遊び回った。コカイン、マリファナ、シャンパン、ワイン、タバコは、いつもそこにあった。
高校を卒業後、演技学校に入学し、プロの女優としてデビューしてからも、酒、ドラッグ、タバコは日常的に使った。不安、鬱を感じた時には、何の疑問も感じずにザナックス(抗不安薬)を飲んだ。だが、自分を「依存症」という言葉とつなげたことは、一度もなかった。
トーク番組で大失敗 酒に逃げる
そんな彼女が思いもかけない形で問題を自覚するのは、深夜のトーク番組での大失敗がきっかけだ。
超大物コメディアン、ジョニー・カーソンが司会を務める「The Tonight Show」はアメリカで広く愛される深夜トーク番組。この番組にゲストとして招かれるのは、タレントにとって大きなチャンスだ。ここで好感度を得られればイメージアップができ、キャリアにプラスとなる。
面白い話をしてもらえることが何より大事なので、制作側は、当日どんな内容の話を語ってくれるのかをしっかり聞いた上で出演者を決める。グレイは、それまで語らないようにしていたブロデリックやデップとの別離について語ることを約束し、出演を取り付けていた。
しかし、スタジオに向かうリムジンの中で、グレイの中ではプライベートを語ることに迷いが生じ始める。緊張も高まる一方で、控え室に入ると、いてもたってもいられなくなった。控え室には冷えた白ワインのボトルとプラスチックの使い捨てカップが用意されており、気持ちを安らげるため何杯か引っかけてから、グレイは舞台に向かう。だが、それはまるで助けにならず、カメラ、観客、カーソンを前に、グレイは実につまらないことをつぶやくばかり。カーソンが内心いらだっているのがわかるだけに、よりパニックになってしまった。収録が終わると、カーソンは番組を退屈にされたことに怒っているのか、こちらを見てもくれず、グレイは耐えきれずに泣き出した。
控え室に戻ったグレイは、まだ残っているワインを持ち帰ることにし、リムジンの中でボトルから直接飲んだ。帰宅後は近くのレストランに行き、さらに赤ワインを飲んだので、次の日は二日酔いだった。
いつも酒を飲んできた自分に気づき、依存症のミーティングに参加
そんな状態で、翌朝、グレイは知り合いの女性に電話をした。その女性に、「あなたは嫌なことがあるといつもお酒を飲むの?」と聞かれ、それは危険信号だと言われると、「いえ、それは違うわよ。私はアルコール依存症の人たちがどんなふうなのか知っているわ。私は彼らと一緒ではない」とグレイは激しく否定。そんなグレイに、女性は、「30日間、一度も飲まず、(アルコール依存症の人たちの)ミーティングに行くつもりはある?」と聞いてきた。その言葉に、グレイはハッとさせられたのだ。
考えてみれば、自分はいつも酒を飲んできた。飲まない日は一日もなかったし、飲むのをやめようかと思ったこともなかった。30日だけ飲まないのは、できるような気がしたし、やってみようと思った。それで、タバコ以外のすべてをやめることにした。果たしてそこまで極端なことをやる必要はないのではないかとも思ったが、依存症の人たちのためのミーティングが楽しかったこともあり、意外にも続けられてしまった。
以後ずっと、彼女は酒に手を出していない。「酒を飲まなくなったことで人生が良くなったのなら続けるべきだ」と、依存症の人たちのためのミーティングで言われたことも大きい。自分の人生は明らかに良くなったのだから、後戻りするべきではないのだ。「たかだか飲み物のために、すべてを失うリスクを負うのはばからしい」とも、グレイは言う。
結婚して、ダンスへの情熱も取り戻す
それからの新たな人生の中で、グレイは、俳優、脚本家のクラーク・グレッグと結婚し、ひとり娘をもうけた。結婚式に着たのは、今やウエディングドレスのデザイナーとして超大物となったかつての遊び仲間、ヴェラ・ウォンのドレスだ。子育ての間、キャリアは二の次になったが、2006年にはテレビドラマ「Road to Christmas」で夫婦共演を果たした。また、2010年には、リアリティコンテスト番組「Dancing with the Stars」に出演し、見事優勝している。ダンスは若い時からずっとやってきたが、「ダーティ・ダンシング」が大ヒットした後は普通のダンスクラスに行きづらくなり、皮肉にも遠ざかっていた。その情熱を、ようやく取り戻すことができたのだ。
そんなグレイを、夫と娘は誇らしく思ってくれた。しかし、グレッグとは、2020年に破局を発表。2021年に離婚が成立した。ふたりは今も友好な関係にあり、結婚したことに後悔はない。
ロスの山火事でマイホームを失い
今月は最新作「Wish You Were Here」もアメリカで公開されており、地道にキャリアを続けている。だが、そんな中、今月ロサンゼルスを襲った山火事で、愛するマイホームを失うことになってしまった。本人とペットが無事だったのは不幸中の幸いとはいえ、思い出のつまった家を突然にして失った悲しみは想像もできない。1日も早い復興を心より祈りたい。
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