Addiction Report (アディクションレポート)

映画「ザ・ダート モトリー・クルー自伝」を観て感じた薬物依存症と孤独の関係

ライターの姫野桂さんが、Netflixオリジナル映画『ザ・ダート モトリー・クルー自伝』を見て、薬物依存症について考えたことを綴ります。

映画「ザ・ダート モトリー・クルー自伝」を観て感じた薬物依存症と孤独の関係
モトリー・クルーのCDジャケット。右上がヴォーカルのヴィンス、右下がニッキー

公開日:2024/08/07 02:38

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先日、Netflixオリジナル映画『ザ・ダート モトリー・クルー自伝』を観た。モトリー・クルーは世界的に有名なヘビーメタルバンドだが、恥ずかしながら私は知らず、夫がモトリー・クルーが好きだと言うので一緒に観たのだった。

薬物に溺れるメンバーたち

この映画はメンバーたちの著書をもとに作られた作品で、ジャンルはコメディとなっていたので軽い気持ちで観たのだが、確かにコメディ要素もありつつ、彼らが薬物やアルコールに依存していく様子が描かれていた。

ライブの出番直前に楽屋でセックスをしたり、常に酒を飲んだりドラッグの回し吸いをしたり、ライブツアー中に宿泊していたホテルの部屋の家具を窓から落として部屋をめちゃくちゃにしたり、全裸でホテルの廊下を走り回ったりと、まさに「セックス・ドラック・ロックンロール」という言葉に代表されるようなバンドだった。

そして、ボーカルのヴィンスは酒気帯び運転により、助手席に乗せていた友人のラズル(ハノイ・ロックスのドラマー)を死亡させてしまい、19日間入獄する。

薬物に関しては特にベースのニッキーの依存症が最も深刻で、毎日コカインやヘロインを打ちまくる。交通事故で入院していたヴィンスの見舞いにも行けなかったのも薬物のせいだった。

お金も名誉も女性も手に入れ、スーパースターになった彼らがなぜ、アルコールや薬物に溺れてしまったのか。

家庭環境が要因?

ニッキーに関しては幼い頃の家庭環境の悪さに要因があるように思われた。

ニッキーは生まれたときに父親が蒸発しており、母親は常に新しい彼氏を連れて来る。そして作品内では母親が嫌いで自ら腕をナイフで切りつけ、かけつけた警官に「お母さんにやられた」と嘘の説明をして児童養護施設で育つことになる。もともとニッキーは父親と同じ名前のフランクという名前をつけられていたが、そのことが嫌過ぎ、大人になってニッキー・シックスという名に改名する。

また、ニッキーはその後一文無しでロサンゼルスに出てきてお金に困ってしまい、父親に電話をしたところ、冷たくあしらわれてショックを受け、さらに彼のの孤独感は増していくのだ。そしてついには、薬物の過剰摂取により倒れ、2分間の心臓停止となり緊急退院が必死で蘇生を試みるが心音が戻ってこず、医師があきらめかけた瞬間、奇跡的にニッキーは息を吹き返すのだ。

私は9月1日に新刊『心理的虐待〜子どもの心を殺す親たち〜』(扶桑社新書)を刊行する予定だが、その書籍の中で脳科学者で小児童精神科医の友田明美先生に取材をした際、虐待を受けた子どもは将来依存症になる可能性が上がるとのことだった。

ニッキーも同じく、子どもの頃の心理的虐待による傷を大人になっても引きずっており、薬物に依存するようになってしまったのではないだろうか。

「助けを求めて」回復施設に入所

彼らの薬物依存症があまりにもひどくなってから、彼らは薬物とアルコールを断つ決意をして回復施設に入る。

このとき、作品内でニッキーは「助けを求めた」と表現していた。回復施設に入ることは助けを求めることになるのだ。

日本だと薬物で逮捕されても刑務所に入れられるだけで薬物依存症の治療自体は行われないことも多い。しかし、タレントの田代まさしさんや俳優の高知東生さんは運良く回復施設と繋がり、現在も回復中である。

メンバーたちは回復施設で見事に回復し、1年後にライブ復帰する。

日本では一度薬物に手を染めた有名人は芸能界に復帰しにくい現状や「薬物依存症やアルコール依存症はだらしない人や心が弱い人が陥るもの」といった偏見があるが、アメリカではそのような偏見はないよう感じられた。その代わり、性犯罪に関しては日本よりも厳しく、復帰は不可能に近い。

日本もアメリカのように薬物依存症で逮捕されたら回復施設へと繋げ、回復したら社会復帰できるような社会になってほしい。

スリップも回復の第一歩

彼らはしばらくアルコールを断っていたものの、ライブのツアー日程があまりにもハード過ぎて家に帰れず、家族となかなか電話もできずにいたストレスからスリップ(再飲酒)してしまうシーンが描かれていた。しかし、スリップは回復への第一歩だと精神保健福祉士の斉藤章佳先生はインタビューでよく語っている。

「モトリー・クルー自伝」はコメディ映画としても楽しめたが、依存症啓発にもなる映画だった。音楽に詳しくない人でも楽しめる要素が満載なので、気になる方はぜひ観てもらいたい。

 

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