ロブ・ライナー夫妻殺人事件が見せた、依存症患者の家族の苦悩
「スタンド・バイ・ミー」「恋人たちの予感」など数多くの名作映画を送り出したロブ・ライナー監督と妻のミシェルさんが息子に命を奪われる衝撃的な事件がありました。これほどの悲劇でなくても、ハリウッドには家族が依存症に苦しむ著名人がたくさんいます。

公開日:2025/12/18 08:00
「恋人たちの予感」など数多くの名作映画を世に送り出したロブ・ライナーと彼の妻ミシェルは、愛する息子の手によって命を奪われた。現在、ロサンゼルスの刑務所に拘留されている次男ニック・ライナーは、10代の頃からドラッグ依存症に悩み、夫妻は自分たちなりに最善を尽くしてきた。にもかかわらず、このような結果になってしまった。
ここまでの悲劇には直面しなかったにしろ、同じ苦しみを体験している家族は、たくさんいる。ハリウッドに限っても、すぐに何人もの名前が思いつく。
有名な父を持ち、アイデンティティが見つからない苦悩
たとえば、マイケル・ダグラス。彼と最初の妻との間に生まれた息子キャメロン・ダグラス(47)は13歳でドラッグに手を出し、2007年にコカインの、その2年後にはメタンフェタミンの所持で逮捕された。2010年、彼は、コカインとメタンフェタミンの所持と取引の罪で懲役5年を言い渡される。ハリウッドの黄金時代の名優であるカーク・ダグラスの息子として育ったマイケルは、「有名な父を持つプレッシャーは私自身がよく知っています。それが2世代ともなると、どれほどのものなのか私には想像がつきません」と、自分のアイデンティティを見つけられずに苦しんだキャメロンの心に寄り添い、罪を軽くして欲しいと、裁判所に手紙を書いた。
やはり有名人の3世代目であるニック・ライナーは、過去のインタビューで同じことを語っている。父ロブも偉大だが、彼の祖父もまた伝説のテレビ俳優カール・ライナーだ。幼い時から「ロブ・ライナーの息子、カール・ライナーの孫」とばかり呼ばれてきたニックは、自分がそれ以外の何者でいればいいのかわからず、ドラッグをやるような、家族の中で違ったタイプになろうとしたのだという。
裕福な両親はお金を惜しまずプロの力を借り、ニックを救おうとしたが、回復施設に送られるのが嫌でニックは逃げ出し、ホームレス生活もした。だが、人生をやり直すと決め、ロサンゼルスに戻り、父ロブのプロダクション会社が製作、ロブが監督する映画「ビーイング・チャーリー」の脚本を書いた。ニック自身の体験にもとづき、父子の会話の多くはロブとニックの会話を再現しているというその映画を作ることは、ロブ、ミシェル、ニックにとって大きな癒しになったと、当時彼らは語っている。
キャメロン・ダグラスも、父マイケルが出演するインディーズ映画「Looking Through Water」で、この秋、映画の仕事に復帰した。81歳のマイケルは引退するのかと思われていたが、息子のためにもうひと肌脱ごうと思ったのかもしれない。
ロバート・ダウニー・Jr.、ニコラス・ケイジの息子も
3世代目と言えば、ロバート・ダウニー・Jr.と最初の妻との間に生まれた息子インディオも、20歳だった2014年、コカイン所持で警察に逮捕されている。ダウニー・Jr.が依存症でさんざん刑務所入りもした末、見事に立ち直ったことは有名。幼かった自分に酒の味を覚えさせたのは俳優だった父ダウニー・Jr.だったとも彼は明かしているが、自らの息子もまた同じ道にはまりそうになってしまったのである。
だからこそ、事件発覚時、ダウニー・Jr.は、「警察の皆さんに感謝します。インディオはきっと、回復した例として語られることになると信じています」とコメントをしている。「不幸にも、依存症には遺伝が関係することがあります。インディオもその遺伝子を引き継いでしまったのかもしれません。しかし、私たち家族はインディオを愛し、支えます。彼が、最高の形の彼になれるように」とも、彼は述べた。
ニコラス・ケイジの長男ウェストン・ケイジは、コッポラ一族の生まれ(ニコラスの叔父はフランシス・フォード・コッポラ、従姉妹にはソフィア・コッポラをはじめ業界人が多数)。若い頃から依存症を抱えていたウェストンは、26歳の時、酒またはドラッグの影響を受けた状態で運転し、事故を起こした挙句に逃げて、警察に逮捕されている。現在35歳の彼は、昨年も、実の母クリスティーナ・フルトンに暴力を振るって怪我をさせた。その件でクリスティーナは、自分に危害を加えた息子に加え、「問題があるとわかっていて甘やかしたせいで息子ウェスティンはこうなったのだ」という理由で、ニコラスをも訴訟している。
息子を薬物の過剰摂取で亡くした監督も
一方、「メリーに首ったけ」「愛しのローズマリー」などのコメディ映画でヒットを飛ばしたピーター&ボビー・ファレリー兄弟監督の家族は、取り返しのつかない事態に直面してしまった。オスカー作品賞に輝く2018年の「グリーンブック」は、初めて兄ピーターがソロで監督した作品だが、弟と組まなかったことについて、ピーターは「ボビーの息子がドラッグの過剰摂取で亡くなったから。彼は仕事どころではなかった。もっと大きなことを乗り越えなければならなかったんだ」と語っているのだ。「でも、ボビーはこの映画を気に入ってくれ、応援してくれた。彼はまたこの仕事に戻ってくるよ」ともピーターは言ったが、今もまだボビーは映画の世界に戻ってきていない。
依存症の息子を支える母親を描いた映画「ベン・イズ・バック」
もちろん、依存症はハリウッドだけで起きているものではない。アメリカの医療機関カイザー・ファミリー基金の調査によれば、5人にひとりが「依存症を経験したことがある」と答えているという。それだけ社会で大きな問題になっているからこそ、依存症についての映画やテレビドラマも、近年は多数作られてきた。自らも身近に依存症を目にしてきたピーター・ヘッジス監督は、「ベン・イズ・バック」を作った理由について、「家族についての話を語りたかった。私たちは(依存症を抱える)家族をどう助ければいいのか。どう愛すればいいのか。どうすれば諦めずにいられるのか。それを問いかけたかった」と述べている。
「ベン・イズ・バック」が公開されたのは2018年。7年後の今、私たちはあらためて、その課題に向き合っている。
コメント
ロブ・ライナー監督の作品をこれまで観てきた者として、今回のニュースには大きな衝撃を受けました。
現時点では、犯行動機の解明を待ちたいと思います。
依存症は本人だけでなく家族や周囲をも巻き込む病であり、背景には複合的な問題があります。
今回の事件を薬物使用の側面だけで語ることは、スティグマを助長し、「薬物は恐ろしい」という印象だけがひとり歩きすることにつながりかねない点を懸念しています。
こんなにもたくさんの有名人が依存症の問題で苦しんでいるなんて。世界はもっともっと依存症問題について真剣に取り組まなければ、この悲劇は繰り返される。この病の正しい知識と情報を世界中の人達が当たり前に知り、正しい対応で回復していける世界にしたい。
